echig017    「山岳巡礼」のトップへ戻る  越後百山一覧表へ戻る

天狗原山原(2197m) 金山(2245m)
登頂日1994.10.01 妻同行
東京(2.50)===豊科IC===小谷村===金山登山口(7.30-40)−−−水場(8.30-35)−−−天狗原山(10.45)−−−金山(11.05-10)−−−神の田圃(11.20-50)−−−迷いのロス30分−−−天狗原山(12.30)−−−1949m(13.00)−−−水場(14.00)−−−金山登山口(14.30)===小谷温泉露天風呂===東京帰宅(20.50)
頚城山塊の信州百名山、ブナ林の道も魅力=57才
金山山頂


紅葉のきれいな山へ行ってみたいという妻の希望もあったが、果たしてどうだろうか。紅葉は青空の下で見てこそ映えるもの、何とか雨が降らないでくれればいいという空模様では、紅葉狩り日和とはいきそうもない。

豊科ICから千国街道、別名塩の道を大町市、白馬町と北上。 鉛色の空が重くのしかかって、障壁のように聳え立つ北アルプス連峰はのぞめない。千国街道、そして小谷温泉へと車を進める。小谷温泉には登山者数人が出発して行く姿があった。行く先は雨飾山だろうか。自動車はさらに進み、露天風呂の先で雨飾山、湯峠方面への林道と別れて進路を妙高笹ケ峰へ向ける。未舗装の林道は工事中で泥道と化し、車体の腹を擦るほどの悪路。しかしその先は砂利道ながら心配するほどのこともなく、S状の大きなカーブにさしかかり、二つ目のカーブを曲がったところに天狗原山登山口の標識が立っていた。数台の駐車スペースもある。  
豪雪地帯にあるこの笹ケ峰林道は、除雪による開通が7月ころ、10月も半ばを過ぎて積雪があれば道路は閉鎖される。その間自動車を乗り入れられるのは、わずか4カ月前後しかない。登山口まで自動車が入れないと、1時間30分以上の林道歩きとなる。

信州百名山も96座まで進んで、残るは天狗原山、鬼面山、茶臼山、 経ケ岳になっていた。来春故郷の経ケ岳を百座目にしようと考えているので、天狗原山以外の3座を年内に登っておきたいと思っていた。雪の来る前に天狗原山さえ登っておけば、鬼面山、茶臼山は南部に位置する こともあり、11月まで登頂のチャンスはある。そんな思惑で紅葉には少し早いと思いながら出かけてきた。
周囲の山肌は黄色模様が浮き出している。何とかもみじ狩りの気分は味わえるかもしれない。  
7時40分指導標から登山道へ入った。早々からじぐざぐの登りである。1週間前の中央アルプス山行での膝痛が残っているため、かばいながら歩くように心掛ける。ブナ林の中をいく曲がりもじぐざぐを繰り返し、40分ほど登ると尾根に達したようだ。樹間から大渚山のピークが意外な近さに向き合っていた。

第一ポイントは小広いスペースの水場。時刻は8時20分、所要50分だった。ここで小休止にする。か細い水流にミカンが2個浸かっていた。キノコ狩りか登山者のものか。昨日の台風で落とされた樹木の小枝が、登山道に散乱しているものの、道の状態は良好である(案内書には踏み跡程度と記されていた)色づきはじめたブナの黄葉が美しい。この尾根には“ブナ立て尾根” という名前がつけられている。ブナの黄葉、ツタウルシ・ヤマウルシ・ オオカメノキ等の赤が点々と彩りを添える。
小沢を二つ三つ渡ってからは、沢の中を歩くようになった。雨でも降ったら大変だろう。小さな湿地を通過。ミズバショウの葉がまだ緑を残していた。
9時25分、1949メートル峰手前の小ピークで休憩、ダケカンバ、 シラシビソ、ブナの混成林は、ようやく高山の雰囲気を感させるようになって来た。休憩後しばらく行くと薮の中をごそごそする物音、登山途中でキノコを採っている人たちだった。山頂でキノコ汁を作るのだという。見本にキノコを1本分けてもらって探すと、私もすぐにひと掴みほど採ることができた。
キノコ採りの3人と後になり前になりして、急になった道を天狗原山へ登って行った。

ざれた急斜面や、急登を撃じったりして1949メートル峰を越える。晴れていれば頚城山塊の眺めが良いのだろうが、山はすっかり雲海の中に身を潜めていた。高度が上がると紅葉はさらに見栄えがしてきた。急になった樹林をひと頑張りすれば、森林限界を超えてなだらかな笹 と草原の広がりに変わった。キツネ色の草もみじが風になびき、笹の葉上を霧が流れて行く。石の地蔵さんがぼつんと鎮座していた。

ほぼ平坦な笹の中をしばらく進むと、もう一つゆったりとしたピーク が見える。あれが目的の天狗原山らしい。(いや、実はお地蔵さんのあっ たところがその天狗原山だった)そのゆったりとしたピークへは、一度下ってから登り返さなければならない。妻は、もうここまででいいから、私だけそのピークまで行って来いという。目の前のピークは赤や黄色を散りばめた色模様が今盛りであった。沢状の岩轢を登って行くと、窪地の広い湿原に出た。ここがピークという雰囲気ではない。霧で周囲の状況がわからないが、本当のピークはまだ先にあるのかもしれないと、一筋延びている細い踏み跡をもう少し追った。
紅色に紅葉したチングルマの群落を目にしたりして、急ピッチで先へ進む。霧の登山道に雷鳥が3羽、白毛に変わりはじめていた。
“天狗原山はこんなに遠かったのか”と訝りながら足を運ぶと、突然山頂らしいピークに達した。3人の登山者が食事の最中だった。ここが天狗原山と思って3人に尋ねると、何と金山であった。いつ天狗原山を通過したのだろうか。信じられなかったが、間違いなく 金山の標柱が立っていた。

3人にワインを御馳走になって、待っている妻が気になりすぐに引き返した。
窪地の湿原まで戻ると、キノコを採っていた3人と一緒に妻も登って来ていた。キノコ汁の準備中で私たち二人の分も作っているからぜひ食べて行けと勧められ、ありがたくおすそ分けにあずかることにした。だべりながら煮えるのを待った。この湿原は神の田園で、天狗原山はお地蔵さんのあった所だと教えられた。3人は糸魚川市の電気化学会社の人たちだった。8月末に電気化学の持ち山“青海黒姫山”へ登ったとき、会社の人に自動車で送ってもらった話をすると『ああ、それは××さんだ』とすぐにわかった。奇遇とは言え、まだ1カ月前の記憶も鮮明に懐かしい。
鄭重にお礼を述べて下山の途についた。
やや速足で下って行くと、妻は後にどんどん離れてしまう。お地蔵さんの付近で天狗原山の三角点を探してみたがわからない。そのうち妻が追いつくだたろうと待ったが、いつまで待ってもあらわれない。どうもおかしいと不安になってもう一度神の田園へ戻って行く途中で、金山でワインを御馳走してくれた3人と一緒の妻に出会った。 「一体どうしたんだ」 「道を間違えてしまったの」 「この1本道で?」信じられないことだったが、神の田園から岩轢の沢道を下って来て、 トラパース道へ入るところを、そのまま沢を下ってしまったらしい。その3人も同様らしい。足元しか見ていないために引き込まれてしまったのだ。山慣れない者が迷うのはこんなケースだろう。

後は登って来た道を登山口まで戻った。
数年前雨飾山へ登ったときと同様、雨飾山荘付近の無料の露天風呂に入浴。ブナの自然林に囲まれた岩風呂は、いかにも野趣に溢れて、これそ本物の贅沢であった。
 


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