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針ノ木峠〜烏帽子小屋縦走

蓮華岳(2799m)北葛岳(2551m)七倉岳(2509)船窪岳(2459m)
   不動岳(2595)南沢岳(2626m)ニセ烏帽子(2605)

長野・富山県 2003.07.31-8.01 単独行 マイカー・マウンテンバイク
コース ■七倉温泉==<マウンテンバイク>==日向山高原バス停(5.43)==<バス>==扇沢(6.05)−−−大沢小屋(6.50)−−−雪渓取付(7.20)−−−レンゲ沢(8.05)−−−休憩(8.15-20)−−−針ノ木峠(8.45-9.00)−−−蓮華岳(9.55-10.05)−−−北葛乗越(11.00-05)−−−北葛岳(11.55-12.20)−−−七倉乗越(12.50)−−−休憩(13.0-10)−−−七倉岳(13.40-14.00)−−−船窪小屋(14.05)

■船窪小屋(4.10)−−−船窪乗越(4.50)−−−船窪岳(5.10)−−−2459mピーク(5.55-6.05)−−−大ガレのコル(6.40)−−−不動岳(7.500-8.10)−−−南沢岳(9.05-20)−−−烏帽子分岐(9.50)−−−烏帽子小屋(10.15-40)−−−三角点(11.15)−−−休憩(11.45-55)−−−濁り沢(12.35-45)−−−高瀬ダム(13.00)−−−七倉温泉(14.10)
船窪岳山頂、背後立山方面
趣味で山へ登りはじめて10数年、北アルプスの主だった山域はかなり足跡を残したつもりだが、地図を広げて見ると、まだ空白部分が少し目につく。その一つが蓮華岳から烏帽子に至る後立山連峰の一部の主稜域である。いつかこの稜線を歩いて見たいと念願してきた。ここには日本300名山も、一等三角点百名山も信州百名山もない。加えて3000メートル峰が蟠踞する北アルプスの中では、標高2千数百メートルの低い稜線のつづくこの区域は、高みを目指す登山者には、目を引き付ける魅力が足りないのかもしれない。そんなこともあってか、夏山シーズン本番を迎えた今回の山行でも、1日目蓮華岳から船窪小屋までにすれちがったのは二人だけ、2日目船窪小屋から烏帽子までは4、5人だけと信じられない静寂さであった。

登山口、下山口を別にしたときの移動用にマウンテンバイクを購入、今回がはじめての試行である。
マウンテンバイクをマイカーに載せて七倉温泉へ。ここにマイカーを置いて自転車で扇沢行きバス路線の日向山高原バス停へ向かう。途中で一部上り坂もあるが概ね下り道を13キロ前後、30分ほどで到着。
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●自転車で扇沢まで行ってしまう手もあるが、かなりの上り坂を漕いで行くのはきつい。
●バス停に着いて、マイカーの鍵を失くさないうちにザックへ入れようとズボンのポケットを探すが見当たらない。途中で落したのか、自転車で探しに戻るのは一苦労だ。 あとは野となれ山となれ、予定どおり山へ向かうことにする。
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扇沢へはバス15分ほど、900円はちと高い!
マイカーの鍵のことを気にしながらお握りを一つほおばってから出発。 針ノ木峠までの登りは以前2回の実績がある。コースタイムは5時間、2回の実績は2時間半、さて今回はどのくらいで歩けるか。
大沢小屋は休まずに通過。雪渓下端でポリ容器に水1.5リットルを準備する。雪渓に取付くと冷蔵庫に入ったように寒い。反袖シャツの腕が寒さでキリキリ感じる。雪渓上にはほとんど人影が見えない。下ってくる登山者にたまに出会うだけ。レンゲ沢の表示のある水流の沢から、さらに雪渓を登りつめて、コースが夏道に変わると山小屋の発動機の音が聞こえてくる。針ノ木峠は間もなくだ。

針ノ木峠までの所要は2時間40分、8年ほど前とあまりちがわない。まだ衰えていないらしい。
15分の休憩で蓮華岳への登りに取付く。足が急に重く感じてスピードが鈍ったのがわかる。急登をゆっくりと足を運び、砂礫の緩斜面になると高山植物が次々目につくようになる。とりわけコマクサの群落が素晴らしい。
曇り空にときおり晴れ間がのぞくという天候、展望にはイマイチだが、石祠のある蓮華岳ピークに立つと針ノ木岳が険しい姿を見せていた。大きな荷物の7、8人のグループがいる。NHKの撮影スタッフだという。番組作成の撮影らしい。泊りは私と同じ船窪小屋、また会いましょうと挨拶して先に出発。

一日目の行程を扇沢から針ノ木小屋泊りまでにすると楽だし、そうする登山者も多い。船窪小屋まで足を延ばすとコースタイム10時間超という時間的ハードさに加えて、北葛岳・七倉岳という大きなピークを2つ越えるという厳しいものとなる。
石祠のすぐ先に三角点標石がある。等級は読めない。ここでルートは右へ直角に折れて蓮華の大下りとなる。岩片のガラガラした道を電光型に急降下して行く。蓮華の山頂がたちまち頭上高く遠ざかって行く。こんなに下ってしまって大丈夫かと案じつつ、なおも下りつづけると、樹林帯に入り鎖場、岩場と険阻な様相を呈してくる。ようやく降りたったコルが北葛乗越、蓮華山頂から500メートル下りはまさに“蓮華の大下り”だった。
今度はここから北葛岳までは300メートルの登りが待っている。疲れた足にはこたえる。歩きにくいハイマツの岩場を一歩一歩喘いで足を持ち上げる。山頂までは単純な一本調子の登りではなく、途中には2、3の突起が控えてさらに体力を消耗する。3日前の笹山幕営山行の疲労が抜けきっていないのを意識する。慰めは足元に咲くイワギキョウ、ミヤマウイキョウ、チングルマ、タカネスミレなどの高山植物の花と、立山連峰などの眺め。
前方の高みを見ないように、足元だけに視線を落として、もう一歩、もう一歩と足を運んでようやく北葛岳の山頂に到着した。思わず尻を地べたに下ろして休憩。展望抜群のピーク、しかし一部に雲がからんで楽しみ半分というところ。蓮華、針ノ木、立山、剣などを眺めて一息ついた。

船窪小屋までは、もう一つ七倉岳への登りが待っている。北葛山頂から右へ直角に折れるようにして下って行く。相変わらず険しく歩きにくい道に変わりはない。ハシゴや岩場の鎖を伝ったり、さらにコブの上下を2、3回繰り返して300メートルほど高度を下げて七倉乗越のコルとなる。 最後の登りを頑張れば船窪小屋だ。
険しい岩場の道を肩で息しながら、あとひと頑張りと足に言い聞かせる。容赦ない小さなコブの上下がうらめしい。聞きなれた雷鳥の声。ヒナ3羽を連れた家族が、目の前を母鳥に見守られながらちょろちょろと歩いてた。雷鳥と別れると、すぐに字も読みにくい古びた七倉岳の標柱。時刻は2時になるところ、足は重かったが予定よりだいぶ早かった。一休みして目と鼻の先の船窪小屋へ向かうと、途中立派な七倉岳標柱がもう一つある。どっちが本当?

増築数年の船窪小屋は、まだ新しい感じできれいだった。中へ入ると囲炉裏がきってあり、炭が赤く熾っている。先ずはビールをいっぱい。剣から槍、燕岳まで一望という小屋だが、残念ながらガスが立ちこめて展望は得られないのが残念。
大きな山小屋では味わえない温もりが感じられ、またランプの小屋という雰囲気もよかった。食事はおかずごとに器を別にしている気遣いが、一層美味しくしていた。赤米(古代米)入りの赤飯のようなご飯も珍しかった。
NHK撮影スタッフが到着したのは6時近かった。
小屋からケータイがつながったので、マイカーの件を自宅の妻へ報告、いくつかの解決策を相談してみたが名案が浮かばないまま、諦めて寝ることにした。

2日目、今日は船窪小屋から船窪岳・不動岳・南沢岳を越えて烏帽子小屋、高瀬ダム、七倉までの標準タイム15時間のロングコース。12時間で歩くことはたぶん可能だろう。
足元が見えるほどの薄明を待って4時10分に小屋を出発。空にはまだ残り星が見える。七倉岳方向へ少し戻り、キャンプ指定地への下りに入る。一張りのテントも見えないキャンプ場を過ぎると、思いきり良く急降下して樹林帯へと入って行く。黎明の中に槍ケ岳から燕岳への山影がシルエットとなって浮かび、針ノ木岳方面も黒々と聳え立っている。信州側は大崩壊の白っぽい急崖、どこまで下るのか、足場の悪い長い下りを終るとやっと船窪乗越のコルとなる。小屋から40分、標高差300メートルの下りだった。あまり時間は稼げていない。

昨日の疲労の癒えない足に、船窪岳ピークへの登りがきつい。コースは険しい悪路つづき。20分で『船窪岳』の標柱の立つ2310mピークとなる。ここから2459mピークまでのコースも非常に悪い。大崩壊により足下がえぐれて、ひさし状になっているのではないかと疑いたくなるような道、ナイフの刃渡りのような痩せた尾根、息を抜けない緊張と、何回も繰り返すアップダウン、体力消耗は予想以上に進みスピードが出ない。登り着いたピークの標柱には「2459.0m」とあるだけ、船窪岳山頂は、先ほどの船窪岳標柱の2310mピークではなく、本当はここではないのだろうか。ピークは樹木に囲まれて展望がない。信州側へ少し下り、登山道からわずかに外れた露岩へはい上がると絶好の展望台だった。昨日とはうって変わった快晴の登山日和、これから向かう不動岳、南沢岳のほか、表銀座の山々、五色ケ原から薬師、赤牛などの素晴らしい展望にしばし見とれた。

花と山岳展望、眼下には高瀬ダムを眺めながら、再び急降下したあと登りに取付く。不動岳までは大ガレのコルから250mほどの登りとなるが、小さなピークを3つほど越えていかなくてはならない。登っては降り、登っては降り、精神的な負担感が大きい。この登りは非常に長く感じる。コースは相変わらず大崩壊の縁をたどったり、樹林に入ったりを繰り返して気が抜けない。樹林の隙間からときどき黒部湖も見え隠れしている。
大きな岩峰が見えてきて、これが不動岳ピークと思って這いあがると、もう一つ岩峰があり、山頂標柱はその先の広々としたハイマツと砂礫の円頂にあった。おおらかな山頂は、緊張を解かれた開放感が得られた。
立山方面に少し雲がかかっているが、残雪豊富な五色ケ原から、薬師、水晶岳などの名山。針ノ木、蓮華、北葛、七倉、船窪岳などの越えて来た山々、みごとな展望が広がっている。

不動岳山頂付近のコマクサ群落を目にしながら、再び下降して行く。しばらく下ると樹林帯へと入り、標高差200メートルほど、一つ小ピークを越して2つ目のコルが南沢乗越である。ここから本日最後の大きな登り、標高差250mを頑張れば南沢岳である。
ガレの縁、あるいは富山側を巻いたりして、これが最後の登りと言い聞かせながら登って行く。山頂手前のコブを越えるのがかなりつらく感じた。
突然窪地状のお花畑があらわれる。アオノツガザクラの群落、イワカガミやハクサンフウロ、ミヤマアキノキリンソウなどの花々が、疲れのために萎えてきた気力を復活させてくれる。南沢岳の山頂はそれから間もなくだった。

南沢岳は砂礫の広い空間で、大きな花崗岩の岩が一つ、そこに『南沢』と朱書してあるだけで標柱はない。基礎部分が浮き出してしまった三角点標石は等級が読めない。 ここも展望は文句なし。
所要時間を点検すると、予定よりかなり短縮できている。
疲労感はあるが、ようやく気分的な余裕も生まれてきた。越えて来たピークを振りかえり、四囲の展望にしばらく見入って休憩のひとときを過ごした。

南沢岳山頂から烏帽子側にかけても、コマクサが豊富だった。悪路からも開放され、時間的なゆとりも出来てゆっくりと歩を進めて行くと、四十八池と呼ばれるあたりからガスが上がってきて視界を閉ざしてしまった。
烏帽子岳は以前登ったこともあり、ガスの中では展望も期待できないのでパス。分岐からまっすぐ烏帽子小屋へ向かった。

気になるのはマイカーの鍵のこと、烏帽子小屋のヘリポートから自宅へのケータイがやっとつながった。
妻が宅急便業者に相談すると、マイカーを置いてある七倉温泉の七倉山荘まで届けてくれることになったという話。自動車道があるとはいうものの、あんな辺鄙な一軒家まで届けてくれるとは、宅急便の威力を再認識するとともに、これで助かった、マウンテバイクを積んでマイカーで帰宅できる、気持ちのトゲが取れたような安堵が広がった。山での行動中は絶対に飲酒しない私が、思わず小屋で缶ビールを買ってしまった。

蓮華岳から烏帽子分岐まで、夏山最盛期の北アルプスとは思えない静かな稜線縦走だったが、烏帽子小屋からブナ立尾根の下りに入ると、登って来る登山者がひきもきらない。あまりの違いに戸惑いすら覚える。10人、15人のグループもあったりして、通過待ちにいらつくこともしばしば、人数が多いグループほどペースがスローで通過に時間がかかる。わいわいがやがやも耳障り。白けた気分でブナ立尾根を1時間50分で濁沢まで下ってしまった。
高瀬ダムからはタクシーを呼ぶこともできたが、さらに七倉まで車道を歩くことにする。
ダム堰堤の上から下まで降りるのに30分もかかる巨大なダムである。七倉への舗装道歩きで、両足親指と人差し指の付け根あたりに大きなマメができてしまった。何年も履きなれた靴、それに今回と同じ程度の山行は何回もしてきているのに、なぜか理由がわからない。これも歳のせいということにした。
ガイドブックでは全行程の所要時間26時間、余裕を持って歩けば針ノ木小屋、船窪小屋、烏帽子小屋の3泊となるコース、一泊で歩けたことにまずまず満足。
また主役のコマクサをはじめ、目にした花は50種以上というのも嬉いことだった。

マイカーの鍵は無事宅急便で届き、七倉山荘の管理人が預かっていてくれた。 葛温泉高瀬館で汗を流して帰途についた。

今回の山行で北アルプス北部の朝日岳から南部の焼岳までがつながりました。足跡図はこちらへ
 
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