睦夜の底 蜜夜一景  (お侍 習作118)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より

              *R−15くらいでしょうか。BL系のそういう場面のみのSSです。
                淫靡な描写がお嫌いな方は自己判断でお避け下さいませ。

 


もう、虫の声がする。
そういえば、朝晩は随分と過ごしやすくなりもした。
そんなこと、ぼんやりと思う余裕があったは幾刻前か。
清涼な宵のなか、陽の名残りさえ没した後の、
秋夜の静謐が染みた帳
(とばり)のうちへ。
その輪郭が夜陰の藍へと沈んだ寝床の上、
そっと組み敷かれたばかりの頃合いのことではなかったか。

片方の肘を床に延べ突き、
そうすることで自身の重みを加減してくれた年上の情人は。
うら若き連れ合いの、玲瓏透徹な表情馴染んだ顔容
(かんばせ)の中、
肉づきの薄い唇がよほどに好きか。
けぶるような金の前髪の下からの、
目尻が上がって力みの強い、紅蓮の双眸が差し向ける、
どこか挑発的な睥睨さえ意に介さずに受け流し。
持ち重りのする大ぶりな手で、細い顎をそおと捕まえ、
親指の腹で愛でるように撫でてのそれから。
神聖な儀式ででもあるかのように、
小さめの蕾をまずはとついばんで堪能する。
嫌なら突き飛ばせばいいのだと思わないではなかったが、
よほどの無理強いでない限り、
そうまでして拒まれたことは今のところは一度もない。

 「ん…。」

平生には清楚に閉じて品格さえ満ちていた、
そんな緋色の蕾はやはり抗うこともなく。
やわらかな花弁は易々と押し潰されてしまっての、
そのまま ぴちりと淫靡な水音立てて、獰猛な獣から蜜をすすられる。

 「ん…ふ…ぁ…。///////」

しっとりとやわらかい感触は、どこまでも脆いが崩れ去りはせず。
そのくせ瑞々しくも危なげなありようが、
常には欲薄き壮年へさえ、凌駕の欲をそそってやまぬ。
そして、そんな希少な望欲、
余すことなく受け止めんとしてのこと。
青年の小さな顎もまた、気づけば淫らに蠢いており、
相手の口元、食
(は)み返す応じは、いっそ貪欲なほどのそれ。

 「ん…ん、…ぅ…。」

息を詰め、何とか声を押さえるその代わり、
喉奥が くっと鳴ってしまうのが、
その感覚を苦悦に震わせているのだということ、
如実に明らかにしてもいて。
そんな中、

 「あ…っ。」

夜着とした白小袖の合わせから、
日頃より熱持つ男の手が差し入って来。
手首に閊えた衿元が、そのまま脇へと割り開かれることよりも、
そこへと伏せられた手のひらの熱が、
肌に染みてゆき、身のうちへとじわり広がる感覚をのみ、
意識が追ってしまう久蔵であり。
彼の側は及び知らぬことながら、
その胸を斜めに走る痛々しき古傷の跡が、
愉悦の熱のせいだろう、
白磁の肌へ緋色の雷光のように浮かび上がるのその態、
何とも艶冶でならぬ眺めなものだから。
性急かと思わぬではないながら、それでもつい、
まずはと胸元はだけてその景色をと、求めてしまう勘兵衛であるらしく。

 「ん…ぁあ…。」

早くも息が上がって来たか、
それを隠そうとむきになって喉奥に押し潰すものだから、
尚のこと、胸元のうねりは隠しようもなく。
それを宥めるかのように、藍の六花を刺した慈手が流れていった先、
辿り着いたは小さな尖り。
そこにあるのを確かめるよう、指の腹で掠めさせれば、

 「ん…くっ…。」

昼間の感情薄い鉄面皮はどこへやら。
うっすらと汗ばんだ額に後れ毛を張りつけ、
細い眉間へ深いしわをきゅうと刻み。
そんな応じようが何とも愛らしくてのこと、
そのまま捏ねるように弄ってやれば、

 「はっ……あ、やぁ…。」

途端に、目尻に潤みの浮かんだ目許をきつく閉じ、
細い顎を仰け反らせ、
頑是ない幼子のように、いやいやとかぶりを振って見せる他愛のなさよ。
さんざ乱され、今や腰紐の辺りのみがかろうじて居残るだけの白い夜着。
そんな半端なまといつきようは、
全て剥がれるよりもいっそ妖冶な趣きを呈しており。
しかもその上、小袖の布目よりも真白き半裸が、
膝を立てての、その裳裾をなおも大きく踏みはだけると。
自らを組み敷く雄々しき肢体へと、わざわざ体を向き直り、
そちらからも手を延べて、蔓草のよに絡みついて来るものだから。

 「…。」

何をするつもりかと見ておれば。
こちらの小袖の衿から覗く、陰のような褐色の肌へと、
小ぶりで白い手が伸びて来て、
丁度自分がされたよに、するりとその懐ろへ忍び入る。
触れてまずは伝わるは、自分とは明らかに違う強い肌のなめらかなこと。
鞣した革を思わせる強さは、
それがまといついた雄々しくも屈強な肉置きとともに、
丹念に練られた末の強靭さを持つからか。
手のひら同様、やはり熱いその感触へと頬を寄せてゆけば、
男の堅い腕が伸び、愛しい痩躯をくるむように抱き上げてくれて。
紅眸の青年の望みを叶えたその上で、
大きな手がまるであやすよに細い背を摩ってもくれて。

 「…ん。」

こうして抱きしめられることへ、
素直に応じられるようになるなんて。
少し前の自分なら全く信じられぬことだなと、
それへはさすがに久蔵も気づいてる。
自分以外の誰かの熱や生気というものは、
取るに足らぬと看過して置き去るか、
若しくは切り払う存在でしかなかったからで。
それが今はどうだろか。
この頼もしい熱が在ることを、
傍らに寄り添ったままでいることを、
狂おしいほどに欲している久蔵で。

 「…。」

深く深くい抱き合うことで、
例えばおとがいや首元といった窪み同士がかみ合うほどに、
間近となったその身をば、なお引き寄せて抱え込み、

 「…久蔵。」

耳元で囁かれる深い響きの声もまた、
青年の身を震わせ蕩かす甘露な愛撫と変わりなく。
日頃の何倍も過敏になってる感覚が、
甘さをまずますと増幅するものか。
そんな睦声を拾っての、

 「…っ。」

ひくりと震える過敏さを愛でるよに、薄く薄く頬笑んでから。
ほんの間近になった金の綿毛へと鼻先を埋め、
感じやすいらしい耳朶を、そおと唇の先で触れてみる。

 「…あ…っ、////////」

妙なものだ。
飛来した砲弾、加速のついた鉄塊を、
腕一本で迎え撃っての瞬撃で叩き切る衝撃には、
眉ひとつ寄せぬ彼だのに。
こんなささやかな触れ合いへ、総身を震わせ、声が撥ねる。
だが、

 「は…あぅ…、や…。/////////」

久蔵にしてみれば。
ほんのわずかな一か所へと触れられただけ、じゃあない。
その身の全てを男の腕へと委ねきり、
肌のほとんどがその温みへと接したままでいる。
背中が床から浮くほどの力づよさで精悍な腕に抱えられ、
大好きな…ちょっと枯れた風合いの、男臭い匂いにくるまれて。
頬に肩にとこぼれてくる蓬髪の感触のくすぐったさを感じ、
ごつごつした堅い胸に、締まった腰に、
こちらからこそ擦り寄っての寄り添っていて。
何もかにも委ね切っているそこへ…

  ―― 愛しい愛しいという呪文混じり、
      やさしく口づけを落とされたらば。

なんで総身が沸かずしておられようか。
それが判っていての悪戯であり、望んだ反応を招いたことへか、
勘兵衛の目元が味のある笑みに細められたの、
やはり間近に目撃したものだから。
それをくうと見上げた久蔵、

 「ん…。」

こちらもお返しにと、相手の小袖の中へともぐらせての、
何とか背中まで回していた腕が、だが。
かいがら骨までは届かずに、
敢えなくもすべっては しきりと落ちかかるのがもどかしい。
相手の筋骨の雄々しさもあるが、それ以上に、
愛しい熱に目が眩み、酔いに襲われ、力が萎えかけてのこと。
彼の側には、
その身を“捧げる”というよな受動の意識はないけれど。
それでもむずがる仔犬を思わすように、甘い鼻声を上げるのは、
少しでも引き離されるのを恐れるからで。
淫靡な熱が齎す快楽に酔いながら、
同じ熱に浮かされ、
侭ならぬ身がいとわしいという矛盾へと焦れた末、
細い眉がきりりと堅く寄せられるのが。

 “聞き分けのない駄々っ子のようだの。”

と、壮年へと思わずの苦笑を誘うほど。
無論、彼もまた、昼間のように沈着にも納まり返っていはしない。
愛しき連れ合いの見せる甘美な痴態や、
こらえた末に屈して零す蜜声へ。
その雄々しくも充実した猛き躯と、
それを御しての鮮烈に舞わせるだけの、
俊にして鋭な感覚が感じ入らぬはずはなく。
体の芯が熱くしびれ、
それとの連なりだろう、喉奥が乾いてしようがない。
この双腕
(かいな)へと抱えた獲物の若い肢体を、
徐々に熟れつつある果肉に見立て。
脾腹や腿など、柔らかな肌を、
衣紋を剥ぎ取るそのついで、愛しくも押し撫でてやり。
耳朶の縁、首元や鳩尾などへは、唇寄せての煽り立て。
ますます甘くと育めば、

 「あ…っ、ん…ぅ…。」

いやいやと、ますますかぶりを振ったその末に。
慣れぬ熱から滲んだそれか。
暗がりの中にもそれと判るほど、切ない潤みの増した眼差しが、
微熱の吐息に打たれて濡れそぼる、赤みを増した口許が、
何をか求める気色を向けてくる。

  もうもう耐え難いからと、
  至るための楔
(クサビ)を、切っ掛けをおくれと。

手段を選ばぬところは自分と似ながらも、
どこかで矜持の堅いままな彼が、
なのにこうまで あからさまに、何かしらねだる顔をするなんて。
何とも愛しいと眺めておれば、
こちらの髪へと搦めた指が、催促してのぐっと引かれ。
唐突なリアルへこれは堪らぬと苦笑を洩らした勘兵衛。
せめての罰だということか、
ややもすると淫らな姿勢、片膝立てさせての身を開かせて。

  「…っ、―――っっ!」

かは、と。
悲鳴が掠れて息だけが吐き出される。
性急に求めたは彼の側だとはいえ、
多少は慣れさせてあったが それでも、
斟酌なく押し入られてはきつかろう。
次へと運ぶのはさすがに待ってやれば、

 「……あ、…は…ぁ…。」

痩躯を硬直させていた彼は、だが、
しばしの間をおくと、
大きくついた最初の一息に続き、やっと取り戻した呼吸とともに、
険しかった表情を切なげにも和らげて。
己を犯すものを迎え入れた箇所である、
内孔の秘壁は十分な潤みと熱を帯びており。
待ち侘びた分を急いてのことか、
もてなしのための収縮もなめらかに、淫らにうねり。
押し込まれた熱塊を健気なほど懸命に取り込んでゆく。

  「…かん、べ…。」

荒ぶる吐息に揉まれ、切れ切れになった声で、
日頃はしない呼び方をされ。
思わず腰を進めた壮年は、そこを更にと貫いており。
途端に、

 「あっ、あ…あぁ…っっ!」

今度こそは、蜜の尾を引く声あげた情人の、
か細い背中を弓なりに仰け反らせた真白な痩躯、
虚空へ目がけて延ばされた腕ごと、懐ろ深く抱き込めて。
何処へもやらぬと 強く掻きい抱いたそのまま、
堕ちる先など見えぬ暗渠へ向け、
二人そろって どこより高い虚穹へと翔けたのだった。





   ◇◇◇



まだ余熱が去り切らぬ肌へと、こぼれて触れるのがくすぐったい。
同じ寝床に横になり、羽織り直した小袖の懐ろ、
放埒に広がったままな長い蓬髪の先が触れたのを、一房ほど掬い取り、
白い指先に悪戯半分、くるくるりと搦めつつ。
壮年殿の穏やかで静かな寝顔、間近から凝と見入ってる。
途中から あまりの熱に官能が焼き切れての意識が攫われてしまい、
(うつつ)の向こうへ転げていってしまった久蔵を、
どのくらいのことだろか、
戻って来るまでただただ待っててくれた勘兵衛で。

 『…きつうしたか?』

すぐの耳元で甘く掠れた声で囁かれ、
深く響いたそのお声が、擽ったくもぞくぞくさせるものだから。
ゆるゆるとかぶりを振っての否定しつつも、
頬に隠しようのないほど血が昇った久蔵だったのをくすりと微笑い。
そのまま あっさり寝入ってしまった呆気なさよ。
結局は夜の底へと置き去りにされたのだが、
不思議と腹は立たず。
それよりもと、
間近になった…精悍だけれど やや枯れた印象も強い、
それでも好いたらしい男のお顔を見やりつつ、
何かしらへと思索の枝を広げている久蔵だったりし。

 「……。」

こういうことへの“他”は知らぬ身だが、それでも。
今宵のようにそれは翻弄されつつも、
どこか…この男にはそぐわぬ致し方をすると、
感じる夜がたまにある。
唐突に傲慢になるでなし、
懐ろ深い優しさも日頃と少しも変わらぬが、
どこか何かが 違うと思えてやまなくて。

 “……。”

七郎次のように まめまめしくも器用ではないところか?
いや、雄々しくも粗いということからは
“そぐわぬ”という感触はしない。
それはむしろ、この男には“らしい”こと。

 “…。/////////”

そうまでさせた高ぶりを男へ齎した睦みであっただなんてと、
ややもすると頬がじんわりと熱を帯びてしまい。そして、

 「…。」

そうと突き止めて気がついた。
誰へも懐ろ深く誠実に接する彼だけど、
最も深く、魂が触れ合うほどの接しようともなると、
極限まで高められた刀と刀での切り結びと通じるような、
どこかつれない顔になるのが常の彼であり。

 ―― 太刀で齎されよう“それ”ならば、
     触れたが最後、今上の別れとなるように。

  そう。

未練を残さぬほど、潔くも鋭角な、
絶対のつれなさが同居してはいない…感じられない。
そんな 手厚いあしらいだというのが、違和感の正体。

 「…。」

なにも 一夜の妻へのそれのよな、
その夜限りの冷たい激しさで あしらわれたいのではないけれど。
刀での関わり合いようと大きに異なるところが、
この男には妙に“らしくない”と思えた。
あの大戦でどれほどの苦渋を舐め、辛酸を乗り越え、
目には見えぬ生傷の数々を、その身と心へ刻んで来たからか。
人との関わり合いへは、どうしてだろうか一線引くのが常の男で。
それが…情による狂おしさをほどこしておいて、
今宵のように箍が外れたような致し方となったとて、
気のせいではなかろうかと放置するような薄情はせず。
それを明日へもと持ち越すような、
先程持った短い語らいのように、
大事はないかと案じての配慮をしてくれる。
激しいなら激しいだけ、
済めばそのまま素っ気なくも、つれなくなるのではないだろかと。
踏み込むなとの牽制へすり替えてしまわれやしないかと、
恐れたっていいはずが。
そんなことを今の今まで気づけなかったほど、
その懐ろへ取り込んだままでいてくれる彼なのが、
そぐわない感触のきっと 正体であり。

  ―― こちらがまだまだ初心だからだろか?

身動きさえ止め、懸命に考えてみたものの、

 「〜〜〜。///////」

自惚れではなくの、それはないなと判る。
だってだったら、どうして、
意識が遠のくまで苛
(さいな)む必要がある。
彼にも余裕がないからこそ、
そこまで追い上げてしまってのその結果、
こちらが正気に戻るまで、不安げなお顔で待っているのではなかろうか。

 “ならば…。”

踏み込ますまいとするつれなさが薄れつつあるということか。
それが、この男の“らしさ”にはそぐわぬ気がして、
違和感として引っ掛かってならなかった久蔵だったのだけれども。

 「……。////////」

正体が判ってしまえば、何故だか不思議と、
今度はその違和感さえ温かい。
だって、こんな居場所をもらったのは、
久蔵の側にしても初めてのこと。
背を預け、身を任せ、信頼を寄せるそれ以上のこと。
こちらから勝手に押しかけて預けたものじゃあなく、
たとえば、身を丸めて眠るその素顔を君だけは覗いてもいいよと、
やっと肩から力を抜いてくれた。
見込んだ存在、なのにいつまでもどこか頑なな男からの、
そんな特別扱いを差し出されていたことへ、今やっと気がついて。
他でもないこの勘兵衛が、
寛容なようでいて、その実、
頑迷なところは七郎次でさえこじ開けられぬ、
そんな男が、自分への“ずっと”をくれたというのが、

 “………悪くはない。”

ああ、だが どうしよう。
もらった甘さが口元をゆるませる。
頬張った笑みに表情が蕩けて解けてとまらない。
自分だけそんな澄ました寝顔をして、と。
静かに寝入る相手へ怒りたくとも、お顔はちっとも引き締まらずで。
ああでもこれもまた、傍から見れば単なる惚気なのかしら。

 “ったく。///////”

秋の山野辺、杣家
(そまや)の外には、虫の奏でが絶え間なく。
ほろ酔いにも似たほのかな微熱、
そぉとそっと宥めてくれるの聞きながら。
我だけ現
(うつつ)へ置いてゆくなと、
その身へひたり寄り添うて、同じ夢幻へと発ってゆく。


  月蛾の光雨が音もなく、萩の葉濡らす晩のこと……。





  〜Fine〜  08.9.13.


  *正直言ってここ数日ほどは、
   ネフサしまくりの読み専になっておりましてvv
   ほっこり和んでおりましたが、これではいけないと我に返っての、
   あちこちで充填させていただいた萌えを、振り絞っての…閨房話。
   ……なんか微妙にぎこちなかったですね。(激しく猛省〜〜っ)
   あああああ、やっぱり勘兵衛様に張り切らせるのって、
   ましてや そちらも慣れのない久蔵殿を相手にだなんて。
   書き手まで照れが出ちゃって難しいですよぉ。////////

   いやいや、
   そういうお話ばっか読んでた訳じゃあないんですけれどもね?(/////// 照)


めるふぉvv
めるふぉ 置きましたvv

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