平成16年(ワ)第387号損害賠償請求事件

原  告  ちゃありぃ

被  告  無責任なスノーボーダ君

 

準 備 書 面 –8- (原告最終準備書面)

                         平成16年11月28日

横浜地方裁判所 第6民事部 はB係 御中

                        原 告  ちゃありぃ 印

 

第1 本件事故の概要

 原告は、神立高原スキー場の旧プロキオンコースを通常スキーヤーが滑るよう

S字形のパラレルターンでゆっくり下方に向かって滑走していた。数ターン、

斜面開始地点から約100メートル程度下方にさしかかったところ、被告がゲレ

ンデ上方よりスノーボードで直進し、原告の足首に被告のスノーボードを直接衝

突させた。その際原告が受けた衝撃はあたかも全くブレーキもかけていないかの

ような猛スピードを思わせる衝撃であり、原告は下方に約10メートル以上も突

き飛ばされた。この衝突事故により原告は足首に骨折を負い、2度の手術と6カ

月以上の治療を必要としたものである。

 

第2 事故発生場所はプロキオンコースである

事故発生場所は、プロキオンコースからポルックスコースへ繋がる連絡コース、

通称「旧プロキオンコース」と呼ばれている斜面であり、「プロキオンコース」が

正式名称である。

1 甲2号証に事故現場がプロキオンコースであることが記録済

 事故報告書(甲2号証)に、事故現場がプロキオンコースであることが明記さ

れている。また、甲2号証の図に書かれた被告Aさん、原告Bさんの滑走軌跡が

記載された位置はカレーハウスの左側であり、プロキオンコースを示すものであ

る。

2 F証人がプロキオンコースに救援に行ったと証言

 神立高原スキー場パトロール隊のF証人は、事故の救援と事故調査を担当し、

現場に救援に行っている。証人尋問の際にF証人がゲレンデマップ(甲5号の1

のコピー)上に示した救援場所は原告主張の事故現場と合致している。

なお、救援場所は甲25号の2で示した「原告が倒れていた場所」からほぼ真

横の林付近であり、原告は「倒れていた地点」からゲレンデ端に移動し、パトロ

ール隊の到着を待っていた。

 

3 仮に被告主張の事故現場とすれば他の被告主張と矛盾が生じる

 仮に事故現場が被告主張のポルックスコースとプロキオンコースの合流地点だ

と仮定すると、事故当日のポルックスコースは混雑していたことを原告夫が記憶

しており(甲24号証 1項 9頁)、人が居なかったという被告の証言と矛盾する。 

 また、仮に被告主張の事故現場であるとするなら、プロキオンコースから滑走

してきた被告は神立高原スキー場のメインコースであるポルックスコースとの合

流地点の手前では、直滑降をやめスピードを落とすなど、メインコースの滑走者

に対する安全上の配慮を行う必要が生じる。しかし、被告はそのような安全確認

行為を行っていない。

 

第3 被告が上方滑走者、原告が下方滑走者であり、注意義務は被告にある

1 上方滑走者に衝突を回避する注意義務がある

 スキー場では、上方を滑降する者が下方を滑降している者に対し、衝突を回避

可能なよう速度および進路を選択して滑走すべき注意義務を負うものである。

(最高裁平成6年(オ)第244号、平成7年3月10日最高裁第二小法廷判決、

神戸地裁平成9年(ワ)1845号、神戸地裁平成11年2月26日判決、およ

び、甲21号証)

 

2 滑走方法の違いから被告が上方滑走者、原告が下方滑走者であることは明らかである

 被告は一時停止をせずに事故発生斜面に入り、かつ、直進しターンをしないこ

とによりスピードを加速していた(乙1号証 5項 2頁)。原告は、一時停止をし

たため初速スピードがなく、かつターンをして制動して滑走していた。この両者

の滑走方法の違いから、被告の滑走スピードが原告のそれを上回っていたことは

明らかである。このスピード差と、同じ時刻に同じ場所にたどり着き衝突が起き

ていることとから、事故発生斜面での鳥瞰的位置関係において、原告が下方滑走

者、被告が上方滑走者であることは明らかである。

 

3 被告は原告の後方から衝突したことを事故当日認めていた 

 事故報告書(甲2号証)に被告は衝突前に(被告の)左前方に、すなわち下方

に原告がいたことを確認したことが記録済である。また、事故調査の場で被告が

原告の後方から衝突したことを認めていたことにつきF証人の証言が得られてい

る。さらに、被告準備書面(3)第1二において被告は自身を交通事故の際の後

続直進車にたとえ、後方滑走者であることを認めている。

 

 従って、本件事故における安全確認と回避の義務は上方滑走者である被告にあ

る。

 

第4 本件事故の原因

1 本件事故原因は被告の前方不注意とスピード超過

 本件事故の原因は、上方滑走者である被告の前方不注意により原告の発見が遅
れ、かつ被告が原告の存在に気づいた時点ではスピード超過で衝突が避けられな
かったことが原因である。
 F証人からも以下2点の証言が得られている
(1) 被告の前方不注意が事故原因であると事故当日に判断した。
(2)上方滑走者である被告が衝突を回避できなかったことは個人の能力以上の
スピードを出していた、つまり、暴走行為であったと判断した。
 
2 被告は安全確認不足で原告の発見が遅れた
 衝突前に被告がとった以下3点の滑走方法は、下方滑走者である原告の発見を
遅らせた滑走方法であったことは明らかである。
(1)被告は事故発生斜面に入る前に一時停止をしていない(乙1号証 5項 
2頁)。被告はこの地点の通過時にコース全体が見え、誰もいなかったと本人尋
問で証言しているが、甲6号の1の写真@からわかるように、斜面右端からはプ
ロキオンコース全体を見渡すことは出来ない。コースは大きく右に曲がり、ジャ
ンプが出来るほどすべり始めは斜度がある。また、大中平リフト降り場やカレー
ハウス付近までしかゲレンデが見えない。つまり、斜面開始位置の右端からは、
斜面上部30メートル程度しか見えない状況である。
仮に被告が斜面開始位置で一時停止をし、斜面右端ではなく斜面全体が見渡せ
る中央寄りの正面から安全確認をしていれば、この時点で既に下方を滑走中の原
告を発見できたはずである。
(2)「私は左足を前(レギュラー)なので左側が死角にあたる」と被告自身が
認めている(乙1号証 5項 4頁)。にもかかわらず、斜面中央側が確認しづら
い斜面右端を意識的に選択して滑走していた(乙1号証 3項 2頁に「スキーヤ
ーとの接触がいやなのでいつもコースの右側を滑走しています」と述べている)。
(3)斜面中央側が確認しづらい斜面右端を滑走しているにも関わらず、ターン
をせずに(乙1号証 7項 7頁)100メートル近くも斜面中央側が死角となる
姿勢を保持したまま滑走を継続していた。
 
 仮にこのような特殊な滑走行為がなされなかったら、被告は斜面上方から下方
滑走者の原告を見落とすことなく早期に発見し、事故を回避し得たはずである。
 
3 被告はターンをせずに滑走することにより加速し、スピード超過であった
被告は直滑降しており、或る程度スピードが出ていたことを認めている(被告準
備書面 第1 2項 1頁)。
さらに本人尋問において、裁判所からのターンしなかったのかとの問いに対し、
被告は斜度がきつい場合であってもターンはしないで滑走することもあると証言
している。スキーやスノーボードでは、ターンをしなければスピードは加速する。
被告は普段から、一般のスキーヤーやスノーボーダーよりもスピードを出して滑
走していたことが、この被告の証言からも明らかである。
 

4 被告はほとんどブレーキをかけずに原告にそのままつっこんだ

 衝突前3メートルの位置で原告をはじめて確認したことを被告自身が本人尋問

で認めている。原告を見つけたのが、衝突直前たった3メートルの位置で、かつ、

被告はターンをせず直滑降していたのであれば、ブレーキをかける余裕もなく原

告に突っ込んだ事故状況だったと判断するのが妥当といわざるを得ない。このこ

とは、衝突前にブレーキをかける際に発生するエッジ音を原告が聞いていないこ

とや、原告の受けた衝突衝撃が非常に強かったこととも合致する。

 

第5 原告の飛び出しの事実はない
1 原告は進路変更や方向転換をしていない
 原告は通常のパラレルターンで下方に滑走していただけであり、進路変更や方
向転換はしていない。このことは、事故後まもなくの平成15年1月25日に作
成した事故当日の記録(甲8号の2 4項)で「すべりはじめてコース右側をゆっ
くり数ターンした」ところで事故が発生したことが記録されており、事故直後に
倒れていた場所がコース右端から10メートル程度の場所であったことからも言
える。
 なお、原告本人尋問において、裁判所からの「斜面を下から見て右か?」との
質問に対して、最初に「右です」と答えたが、後に訂正した通り、「斜面を上か
ら見て右」のことである。これは、斜面を滑走した事故当日の記憶、つまり斜面
を上から見ての記憶により回答したものである。ゲレンデマップなどの図面では
斜面を下から見て左側になるが、地図を進行方向に回転させて読む女性特有の問
題により誤って回答したものである。
 
2 被告は斜面を斜めに滑っていた
事故発生場所は、斜面右端から10メートル程度はある位置である(準備書面
-3- 第3 3項 4頁)。
 被告は、斜面右端1〜2メートルの地点を直進滑走し(被告準備書面 第2 4
頁)、自分の進路に原告が侵入してきた(被告準備書面(3)第1二 1頁)と
主張しているが、実際は被告自身が進路を変えて、斜面開始位置「右端1〜2メ
ートルの地点」から、事故発生場所の「右端から10メートル程度の地点」まで、
ゲレンデを斜めに滑ることにより、原告に追突したことになる(甲25号の2)。
 
3 原告の飛び出しを被告が主張する根拠は誤った認識である
 被告は、原告が右足側面を負傷したことを原告が飛び出したとの主張の根拠と
している(被告準備書面(3)第1二「原告の怪我の状況から被告の進路を横切
る様に侵入しており」)。
しかしこの理由づけは誤っており、被告が原告の後方(上方)から衝突しても
原告が右足側面を負傷することに何ら矛盾はない。このことは、すでに準備書面
-2- 第2(3頁〜4頁)および甲23号証でその根拠を示している。パラレルタ
ーン中に斜面上方から衝突されて右足側面を負傷することに矛盾がないことはス
キーヤーであれば誰でも理解できることである。
 
4 被告は前方不注意だったため、原告の飛び出しを主張できない
  被告は「原告が突然進路上に現れたことから、不可抗力により本件事故が発生
したものである」と主張しているが、被告の前方不注意により衝突の寸前まで下
方滑走者である原告の存在を確認できていない。このことは、以下の被告証言から明らかである。
(1)衝突地点手前3メートルの位置で原告を見つけたと証言
 どの位置で原告をみつけたのかという本人尋問での被告代理人の質問に対し、
被告は3メートル手前と回答している。
(2)原告の滑走方法は死角だったので見えなかったと証言
 衝突前の原告の様子を問う被告代理人の質問に対し、死角に入っていたので見
えなかったと回答している。つまり、死角に入って見えていなかった衝突相手が
急な飛び出しをしたかどうかを被告が確認できていないことは明らかである。
(3)「原告はポルックスコースを滑走して来た」とあり得ないことを証言
 原告はどこから滑走してきたのかとの裁判所の質問に対し、被告は甲5号証の
1の事故現場を示すオレンジ色の矢印の右側の林よりもさらに右、つまりポルッ
クスコースを原告は滑って来たと証言している。
 しかし、F証人は救援時にポルックスコースからスケーティングで登って事故現
場である旧プロキオンコースに到着したと証言している。登らねば到達しない場
所へ通常のパラレルターンをしていた原告がポルックスコースを経由して事故現
場に到達することは不可能である。従って被告主張の「原告がポルックスコース
を滑走して事故現場に到着した」可能性は全くない。衝突前の原告の滑走コース
すらも被告が確認出来ていない前方不注意状態であったことを裏付けるものであ
る。
 
 以上のように、被告は前方不注意により衝突前に原告がどのように滑走してい
たかを全く見ておらず、原告がどのコースを滑走してきたかすらも正しく確認で
きていないのであるから、被告は原告の飛び出しを主張できる理由がないのであ
る。
 
被告の主張する「原告が突然進路上に現れた」という表現は、原告が急な進路
変更をしたことを示しているのではなく、「被告が前方不注意だったため、原
告の発見が遅れた」ことを表現したに過ぎない。

 

第6 被告主張や証言の信用性欠如

1 賠償責任がないことについての被告主張の変遷

 準備書面-2- 第5(7頁〜9頁)に示したように、本件事故の賠償責任の所在

についての被告主張は下記のように一貫していない。

(1)被告は事故調査の場では事故の責任を認め謝罪した(F証言)

(2)平成15年1月24日の電話では、事故原因については何も触れずに、「ス

キー場という遊びの場での事故には賠償責任がない」と主張していた(甲27号

の4、甲8号の3 お願い2)

(3)裁判になってはじめて原告の飛び出しによる不可抗力であるので賠償責任

がないと主張している

 

2 原告がどのコースを滑走してきたかについての被告証言の矛盾

 衝突前に原告がどのコースを滑ってきたかについての被告主張、証言は下記の

ように明らかに矛盾している。

(1)甲2号証の図では、Aさん、Bさんの滑走軌跡は被告、原告ともに同じコ

ース(カレーハウス左側の旧プロキオンコース)を滑走して来て衝突がおきてい

ることを示している。この書証は被告も同意し、署名している。

(2)被告陳述書(乙1号証7項6頁)に「相手の陳述書を読んで、相手が自分

と同じ様なコースで滑走していたことがわかりました」と記載し、被告は本裁判

が開始されるまで原告の事故前の滑走コースを知らなかったと述べている。

(3)裁判所から被告への質問に対し、「原告は(旧プロキオンコースを滑走して

来たのではなく)ポルックスコースを滑走して来て旧プロキオンコースから滑走

して来た被告と衝突した」と被告は証言した(甲5号の1のコピーに原告のコー

スを黒で記載)。であれば、上記(1)(2)とどのように主張の整合をとるのか。

矛盾に満ちた証言である。

 

 上記のような被告の変遷し矛盾する言動や証言は、いかに信用性の認められな

いものであるかは明らかである。

 

第7 損害

 本件事故により原告が被った損害は、甲36号証に内訳を示したように

407万6701円である。

項目

金額

書証

医療費(自己負担分のみ)

190,670

甲11の1@,甲31

通院費

169,026

甲11の1A,甲31

治療雑費

26,986

甲11の1B

慰謝料 (入院1カ月,通院6カ月,)

1,700,000

甲12の1,甲1の2

休業補償(57.5日分)

969,853

甲35,甲17

車の送迎等による通勤交通費

65,830

甲11の4,甲33

年俸減額

954,336

甲29,甲30

合計

4,076,701

甲36甲34

特に、骨折による長期休暇および出張命令へ対応できなかったことによる、チ

ームリーダから一担当者への職場のポジションが変更になったことと、平成15

年度の毎週金曜日にこれを理由としたリストラ面談を受けなければならなかった

ことは原告にとって大きな精神的苦痛であったことを付け加える。

 

第8 現在の受傷箇所の状況

 事故後すでに約2年の月日が経過しようとしているが、天候によってはいまだ

に患部に痛みを感じる。また朝方や、週2回の航空機搭乗後数時間は歩行困難と

なり足をひきずっており、現在も原告の抜釘手術を担当した吉野整形外科の吉野

医師による経過観察中である。

 

第9 最後に

 被告は

(1)斜面のほとんどを死角とする右端をいつも滑走する(乙1号証3項2頁)

(2)自身は死角の姿勢であるので他の人が衝突を避けるべきだと主張し(1

証5項4頁)、安全確保のため、自身で死角を解消しようとしない

(3)斜度があってもスピードをコントロールするためのターンをしない(被告

本人尋問)

など誤った安全認識の持ち主である。

 現実に事故を起こし、裁判の判決が近づいた現在もなお、この誤った考えを主

張し、反省すらしていない。この被告の誤った安全認識が今回の事故を誘発した

ことは間違いない。このような誤った安全認識の持ち主が考えを改めることもな

く、スキー場に復帰すれば、再び同様の事故を起こす確率は高いと言わざるを得

ない。被告に状況を正しく認識いただき反省いただくためにも、根拠のない「不

可抗力である」という被告主張だけで被告に大きな過失相殺を認められることの

ないよう原告はお願いする次第である。