平成17年3月24日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官 S.H

平成16年()第387号 損害賠償請求事件

口頭弁論終結日 平成17年1月21日

          判          決

   ちゃありぃの住所

       原          告  ちゃありぃ 

   無責任なスノーボーダ君の嘘の住所

       被          告   無責任なスノーボーダ君

          主          文

 1 被告は原告に対し,金220万7844円及びこれに対する平成15年1

     月2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

 2 原告のその余の請求を棄却する。

 3 訴訟費用は,これを2分し,その1を原告の負担とし,その余を被告の負

   担とする。

 4 この判決は第1項に限り仮に執行することができる。

          事 実 及 び 理 由

第1 請 求

   被告は原告に対し,415万1152円及びこれに対する平成15年1月

 2日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2 事案の概要

   本件は,原告が,スキーに乗って滑走中,スノーボードに乗って滑走中の

 被告と衝突し受傷したとして,衝突の相手方である被告に対し,民法第709

 条に基づき,損害賠償金415万1152円とこれに対する衝突事故の日の後

 である平成15年1月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅

 延損害金の支払を求めた事案である。

 1 争いのない事実等

 (1) 本件事故の発生

   ア 日 時 平成15年1月1日午後2時30分ころ

   イ 場 所 神立高原スキー場(新潟県南魚沼郡湯沢町)

   ウ 態 様 スキーに乗って滑走中の原告とスノーボードに乗って滑走中

         の被告が衝突した。

   エ 結 果 衝突の際,被告のスノーボードが原告の右足のスキーブーツ

         を直撃し,原告は右足関節外顆骨折の傷害を受けた(甲27

         の3)。

 (2) 原告の入通院治療(甲11の1,甲12の1,甲13の1,2,甲27の

  3,甲31)

原告は,本件事故当日である平成15年1月1日,湯沢町のK整形外科を

受診し,骨折の診断を受け,同月4日,同月11日,横浜市港南区内のK

病院で診察を受けた後,同月14日から同月20日まで同区内の済生会

横浜市N病院に入院して手術を受けた。

原告は,以後,平成16年5月29日まで,同病院,M電機O診療所,H

院,Y整形外科,O中央病院で通院治療を受け,その間,平成15年6月

17日から同月21日まで済生会横浜市N病院で入院治療を受けた。実通

院日数は,同病院が14日,M電機O診療所が3日,H医院が35日,Y

形外科が3日,O中央病院が1日であった。

2 争 点

 (1) 責任原因

   (原告の主張)

被告は,ゲレンデ内においてスノーボードに乗って滑走していたのであ

るが,このような場合,スノーボードを操作する者としては,ゲレンデ

内の下方にいるスキー,スノーボードの滑走者の有無,動静に注意し,

かつ,滑走速度と進路を選択し,もって,下方にいる滑走者との衝突を

回避すべき注意 義務があるのに,これを怠り,漫然スノーボードに乗

って下方に向け滑走した過失により,本件事故を惹起したから,民法7

09条に基づき,本件事故により原告に生じた損害を賠償すべき義務が

ある。

   (被告の主張)

本件事故は,原告が,被告の左肩口より突然被告の道路上に進入したこ

とにより発生したものであって,被告がこれを回避することはできなか

った。本件事故は被告にとっては不可抗力による事故であって,被告に

不法行為責任はない。

 (2) 損 害

  (原告の主張)

 ア 治療費(健康保険自己負担分)        19万0670円

 イ 通院交通費                 16万9026円

 ウ 治療関係費                  2万6986円

 工 慰謝料                    170万円

原告は,本件事故により入院1か月と通院6か月を要する傷害を受け

たほか,職業生活上の支障により大きな精神的苦痛を受けた。

 オ 休業損害                  96万9853円

原告は,本件事故後平成15年2月12日まで43日間休業し,同月1

3日から出勤したが,同年5月27日まで8日半休業し,更に,同年6

月17日から同月22日まで6日間休業した。休業日数は合計で57.

5日(平日37.5日。休日20日)である。なお,原告は,勤務を要

する日については有給休暇を使用した。

原告の月収は ○○万6000円であり,日額は○万6867円である。

したがって,休業損害の額は96万9853円になる。

○万6867円/日×5 7.5日=○6万9853円

  カ 通勤のための交通費             6万5830円

 () 自動車のガソリン代(単価15円/km

  @ 原告の夫による送迎              3510円

    自宅から会社までの距離往復約13キロメートルで,18日。

  A 原告の父による送迎              4560円

父宅から原告の自宅を経由して会社までの距離往復約19キロメー

トルで,16日。

  () 原告の夫と原告の父の通勤付添費      5万7000円

    1日3000円で,19日分。

  () バス代

    自宅から会社    250円が1回。       250円

    会社から大船駅   170円が1回。       170円

キ 年俸減額分                 95万4336円

原告の勤務先では,年俸は,基準賃金月額に査定係数を乗じたものの1

2か月分と基準賃金賞与に査定係数を乗じたものの2倍を合算して算出

される。平成15年度(平成15年4月から平成16年3月まで)の原

告と同資格者の基準賃金は月額52万2000円(原告と同額)で,基

準賞与は120万円(原告と同額)であった。原告と同資格者の平成1

5年度の,基準賃金月額に対する査定係数は1.024,基準賞与に対

する査定係数は1.095で,この査定係数は休業による影響のなかっ

       た平成16年度の原告の査定係数と同じである。したがって,原告は休

       業の影響がなければ,平成15年度においても,同資格者と同額の○0

      4万2336円(月俸 ○3万4528円×12,賞与○31万4000

   円×2)の年俸を得られたはずである。しかるに,原告は平成15年度に

   は,休業の影響により○08万8000円の年俸しか得られなかった。そ

   の差額○5万4336円は本件事故と因果関係のある減収である。

  (被告の主張)

     争う。

  (3) 過失相殺

    (被告の主張)

本件事故は,被告にとっては避けることのできないものであった。仮に,

被告に何らかの過失があったとしても,本件事故については原告にも相

当の過失があったから,過失相殺されるべきである。

    (原告の主張)

    本件事故は,被告が上方にいながら,下方に対する注意を怠り,かつ,

        スノーボードを急制動できないほどの速度で操作していたために発生し

       たものであって,通常のパラレルターンをしていた原告には過失はない。

第3 争点に対する判断

 1 争点(1)(責任原因)について

   争いのない事実等,証拠(甲1の1,甲2,3,5の1,2,甲6の1,

     2,甲7,8の1ないし6,甲9,乙1,証人F氏,原告,被告)及び弁論

     の全趣旨によれば,以下の事実が認められる。

(1)            原告は十数年のスキー歴を有し,本件事故当時は年間30日程度スキ

      ー場に通っていた。技能検定は受けていないが中上級者程度の技能を

      有している。

       被告は,スノーボートを初めて7年で,年間10日程度スキー場に通

          い,やはり中上級程度の技能を有していた。

  (2) 本件事故現場は,プロキオンコースと呼ばれる,幅約50メートル,斜

        度10度程度の初級者コースのゲレンデで,本件事故当日は晴天で,見

        通しは良く,ゲレンデは非常に空いていた。上方からは,下方にいる滑

        走者を十分に見渡すことができた。

  (3) 原告は,斜面上方から,大きめのパラレルターンをしながら斜面を滑走

      していた。一方,被告は,原告よりも後から本件事故現場のゲレンデで滑

      走を開始し,ゲレンデの右端(上方から見て右側。以下,左右は上方から

      見ての左右とする。)に寄った部分を,左足を下方に,右足を上方に置く

      態勢でスノーボードに乗り,ほとんどターンをせずに滑走していた。ゲレ

      ンデ中央部は,被告の背中側になっていた。

  (4) 原告がターンをしながら,プロキオンコースの下部,すなわち,プロキ

       オンコースが左側からくるポルツクスコースと交わる部分よりは手前の

       部分を右ターンをしながら滑走していたところ,ゲレンデの右端から1

       0メートルほど中央寄りの地点で,上方から滑走してきた被告と衝突し

       た。

     ところで,ゲレンデ内において滑走する場合は,上方にいる者は,ゲレ

       ンデの下方にいるスキー,スノーボードの滑走者の有無,動静に注意し,

       かつ,滑走速度と進路を選択し,もって,下方にいる滑走者との衝突を

       回避すべき注意義務があるというべきであるところ,前記認定の事実に

       よれば,被告は原告よりも後から滑り出している上方者であるから,下

       方の滑走者の有無,動静に注意して滑走すべきであったが,被告はこれ

       を怠り,漫然スノーボードに乗って下方に向け滑走したというべきであ

       る。そうすると,被告は過失により,本件事故を惹起したというべきで

       あり,民法709条の責任を免れることはできない。

2 争点(2)(損害)について

 (1) 治療費             19万0670円

   証拠(甲11の1,甲12の2,甲13,15,31,32)によれば,

   原告は本件事故による傷害の治療のため健康保険自己負担分として合計1

     9万0670円の支払を余儀なくされたことが認められる。

 (2) 通院費              6万3467円

   証拠(甲11の1)及び弁論の全趣旨によれば,通院のため自家用車のガ

   ソリン代と電車賃合計1万2467円,また,親族の付添費として1日30

   00円の17日分合計5万1000円が認められる。

 (3) 治療関係費            2万6986円

   証拠(甲11の1)及び弁論の全趣旨によれば,入院雑費や包帯代,看護

    婦への謝礼など治療関係費合計2万6986円の支払を余儀なくされたこと

   が認められる。

(4) 慰謝料           1 5 0万円

   原告の受傷内容・程度,治療経過,職業生活への影響等本件に顕れた一切

   の事情を斟酌すると,本件事故により原告が受けた精神的苦痛を慰謝するに

  は150万円の支払をもってするのが相当である。

(5) 休業損害           96万9853円

   証拠(甲1 7,35)及び弁論の全趣旨によれば,原告は,本件事故後平

    成15年2月12日まで43日間休業し,同月13日から出勤したが,同年

    5月27日まで8日半休業し,更に,同年6月17日から同月22日まで6

    日間休業し,休業日数は合計で5 7.5日(平日3 7.5日。休日20

    日)となったこと,原告は,勤務を要する日については有給休暇を使用した

   こと,原告の本件事故前の月収は○0万6000円であり,日額は○万68

  67円 であることが認められる。

   そうすると,原告の本件事故による休業損害は96万9853円になる。

   ○万6867円/日×5 7.5日=○6万9853円

(6) 通勤のための交通費      8830円

   証拠(甲11の4,甲33)及び弁論の全趣旨によれば,原告は本件事故

     による受傷のため,通勤のため親族が運転する自動車やバスを利用し,ガ

     ソリン代として合計8070円の支払を余儀なくされたほか,バス代と

     して760円の支払を余儀なくされたことが認められる。

   原告は,親族が通勤に付き添ったとして,付添費相当額の損害を主張する

  が,これは本件事故と相当因果関係を認めることはできない。

(7) 年俸減額分

   原告は,本件事故による休業のため,平成15年度の年俸が減額されたと

   主張する。なるほど,証拠(甲29,30)によれば,原告の同年年俸を算

   出するための査定係数が平成16年度の原告の査定や平成15年度の同資格

   者よりも低いことが認められるが,ことは査定にかかるものであるから,直

  ちに査定の低下と本件事故との間に相当因果関係があるとまでは認めることは

  できない。職業生活上の不利益は前記のとおり慰謝料において斟酌した。

                 (以上損害額合計275万9806円)

 3 争点(3)(過失相殺)について

   原告はゲレンデを幅広く使って大きめのパラレルターンをしていたのであ

   るから,上方の滑走者に対しても注意を払うべき立場にあるというべきであ

   り,その点で原告にも落ち度があり,過失相殺をするのが相当である。上記

   認定の事実からすると過失相殺の割合は2割とするのが相当である。

               (過失相殺後の損害額220万7844円)

第4 結 論

   以上によれば,原告の本訴請求は220万7844円及びこれに対する平

   成15年1月2日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害

  金の支払を求める限度で理由があり,その余の請求は理由がないことになる。

   よって,主文のとおり判決する。

         横浜地方裁判所第6民事部

 

                  裁判官 山本博