木霊の午睡 (お侍 習作の21)
 



 その見栄えの配色の淡いところ…色白な肌や、陽の光を集めたみたいな金の髪、玻璃玉のように透き通った浅色の眸なんてな共通項から、恐らくは同じような北方の出自であろうに。槍使い殿こと シチロージが、人懐っこさや柔和なところを上手にまとって、人間関係波風立てない術に長けているのと正反対。片やの綺羅の君はといえば、頑迷なくらいに我が道をゆく型の御仁であり。他者と理解し合えなくともさして意に介さず、冷ややかなまでに毅然としている、あくまでも刀一筋の孤高の剣豪だったりし。
“いや、アタシだって若い頃は、カンベエ様の頭痛の種だったくらいに、島田隊で一番喧嘩っ早いやんちゃでしたけど。”
 ………すいません。想像が追いつかないんですが。
(苦笑) まま、青二才だった頃はそうだったとて。酸いも甘いも噛み分けて、ずんと人間が練れてしまってる今のモモタロさんはというと。あのカンベエ様の相方“古女房”との呼ばれも納得の、懐ろの尋もそりゃ深い、よく出来たお人と誰もが頼る、気さくな相談役であり。何が凄いって、

  『あのキュウゾウ殿をああまで懐かせてますしねぇ。』

 表情硬く寡黙で無愛想。冷淡なほどの素っ気なさは、遠くから眺めるだけなら、それもまた千紫万紅の中の一色、華であり彩でもあろうが。およそ団体行動に向かないお人で、取っつきにくさからますますのこと人を寄せず、その孤立を深めてしまいがち…となるところが。

  『別段、気難しいお人じゃあありませんって。』

 ただちょっと、人に慣れていないだけ。我らが当たり前としている日常とか習慣とかへの馴染みが、ちょっとばかり足りてないだけ。手をかけて差し上げればきちんと礼を返して下さるし、困っているのを見かければ、そしてそれが彼に要領が判ることであるのなら、手を貸しても下さる。あれほど並外れて武道に優れた人物が、実は子供みたいにご存知ないことがあるというのが判ってくると…不思議なもので。何でだろうか、ほのぼのと、そして飛びっきりの微笑ましいことのように思われて仕方がない。じゃんけんや指切りを知らなくて、コマチ坊に一から教わっていたり、三角のおむすびの握り方を おからちゃんに教わっていたり。そうそういつぞやなぞ、茹で玉子を殻ごと食べようとして大騒ぎになったり。ヘイハチ謹製の“いつまでも飛び続ける紙飛行機”をいつまでも眺めていたりというよな、そんな可愛らしいところも
(げほごほ) あったりすると判ってくると尚のこと。そんな彼から懐かれるだなんて、一種のステータス、特権のようなものを得たような気分になるというか、何となく擽ったい嬉しさがあったりし。

  『ええ、まあね。
   正直に言って、そういう優越感みたいなもの、
   全然なかったって訳じゃあ ありませんでしたけれどもね。』

 ちょいと苦々しくもそんな一言を呟いたモモタロさんだったのも、まま無理はないなと。同じ現場に後から来合わせてしまった彼の視線の先にて、それは穏やかそうな寝顔をさらして、くうくうと午睡を堪能していた金髪紅衣のカナリアさんへ。傍観者のスタンスから、ヘイハチ殿がついつい複雑そうな苦笑を浮かべてしまう。昼のうちは まだまだ暖かなお日和の続く秋の午後。木洩れ日がまだらな模様を振り落としている木立ちの中で。緑の下生えが上等な絨毯に見えるほどの陽だまりにあった、ちょいと立派な樹の根元。そこにいたのがキュウゾウ一人であったなら、こんな風に空気が強ばるという展開にもならなかった。我らの中ではキクチヨに次いで体格の良い、もしかしたらばお年も最年長にあたるかも知れぬ、命 売りますのゴロベエ殿の、そりゃあ余裕のあろう広々とした懐ろお膝へと。ゴロさんのまといし深緑の衣紋にいや映える、紅衣の裾を長々と引いて散らかしたまま、胸板へぱふんと体の片側で凭れての。いかにも心地善さそうな転寝をなさっておいでであったから、
“う〜ん。”
 日頃の彼らの、まるで母子のように親密な睦まじさ。微笑ましくも眸にすることで、こちらへも少なくはない和みを分けていただいてた身としましては。こうもあっさり、別な御方の懐ろに収まってる姿なんてものをば見た日には、

  ――― 微妙なところで罪なことよ、と。

 思わざるを得ないというところであろうか。とりあえず、
「…もしかして、妬いてませんか? シチさん。」
 呆気に取られての呆然自失。そんな様子に見えたので、とりあえずは起きていただこうと声を掛けてみたところが、
「まさか、そんな…。」
 なにをいいだすんですよ、へいさんたら。お返事が全部平仮名ですけど、ホントに大丈夫ですか? 眠り姫への遠慮から、小声でのこそこそとしたやり取りになっているヘイハチやシチロージが、相前後して来合わせたこと。無論のこと、こちらさんは起きてらしたゴロベエ殿にはしっかり把握されてもおり。殊に、ちょっぴり呆然としてだろか、普段からも撫で肩なのがますますのこと落ちかけていた槍遣い殿へ、ほっとしたようなお顔を向けて来て、

  「おお、シチさんか。ちょうど良いところへ。」

   ――― はい?

 ゆったりと胡座をかいたそのお膝へ、この対比だとますますのこと小さく見える次男坊を抱えたまんま、ちょいちょいと手招きしてみせるゴロベエ殿であり、

  「???」

 小首を傾げる母上様と、その付き添いの長男坊。二人ともをすぐ傍までおいでと呼び招き、さて。

  「実はの、キュウゾウ殿、少々熱っぽい身であるらしいのだ。」
  「………え?」

 それはまた、意外な事実だ。さても、と、ゴロベエ殿が仰有るには…。
「某
(それがし)がここを通りかかったのは偶々(たまたま)のこと。誰ぞがいるなどと思わなんだからこその油断からか、この木立の梢の先を身軽に通り過ぎかけていたキュウゾウ殿が、いやに気鬱そうな溜息を零されての。」
 それが気になった某、ちょっと待たれいと声をかけた。余程に剣呑な場合でもない限り、声をかければ応じてはくれるキュウゾウ殿だから、何用かと降りて来たところへ、
『実は珍しい木の実を見つけてな』
 確かシチさんが、解熱効果のあるサイの実というのを探しておられた。これがそれかもと思うのだがと言って手を差し出せば、素直に延ばされ、広げられた右の手のひら。そこへと木の実を落とし込みつつ、指先で触れればやはり熱い。そういえば外での仮眠を取ることの多い御仁だから、意外に冷える夜露のせいで、風邪でも拾ってしまわれたかと危惧してのこと。この陽当たりのいい場所にて、少しでも仮眠を取られよと薦め、差し出がましいが膝を提供させていただいた。
「勿論、渋っておられたが。そこはこちらも引く訳にはいかぬでな。そのまま悪化させたれば、きっとシチさんが案じるぞと言うと、まだ多少は渋っておったが、それでも大人しく寄ってくれてのこの通り。」
 そうしてそのまま くうくうと寝ついてしまい、今も依然として眠ったまんまなキュウゾウだ…ということらしい。
「それはまた…。」
 詰まらない焼き餅を焼いている場合ではないのかもと、金髪美貌の槍使い殿、気を取り直すと、その表情を引き締める。そういえば…こんな間近での話し声、どんなに潜めようと聞こえていように、しかも自身のことが話題になってもいるというのに。ひくりとも動かず、起きようともしないだなんて、気配に敏感な彼だと知っている以上、どうにも信じられないことであり。
「熱があって、具合が悪くてのことでしょうか。」
「さようさ。そうとしか思えんのだがの。」
 カンベエ様と同んなじ、いかにも質実剛健、豪放磊落という骨太な気骨が滲んで来そうな。そんな南方の匂いをまといし、浅黒い肌の大きな手のひらが、懐ろ猫のやわらかい金の髪をそぉっと撫でてやる。その仕草の何とも頼もしく、何とも優しげであったことだろか。すると、

  「………。」

 さすがに…ここに至って、皆様の視線に乗った懸念の色が増したからだろう。注目の只中にいた白皙の美青年が、ふっと深い吐息を一つつき、おもむろにその瞼を上げて見せる。余程のこと深く眠っていたものか、取り留めのない表情で、覚束無い視線をふわふわと漂わせていたものの、

  「さあさ、しっかりと起きた起きた。」

 妙に元気の良いお声が上がり、
「?」
 それが刺激になったのか、何だなんだと一気に背中の伸びたキュウゾウの、赤い袖に包まれた腕を取ると、
「ほぉら。お母様が心配しておりましたぞ?」
 その手をぽふりと、傍らにいたシチロージの胸元へと押しつけたのはヘイハチで。
「ヘイさん、お母様ってのは…。」
 具合が悪い人へそんな冗談口はよしたげて下さいよと、いつもの合いの手以上に真面目な非難をしかかるモモタロさんの、抗議の声も何するものぞ。小柄ながらの工夫か、それともそれは大きな動力機関などなど、合金素材を相手にしていてコツを会得しているものか。自分よりも背丈の高い双刀使いさんを、腰回りに手を掛け、よっこらせと手際よくも立ち上がらせると、

  「丁度眸が覚めたんです、好都合でしょ?
   もっと暖ったかい、そう囲炉裏端へでも場所を移して、
   本格的に横になってでも休んだ方がいい。」

 まだご自分で歩ける程度の軽いうち、早く大事を取ったに限る。ほらほら急いだ急いだと、本当に親子かもしれないほど、色味の淡いところが似た二人を追いやるように煽るヘイハチであり。なんだか急な運びではあったが、まま、言ってること自体は間違ってはいない。
「キュウゾウ殿、ヘイさんの言う通りだ。」
 ほら、とっとと詰め所まで戻りましょう。体が温まる“しょうが湯”を作って差し上げますねと。村の中央、家並みの連なる方向へ、手に手を取っての急ぎ足。後を見もせず去って行かれる。

  「何だかんだ言っても、やっぱり“お母さん”じゃあないですか。」

 しょうが湯ですってよ、後で少しほど分けてもらいましょうねと。いつもの恵比須顔のまんま、居残った同士のお相手を振り返れば、
「どうだ、ヘイさんも一つ。」
「何がです?」
 ぽんぽんと、自分のお膝を叩くゴロベエ殿に。正直、通じなくってと首を傾げたヘイハチだったが、
「某の膝は、あのキュウゾウ殿でさえ瞬く間に寝かしつけた威力があるということを、どうだ、ヘイさんも試してはみんか?」
 今度は咬み砕いて並べられた文言へ、
「…。」
 何だかちょいと、様子がおかしい米侍殿。

 『もうもうヤですよ、ゴロさんてば♪』

 遊んでる場合じゃあないでしょが、さあさ、お仕事お仕事…と。取り付く島もなく相手にしないかと言えば、そういう即答の気配はなく。さりとて、

 『え〜? 本当ですかぁ?』

 キュウゾウ殿は熱っぽかったんでしょう? それだったから寝付いてくれたんじゃあないんですか? と。疑わしい眼差しを向けて来るかというと、そうでもなく。

 “だって。キュウゾウ殿を、自分の手で排除しちゃったくらいですものね。”

 そういや、そうでしたよね。具合が悪いかもしれないお人を相手に、何だか強引なヘイさんだったような気が。(…あれあれ? 撤退してったんじゃなかったですか? お母様。) そして、

  「本当に、半時経ったら起こしてくださいよ?」
  「ああ判ったから、時間が惜しいならとっとと寝ないか。」

 色々と、工具や何やを詰めた袋を腰から下げてたり、背中にはジャケットへやはり大きなポケットが縫いつけてあったりする関係で、本身以上にコロコロして見えるヘイハチ殿。さっきまでキュウゾウが凭れていたゴロベエ殿の懐ろへ、ごそごそと収まるところは。何でだろうか、仔熊の冬籠もりの図にも見えなくはなくて。もしかして照れ隠しか、それとも往生際が悪くてのことか、そんな態勢になってもまだ、依然として何かしら語らい合ってるらしき声が、しばらくほどは聞こえてもいたけれど。

  ――― さすがに、数分ほども経てば。

 徹夜続きで憔悴してもおり、眠くなかった訳じゃあない身。暖かな日和と温かな体温、それから…安心出来る空気に包まれることで、逸り気味だった気持ちも宥められたか。
「………。」
 自分の懐ろ、見下ろしていたゴロさんが、ふっと優しい笑みを零して見せて。

  「身柄確保とご就寝の段。幕引きなり、か。」

 そんな一言、呟いて。それからそれから………。







            ◇



  「やった。寝てくれたみたいです。」
  「…。」

 少しほど離れた茂みの隙間から、そんな二人の様子を伺っていた、撤退したはずの金髪母子が、こちらさんもついのこととて安堵しており。それじゃあ本格的に退散しますかと、にっこり笑顔で木立から出てゆく。

  ………ってことは。

 これぞ正しく“シチが困っておるから寝ろの対象はもう一人いるんじゃないのか”大作戦だったらしくって。(…長い・笑)やっと何とか寝て下さったヘイハチが、照れて跳ね起きたりしないよう、誰もお邪魔にならぬよう。今二人が下っている道は、そのまま…村からの入り口を一時封鎖とする予定。そう、キュウゾウ殿が誰の懐ろでも眠れるような、融通の利く身になった訳でもなければ、シチさん以外へ…今度は“お父さん”を求めて心変わり(?)をした訳でもないので、どかご安心を。
(苦笑) それが証拠に、
「寝たふり、とってもお上手でしたね。」
 にっこり笑っての母上からのお褒めのお言葉。それへと、
「…。/////////
 双刀使い殿がちょっぴり頬を赤くしたのは、ままお約束。
(笑) けれど、
「よくもまあ、ああまで嘘の皮を並べられる。」
 キュウゾウとしては、自分の寝たふりなんぞより、ゴロベエ殿の口から出まかせの方が物凄いと感心することしきりだったらしく。
「ああ。溜息が聞こえたとか、木の実を手渡して手が温かいってことを確かめたってアレですか?」
 実際は、そんな経緯なんて全然ありはしなかった。

  『よいかな?
   某がキュウゾウ殿の頭を撫でるまで、辛抱してでも寝たふりを続けているのだぞ?』

 ヘイハチがやって来るのを見越して、サササッと寝たふりを始めたのがホントの手筈だったので。よくもまあまあ、あれだけの文言が並べられたもんだと。寡黙な彼にはとんでもない偉業にさえ思えたらしいキュウゾウが、こくりと頷いて見せてから、
「よもや島田が?」
 あの策士が準備したあらすじかと、突然引っ張り出した辺りへは、
「ああえっと。確かにまあ、ああいう嘘八百は、カンベエ様もお得意ではありますが。」
 嘘が得意だなんて言い回し、子供への教育上はよくないなあと、こんな形で心配して、ついつい言葉を濁しているお母様もお母様ですが。
(笑)
「あれは即興でゴロさんが考えたことですよ。そこまで細かい打ち合わせなんてしちゃあいません。」
 さすがは大道芸人で、あのくらいの口説、彼にかかればさして難しいことではないらしい。だがだが、ということは、

  「結構なお膳立てではありましたよね。」

 そうまでしないと誘導されてなんかくれない、温厚そうな見かけによらず、なかなか手ごわいヘイハチ殿。そこでと手筈を練りに練った。ストレートな仕立てじゃあ見抜かれる。そこでと、主人公はあくまでも彼ではないような場面を設けようということになり。シチロージが翻弄されているというように見せかけるのはどうだろか。こういう茶番になんて、まずは絶対に乗らないだろうと思われているキュウゾウが加わっていたことが、成り行きに作為のないことを印象づけており、それで何とか成功に至ったという次第。
「ややこしいのだな。」
「ええまあ。ヘイさんはああ見えて、なかなかにポーカーフェイスがお得意ですし。ご自分の領域に関わることへは、頑として譲らない強情なところもあるから厄介でしてね。」
「???」
 言い回しが難解なのではなく、それってどういう人物なのかが判らないと、そんなお顔をするキュウゾウへ、
「だから、えっと。ちゃんと寝て下さいと普通に諭したところで、はいはい判りましたよと答えておきながら、なのに言う通りになんてしちゃくれません。」
「嘘つきなのか?」
「いえ。きっと恐らく、言ったアタシが去ってから“キリのいいところでね”なんて、自分の都合を付け足すんですよ。」
「???」
「嘘は嫌いなお人みたいです。それに、案じてくれてる人がいるのだってこと、とってもありがたいって思う気持ちをちゃんと持ってるお人でもある。だからきっと、心の中で“ごめんなさい”って手を合わせての無理や無茶だと思うんですよ。」
 サラサラと並べられたことへの整合性は理解できるが、でもね? なんだかね?と。う〜んと首を傾げてしまうキュウゾウで。
「ややこしいですか?」
 こちらから訊けばすぐさま頷くところ、やっぱり彼には理解するのが大変な人物であるらしく。
「そういうキュウゾウ殿こそ、周囲からは気難しいお人だと思われているのですよ?」
「?」
 詰まらないことを話しかけると怒られやしないか、馴れ馴れしくすると機嫌をそこねやしないか。当り障りのない範囲を並べて差し上げると、再び首を傾げて見せてから…ややあって、

  「詰まらないことや馴れ馴れしいのは、確かに苦手かもしれない。」

 そうやってちゃんと考えてくれたところが微笑ましいというんですよと、やわらかく笑ったシチロージであったものの、

  「どうして五郎兵衛なのだ?」

 おや。今日の彼らの大作戦、こちらの彼には気になるところがまだあったらしい模様。
「ゴロさんのお膝、広くて気持ちよかったでしょう?」
 問われると、またまた首を傾げてから、
「…。」
 こくりと頷いた次男坊へ、

  「………。」

 自分から訊いときながら、ちょこっと。ちょこっとだけ、母上の胸の何処か、引っ掛かるものがあったりもし。先程の転寝は、はっきり言って“狸寝入り”というのを頑張ってもらったのだが、自分なんぞがちまちまと構いつけるよりも、どっしりと頼もしいゴロさんに凭れていた方が、この構図の方が余程のこと、しっくり来ていて安定も良いのではなかろうかと。あまりに様になっていたことへ気を呑まれ、作戦執行中だったにもかかわらず、そんなことをちらっと思ってしまったおっ母様だったりもしたのだが、
「?」
「…えっと、ごめんなさい。」
 くすすと笑って何とか持ち直し、
「ヘイさんはね、ゴロさんのことを、そりゃあ買ってるんですよ。」
 現に、ゴロさんが試してみるかなんて誘ったら、あっさり乗ってしまったでしょう?
「キュウゾウ殿が構ってもらった後なら、自分はその“便乗”ってことでって、ご自分への言い訳が出来る。」
 そうと付け足すと、

  「…ややこしい。」
  「ですよねぇ。」

 困惑したまま、眉を寄せて見せたキュウゾウへ、本当にとシチロージも苦笑が絶えない。融通を利かせたり、人を思いやったり。はたまた、素顔を晒したくないが、そんな我を通すことで場を騒がせたくはないとも思ったり。機微に聡くなればなったで、何かとややこしいコトこの上なくて。自分に素直でいるのへまで言い訳や理由が必要だなんて、何て困ったお人なのだかと、苦笑って見せはしたものの、

  “…アタシは違うと、言えるんだろうか。”

 昔の青二才の頃よりは、物が判ったような顔をして。カンベエ様の御為めなんて言いながら、またぞろあの御方に、引き返せない重圧を掛けてやいないと言えるのだろうか。ああ、年は取りたかないですね。こんな風に、立ち止まると要らないものまで見えてくるよになってしまった。笑ってる人と同じ数だけ、泣いてる人がいるのかもしれないだとか。法の裁きや民衆の啓発浄化なんて待ってられないと、直接 大太刀を振るって悪代官を薙ぎ払うドラスティックなやり方は、詰まるところ“テロリスト”の力づくとどう違うのかとか。
「………。」
 不意に考え込んでしまったシチロージだと気がついて、歩調が遅れた相手を振り返ったキュウゾウが、
「…。」
 そちらさんも何を思ったか。しばし、視線を足元に逸らして、何やら考え込んでいたものの、

  「シチの膝だと、島田が怒ったかも知れない。」
  「〜〜〜〜〜。////////

 いや、だから。何が仰有りたいのか、アタシは判りはしましたけれどもね。どうしてお膝を提供したのがゴロさんだったのかというお話の、キュウゾウ殿としてのオチだというのはね。でもだけど。言い回しが簡潔すぎて、誰ぞに聞かれたら恥ずかしいでしょうがと。相変わらずの言葉足らずさんの爆弾発言へ、我に返ったお母様。振り回されるばかりというのが、少々癪であったのか、

  「…じゃあ、キュウゾウ殿は別に構わないんですね?」

 そりゃああでやかな笑顔でもって、唐突にそんな言いようを持ち出した。

  「?」
  「アタシがこの膝、そうですねぇ、
   コマチ殿やおからちゃんに貸しても別に気にならないんですね?」
  「…っ☆」

 明らかに、それはイヤだという不満顔をして見せる、これでも神無村のお侍様たち随一の使い手さんであり。やっと一矢報いたぞと、足を速めたお母様の、浅い紫の上着の裾を、くっと掴んだ次男坊。

  ――― どしました?
       ……………。////////
       言ってくれなきゃ判りませんが。

 自分が胸騒ぎを起こしたのは、どう考えたって自業自得だってのに。ついつい次男坊を困らせて、うふふんなんて笑ってる、長身美貌のお母様へ、

  「………島田だけになら我慢する。」
  「…っ☆」


   技ありっ、合わせ技で、次男坊に一本っ。
(苦笑)





  〜Fine〜 07.01.10.


  *相変わらずに何か変な方々です。(おいおい)

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