寒夜明け 
(お侍 習作 206)

         お侍extra  千紫万紅 柳緑花紅より
 


障子の白い明るみの向こうから、
やや か細い鳥の声がして。
キチィ・チィチィという、スズメとも違うらしいさえずりに、
何とも山野辺の里らしいなと、
無意識のうち 微かな笑みが浮かんでしまう。
野宿をした訳じゃあない、
板戸ではなく小じゃれた障子戸のはまった、
畳敷きの座敷に延べられた布団に横になっている身。
ほんの数日ほど前に、
もう少し北の里にて野盗討伐の依頼を消化し、
今は特に当てもないままの南下中。
この里の近くで今しがたのそれと同じのだろう鳥の声を耳にし、
そろそろ桜が北上してくる頃合いなのを思い出し。
そういや久しく顔を出していなかった
東の補給地、知己のいるにぎやかな里へ
ふらり戻ってみようかと。
何とはなしに意を合わせた途端というのが妙なものだが、
そうと決まったことで心持ちも落ち着いたか、
そわそわと速足だったのが、急ぐこともなかろと歩調も緩み、
宵を迎えたのでと、そのまま宿に腰を据えたまで。
常の習いで離れを所望したからだろう、
宿の者らが朝の支度に立ち回る気配も届かず、
早い春先らしい、閑として素っ気ない朝の空気を感じるのみで。
華美ではなくの小じんまりとしてはいたが、
それなり立派な構えの宿の奥向き、
庭の風景の中へ馴染むよな格好で配置されていた庵の中。
柔らかな衾の内にはまろやかな温もり。

 「………。」

浴衣よりは小袖に近いのだろう、
同じような無地の夜着を着付けていた供寝の相手が、
懐ろでもそもそと身じろぎをし。
すぐ目の前というところに来ていた、
絹糸のように質の細い淡色の髪、ふるりと揺らしたのへと誘われて。
骨太でいかつい作りの、大ぶりな手をぽすんと載せれば、

 「…。」

それを押し返したいかのように ぐいと、
やけに力を込めて、白皙のお顔を上げた久蔵で。

 よお眠れたか?
 ……。

うんとも すんとも答えぬが、
これが常の彼なのは百も承知。
むしろ むずがるようなお顔をされる方が
こちらも慣れがなくて戸惑うというものだろし、

 「……。」

こちらの胸板へ乗り上がって来、
彫の深い、いかにも気難しい壮年のお顔を、
間近から覗き込む彼なのは。
言葉と愛想のなさから判りにくいことながら、
これでも甘えているつもりらしいから。
こちらからも眸を細めつつ、
すっかりあらわになった端正なお顔の
少女のそれのよに すべらかな頬へと手を伏せれば、

 「……。」

頬へまつげを伏せての安心し切ったお顔となって、
そちらからも軽く押し付けてくる可愛げが、
猫の仔のようで愛らしい。
これと同んなじ人物が、
ほんの数日ほど前に 山間の寒村にて、
鋼筒数体を含む野伏せりの一党を ほんの一撫でで壊滅させた
鬼のような働き、眉一つ動かさずにこなしたと、
目撃した人から聞かされたとて 一体だれが信じよか。
帯のゆるんだ夜着の中、細い背中が嫋やかにたわんで。
もうちょっとと身を乗り出した、紅い眸の伴侶殿
自分からも手を伸ばすと、昨夜散々くすぐったい想いをさせられた、
やや堅い質のお髭を わざとに逆立てて遊び始めて。
これこれ止さぬかとの苦笑、ヒレンジャクの声にさえぎられ、
ほら、ここへも春は間近……






    〜Fine〜  14.03.20.


  *こちら様では久々に、
   ちょっとだけ艶っぽい図でお送りしましたvv
   相変わらず 冬場に寒いとこばっか回ってたらしい
   褐白金紅のお二人ですが。
   春の桜は出来れば虹雅渓で、おっ母様と観たいらしいですvv

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