晩秋深遠  
(お侍 習作125)

       〜 お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
         *ちょこっと致しております、ご用心。
 


そっぽを向いてたわけじゃなし、
晩酌の膳を挟んでの、
小声での囁きがやっと聞こえるほどの間近に、
互いを感じていはしたのだが。

 「……。」
 「ん…。」

有明の灯火のみというほの暗さの中、
合わせた唇から微かな水音が立つのが、
ますますと気をそそっての躍起になったか。
肉の薄い唇が盛んに動いて、
さながらそのまま喰
(は)んでの取り込もうとしているかのよう。
取り落とした盃が、畳の上でくるりと回り、傾いて止まる。
今宵は何が切っ掛けになったやら、
膳をずらしての間を詰めると、
こちらの膝の上へといつものように乗り上がって来たそのまま、
むずがるようなお顔が見下ろして来ていたのも僅かな間のこと。
いかがしたかと首を傾げかかった勘兵衛の口許へ、白いお顔が降りて来て。
含羞みも衒いもあったものじゃあない、
まるで餓
(かつ)えを満たしたいかのような勢いで、
荒々しい接吻と相成っており。

 「これ、きゅ……。」

息継ぐための、ほんのかすかな間合いも惜しいと、
幾度も幾度も食いついて来ては、そのごとに深く深くと。
柔らかな口唇、押し潰すようにして、
しゃにむになっている若いのであり。
白い衣紋に重なっていた紅の衣紋も、
切れ目から膝が踏み出ての、はだけ乱れた裾が絡まり合って。
枝垂れ桜の枝のよにしなやかな腕が、
壮年殿の頼もしい首や逞しい肩へとからみ、
伸びやかだが薄い背が、僅かに反っての、
そうして男との隙間を埋めんと胸から張り付いている様は。
傍から観ている者があったら、
何とも煽情的な図に映ったこと間違いなくて。

 「…。////」

存分に口を吸ってのそれから、
片時も離れぬままにすぐ下の剛い髭へと、
夢中な接吻は流れゆき。
おとがいの縁から首元へまでもぐり込むと、
そこの肌へも食いついているらしくって。

 「久蔵。」

声をかけたくらいでは制止にもならぬか、
そのまま勘兵衛の褐色の肌を食い破りたいかのような貪りようは、
一向に止まる気配がない。
堅い襟を邪魔にし、懐ろの合わせへと手をかけての割り開くと、
少しほどあらわになった首と胸元へ、
あらためて顔を埋めて尚も食いつく彼であり。

 「…手加減せぬか。」

気が済むまで好きにせよということか。
引きはがそうとはせずの、むしろ転げてしまわぬようにと、
勘兵衛の腕が、捕食者の細い背を、ついには抱いてやっている始末。

  ―― 飢えを満たしての“欲しい欲しい”と

しがみつくだけでは足らぬ、抱き締められるだけでは足らぬと。
二つの身へと別々に、
個々に分かれていることにすら、
飲み下せないジレンマを、ためてしまうらしき駄々っ子へ、

 “…何とも蒼い。”

枯れるどころか凍るどころか、
今頃になって芽生えてしまった恋情の香に振り回されている。
気持ちの猛りに身の処しようが追いつかぬとは、
まるで十代、青二才未満な若者のようで…微笑ましくて。

 “だが…。”

荒くなりつつある息遣いやら、柔らかな唇がほどこす愛咬は、
こちらとて、実は枯れてはないらしき、
牡の微熱を煥すには十分すぎる刺激であったりし。

 「…っ!」

赤子が乳でも吸うような、しゃにむなばかりな接吻なぞ比ではない、
持ち重りのする大きな手が、するりと忍び入ったは、
相手の長衣紋の切れ込みの腰あたり。
内肢の柔らかいところ、少し強めに押し撫でただけなのに、

 「ん…んぅ…。////////」

少し反っていた細い背が、
いよいよ反り返っての強ばったのち、
壮年殿の懐ろへ とさりと埋まり、その肩が上下する。

 「そうまで欲しいなら、手伝おう。」
 「〜〜〜〜〜。////////」

耳元での甘い囁きが、総身へ じんと響いてのこと。
男に比すれば小ぶりな手の甲へ、
力を込めた筋がきゅっと立ち。
ますますのこと、相手の衣紋を掴みしめる久蔵だったが、

 「ほれ。」

その手を襟元ごと持ち上げられて、
指の節、幾つあるのか数えるように、
人差し指からの一本一本、精悍な唇が喰んでゆけば、

 「あ…。/////////」

それだけでも総身が煮えるか、腰を震わせ、身じろぐ彼で。
他愛なく潤んだ紅の眸を愛でるように覗き込み、
さあさ、どのよに応戦して差し上げようか、
後手の攻め手が静かに静かに、その身をもたげた晩秋の宵……。





  〜どさくさ・どっとはらい〜  08.11.25.


  *ウチの看板CPの筈が、
   小劇場ではシチさん巡って角突き合わせてる、
   妙な二人になっておりますので、
   ちょっとこちらで仕切り直しを。
(苦笑)


めるふぉvv
めるふぉ 置きましたvv

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