hkk-050 ≪山岳巡礼≫のトップへ戻る

戸隠 西 岳=にしだけ(2053m)

長野県 2003.09.09 独行 マイカー
コース 鏡池駐車場(6.00)−−−楠川林道入口(6.05-20)−−−渡渉(6.45)−− −大平草地(7.10)−−−最初の鎖場(8.05)−−−休憩(8.15-20)−−− 熊の遊び場(8.32)−−−無念の峰(9.05-10)−−−P1(9.35-40)−−− 西岳(10.10)−−−本院岳(10.40)−−−昼食休憩(11.30-45)−−−八方 睨(12.27-40)−−−百間長屋(13.17)−−−戸隠奥社(13.50-55)−−− 鏡池(14.35)
西岳と断崖
【信州百名山難関の一つ】

10年ぶりの再訪、コースは前回と同様。ただし前回は山はすでに初冬を迎えて積雪もあり、今回より格段に厳しい条件下に疲労困憊した。ところが楽であるはずの今回も、また疲労は激しくこの山のハードさをあらためて認識させられた。

6時、鏡池駐車場を出発、宝光社方向へ舗装道路を5分ほど歩くと楠川林道の入口がある。多摩ナンバーのワンボックスカーが止っている。すでに出発しているようだ。ゲートの脇をすり抜けて楠川林道へ入る。10年前の記憶はかなりあいまいになっている。前回はこのまま楠川林道を20分も進んでしまい失敗した。
今回も西岳への道がわからない。薄い踏跡があったが、あまりにも薄くて「まさかこれが西岳へのコースとは・・・」と疑い、少し探してみたが他には見当たらない。これが登山道への入口であった。

《参考》
楠川林道へ入り、左側を注意して行くと、白いガードレールを過ぎた先(林道を100メートルか200メートルの距離)で左手に、草むらの中に薄い踏跡が見える。カラマツの幹に赤いペンキ印もあるが見落とすほど色は薄くなっている。ここが西岳P1コースへの入口である。

カラマツ林の中を緩く下って行く。スタートから下り道の登山というのも珍しい。標高差にして100数十メートルの下りである。いずれこの分は登りに加算されることになる。入り口は分かりにくかったが、その後は「登山道」という道標がいくつも目につくようになる。安易にこのコースに入らないようにと、わざと入口だけ分かりにくいままにしているのかもしれない、そう勝手に想像。

多摩ナンバーの先行者がいるはずなのに朝露は払われていない。早くもズボンが濡れてくる。ジグザグの急な下りとなってTの字に突き当たる。ここは右へ沢沿いを遡上するように進む。「西岳」の道標が草むらに落ちていたので、木の幹にしっかりと取りつける。何もないと始めての人はTの字を右か左がわからない。すぐに小さな支沢を渡る。

胸まである夏草の中を、露でびしょ濡れになりながら沢の左岸に沿って遡上して行く。飛び石で対岸に渡渉、雨の後などは靴を脱いで渡ることになるのだろう。さらに2回渡渉してから山腹の登りに取りつく。ぬかるみのあるジグザグの急登をたどると、沢音は次第に足下に遠ざかっていく。落葉樹林を抜け出すと、広々とした牧草地に出る。朝日に輝く戸隠の岩稜が荒々しい姿で待ちうけている。

道はないが、戸隠山を正面に見ながらそのまま草地の縁をたどって上がって行くと、草地の途切れたところに「登山道」の道標がある。ここから樹林の中へと入って行く。まだ登山道は普通の山と同様、見事な落葉樹の林に目を奪われながら、落ち葉の堆積した踏みごこちの良い道をしばらく楽しめる。シラカバの白さがひときわ目を引く。本日のコースで一番気の休まるひとときだ。

しかし夢見ごこちのひとときもやがて緊張の連続に変わる。楠川林道の登山口から1時間35分、最初の鎖場に突き当たる。鎖にすがりつき、腕力で岩場を乗り越える。最初の鎖場を通過した先で数分の休憩、緊張を和らげるために水を飲む。次々と鎖が待っている。鎖があるとは言え、一つ誤れば一巻の終わり、息をつくことができない。鎖のないところでも鼻のつかえそうな登りがつづき、潅木、そして笹を束にして掴み体重を引き上げて行く。まさしく全身運動の連続、体力の消耗がどんどん進む。

西岳、本院岳と連なる岩稜はさすがに威圧感がある。威圧感に睨まれながらの登攀がつづく。
通過ポイントの熊の遊び場は、とても熊が遊べるほどのスペースはない。険しい岩稜をいくつも越えて、ようやく目の前に立ちはだかる岩峰に登り着く。「やった〜、P1だ」と叫びたいところだが、ここは『無念の峰』、目の前に見えるP1までは、まだ一汗かかなくてはならない。しばらく休憩。無念の峰ピークから垂直の岩場を鉄ハシゴで下りるが、ハシゴへの取りつきが少しいやらしい。埋めこみボルトなどを使ってハシゴへ移動して下りる。
前回は雪で倒された笹に悪戦苦闘した登りだが、雪がないだけまし、それでも笹を両手で分け、笹につかまって喘ぎ登る急登がきつい。
そした待望のP1へ無事登り着いた。弁慶岳の山頂表示がある。ここには適当な休憩スペースがないので少し先まで進んで10分弱の休憩にした。リンドウの咲く小平地に座すと、西岳やダイレクト尾根が目の前に見える。前半の険しいところを終ってやれやれだが、まだ奥社へ下り着くまでは気が抜けない。

最高点の西岳ピークまでは鎖場はない。鞍部から登り返すと西岳ピーク、ダケカンバの枝に「西岳山頂」の表示がぶら下げてある。10年前と同じだ。空き地も座る場所もない。そのまま通過して本院岳へ向かう。鞍部への下りが険しい。鎖はあるが緊張する。垂直に近い鎖を慎重に下って、笹をかきわけながら登り返すと本院岳のピークに立つ。ここも休憩する場所もなく、そのまま素通りする。登山道を覆う深い笹を漕いで鞍部に向かうと、その先のピークに人影が見える。声も風に流れてくる。今日はじめての登山者である。
鞍部から登り返してピークに着くと女性一人を含む7名ほどの熟年グループが休んでいた。これが今朝ほど楠川林道入口で見た多摩ナンバーの人達らしい。鏡池から奥社へ回り、ここまで来たようだ。私とは逆回りのコースを取っていた。私より少し早くスタートしているにしてはコース消化が遅い。どうやら本院岳を目の前にして、ここであきらめて引き返すらしい。これから西岳、P1と縦走して夕刻までに下りるのは、確かに無理かもしれない。良い判断だろう。
それにしてもこの岩稜コースを7名は多すぎる。時間が足りなくなるのは当然だと思う。どんなに多くても5人が限度、できたら2、3名で歩くコースである。
この小ピークは7人に占領されて休む場所もなく、挨拶と短いやり取りだけで先へ進む。

前回はこの先で稜線登山道の崩壊、巻いた場所が雪をかぶった笹薮、滑ったり転んだり、精魂尽きるような苦労をしたところだが、今回は問題なく歩けようになっていた。それでもわかりにくいところが2ヶ所ほどあり、慎重に踏跡をトレースして行く必要がある。
足場の悪い藪や笹の中を通過して、稜線コースに戻ったあたりが八方睨との最低コル、八方睨までは岩場はない。開放感を味わいながら八方睨への登りに取りついた付近で、昼食休憩にした。P1から2時間近く休憩なしで疲労がかなりたまっている。本院岳、西岳と越えて来た峰々を振り返る気分は最高だ。

八方睨への登り返しは、標高差にして150メートルか200メートルほどだと思うが、それが疲れた足には途方もなく負担感を大きく感じる。最後に一歩一歩足を持ち上げるような急登を終ってようやく八方睨へたどりつくと、思わずそこへ座りこんだ。持参した1.5リットルの水も残り少なくなった。味わいながら乾いた喉を潤し、たどってきた岩稜、そしてこの春に登った堂津岳、名峰高妻山、さらに長野市民の山飯縄山などの眺めを楽しみながら10分余の休憩を取った。先ほどの7人が引き返してくる姿が遠くに見えた。

奥社までの下りは再び鎖の連続となる。とりわけはじめの鎖場「蟻の戸渡り」の痩せた岩稜が注意どころ。過去にも墜死事故が何回か起きている険しい箇所だ。昔、長野市に住んでいたときに歩いてこともあるし、勝手知ったつもりだったが、それでも険しさには緊張する。最初の取りつきが特に緊張を強いられるが、あとはそれぼとのことはない。稜線上の刃渡りは疲れた体には不安があって、巻き道を通過したが、それとて易々というわけではなく、慎重に通過しなくてはくらない。
繰り返し鎖を伝って下りて行くと「百軒長屋」という庇状の岩窟となり、ここでようやく緊張から解かれて、あとは普通の登山道を奥社へと下って行く。

奥社の屋根が見えてくるのが待ち遠しい。まだかまだかの思いにかられてその屋根が目に入ったときは「ようやく終った」という思いが強かった。
社殿前の水を柄杓にすくって立て続けに5杯流し込んだ。
社殿に手を合わせてから、随神門を経由して鏡池までは40分ほどの平坦な道を行けばいい。
鏡池の畔に立って、歩いてきた岩稜を感慨を持ってしばらく仰いでいた。

1993年10月28日の山行記録はこちらへ     2010.09.26の山行記録はこちらへ
 
戸隠 西 岳=にしだけ(2053m)
長野県 2003.10.06 男女4名 マイカー
コース 鏡池(6.00)−−−渡渉(6.30)−−−大平(6.45)−−−最初の鎖場(7.40-7.45)−−−熊の遊場(8.30)−−−無念の峰(9.00-9.10)−−−第1峰(9.50)−−−西岳(10.35-11.00)−−−本院岳(11.50-12.00)−−−休憩12.50-13.00−−−八方睨(13.50-14.10)−−−奥社(16.00-16.10)−−−鏡池(16.45)
険しい岩場に緊張がつづく
同行のメンバーは甲府市のEさん、川越市のT子さん、石川県のY子さんそれと私、合わせて男女二人づつの4人パーティー。

コースは1ヶ月前の9月9日、この日のために下見登山をしたのと同様、鏡池からP1尾根を登り、西岳、八方睨と縦走して奥社へ下山、鏡池まで戻るというものである。

何十ヶ所という岩場の鎖が待ちうけているので、単独行とはちがってどうしても時間がかかる。
予定どおり鏡池駐車場を6時にスタート、暗くなる前の5時には戻ってきたい。最悪でもその時刻には奥社までは下山しなくてはならない。
時計を気にしながらの歩きがはじまった。

千葉ナンバーの車から降り立った男女5人パーティーが私たちより一足先に出発した。わかりにくい登山道入口に気付かず5人は進んで行く。後から大声で知らせてあげる。その間に私たちが先に立つことになった。
前回腰から下がびしょ濡れになった草薮も、きれいに刈り払われて快適な道に変わっていた。
天候はどうやら曇りがちのまま推移しそうな様子、峨々とした戸隠の山稜を眺めながらの登攀とはいきそうもない。ちょっとがっかりだ。登り着いた大平の牧草地から見る岩稜も、稜線には雲がまといついて全容を見せはてくれない。

あとになって時間を追いこまれるのが不安で、やや早めのペースを維持したまま、シラカバなどの混じる美しい樹林を登りきると、最初の岩場が立ちふさがる。ここでひと呼吸いれてから、足場の乏しい垂直の長い鎖を伝って私、Y子さん、T子さん、Eさんの順番で登りきる。
このあとしばらくはたいした岩場はないが、やがて痩せた岩尾根となり、鎖のフィックスされた岩場が連続するようになる。険しい戸隠山を肌で感じながら一つ一つ鎖場を慎重にクリアして行く。熊の遊び場を通過して崖のような岩場の鎖を何回も攀じ、無念の峰へたどりつく。ここで再び一息いれる。

無念の峰からは、垂直というより少しオーバーハング気味に取りつけられた鉄ハシゴを使ってコルへと降りるが、ハシゴへの取りつきが足場が悪くてY子さんは少してこずったが、ここも全員無事にクリア。この先は崖を這い上がるような急な岩尾根を、鎖、笹、潅木などをで体重を支えながら、手足総動員でガンバルと、稜線のP1と名づけられたピークに飛び出した。

ここまでの登りでかなり体力を消耗して、大休憩をとりたいところだったが、昼食には時間が早かったので、わずかの休憩だけで先へ進む。
西岳までは案ずるような険しいところはない。10時35分戸隠最高峰の西岳山頂に立った。ダケカンバの枝に西岳というプレートがぶら下げてあるだけのピークだ。川越市のT子さんは信州百名山97座目の山、残すはごく簡単な山が3つだけとのこと。実質的には信州百名山達成も同様の西岳ピーク、喜びも大きかったことと思う。

西岳で25分の昼食休憩を取り、八方睨へ向かう。千葉の5人はまだ追いついてこない。岩場の通過に時間をくっているのだろう。4人でも時間とにらめっこなのに、確かに5人という人数は大変だと思う。

西岳の先、長い垂直の鎖でコルまで下り、藪っぽい笹を掻き分けたりして登り返すと本院岳。この先八方睨まではたいした鎖場はない。一つ小さなピークを越えると、八方睨とのコルまで長い下りとなる。うっかりするとコースを誤りそうなところも1、2ヵ所あるが、ひと月前に歩いているので何の心配もない。一時コースは稜線を外れるが、やがて稜線に戻るとコルはもう近い。遠くに見えていた八方睨もだいぶ近づいてきた。
歩きはじめて7時間近く、疲れも感じるようになってきた。コル付近で休憩してから、八方睨への長い登り返しに入る。鎖場もないし、それほど急登でもないが、疲れた足にはこの登りがかなりきつい。時計を見るとどうやら予定の時刻には下山できる目途が立ってきた。みごとに朱に染まったサラサドウダンの紅葉を眺めたりしながら、ゆっくりとした足取りで長い登りを終ると八方睨のピーク。本来なら今日のコース最高の大展望が楽しめるところだが、残念ながら遠望はきかない。越えて来た険しい岩稜を振りかえると、よく歩いてきた、そんな感慨が湧いてくる。雲にかすむように今春残雪の中を登った堂津岳をわずかに望むことができた。

あとは奥社へ下山するだけ・・・そう思いたいところだが、この下山はそう簡単ではない。
一休みして下山にかかると、のっけから鎖場となり、これからいくつも、いくつも連続する鎖を頼りに下って行くことになる。とりわけ蟻ノ戸渡の通過が厳しい。蟻ノ戸渡の巻き道へ移動するところが特に厳しい。昔はもう少し楽に通過できたのに、様子が変わってしまった。両側垂直に切れ落ちたヤセ尾根を、慎重に慎重に移動してトラバース用の鎖にしがみつく。鎖に頼りながら、岩尾根直下の長いトラバースを終れば、あとの鎖は比較的楽に通過できる。無念の峰から鉄ハシゴへ移動する箇所と、蟻ノ戸の最初の取りつきがコース中でいちばん厳しいような気がする。

どこまで続くかと思うような鎖場をいくつも通過して、百間長屋という岩屋まで下れば、あとは一つ二つの鎖場があるだけ、ようやく開放感を味わうことができる。このあたりで暗くなりはじめることも想定していたが、休憩時間を節約して頑張った甲斐があり、安心して歩ける時間的余裕があったのはありがたかった。
奥社へ下山したのは16時、あと40分もあれば鏡池駐車場に帰着ることができる。

駐車場の千葉ナンバーはまだそのまま止っている。間もなく時刻は5時、そろそろ夕暮れのときを迎えている。どのあたりを歩いているのだろうか。明るいうちに下山できればいいが。岩場で暗くなったら動きが取れないだろう。
Eさんのアイスボックスから冷たい飲み物をいただき、無事縦走を喜びあって乾杯、帰途についた。
1993年10月28日の山行記録はこちらへ    2010.09.26の山行記録はこちらへ 

≪山岳巡礼≫のトップへ戻る