平成16年(ワ)第387号損害賠償請求事件            

原  告  ちゃありぃ

被  告  無責任なスノーボーダ君

 

準 備 書 面 2-

事故原因に関する反論(詳細)

 

                         平成16年5月27日

横浜地方裁判所 第6民事部 はB係 御中

 

                       原 告  ちゃありぃ 印 

 

 平成16年4月22日被告作成準備書面にて被告が主張する事故原因に対する

原告の反論を述べる。

第1 安全確認と回避の義務は被告にあった

第2 被告が後方から衝突しても、原告は右足を負傷しうる

第3 被告の安全確認不足で原告の発見が遅れた

第4 被告は回避や停止ができないスピード超過の状態であった

第5 被告は事故発生直後、事故原因が被告自身にあることを認め謝罪していた

   が、その後、被告の主張は毎回変わっている

第6 事故原因に関する原告の主張

以上の順に述べる。

 

第1 安全確認と回避の義務は被告にあった

1 スキー場での注意義務の所在についての確認

 スキー場では、上方を滑降する者が下方を滑降している者に対し、衝突を回避

可能なよう速度および進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものである。(最

高裁平成6年(オ)第244号、平成7年3月10日最高裁第二小法廷判決、お

よび甲21号証)

 また、スノーボードでも同じ原則が適用される。(神戸地裁平成9年(ワ)18

45号、神戸地裁平成11年2月26日判決)

 

2 原告が下方滑走者、被告が上方滑走者である

 被告が事故発生斜面の開始位置を通過した時点では、原告は既に衝突地点まで

の直線距離で「約1/3以上」も斜面を下った地点を滑走しており(甲22号証)、

原告が下方滑走者、被告が上方滑走者である。

 

(1)両者のスピード差 

 被告が事故発生斜面に差し掛かった地点で、被告は一時停止をせずに事故発生

斜面に入り、かつ、直進しターンをしないことによりスピードを加速していた。

(乙1号証 5)これに対して、原告は斜面開始位置で一時停止をし、かつ、スピ

ードをコントロール(減速)するためにターンをして滑走した。このことから、

被告の滑走スピードが原告の滑走スピードを上回っていたことは明らかである。

この両者の間のスピード差と、同じ場所に同じ時刻に辿り着き衝突が発生した事

実から、原告が被告よりも下方を滑走していたことは明らかである。

 

(2)両者の滑走距離差

 ターンをせずに直進していた被告の滑走距離は、半円形を描くように大きくタ

ーンをした原告の滑走距離よりも短い(甲22号証)。従って、仮に両者の滑走ス

ピードが同程度であったと仮定しても、同じ場所に同じ時刻に辿り着き衝突が発

生した事実から、原告が被告よりも下方を滑走していたことは明らかである。

 

(3)事故報告書に原告が下方滑走者であることが記録済

 事故発生直後に双方合意の上作成された事故報告書(甲2号証)においても、

被告は衝突前に(被告の)左前方に、すなわち下方に原告がいたことを確認した

ことを認めている。

 

3 原告は一定のリズムで通常のターンをしており、原告に何ら過失はない

 被告は「原告が被告の前を横切る様に、突然、進路に進入した」と主張して

いるが、原告は、急激な進路変更は実施しておらず、通常のパラレルターン、す

なわち、一定のリズムで同じ大きさの円弧を描いてゆっくり下方に向かって滑走

していた。

被告は自身の安全確認不足による原告の発見の遅れを、原告の飛び出しである

かのごとく錯覚しているだけである。(甲25号証の2)

 

4 責任所在について

 以上のように、事故発生斜面における衝突前の被告と原告の上下の位置関係に

おいて、原告が下方、被告が上方を滑走しており、かつ視界もよかったことから、

本件事故における安全確認と回避の注意義務は被告にある。

 なお、原告が事故直後から一貫して示している「後ろから衝突された」という

表現は、原告の上体、特に、視線は斜面下方を向いており、上方から来た被告を

衝突前には確認しえなかったことを表現したことの他に、斜面上での位置の上下

関係につき、被告は原告の背後すなわち、上部から衝突してきたことを表現した

ものである。

 

第2 被告が後方から衝突しても、原告は右足を負傷しうる

1 下方に向かって滑走しても、スキー板やスキーブーツは横を向く

 

 スキーは滑走スピードをコントロール(減速)するためにターンをしながら斜

面を下る。甲23号証にスキーヤーがターンをする場合のスキー板およびスキー

ブーツの向きと体や視線の向きを示した。図で示されるように、スキーヤーがタ

ーンをして斜面の下方向に滑走する場合、スキー板とブーツは斜面下方向に対し

て横向きになったり下向きになったりする。

 

2 スキーヤーの視線は斜面の下方を向く

 ターンをする時、スキー板やブーツは斜面に対し横を向いたり下向きになった

りするが、スキーヤーの上体、特に視線は、スキー板やブーツと同じ方向ではな

く斜面下部を向いている。(これは、外向傾といいスキーヤーがターンをする場合

の基本姿勢である。)

 

3 背後から衝突されても、ブーツ側面に衝突傷が残ることは矛盾なく成立する

 甲23号証の点線で囲ったピンク色の部分では、スキー板やブーツが斜面に対

し横向きになっている状態であり、この時に斜面の上部から衝突された場合は、

右足ブーツの右側面に傷がつき、かつ斜面の下方に視線を向けている原告からは

後ろから衝突されたことになる。

 従って、斜面上部から滑走して来た被告に後方から衝突され、右足外側の側面

を負傷することに何ら矛盾はない。

 

第3 被告は安全確認不足で原告の発見が遅れた

1 斜面のどこを滑走していても下方に対する注意義務は発生する

 被告は斜面の右端を滑走していたことをあげ、あたかも下方滑走者に対する注

意義務がないかのごとくの記述をしているが、斜面のどこを滑走していても、上

方滑走者は下方滑走者に対する安全確認と回避の注意義務がある。(甲21号証 

規則3、甲19号証 4項)

 

2 斜面の端を滑走する時にはより一層の注意が必要である

 スキー場で休息する時は、斜面の端を利用するよう指導される。(甲21号証 規

則6)また、事故発生斜面は初級コースであり、スピード制御が出来なくなった

初心者や初級者が暴走して斜面の端まで滑り込んでしまうことも十分考えられる。

従って、被告が印象づけているような右端を滑走すれば下方に対する注意義務が

軽減されるようなことはなく、逆に、斜面の端を滑走する際は下方や斜面中央側

にもより注意し、何時でも停止可能な体勢、スピードで滑走する必要がある。(甲

19号証 4項、5項)

 

3 他の滑走者が確認しにくい斜面右側をいつもわざわざ選択している

 レギュラースタンスでスノーボードを装着している被告は、斜面の右側を滑走

する時は自分の体の左側、すなわち斜面中央側は確認しずらくなる。(甲28号証)

このことは「私は左足を前(レギュラー)なので左側が死角にあたる」と被告自

ら述べ認めている。(乙1号証 5)それにもかかわらず、「自分は他のスキーヤー

との接触などが嫌なのでいつもコース(斜面)の右寄りを滑走しています。」とも

述べている。(乙1号証 3)

斜面中央側の状況が確認しやすい斜面の左側であるならともかく、他の滑走者

が確認しづらくなる斜面右側を、「いつも」わざわざ選択して滑走すれば、他の滑

走者の存在を発見できず事故を起こす確率は高くなる。この被告の安全認識自体

が誤ったものである。

 

4 他の滑走者を確認しにくい姿勢を保持したまま滑走を継続していた

 さらに、他の滑走者が確認しずらい斜面右側を滑走しているにも関わらず、タ

ーンをせずに斜面中央側が死角となる直進姿勢を保ったままで原告との衝突地点

まで直線的に滑走している。(乙1号証 7)

 仮に衝突までに1度でもターンをしていたら、直進時に発生する斜面中央部に

対する死角を解消でき、被告と同じような滑走ルートの下方を滑走中の原告を早

期に確認できたはずである。(甲28号証)

 

5 斜面開始地点で安全確認のための一時停止をしていない

 被告は事故発生斜面に入る前に一時停止をしていない。(乙1号証 5)

仮にここで一時停止をし、斜面全体を死角の発生しない正面から確認後滑走を開

始していれば、この時点で滑走中の原告を発見でき、安全を確保して滑走できた

はずである。

 

 以上のように、@他の滑走者が確認しづらい斜面右側をスピードをあげ直進し

たAターンをせず斜面中央部が確認しづらい姿勢であることを承知の上でその姿

勢を継続したB斜面開始地点で一時停止での安全確認をしていない、など被告が

とった滑走方法は、下方滑走者である原告の発見が遅れる原因を生む方法であっ

たと言える。仮にこれらの行為がなされなかったら、被告は斜面上方から原告を

早期に発見し事故を回避し得たはずである。

 

第4 被告は回避や停止が出来ないスピード超過の状態であった

1 被告は一時停止もターンもせずに直進することで加速していた

 スキーやスノーボードではターンをすることでスピードを制御(減速)する。

被告は一時停止をしていなかったため初期スピードもあり、かつ、ターンをして

いないことでさらに加速している。この被告の滑走方法が「猛スピードで衝突さ

れた」と原告に感じさせた衝突時の衝撃の強さを発生させている。

 

2 スキーブーツの中を骨折させるほどの衝撃を生じさせるスピードであった

 原告の足首部の骨折は、被告が衝突した際に原告のブーツの上から被告がスノ

ーボードでブレーキをかけた姿勢をとった際のスノーボードのエッジ(金属の部

分)を押し付けた部位に発生している。スキーブーツのエッジ跡もそれを裏付け

ている。

 スキーのブーツは固いプラスチックでできており、いわばプロテクタのような

役割を果たす。そのため、今回原告が骨折したようなブーツに守られた足首部分

の骨折は最近珍しい。このことは、原告が事故現場近くの新潟県湯沢町で診察を

受け、スキー場での怪我を多く診察しているK整形外科のK医師より聞いた。

 固いスキーブーツに被告のスノーボードの大きな衝突傷を残し、かつ、最近の

通常の衝突では発生しないスキーブーツの中の骨部位が折れるほどの衝突衝撃を

発生させるほど、被告はスピードを出していた。

 

3 衝突を回避する行動ができないのであれば制御不能な速度である

 被告は、或る程度の速度が出ていたことを認めている。原告は衝突時の衝撃の

強さと、衝突場所から斜面下方に大きく突き飛ばされたこととから被告が猛スピ

ードだったと推定している。

 被告は制御不能な速度ではなかったと述べてはいるが、現実に原告を発見して

から、進路を変更する、停止するなどの衝突を回避する(制御する)ことができ

ず衝突を発生させたのであるから、制御不能な速度、すなわち、スピード超過で

あったと言える。(甲21号証 規則2)多くのスキー事故を扱ってきたスキーパ

トロールのF氏も同じ意見を述べている。(甲19号証 4項)

 

第5 被告は事故発生直後、事故原因が被告自身にあることを認め謝罪していた

   が、その後、被告の主張は毎回変わっている

1 被告は事故発生直後、事故原因が被告自身にあることを認め謝罪している

 事故直後の事故調査において被告は事故原因が被告自身にあることを認めて
謝罪している(甲24号証 1項)。このことは事故調査担当のパトロール隊の
F氏も記憶している(甲19号証 1項)。

 

2 被告は事故調査時、背後から衝突したことを認めていた

 事故直後に行われた事故調査においては、原告が「後ろから衝突されて(衝突

前の相手の)状況はわからない」また、被告が「衝突前に原告を確認した」こと

が双方から証言されたため、原告、原告の夫、被告、パトロール隊ともに原告の

背後から被告が衝突したということについては特に異論の発生はなかった。

 このことは、事故調査担当のF氏も記憶している。(甲19号証 1項)

 

3 スキーパトロールへの事故状況の修正申し出はなかった

 甲19号証 1項にて、事故調査担当のF氏より、被告が主張している事故調

査書への修正依頼はなかったことが確認されている。原告や原告の夫も当該やり

とりはなかったと記憶している(甲24号証 1項)。

 

4 電話で被告が主張した「賠償責任なし」の根拠は「スキー場という遊びの場

  での事故には賠償責任がない」であった

平成15年1月24日の被告から原告への電話において、被告は賠償に応じず、

今後連絡をしない理由として「スキー場という遊びの場での事故には賠償責任が

ない」ことを主張していた。このことは被告からの電話があった次の日に原告が

作成した神立スキー場への依頼ファクシミリに明記され(甲8号証の3 お願い

2)、また、2月25日の被告への書簡にも記載されている。(甲27号の4)

 

5 障害が重篤であったことを知った後も事故原因の修正申告がなかった

 仮に被告が主張しているように、事故報告書の事故状況記載につき不服があっ

たが怪我が重篤でないため否定や修正しなかったとの被告主張が事実であれば、

原告が負った怪我が重篤であると被告が知った後である平成15年1月24日の

電話の際に「スキー場での事故には賠償責任がないので今後連絡もしないと」主

張するのはおかしい。

 また、事故報告書の記載に対する不服は、平成16年4月1日付被告陳述書に

より原告は初めて知ったことであり、平成15年1月24日の電話でもそのよう

な主張は全くなかった。

 さらに、平成15年1月24日の電話の際に原告が依頼し、電話の最後には被

告も後日の送付を約束した書面での被告の主張説明につき、きちんと作成しその

中で事故状況についての認識が違うということを記載し、原告に自身の考えを説

明すべきであったはずである。(原告は被告から書面が送付されてこなかったため、

平成15年2月25日に再度催促している。)(甲27号証の4)

 

 以上のように、被告の事故状況や賠償に応じる必要がないという根拠に関する

主張は、事故発生当日以降毎回変わっている。また、怪我が重篤であったと被告

が知った時点や、原告が被告の考えの提示を求めた時点においても、事故報告書

の事故状況記載に対して不服を伝えることもなく、裁判となってはじめて異なる

主張を述べている。以上の経緯から、事故状況についての現時点での被告の主張

は事実と異なると原告は考える。

 

第6 事故原因に関する原告の主張

 被告は裁判になってはじめて事故原因は「原告の飛び出し」によるものである

かのごとく印象づけようとしているが、そのような事実はない。

事故は、被告の安全確認不足を誘発する行動により、被告が原告の発見が遅れ、

かつ進路の変更や停止で衝突を回避できないほどスピードを出していたことが原

因で、注意義務のあった被告が下方滑走者である原告に後方から衝突し、原告が

骨折という大怪我を負ったものである。

甲2号証、甲3号証、甲8号証5、甲19号証の事故発生状況に関する書証は

すべて原告の主張を裏付けている。一方被告の主張を裏付ける客観的証拠は全く

存在していない。