Albatross on the figurehead
 〜羊頭の上のアホウドリ

 BMP7314.gif 陽なた・ぽかぽか   〜船医生誕記念SS
 


 昔々のその昔。氷河期が終焉を終えようとしていた頃に、小さな哺乳類から進化を遂げた"人類"という生き物が、地球という惑星の歴史へその最初の第一歩を踏み出した。彼らは頑丈な爪も鋭い牙も持たず、飛び抜けた膂力や脚力もなく。自然界にて生き物たちの織り成す"食物連鎖"の中で言えば、かなり下の方に位置したであろう、極めて非力な存在だった筈だった。だが、非力な彼らには道具を使える手があり、手の器用さがやがては脳の発達を促し、また、非力さゆえの"団体行動"が、互いの知恵を分け合ったり、刺激し合う結果を招き。先代から次世代への知恵の引き継ぎや、歩いてだけでなく船や馬車で向かうほど遠方への情報の伝播に於いて、図や数字、文字という記号を使う画期的なコミュニケーションが生じ。知識の共有と競争は、やがて…この非力なばかりだった筈の生き物たちに莫大な知恵からなる"文明"を授け、地上全土を席巻し、下手をすれば地球を崩壊するに足るほどの途轍もない力を与えることとなる。

 広大で神聖なる自然界の不思議さえその手に把握せんとした人類は、様々な法則やら公式やらを発見し、アナログな筈の自然世界をデジタルで表そうと四苦八苦し続けた。こんな言いようながら、だが、何も近年の話ではなく、例えば暦というもの。土地が肥沃で農耕に向いている土地であるのは良いが、毎年決まって収穫の前後に大雨が降っては河川が氾濫する。その大雨がいつ降るか、前以て分かっていれば良いのだが、神でもない身にそんなことが分かろう筈もない…と思っていたものが。大体同じくらいの順番だと気づいた者がいて。

  ――― 順番って?

      だからさ、寒い時期が終わってさ、だんだん暖ったかくなってよ、
      それから何だか暑くなって、穀物が育って来かかった辺りに、
      いつも大雨が降ってないかってことよ。

 先の大雨が済んだ頃合いから、何回 陽が出て沈んだら次の大雨が来るか数えてみようや。その"周期"がいつも大体同じなんなら、それを数えてりゃあ次の災害が前以て分かるって事だろうがよと、そういったことが…地球の一巡りの周期を示す"暦"の始まり。そこから星の位置を測る天文学やら、そういったものを計算する数学やらが発展し、様々な学問や技術、文化も発達した訳で。…ちなみに。クリスマスがキリスト様の生まれた日となっているのは実は間違いで。ローマ皇帝がその統治を固めるべく、最初は弾圧の対象だった"キリスト教徒"たちを逆に傘下に収めるためにキリスト教を"国教"とし、冬至に当たるローマ暦の最初の日、現在の"12月25日"を教祖にあたるイエス様の誕生日と重ねたのだそうな。




  「人間て凄いよなぁ。」


 書物などに遺された先人たちの知恵の蓄積を踏襲し、深い造詣を身につけて。便利な道具や合理的なアイディアを新たに生み出しては、飛躍的に前進を続ける、非常に高度に知的な生き物。地球という惑星の紡いで来た長い長い歴史を1年に置き換えて比較すれば、12月31日の夕暮れ時にやっとお目見えしたばかりの新参者だというのに、今や地上の王者としての覇権さえ手にしているのだから大したものだと、お勉強好きなトナカイドクターが…『基本の歴史』なんていう初心者向けのご本を読みつつ、そのつぶらな瞳をわくわくと輝かせていると、
「………そうね。そういう"高度な生き物"たらん人類も、どこかに少なからず 居はするんでしょうけれど。」
 同じ主甲板にて、こちらも読書に勤しんでいた黒髪の考古学者女史が、冷静な口調でのコメントを差し挟んだ。やわらかな陽光がほこほこと暖かな、久し振りの"小春日和"だったので、蔵書の虫干しがてら出て来ていたのだが、
「すべての"人類"がそうだとは限らないんじゃなくって?」
「うやや? そかな?」
 素直に小首を傾げながらも、だけどやっぱり"人類"はみんな凄いのでは?と思っているらしき船医さんへ、
「とっても浅ましい物欲の亡者もいる。名声欲に凝り固まった俗物もいるでしょう?」
 そういった例を挙げながら口許に浮かぶやわらかな微笑は、見ようによっては…ちょっとばかり悪戯っぽい笑い方。ロビンからのそんなご意見へ、
「う〜ん、そういえば、鼻持ちならない悪い奴も沢山いるもんな。」
 これまでの航海や冒険を顧みて、その先々で鉢合わせした様々な者たちを思い起こし、小さな腕を胸の前に組み、うんうんと感慨深げになるトナカイさんだったが、
「そんな遠くのものを思い出さなくても………ほら。」
 きれいな指で彼女が指差した先、

  「あ〜〜〜っ! ルフィっ、そりゃあ俺んだろうがっ!」
  「え〜? 手ぇつけないから要らないのかと思って。」
  「後でゆっくりって楽しみに取っといたのによ、返せ〜〜〜っ!」
  「悪りぃ、もうないよん♪」

 キッチンから聞こえるは、早い目のおやつに沸くクルーたちの騒動で。う〜ん、確かにこれは………。
「非常に高度に知的な生き物がやらかす騒ぎじゃあないわよね。」
「………うん。」
 あははははは…。まあ…その、此処はまた逆な意味合いでの、極端な人たちが集まってる場所だということで。
(苦笑)






            ◇



  『俺に"医者"を教えてくれっっ。』

 鼻が青かったというだけで生みの親からさえ見離され、悪魔の実を食べたことで尚のこと"トナカイ"でなくなった彼は群れからも追い立てられて。ならばと人の世界に寄ろうとすれば、化け物だと石を投げられてやはり追いやられた。天涯孤独、誰のことも信じられなくなって。そんな状況から荒
すさんでいた自分を救ってくれたのが、一風変わった へんてこな医者だった。名前をくれた、一緒に笑ってくれた、喧嘩もしたし夢を語ってもくれた。それはそれは大好きだった、掛け替えのない人を…亡くしてしまった。元から寿命が限られていた人だったとはいえ、民を苦しめる事しか知らない我儘な王に騙し討ちにあったその上に…自分の無知が彼の命を縮めたのかも知れず。そんな大切な人の壮絶な死という、絶望的な哀しみに…魂が擦り減って消えるんじゃないかってほどに泣いて泣いて。だが。そんな途轍もない悲劇や後悔をバネにして。病に苦しむ人を、病んでいる国を治したいと、朝から晩まで息つく間もなく、医学の勉強に打ち込んだ。ドクトリーヌ・くれはから学ぶことは山ほどあって、絶望し続けてるような暇はなかったが、
"いつまで続くんだろうって思ってたんだのにな。"
 海賊に襲われた時、国民を放って真っ先に逃げ出した愚王ワポル。それならそれも良いさと、残された国民たちが新しい国を立てようとする気配に耳目を向けていた。もしかしたらこれで悪夢は終わるのかもと、思っていた矢先に…やって来た奇妙な海賊たち。先に襲い来た連中とは全く違う、破天荒でお気楽そうな面々で。でもね、

 『これは命を誓う旗だから、冗談で立ってる訳じゃねぇんだぞ。
  お前なんかがっ、へらへら笑ってへし折って良い旗じゃないんだぞっ!』
 『…絶対に折れねぇ。髑髏
どくろのマークは信念の印だっ!』

 ドクター・ヒルルクが言ってたホントの海賊。何にも屈せず、不可能を物ともしない、信念の旗の下に集う海の勇者。王様だという肩書でだけじゃなく、バクバクの実のせいで…悔しいけど誰にも手出し出来ないほど強い奴でもあったワポルを、素手で易々とぶっ倒してしまったルフィ。事情なんか聞かないままで、でもね。どうしても許せない奴だからぶっ飛ばしたんだって。こいつら、本物の海賊なんだって思ったよ。そして…オレ、こいつらと一緒に海へ出たんだ。広い世界を見るために、勇気ある"海の男"になるために。………勇気ある、海の…………………。




 小さなキャラベルは冬島海域へ入ったらしくて、昨日あたりからは甲板に吹く風も随分と冷たくなって来た。ナミやウソップはキャビンや倉庫から出て来ないし、ロビンは昨日虫干しした蔵書の整理に忙しそう。サンジはキッチンで温かいスープを作ってて、お昼にはホカホカのポテトグラタンを作ってやるって♪ 風は冷たいけど、お日様は暖かいのにね。毛並みがホコホコと暖められて気持ちが良い。さすがにこの寒さじゃあゾロやルフィにも堪
こたえるのかな。朝から誰もいなくて がらんとしてた上甲板で、うにゃむにゃと転寝してたらね、

  "…あれ?"

 何だか甘くて良い匂いがした。くんくん…。これって? 覚えがある匂い。これまでは温かいのの匂いしか知らなかったの。でもね、お菓子にも使うんだって。この船に乗ってから、一杯見たし食べたもの。えとね…これはね……。

  「チョッパー。」

 呼ばれて"ふにゃい"ってお返事したら、鼻先へつんつんて冷たいのが当たった。甘い匂いの、冷たくて堅いの。うにゃいって瞼を上げると、
「………あで〜〜〜?」
 視界が真っ暗だったので、いつの間に夜になったんだろうって首を傾げてると、
「ほら食えよ。」
 その堅いので、軽くコツンとおでこを小突かれた。あ、これって、
「チョコレートだっ!」
「そだ。」
 差し出した本人も同じのを手に持っている、銀紙を剥いた濃茶色の板チョコ。ドラムにいた頃は、これをお湯やミルクで煮溶かしたホットチョコしか知らなかった。それに、病気になった時とか、特別な時にしか飲めなかった。原料が南国産のものだから、極寒で、しかも色々な統制も厳しかったドラムでは、なかなか手に入らない高価なものだったからだ。この船に乗ってからは、甘いものが大好きな船長さんが喜ぶからって、チョコのお菓子もたくさん出されて。こんな風な堅いままでも甘いのがあって、そのまま食べられるって初めて知った。
「え? でもさ…。」
 むくりと起き上がって受け取りはしたものの、
「良いの?」
 訊くと、
「うん。」
 差し出したルフィが無造作に頷いて見せる。そう。こうやって渡してくれたのがルフィだったから、ちょっと怪訝に感じたチョッパーで。何でもかんでも独り占めするほどまで食い意地の張った彼ではないけれど、大きなお口でぺろりと平らげる量が半端ではないから、ついつい"分ける"トコまで思いが至らないことが多々ある奴で。………チョッパーくん、それもまた"食い意地の張った奴"のすることなんだよ?
「チョッパーにも分けないと、晩飯を1品減らすってサンジに言われた。」
「…あ、そうなんだ。」
 破天荒で駆け出すと止まらない、何につけ扱いの面倒なルフィだから、言うことを聞かせるにはコツがあるのだそうで。ナミに言わせると気合いだそうだが、サンジに言わせると"餌
エサ次第"なのだとか。
「いただきま〜すvv
 合点が行けばもう問題はない。両手の蹄で支えて、パクリと端から食いついた。カカオの香りが香ばしくって、口の中に甘みがとろりと溶け広がって、
「うま〜いvv
 ただのチョコじゃないもんね。目利きで"だきょー"が嫌いなサンジが選んだ食材のチョコだから、そりゃあもう美味しくて堪
たまらない。鼻の利くチョッパーがうっとりするよな品質の良いものしか出ては来ない、見かけによらない贅沢な船で。…エンゲル係数のみで運営されてんのかも知んないね。おいおい
「ルフィ。」
「なんだ?」
 そのままチョッパーと向かい合うよにして、ぱくぱくと朝のおやつを食べてる船長さんに、小さなトナカイドクターは、ひょこりと小首を傾げて見せた。
「寒くないのか?」
 相変わらずの袖なしシャツに半ズボン。丈の短いカッコが多い彼なのは、その得意技である"ゴムゴム"を繰り出す時に目測が狂ったりして邪魔だからだそうだけど、そうそう四六時中必要でもなかろうに。この冬島海域に入ってもうだいぶ日も経つというのに、彼だけはずっと変わらないこの格好のままだ。
「ん〜、まだ平気かな?」
 にゃははと笑うルフィだが、
「我慢大会じゃないんだからさ。」
 お医者のチョッパーにしてみれば、風邪とか病気を心配してしまう。いくら"今まで"が平気であっても、これから先は分からない。若い頃は達者だったからといっても、年を取れば色々と弱って来るものだし、それでなくとも初めての環境にばかり飛び込んでいる彼らなのだから、免疫のないことへも山ほど接している筈で。だのに"問題なし"と根拠もなく高を括る強わものばっかりなもんだから、船医としては気苦労も絶えない。そう、彼は臆病なんかじゃない。ただ…用心深いだけ。
「ん〜、じゃあさ。」
 ルフィはチョコで甘くなった指先をペロリと舐めると、
「チョッパーが湯たんぽになってくれいっ。」
「あややっ☆」
 ひょいと伸ばされた手が、しゅるん・すぽんと伸びて縮んで…あっと言う間に小さな船医殿をお膝に抱えている。
「うひゃあぁ〜〜〜、温
ぬくとい〜〜〜vv
 ふかふかな毛皮は本人だけでなく抱えた者にも恩恵をくれる。ぎゅうぅっとしがみつかれて、
「うにゃい、やめろよう♪」
 そんなルフィの肌もまた、まだまだ子供の柔らかさなので。抱っこされたチョッパーも、何だかちょっぴり嬉しそうで。いつの間にやら風だけは止んでいた甲板の上、無邪気な声が楽しげに響いた。






 ドラムでは余り見られなかったもの。青い空。眩しい太陽。暖かいトコにしか住めない種類の魚や鳥や色んな生き物。氷を浮かべた冷たい飲み物や、よ〜く冷やした果物が美味しいって思えるほどの暑さ。果てしない砂漠や緑の森。そうそう、空島にも行った。雲の海に雲の島。珍しいもの、一杯見たよ。でもね、住んでる人たちはそんなに違わないの。楽しそうな明るい人、優しいお母さんに頼もしい戦士。仲良く暮らす村人たちもいれば、何にもしないくせに偉そうに威張ってる奴もいる。悲しくて理不尽な戦いや諍いもどこにだってある。でもね、皆、頑張ってる。今日を明日につなぐため、好きな人たちを幸せにするために。いつも笑って暮らせたら良いねって、悲しいことや辛いことを知ってる人ほど強くて優しい信念でもって頑張ってる。寒い国でも暖かい国でも、海の上でも空の上でも、同んなじだったよ? だからドクター、心配しないで。オレも精一杯頑張ってるからさ………。



  「…うにゃ。」

 気持ちの良い夢を見てたような気がした。…ということは。またまたいつの間にか、うとうとしちゃったらしくって。ふかふかでヌクヌクのルフィの懐ろに抱えられたまんまで、横になってた。
"あ…。"
 いけない、いけない。自分は立派な毛皮と丈夫な皮下組織があるから良いけれど、ただでさえ薄着のルフィが、こんな吹きっさらしで寝たりしちゃいけないんだってばさ。まだどこか、とろとろと蕩けたままの意識を何とか叩き起こしながら瞼を持ち上げると…。

  「…ありゃ。」

 鼻先の真っ先にあったのはルフィの懐ろで、ちょこっと蜂蜜みたいな甘い匂い。でもね、それだけじゃなかったの。何かちょっと深みのある、優しい頼もしい匂いもしたの。ありゃりゃ? この匂いにも覚えがあるぞと、頬はルフィにくっつけたままに、お顔をひょいって上げたれば。

  「ぞ………。」

 声を上げかかって、あわあわと蹄で口を塞ぐ。ルフィの二の腕の向こうからチョッパーまで。ぐるりと余裕で囲んだ雄々しい腕は、これもまたほとんど剥き出しの…、
"ゾロだ…。"
 よくよく見回すと、変則的な"川の字"になって横になってる自分たちで。殊に剣豪殿が…相変わらず眉間にしわを寄せたままに寝ているところを見ると。こんなとこで寝てと怒りつつ、起こすのは忍びないからと、結局そのまま"風避け"代わり、一緒に横になってくれたらしい。

  "あややvv"

 手に手に凶器を構えて殺到する、敵の襲来を前にする時は、まるで鬼神様みたいなほど、威容をたたえた恐持てのする戦士になるのにね。相変わらずルフィにはやさしい"お父さん"だなぁと。チョッパーとしては ほのぼのしたものを感じたらしく。………うんうん、そうよね。厳格だったり頑固だったり、けれど実はやさしい、お父さんみたいな人だよねぇ。………ふふふのふvv

  "でもサ。"

 このままでいては やっぱり風邪を引く。だから、まずはゾロの腕をトントンと突々いた。
「ん…。」
「ゾロ、起きてよう。」
 ゆさゆさって揺すってもみたけれど、あれれ、起きてくれなくて。
"…あ、そか。"
 そうだ、そうだ。ゾロは一旦寝つくとなかなか起きないんだった。体に雪が降り積もっても寝続けたって、嘘みたいなこと聞いたことあるぞ。
「起きてよう、なあ、ゾロぉ。」
「ん〜。」
 ああ、やっぱりダメだ。こんなんじゃ効果ない。困ったなぁ。どうしようか。
「起きてよう、ゾロォ〜、ルフィ〜〜。」
 すぐ手前のルフィも揺さぶってみたけれど。ゾロに背中を預けてる分、ほこほこと暖ったかいらしく。それはすやすやと まろやかに良い寝顔のまんま、こちらさんも素直には起きてくれそうになくってね。どうしよう〜〜〜っと、パニックになりかかったチョッパーだったのだけれども。

  「…ほうら、美味しい昼飯だぞぉ〜〜〜。」

 意識がこっちに集中していて気がつかなかった。その声に反応して、くんかくんかと嗅いでみて。やっと気がついた…濃厚なベシャメルソース仕立てのホワイトクリームの匂い。温かな湯気を潮風に吹き散らかされつつもその存在感をどっしりと立てた、お見事な逸品のポテトグラタンをトレイに載せて。自分たちと同じ高さ、板張りの上へ腰を下ろして胡座をかいた人がいる。
「サンジっ!」
「お困りのようだな、チョッパー。」
 ホントに困った奴らだよなあと しょっぱそうな顔を見せてから、いつものエプロンに腕まくりのシャツという、キッチンキャビンではともかくも、こんな吹きっさらしではやはり寒かろう恰好で、小粋なシェフ殿がにんまりと笑った。
「とっとと起きないと食いっぱぐれるぞ。焼きたての美味いところを食ってこそのグラタンだ。眸ぇ覚まさないと、オーブンの掃除に入っちまうぞ〜〜〜。」
 そうなると、当分は焼いて温めてもらえない。ルフィの小鼻がひくひくと動いてて、瞼がぴくりと大きく震えた。
「ほぉら、ほら。食いたきゃ起きな。」
「あうあう。」
 すいっと遠ざけられるトレイを追って、ゴムゴムの腕がみよんと伸びたが、そこはサンジも織り込み済み。トレイはするすると甲板の上を…逃げて行く。

  「えっ、ええぇ〜〜〜っっ!?」

 びっくりしすぎて大きな眸がこぼれ落ちそうになったチョッパーだったが、
「ほら。よく見な。」
「…ほえ?」
 す〜いすいと逃げてくトレイの下には…白い腕。次から次へと咲いては消えてのリレーを続けて、北欧のカバ…もとえ精霊さんのアニメに出て来たニョロニョロみたいに、撓やかに靡
なびいてはトレイを逃げ回らせている。
「あ、ロビンか。」
 一種異様な光景だけれど、事情を知っていれば不思議でも何でもない様子…なんでしょうかねぇ、果たして?
(笑)
「さて。あっちはロビンちゅあんに任せて。お前は先に温ったかいのを食って来な。」
「うん。」
 ルフィの腕がグラタンとの鬼ごっこへと向かってしまったので。解放されたこの隙に、ひょこりと立ち上がったトナカイさんは、キッチンへと向かうことにする。主甲板へ通りた途端に、
「てぇ〜〜〜い、とっとと起きんか、この野郎がっ!」
 げいんっという大きな音がしたから。気の短いサンジが…鬼ごっこを見飽きてか、それともロビンに手間を取らせるのが忍びなくてか、とうとう怒って 蹴るかどうかしたらしい。
"ふえぇ…。"
 迫力のあった怒号には一瞬 肩が縮んだが、
"あ、でも、大丈夫だな。"
 ゴムゴムの体をしているルフィだから、打撃系統の攻撃はあんまり効かない。すぐさま、そうと納得しつつ、
"うむむ…。"
 何だか妙な常識ばかりが身についたよなと、ひょこりと小首を傾げてしまう。


  "ドクター、ドクトリーヌ、世界ってやっぱり広いよね。"


 いや、そんなことを報告されてもねぇ。
(笑)それより早く、温かいご飯を食べといで、かわいい船医さんvv この船の海賊さんたちは どうやらさ、いつ何時、どんな突発事に巻き込まれるやら、全然見通せない航海をワクワクと喜んで受け入れてるよな人たちなんだから。次は一体どんな冒険に飛び込むのやら、冬島海域のつるんとした懐かしい風の匂いの中、小さな船医さんは今だけはのんびりとした空気の中、とてとてと暖かいキッチンへと急ぐのであった。





  〜Fine〜  03.12.18.〜03.12.20.


  *クリスマスソングで有名な"赤鼻のトナカイ"を調べようと検索したら、
   トナカイの項目にかなりの上位で"チョッパー"の名前が出て来て
   何だか楽しくなりましたvv
   (ちなみに、赤鼻のトナカイさんは"ルドルフ"という名前だそうです。)

  *バタバタしたままにこんなに日が迫ってしまいまして。
   何だか取り留めのない"情景もの"になってしまいましたが、
   とりあえず、チョッパー、お誕生日おめでとうvv です。

ご感想などはこちらへvv


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