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山梨百名山 節刀ケ岳(1736m)十ニケ岳(1680m)
登頂年月日 1990/02/09 天候 快晴 同行者 単独 電車・タクシー利用
新宿駅〓大月〓河口湖駅==タクシー==西湖長浜(8.30)−−−毛無山(9.50-10.00)−−−十ニケ岳(11.10-25)−−−金山(11.55)−−−節刀ケ岳(12.10-45)−−−金山(13.00)−−−鬼ケ岳(13.30)−−−鍵掛峠(14.10-25)−−−沢(14.50)−−−途中スケッチ−−−根場魚眠荘バス停(15.30)

十ニケ岳
節刀ケ岳

大月駅で富士急行線に乗り替え、河口湖駅で降りると、登山口方面のバスは出た直後、仕方なくタクシーで長浜まで行く。

淡い初春の陽を背に受けて毛無山への急登にかかる。麓からは雪は見えなかったのに、とっつきから雪の上を歩くことになった。稜線の積雪が気にかかる。雪上の足跡は今朝のものだろう。

文化洞トンネルから登って来るコースとの合流点で、勾配は一段落しここで少休止をとる。気持ちの良い雑木林は、もの音一つなく静まりかえっている。
高木の林が切れて笹原の登りとなり、斜行気味に登りきると毛無山頂上に到着。好展望の山頂からは正面に富士山、そして三ツ峠・黒岳などの御坂山塊の眺めがいい。大菩薩連嶺も見える。眼下には河口湖と西湖。河口湖はさざ波が銀色に反射し、西湖の湖面は黒々と沈んでいた。

次の十ニケ岳へ向けて稜線を行く。
雪がかなり多くなってきた。すぐに小さな岩の突起を越える。雪が氷化している所もあるので、足元には神軽を使う。岩の上に『一ケ岳』と表示がある。十ニケ岳は12番目ということか。ニケ岳、三ケ岳と順調に越えていく。案ずるほどのことはない、そう思ったのは甘かった。
十ケ岳の急な岩の登りで緊張する。
十ケ岳を過ぎると、前方に十ニケ岳を見ながら、ロープに頼ってぐんぐん下降して行く。その途中から十ニケ岳の絶壁のような雪の斜面を眺めると、緊張感が強まる。登れるだろうか、不安がよぎる。この季節に私のような非力が登る山ではなかったようだ。下りきったキレットで吊り橋を渡る。目の前の急傾斜が、思いなしか垂直に見える。

所どころアイスバーンになっている。アイゼンは持っていない。フイツクスされているロープや針金、露出した木の根や立木にすがって登る。足場が雪に隠され、足で探りながらの登行はスリルと緊張感の連続。鎖かロープがあるはずのところにそれが見当たらない。雪の下に隠されてしまっているらしいが、それを掘り出すこともできない。十ニケ岳頂上まで連続して、この岩の急登がつづいた。三点確保を忠実に守り、慎重に慎重に高度を詰める。雪がなくてもかなりきつい登りだろう。こんなに腕力を駆使したことは、山を歩き始めてから、初めての体験であった。
ようやく傾斜もいくらか緩くなり、ほっとしたその先に頂上があった。

苦労が報われるような展望が広がっていた。それにしても疲れた。へたり込むように腰を下ろしてテルモスの紅茶を飲み、ひといき入れてから展望を楽しむ。襞の陰影がくっきりと浮かび出た富士山が美しい。この景観は冬のものだ。木立が少し邪魔になるが南アルプス連峰もあった。

雪の状況、十ニケ岳までの厳しいコース、それらを考えてここで引き返すべきかと自問自答したが、さらに先に進むことにした。

寒さが身にしみてきた。上下のレインウェアを着て風を防ぐ。
いったん下ってから、笹の薮っぽい登りを詰め、御坂山塊主稜線に出た、そこが金山であった。ここまでガイドブックほぼ同じ時間がかかっている。いつもガイドブックの7、8割の時間で歩くという計画が私のやりかた。予定の時間に下山できるか怪しくなってきた。節刀ケ岳往復をためらったが、早足で往復。ずいぶん急いだのに20分近くかかってしまった。私の足が衰えてしまったのだろうか。

樹林を抜け出した節刀ケ岳周辺も、また素晴らしい展望台であった。雪に埋まった山頂で、三角点標石に腰をおろして昼食をとりながら、この日一番の展望を楽しんだ。
苦労して越えて来た十ニケ岳が感慨深い。富士山はもとより、黒岳や釈迦ケ岳、これから向かう鬼ケ岳。杓子山、大菩薩、甲武信、 国師、金峰、瑞満、茅ケ岳、八ヶ岳。甲斐駒など南アルプスの三千メートル峰全山、七面山、そして眼下に河口湖と西湖、離れて山中湖。はるかに北アルプス鹿島槍、五竜から白馬連峰までもうかがえた。視界の中に日本百名山がいくつあることか。20前後も数えられそうだ。

時間が気になり、ゆっくりしたい気持ちを振り切って山頂を後にした。
いったん金山まで戻り、鬼ケ岳へ向かう。黒々としたその姿はかなり距離がありそうだ。とてもガイドブックの20分では無理だ。20分は何かの間違いではないか。そう思いながら足跡をたどつて行くが、歩幅が合わなくてずぶっと落ち込んだりする。かなり急いだつもりだったが30分かかって、大きな岩が二つ、三つある鬼ケ岳の山項に立った。寒風が身を刺すようだ。

寒さと時間に追われ鍵掛峠への下りについた。このまま下りがつづくのかと思ったが、意外にもアップダウンの繰り返しで、疲れた足にはうんざりするような稜線だった。最後の突起かと思うと、また次の突起が待つという具合で、ようやく鞍部の鍵掛峠に降り立ったときは、心底ほっとした。ここも急いだのに案内書と同じ30分を要していた。  

予定していた3時のバスには、どんなに急いでも間に合わないので日だまりで休憩を取る。
雪と落ち葉が交互にあらわれるじぐざぐをひたすら下った。

根場のバス停で40分ほどバスを待つ。
夕刻の西湖のほとりは、汗で濡れた体に寒気がきつい。肌着だけは着替えたが、あとは上下汗で濡れたまま、靴の中も濡れて指先が凍える。電話ボックスの中に入って寒さをしのいだ。

(1990年2月記)


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