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錫杖岳=しゃくじょうだけ(2168m)

岐阜県 2003.10.16 男女3名 マイカー
コース 自宅(3.00)===槍見温泉付近駐車場(5.20-5.55)−−−第一飯場跡(6.20-25)−−−クリヤ谷渡渉(6.40)−−−錫杖沢出合(7.12)−−−ルート誤りロス約50分−−−錫杖岩小屋(8.45-55)−−−稜線コル(10.28-40)−−−錫杖岳(11.30-12.20)−−−稜線コル(13.00)−−−錫杖岩小屋(14.30-40)−−−錫杖沢出合(15.00-05)−−−渡渉−−−槍見温泉(16.00)
錫杖の大岩壁

石川県のYさん(女性)から誘いを受けた。かねてから登りたいと思っていた錫杖岳へのチャンス。これまで私には無理な山だと思っていた。Yさんに同行してきたのは、富山県の男性Aさん。何とAさんは77歳という高齢、失礼ながら私が二の足を踏んでいた錫杖へ登るというのには驚いた。

二人とも錫杖岳登頂の経験者、今日は私が案内をしてもらう側である。
中尾温泉への分岐にある駐車場で待ち合わせ。予報では晴れのはずの空には、灰色の雲が広がっている。またもや予報に裏切られた思いで5時55分駐車場を出発。
槍見館の前から笠ケ岳方面への登山道へ入る。紅葉は始まっているが、色はもう一つぱっとしない。黄葉もよく見ると枯葉色で、登山道にはすでに落葉が散っている。

尾根のちょっと開けた場所が第一飯場跡、ここで小憩。勾配を強めてきた岩ッぽい道を進むと第二飯場跡、ここも尾根の小さな切り開きになっていて、そのまま通過するとすぐにクリヤ谷の流れを左岸へ渡渉する。水流は少なく、今日は飛び石で渡ることができたが、雨後などは靴を脱ぐことになるのだろう。
この先クリヤ谷の渓谷を左足下に見ながらの道は、比較的なだらかとなって歩きやすい。渓谷の紅葉も色合いがよくなってきた。錫杖沢出合を見落とさないよう注意しながら進んで行くと、紅葉した落葉樹林の先に、大岩壁が圧倒するように目に飛び込んできた。数個のテープが木の枝につけられているところが、錫杖沢がクリヤ谷と出合う地点の目印である。ここで笠ケ岳への登山道と別れて左手の踏跡へ下り加減に入ると、出合の河原となる。
テントが一張ある。錫杖岩壁のロッククライマーたちの泊り場でもある。

出合からは右手のクリヤ谷を見送って、左の錫杖沢へ入る。ここからは登山道はない。Yさん、Aさんの案内が頼り。錫杖沢へ入ってすぐ、左岸につけられている踏跡(別図参照)を行く。踏跡は登山道並にはっきりしているし赤テープが頻繁に目につく。
しかし予定の時間を歩いても、ポイントの錫杖岩屋が見えてこない。「このルーはちょっと違うのじゃないかなあ」とYさん、Aさんも少し自信がなさそうだが、そのまま踏跡をたどってしまったのが失敗。最後に大岩壁の基部に突き当たってしまった。これはクライマーたちの道で、一本北側の支沢を詰めてきたような結果になってしまったようだ。藪を漕いで錫杖沢の本沢へ移動できないかと試みたが、その間にある支沢(別図C沢)を渡らなくてはならない。この岩壁地帯ではうっかりした行動をとるわけにはいかない。安全策を取って、引き返すことにする。それにしても大岩壁を真下から見上げる迫力は身震いするような威圧感に満ちていた。

錫杖岳の岩壁と、左方槍ケ岳〜ジャンダルムの展望

岩屋のある本沢へ下る踏み跡を探しながら引き返して行くと、雑木が踏み倒されたような跡があり、これをかき分けて下ると、小さな枯れ沢(別図Cの支沢)に出た。この沢をわずかに下って行くと、うまいこと錫杖本沢に出会い、そこにポイントの岩屋を確認、ほっとした気分で休憩タイムにする。
岩屋からは錫杖沢の本沢を遡上していく。

沢の水流は少なく、足を水に浸すことなく遡上できる。
小滝まがいの大きな岩があったりして、沢の両側にはところどころ薄い踏跡が高巻いたりしているが、ほんど沢芯だけで遡上が可能である。しばらく遡上を続けると沢は二又に分かれる。同じような沢だが左の沢が本沢のように見える。この本沢をルートに選んだ。勾配が急になってきて、早々に大岩の乗り越しがある。ザイルがあると楽だと思われるが、小さな水流に膝を漬けて何とか這いあがった。私の差し出したストックを掴んで二人ともここをクリア。その先にもう1ヶ所大岩があるが、ここもどうやら無事に乗り越えることができた。
次第に青空が広がって、背後には西穂が全容をあらわした。再び振りかえるとジャンダルムから槍ケ岳まで見とおせるようになっていた。

錫杖沢
傾斜はいよいよ急になり、一歩一歩よじ登る感じとなる。沢はせばまり、いつか水流は消えていた。やがて両側に笹が迫り、これに掴まりながら高度を上げて行く。ついに沢形はなくなり、笹をかき分けて登りきると、錫杖岳と大木場の辻とのコルに立つことができた。コルには白骨化して幹だけが残った枯木が立っている。下山時の良い目印になる。
少し遅れて登り着いた二人を待って錫杖岳のピークをめざす。手前にそそり立つ大岩峰の陰になって、本峰はわずかにそれらしい姿を見せるだけ。まだ距離も高さもある。

踏み跡は比較的はっきりしているが、岩場を避けたりして複雑に屈曲している上に、ときどきその踏跡も見分けのつかなくなることもある。しかし目印のテープは頻繁にあるので、これを忠実に追えば問題はない。コースがわかりにくかったら、とりあえず立ち止まってテープを探せば、付近に必ず見つかる。
大岩峰の裏側に回りこむと、ようやく本峰がはっきりしてきた。

コメツガの下を、這ってくぐり抜けたり、押し分けたり、またいだりして体力は倍くらい消耗する。大汗を流しながら急登を攀じ登り、明るい岩場に踊り出ると、舞台の幕が切って落とされたような大パノラマが展開した。ここが錫杖岳山頂の南端で、山頂は南北に細長い岩稜となっている。両側はすっぱりと切れ落ちた断崖、高度感たっぷりで、山頂を歩くのにも気を使う。北端にはピッケルが一本、岩に突き刺してある。遭難者のメモリアル・モニュメントだろうか。
上空は、青一色の快晴に変わっていた。しばし息を飲む大展望に、ザックを下ろすのも忘れて見入った。
左俣谷を挟んで正面に対峙する槍ケ岳から穂高連峰への山容がみごとだ。この方角から槍穂をつぶさに見られるのは、錫杖ケ岳のほかには笠ケ岳くらいしかないだろう。貴重な展望と言える。槍ケ岳山荘、穂高岳山荘、西穂山荘まで確認できる。噴煙を上げる焼岳、その背後には霞沢岳・六百山が以外に大きくかつ近い。乗鞍岳、御岳の山容も明瞭そのもの。乗鞍と霞沢岳の間には、すまし顔の鉢盛山もあった。
そして錫杖岳の稜線を北へ延ばして行くと、両翼を思いきり広げた笠ケ岳が堂々たる姿で横たわる。
西へ目を転ずると少し霞んでひときわ高いのが加賀の白山、それに並ぶのは笈ケ岳・大笠山方面だろう。
そして何と言ってすごいのは、目の下となった峻烈険しい烏帽子岩を始めとする岩峰群だ。あの岩を人間が登るなんて、私には想像も出来ない。岩壁の基部には紅葉の世界が広がる。ここまで登ってきた甲斐のあったことを、しみじみと感じる。長い昼食休憩で、存分にこの展望を満喫したあと下山にかかった。

下りはどうしても足が速くなる。その分注意すべきポイントを見落としがちてなってしまう。2、3回踏跡を間違えたが、すぐに気付いて修正した。踏跡だけに頼らず、とにかく目印のテープを追うことに注意を集中するのがいい。これが天気が悪かったりすると、目印が目につきにくくなるので気をつけなくてはいけない。
目印のコルの枯れ木まで戻って、これから先はルートの心配はなくなった。
笹の急坂を下って行くと、大きなダケカンバが1本、西穂・焼岳を目隠しするように立っている。そのすぐ先にテープが目につく。ここから登ってきた沢(a沢)を捨てて、左の沢(b沢)へ移ることにする。
(乗り越えるのが大変だった大岩の下りを避けるため。ただしザイルがあれば何でもない)
a沢とb沢を分ける小尾根に目標とすべきテープが見える。このテープ目がけて笹薮を強引に押し分けて行く。たいした距離ではない。小尾根からはb沢へ向けて、転げ落ちそうな笹藪の踏跡を、後向きで笹に掴まりながら下る。
b沢に降り立ったところは枯れ沢である。あとはこの沢を下って行く。途中から水流が見えるようになる。沢から見上げる岩峰が実に素晴らしい。飽きもせずに何回も岩峰群の景観を楽しみながら下って行く。注意する箇所はいくつかあるが、巻いたりしなくてはならないような難しい箇所はなく、a沢、b沢の出合う二又まで戻ることができた。緊張の緩むのを感じる。

錫杖岩屋まで下ったところで休憩にする。大岩壁にはクライマーの姿が見える。
岩屋からc沢を少し登り返してたところで、藪の中をクライマーの踏跡ルートへ出る。あとは錫杖沢出合まではこの踏跡だけで下る。
出合でもう一度午後の斜光に、岩肌がいっそう険しさを増した岩壁を眺めてから、槍見温泉へと向かった。

富山のAさんは、高齢関係なしの健脚で、厳しい行程を問題とせずに歩ききってしまった。
≪コースのポイント≫

●錫杖沢出合までは笠ケ岳への一般登山道です。
●出合からは錫杖沢へ入りますが、沢をそのまま直上するか、クライマーの通う踏跡を使うか、二通りあります。
我々はクライマー踏跡のルートをとりました。
沢芯を直上するコースについては、出合から岩屋までの様子は歩いてないのでわかりませんが、多分大丈夫ではないでしょうか。
沢直上を選べば、いやでも岩屋の前へと出ます。
●クライマー踏跡コースは、錫杖沢に入ったすぐ右手に入口があります。
●クライマー踏跡コースをそのままどこまでも行くと、岩壁に突き当たってしまいます。
●クライマーコースに入って進んで行くと、左に下りる薄い踏跡らしきものがいくつか目につきます。これを下れば錫杖本沢に出られます。ただしかなり上まで行ってから左に下りると、本沢ではなく、図のC沢へ出てしまいます。この場合は、C沢を下って岩屋へ出ることになります。
●岩屋のところでC沢と本沢の二つに分かれますから、ここは左の本沢を行きます。・・・本沢は直進している感じです。C沢は小さな枝沢で、普通に歩けばこのC沢へ入ってしまうことはないでしょう。
●本沢を詰めて行くと沢は二又に分かれます。この間は巻き道があったりしますが、沢芯だけで登れます。巻いた場合は早めに沢芯へ戻ったほうがいいでしょう。二つの沢は似たような沢です。この二又はどちらをとっても稜線コルへ登れます。

≪a沢コースの場合≫少し厳しい大岩の乗り越えもありますが、少し慣れた人ならザイル無しで大丈夫。そのまま詰めて行くと、最後は沢が消え、笹薮を少し漕いで直上、稜線コルへと出ます。
≪b沢コースの場合≫水流が消えてしばらく行くと、左手の笹の斜面にテープが見えます。これを見落とさないようにして目印テープから笹薮の薄い踏跡を、笹に掴まりながら小尾根まで登ります。すごい急登です。小尾根からは登ってきたのとは反対側へ、急斜面の笹薮をかき分けてトラバースすると、a沢のルートに出ます。そのままa沢を直上して行くことになります。
●稜線コルから山頂までは、薄い踏跡はありますが、分かりにくい箇所もあります。テープの目印の方が頼りになるようです。テープを見失ったと思っても、近くに必ず見つかるから心配はいりません。テープを追っていけば山頂です。

●コルからの下りは、そのまま下って行けばa沢から二又、岩屋となります。
 b沢のコースを取りたいときは、最初はa沢を下ります。途中で西穂を目隠しするような大きなダケカンバがあります。ダケカンバの先で注意しているとテープがあります。そこから左手の小尾根を見ると目印テープが見えますから、そこを目がけて密な笹薮を強引に漕いでトラバースして行きます。あとはテープを追って笹の中を下って行くと、b沢の沢芯に降りられます。

●我々はa沢を登り、b沢を下りました。どちらが良いとも言えません。
はっきりとした登山道はなく、また道標のたぐいも一切ありませんし、クライマー以外の登山者もあまり多くないと思いますが、2、3のポイントさえしっかり頭に入れていけば、それほど難しい山ではないという印象を受けました。
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