晩秋睦言  (お侍 習作124)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
 

どこからか鋭く響くはヒタキの声か。
晩秋の冴えた空気の中を、
物哀しい声で切り裂いてゆき、
それへあおられたように一陣の風が舞う。
まだ落葉へは至っていない頭上の梢が、
ゆさりと揺れては ざわざわたわみ、
さざなみのような音で木立ちを満たす。

  さく、と

足元へ積もった落ち葉を踏んで、
奥まったほうから戻って来た連れ合いの。
痩躯にまとった紅の衣紋へ、
やや横合いからの陽が落ちて。
どうしてだろか、
日頃はそうなれば暖かみが差すものが、
今はどこか寒々しい色味に思えた。
こちらへ向けて足早になる寸前、
その表情がわずかほど堅くなったせいだろか。
そんな彼が傍らまでへと駆け寄るのを待ち受けておれば、

 「…。」
 「これ、久蔵。」

いつのものだか、
随分と古びて乾いていた切り株に座していたこちらの膝へ、
問答無用で片膝をかけ、
乗り上がって来た彼であり。
そのままこちらの外衣、白い砂防服の上着を、
左右へと大きく割り開くものだから、
相変わらずの傍若無人さへ、ついの苦言が出かかったものの、

 「…。」

そのまま懐ろへと頬を埋められてしまっては、
もはや手遅れの観もあり。

 「…怒らぬのか?」
 「怒っても詮無いだろうが。」

まるでこうでいることが前提の存在であるかのように、
誂えものでもそうはいかぬほど、
この懐ろの深みへすっぽりと落ち着く体躯を持つ君であり。
そろそろ向こうから手套を使ってもいいとの許しが出そうながら、
今はまだ晒されたままの壮年殿の手の甲には、
左右のそれぞれに藍色の六花が刻まれており。
それが若いのの金の髪を乗っけた頭を不器用そうに撫でていて、

 「…。」

それこそ子供扱いのようでもあるのに、
てんで いやがりもせず。
むしろ、猫の匂いつけを思わせるような所作でもって、
ぐりぐりと ますます頬を寄せる君であり。

 「本当はいやなのか?」

詮無いなどとの言われよう。
ほのかな棘でも気になったものか、
そんなことを重ねて訊く彼へ、

 「いいや。」

深色の髪を肩や背に震わせ、
ゆるゆるとかぶりを振っての苦笑を零す壮年殿。

 「さして重うもないし、よい匂いもするし、温かいしの。」
 「………ふ〜ん。////////」

さして色気のない言いようへ、
それでもまんざらではないものか。
若いのがくぐもったような声を返し、
ますますのこと、
その小さなお顔を相手の懐ろへと埋めてしまって。
きちぃきぃきぃ、ヒタキのせわしい声が、
風に乗って遠くから聞こえる、
森閑とした秋の静謐
(しじま)だったのだけれど。







 “…出来れば早いとこ、お役人を呼んでくれねぇかなぁ。”
 “今起き上がったら 間違いなくとどめを刺されそうだしなぁ。”


さんざんに打ちすえられ、
死には至らぬ程度の加減もされてのばったばったと、
そこいら中に転がってしまっている賊どもにしてみれば。
とどめに“こういう”お仕置きをする賞金稼ぎたちだったのかと、
妙な部分の見識を新たにしていたり?





  〜どさくさ・どっとはらい〜  08.11.22


  *な〜んやこれ。(笑)
   いい夫婦の日に寄せて、まずは看板の勘キュウで一席vv
   相変わらず、はた迷惑な仕置きをしているお二人であるらしいです。
   寒くなったらますますのこと大威張りでくっつき合えばいいvv

めるふぉvv めるふぉ 置きましたvv

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