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越後百山 万太郎山=まんたろうやま(1954m)
平標山(1984m)仙ノ倉山(2026m)大源太山=河内沢の頭(1764m)
登頂年月日 2003/06/22 天候 晴 同行者 単独行 マイカー
岩魚沢林道ゲート(3.50)−−−登山口(4.25)−−−平標小屋(5.15)−−−平標山(5.50)−−−仙ノ倉山(6.20)−−−エビス大黒の頭(7.00)−−−毛渡乗越(7.40)−−−避難小屋(7.55)−−−万太郎j山(8.25-45)−−−毛渡乗越(9.20)−−−エビス大黒の頭(10.15-30)−−−仙ノ倉山(11.15-30)−−−平標山(12.05)−−−平標小屋(12.30-35)−−−三国峠分岐(13.05)−−−大源太山(13.20-30)−−−平標小屋(14.05-20)−−−登山口(14.55)−−−林道ゲート(15.25)

奥が万太郎山、手前がエビス大黒
この山行目的は越後百山の万太郎山。
谷川岳肩の小屋から平標山へと、起伏激しく連なる山稜の中間にある頂で、谷川連峰の最高峰、盟主と呼ばれる仙ノ倉山以上に存在感は大きい。  日帰りの場合、吾策新道からのピストン、あるいは平標山〜万太郎山と歩いて吾策新道を下山という二つのコースが考えられるが、今回のプランは平標山経由で万太郎山へ登り、同じコースを帰ってくるというもの。
昭文社のガイドマップでは、国道17号線の平標から万太郎山まで6時間20分、その間平標山、仙ノ倉山、エビス大黒という大きなピークを三つも越えるために、万太郎山までの累計獲得標高差は1600メートル以上になる。上高地から穂高岳の頂上へ登るのにほぼ等しい。
復路もまた平標山まで帰るのに大黒、仙ノ倉と越えて約700メートルの高度差を稼がなくてはならない。この大きなピークの他にも隠れた突起を計算に入れれば、往復高低差の総計は2300メートルを優に超える厳しいものである。ガイドマップの所要時間も合計12時間10分となる。これを日帰りする人はざらにはいないだろう。
さらに時間によっては大源太山(=河内沢の頭)も踏んで来ようという意気込みで出かけた。
66歳の今、どの程度の脚力が残されているのか、久しぶりにその力だめしもしてみたかった。

深夜11時30分自宅を出る。国道117号線から飯山市を抜け、津南町から353号線へ。塩沢町で17号線を南下して平標着は1時半。以前は自由に入ることができた河内沢林道も、今は一般車通行不可、施錠されたゲート手前でしばらくまどろむと夜が明け始めた。

3時50分出発。最近になく脚が非常に軽く感じる。
湧き水の登山口から登山道へ入ると、すぐに丸太で階段状に整備された道となる。このコースは3回目だがいつ整備されたのか。ずいぶん費用もかかったことだろう。遊園地ではあるまいし、そこまでやる必要があるのか。途中途切れたりもするが、階段は平標小屋の近くまでつづいていた。ガイドマップ1時間の登りを所要50分、脚の軽さからすると稼ぎは少ない。
休まずに平標山へ。ここからは森林限界を超えて、もう高木は1本も見あたらない。笹原にときどき低潅木が混じるだけの展望コースが万太郎山までつづく。天気も上々、稜線漫歩が楽しみになる。
小屋からもほとんど土を踏むことなく木道や階段を行く。仙ノ倉山への巻き道は、高山植物保護で通行止め。やむなく平標山の山頂を経由する。平標山は9年ぶり、三等三角点からの山々の展望は、まだ青いシルエットにしか映らない。

平標山からコルまではなおも木道。木道を少し下って目に飛び込んできたのは一面のお花畑、ロープを張られた両側にハクサンイチゲ、ハクサンコザクラ、ミヤマキンバイの白、赤紫、黄色が混じりあい、さらにチングルマも少し黄色がかった白い花、まさに花の競演、一面絨毯のように覆い尽くしていた。このような花を予想もしなかっただけに大いに感激を味わった。
木道は仙ノ倉山までつながっていた。コルからの登り返しは脚も軽くほとんど苦にならない。平標小屋泊まりの早発ちグループ3つほどをあっという間に追い越して二等三角点仙ノ倉山山頂へ到着。この間は時間稼ぎを意識してがんばった結果、ガイドブック1時間を、30分で歩いてしまった。
朝もやの中に藍色のシルエットで万太郎山がとらえられる。遥か彼方だ。ほんとうにあそこまで歩けるのだろうか。ふと弱気が頭をよぎる。
ここも休まずに通過。大きな下りに入る。帰りの登り返しがつい頭に浮かんでしまうような急な下りだ。カマボコ型の避難小屋を通り、さらに下ったコルからはエビス大黒への登りに入る。一部険しい岩場などもある急登を標高差で150メートルほどだろうか、狭いピークのエビス大黒の頭に立つ。ここまで来ても万太郎山はなお遠い。

この先毛渡(けど)乗越のコルへ向けて、転がり落ちるような急な下降となる。コルまでは一つピークを挟んでいる。南側は鋭く切り落とされた岩壁で、見ているだけでも迫力満点だ。反対側からの登山者にときどき出合うようになる。露払いが済んでいて助かる。
ここも帰りの登り返しを考えると気が重くなるが、万太郎山へ行きつくめには仕方のない下りだ。40分の長い下りでようやくコル。南側の深い谷に刻まれた襞には、まだ雪がかなり見える。轟く水音は雪解けの滝であろうか、谷にこだましている。

毛渡乗越からは標高差400メートル、最後の大きな登りに取りつく。
すぐにカマボコ型の避難小屋の前を通過。脚はまだ健在で疲れは感じない。ペースもいい感じだ。これまで何十種類もの花を目にしてきたが、観賞したり写真に収めるのは帰りの仕事、今は万太郎のピークに立つことに専心。
長い登りだが勾配は比較的なだらかだ。東俣の頭は肩を巻いて、緩やかになった花々の道をたどると万太郎山の山頂だった。時刻は8時25分。ここまで休憩はゼロ、所要時間は4時間45分でガイドマップより1時間35分早かった。誰もいない。私だけの山頂。
万太郎山頂上 、中央仙ノ倉山と左にエビス大黒
三角点は三等、谷川連峰のヘソのような位置にあるこのピークは、その展望も素晴らしい。生憎もやがかかって遠望が判然としないのが惜しまれるが、平標山から歩いて来た稜線を眺めると、2時間半ほどでよくここまで来たものと思う。
大障子からオキ・トマの耳へとつづく山稜、一の倉岳、茂倉岳、遠く朝日岳、巻機山、越後三山方面、武尊山、赤城、榛名、苗場山など360度の展望をしばし楽しんだ。
 この山を目指したわけは二つ、一つは越後百山として、もう一つは谷川連峰の主だったピークで未踏として残っているのは、この万太郎山と七ツ小屋山であった。
帰りは脚の疲れも出て時間がかかるだろう。それに高山植物を観賞したりしながら歩くと時間もかかる。20分の滞頂で万太郎山をあとにした。
ヒメイワカガミ、コケモモ、ミツバオーレン、ヨツバシオガマ、モミジカラマツ、オオバミズホウズキなど、今日の山行で目に出来た花は30種類になった。花が気を紛らしてくれるとはいうものの、エビス大黒への登り返しは考えていた以上に厳しい。幾段にもなった登りは、今度はピークかと思えばまたさらに次と騙されながら、脚はさすがに重く、往路のようには動かない。

エビス大黒のピークで小休止、万太郎山がもう遠い。そしてこれから越えなくてはならない仙ノ倉山が高々と待ち構える。
コルまで下り、脚の重さを意識しながら、仙ノ倉山へ向かって一歩一歩脚を運んだ。仙ノ倉山の山頂は登山者でごったがえしていた。こんな喧騒の中で休みたくなかったが、疲れを癒すために腰を下ろした。平標山への木道を見ると、来る人行く人の列が続いていた。

お花畑を眺めながら、ますます重くなった脚をだましだまし平標山まで戻った。時刻はまだ12時5分。ここも座る場所もないほどの混雑、それに声高のお喋りの喧騒がやりきれない。ここまでくればこの登山も終ったようなもの、ゆっくりと休憩してもよかったが、この騒々しさの中で休憩という気分になれず、そのまま平標小屋まで一気に下ってしまった。

時刻は12時半、平標小屋の前で休憩かたがた考えた。朝から9時間近く歩きづめで、脚は確かに疲れている。しかし時間はまだ早い。大源太山をどうしようか。小屋からの往復時間は1時間30分、考えると言いながら気持ちはもう行くことに決めていた。
たった5分の休憩で大源太山へ向かう。ほとんど平坦に近い道が30分余つづき、三国峠への分岐から勾配のある登りとなる。気持ちとはうらはらにペースは鈍い。ひとしきり登るとまた平坦な道となり、分岐から12、3分で三等三角点の大源太山へ到着した。
平標山〜仙ノ倉山〜エビス大黒〜万太郎山とつづく起伏の激しい山稜が手に取るように眺められる。良く歩いて来たものだ。しばらくその眺めに見入ってから平標小屋まで引き返した。
持参した1、5リットルの水も底をついたが、幸い平標小屋で補給することが出来てほっとする。あとは登山口へ向けて、階段道を下って行くのみ。

駐車場所へ帰り着いたのは3時半、休憩込みで行動時間は11時間40分の長丁場だった。そして登りの累計標高差は約2500メートル。かつての脚力には及ばないが、それでもまだまだ健脚健在を確認できた満足感に包まれて、長野への帰路についた。


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