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山梨百名山 小川山(2418m) 登頂日1993.06.05
登頂年月日 1993/06/05 天候 曇り 同行者 単独 マイカー
瑞牆山荘(5.10)−−−富士見平(5.35)−−−瑞牆山分岐(5.50)−−−八丁平(6.30)−−−第一展望露岩(7.00)−−−第二展望露岩(7.20)−−−第三展望露岩(7.35)−−−小川山(8.00-.20)−−−八丁平(9.55-10.00)−−−大日小屋(10.15)−−−富士見平(10.45)−−−瑞牆山荘(11.00)


小川山山頂

奥秩父西端にひっそりとたたずむ小川山。2400メートルの高度を超えれば既に立派な中級山岳としてその名を知られてもいいはずなのに、意外にもマイナーな存在に甘んじている。私も信州百名山として始めて知った山である。
奥秩父の盟主“甲武信岳”にくらべても、その背丈ではたいして遜色はない。平凡な山容と主稜線から外れているという位置関係から、その存在が目に付きにくいのだろう。
そのような状況が幸いしてか、太古斧の入らなかった奥秩父山塊の原始の姿を、今に留める貴重な山域でもある。

早朝、瑞牆山荘前の駐車場からスタート。さすが高度1500メートルは肌寒い。雲量70パーセント、天気上々とはいえない。
ガイドブックによれば小川山は登山道も不明瞭で、熟達者以外は無理だと記されていた。天鳥川の瑞牆山分岐から先が気にかかる。
富士見小屋で金峰山コースと分かれて、瑞牆山への道を取る。道標に記されているのは『瑞牆山』だけ、小川山の表示はなく無視されている。

天鳥川へ下りきる手前で道は二分する。ここに小川山の道標があった。小川山へは右手につま先上がりの道がつけられていた。不安を打ち消すような、しっかりと踏まれた道がついている。
倒壊した建物のところで通が不明確になったが、探すと建物の脇に草に埋もれた道が見つかった。この後八丁平までは何ら問題はない。左手に瑞牆山の岩塔を仰ぎながらだらだらと登って行くと、大日岩との分岐の先で木材搬出用の古びた索道台座が苔を蒸していた。かつてこの付近で大々的な伐採作業が行われたのであろう。

手入れもされないカラマツ密生林の中、ぬかるんだ細道を行くと、そこだけコメツガ林が切り開かれたような空間がある。八丁平の標識が立っていた。このあたりから本格的な原生林の雰囲気が濃くなってきた。
八丁平の先から、道とは言えない荒れた感じになる。しかし歩く人もそこそこあるらしく、踏み跡はしっかりしているので迷う心配はない。苔蒸した風倒木が道を塞ぐのを、跨いだりくぐったり、何回となく繰り返す。倒木が折り重なったところでは、ルートを探す場面もあるが、テープやペンキマークが案内してくれる。

ひとしきり厄介な倒木帯をやり過ごすと、花崗岩の露岩に出た。露岩に登らずに巻いて行く道もあったが、その露岩に立って見ると、いい展望が得られた。あまり天気がよくないのが残念だが、それでも金峰山や瑞牆山が指呼の距離にあり、純白の衣装をまとった富士山の頭もとび出している。南アルプスや八ヶ岳は湿っぼい千切れ雲がまといついているが、群青色のシルエットで連なっていた。黒樹に覆われたゆるやかな円頂がうかがえる。変哲もない凡庸な山容、それが小川山であった。

再び原生林に覆われた道を行く。
奥秩父にあって訪れる登山者の少ない寂峰として、小川山の外にもう ひとつ和名倉山(白石山)がある。しかし和名倉山は既に全山伐採し尽くされて、昔ながらの深い原生林はない。ただ登山について言うなら、ルートファインデイングは小川山より難しかった。

露岩がその後2カ所あって、それぞれ好展望台となっていた。
シャクナゲが目立つようになる。それも大きくて立派な木だ。実はこの山行はシャクナゲも一つの目的だった。しかし花期には10日ほど早かったようだ。これだけの群生が満開になったらその見事さは想像に難くない。

今日の曇り空は、かえって苔で埋まる原生林の雰囲気を好ましいものにしているようだ。原生林全体がしっとりと潤い、苔がすべての音を吸収して、耳につくのはときおり響く小鳥の声だけ、幽邃無限のときがここでは肌に伝わって来るようだった。

本峰手前の小さなピークを越えて、急になった登りを一汗かくと目の前に三角点標石があった。赤ペンキで塗られた三角点は二等だった。標点の周囲が数平方メートルばかり切り開かれているだけで、遠目に見て想像していた広い山頂とはまったくちがうのが意外に思えた。周囲はシャクナゲ、その回りはコメツガの樹林が密生して展望はなかった。
ときどき雲間からこぼれる陽を受けてひと時を過ごしてから山頂を後にした。

下山は八丁平までは同じ道を取り、その先は大日小屋を経由して瑞牆山荘まで下った。
(1993年6月記)

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