Leica M3 vs Nikon SP

  〜 日・独、頂点の比較(2) 〜


 カメラボディといえば、外観上の差異も然ることながら、やはり操作感が気になります。主観が相当に入らざるを得ませんが、“実際、使ってみた感じ”に触れてみましょう。




〜 インプレッション 〜


 SPは、ファインダーと採光窓を一体化した大きなガラス面と、このガラス面のためにボディ右に寄った“Nikon”のロゴ、というのが先ず目に飛び込んで来るデザイン面での特徴です。他のSシリーズでは前面パネルの中央、ファインダー窓と距離計窓の間にロゴがあるので、これはSP特有のデザインです。対してM3は、優美に飾りの付けられた採光窓、丁寧にローレットの刻まれた小ぶりの巻き戻しノブ、そして上面に品良く刻まれた“Leica”の筆記体のロゴ等が目を引きます。
     


 両者のロゴの違い(SPはゴシック、M3は筆記体)は、デザイン面の違い、ひいてはカメラ自体或いはメーカーの性格の違いを表している様にも思えます。八面体の直線で構成されたボディのSPは、シャッターダイヤルや焦点調節ギアのいかにも機械的・歯車的な周辺の刻み、武骨に大きく張り出したボディ前面のT字型のパネルなど、男性的で実用的な印象です。一方のM3は、丸みのあるボディ側面や精密に面取りされた角部、いかにもクラシカル然とデザインされたレバー類など、女性的・貴族的なものを感じさせます。
     

 流石に当時の最高級機だけのことはあり、どちらも精密感溢れる作りですが、手に取ってみるとソリッド感と言うのでしょうか、隙の無い重量感では、率直なところM3の方が上、と感じます。これには本体重量の差(ボディのみの実測で、SPは約580g、M3は約600g)やボディ構造の違い(M3のボディはシェル一体構造)によるバランス等が関係しているものと思われます。



 フィルム装填は、構造編でも述べた通りM3の方が手間が掛かります。  先ずはボディ底面のつまみを起こし開閉キーを回して、ロックを開放します。SPは裏蓋・底蓋が一体になっており、真っ直ぐ下方に5〜6mmずらせばボディから外せます。またM3の場合には開閉キーのつまみを持ったままで引くようにすれば、底蓋が外れます。

 次に、M3では巻取り側のスプールを引き抜かねばなりません。ここにフィルムの先端を差込む訳ですが、この際に向きを間違えないようにします。差込んだらフィルムを少々パトローネから引き出し、裏蓋を開いてフィルムの状態を確認しながら、一番奥まで挿入してやります。この際、スプロケットギアの歯にパーフォレーションがキチンと噛み合っていることを確認しておきます。よく“M型ライカのフィルム装填は難しい”と言われますが、フィルムを差し込む向きを間違えない(笑)ようにして、この噛み合いさえしっかりと確認しておけば、別段どうということはありません。
    

 フィルムが挿入できたら底蓋を閉じます。ボディ側面のボッチに底蓋の穴を引っ掛けて、開ける時とは逆の要領で閉じ、開閉キーを回してロックし、つまみを倒します。なお、底蓋を閉じる際に軽く裏蓋を押し付けるようにしていないと、底蓋は閉まったが実は裏蓋が開いたまま、という状態になってしまいます。このまま撮影すればフィルムは当然感光してしまいます。撮影途中で気が付いたりすると、思わず真っ青!ちょっと慣れた頃が危ないです。注意しましょう。

 一方のSPでは、現代のマニュアルカメラとの差は殆どありません(巻取りスプールのスリットが一つだということ位しか…勿論、自動装填でないことが前提)。フィルムの状態も目視で容易に確認できますので、装填ミスということは考えられません。底蓋一体の裏蓋を閉じるときはボディ側との噛み合わせに注意を払う必要はありますが、さほど難しいことでもありません。


 巻き上げはどちらも一作動レバー式で小刻み(分割)巻上げも可能です。M3の初期型では2回巻き上げとなっています。こちらの場合には規定の角度を2回巻き上げる、という意味で、いわゆる分割巻上げとは意味が異なります。なお、この初期型で2回巻き上げたのになお巻き上げようとすると壊してしまうそうですから、気を付けましょう。巻き上げの感触はどちらもスムースで、フィルムを装填しても滑らかさにさほどの変化は感じません。この辺は流石ですね。


 ファインダーの実用上での使いやすさは、構造編でも述べた通り大差ありません。機能上の違いを一つ挙げれば、M3ではNo.919251以降の個体ではレンジファインダーフィールドの上下にノッチが設けてあります。このノッチは上側の方が幅が広いですが、それぞれが50mmでf16とf5.6の時の被写界深度を示しています。二重像のズレがこの範囲内に収まっていれば、被写界深度内に収まっている、という訳です。被写界深度を自分の眼で確認できないRFにおいてその目安を知るための工夫ですが、50mm限定、しかも2つの絞り値のみ、ということで、実際にどれ程の役に立つのかは不明です。むしろ、使い手のカン(慣れで養われるもの)の方が、RFを使いこなすための技量としては重要かもしれません。


 シャッター音が小さいことはRFの大きな特長です。この点については「整備されたM3のシャッター音は殆ど聞こえない」「カシャ、というのではなく、ことん、という様な」等々、伝説のような話も含めて様々な表現がなされますが、聴感上(機械で測定してはいません)でも確かにM3のシャッター音は静かです。音が小さい、という事も言えますが、くぐもった感じで、耳障りでない、という言い方が出来るでしょう。これに比べるとSPの方がやや高域成分が多いといった感じに聞こえます。もしかしたらこの個体ではシャッター幕がチタン製であることとも関係あるのかもしれませんが、どちらかと言えばM3のボディが一体構造であることと、ややボディが重いことの方が影響している気がします。ただ、そのSPにしても決して金属的な響きが耳につく等といったようなものではなく、かつて「囁くような」と評されたように充分に小さなものです。 ちなみに、ここで比較しているSPとM3は、どちらもオーバーホール後1年程度経過したものです。共に製造後50年近くを経ているわけですから経年変化もあるでしょうが、概ね良好な状態にあると考えて良いでしょう。


 撮影後のフィルム巻戻しは、もうお話になりません。文句なくSPに軍配が上がります。

 先ずスプロケットの解放ですが、SPはシャッター受け皿をA→Rに切り替え、M3はボディ右前面のレバーを「R」側に倒すことで行います。次にSPはクランクを引き起こして、M3はノブを引上げて、それぞれ巻戻し操作を行いますが、現代のモーターによる自動巻き戻しに慣れた人は、M3でこの操作をすると「フィルム巻戻しってこんなに重いの!?」と絶句されること請け合いです。もしかしたら、か弱い女性には無理かも…。その点、SPの方はクランクのおかげではるかに軽く迅速な操作が可能ですので、テコの原理(懐かしい?)のありがたさが実感できるというものです。
 なお、M3では最初にノブの引上げ方が不充分だと、いくらノブを回してもカラ回りするだけです。妙に感触が軽かったら危険です。キチンと確認しましょう。また、M3のRレバーは次の巻き上げレバーの操作で自動復帰しますが、SPの方は自分で戻さなければいけません。でも、こちらの方はもう全くもって巻き上げレバーの感触が軽い(スカッ、という感じ)ので、すぐ判るでしょう。