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山梨百名山 蛾ケ岳=ひるがたけ(1280m)
登頂年月日 1994/03/13 天候 曇り 同行者 単独 マイカー
甲府南IC===三珠村向村登山口(6.10)−−−尾根上分岐(7.00)−−−蛾ケ岳(8.20-30)−−−尾根上分岐(9.00)−−−向村登山口(9.25)

雪化粧の蛾ケ岳山頂
『が』と読まずに『ひる』と読むのはおもしろいが、不思議でもある。なぜだろうか。甲府盆地から眺 めると、屋根形の特徴ある山頂で、すぐにそれと識別できる。同音の山が他に二つある。蛭ケ岳と日留賀岳で、いずれもすでに登ったことがある。
暗闇の甲府精進湖有料道路から三珠町への分岐がわからず、かなり行き過ぎてしまった。地図を頼りに有料道路と分かれて、夜明け前の谷あいの道を、市川大門町方向へ自動車を走らせる。ほとんど平地というものが見当たらない谷底を走ると、小さな集落が山の斜面にしがみつくように散らばっていた。5万図で向村と印刷されている場所に〒の記号があり、その近くに蛾ケ岳最短コースの登山道の点線が表示されている。

郵便ポストがなければ、とてもそれとは気づかない民家同様の建物が〒記号の郵便局らしい。
付近にあるはずの登山道がわからない。郵便局前のバス停留所名は『上九一色郵便局』 となっている。だけどここは上九一色村ではない。間違いなく三珠町である。狐につままれたような気持ちだったが、郵便局はほかにはない。
駐車スペースは少し先に適当な場所があった。
雨が降りだしそうな空模様、山は昨夜また新しい雪をかぶり、冬枯れの木々が鼠色にくすんでいた。
 
まず登山口を探さなくてならないが、谷川を挟んで点在する寒村の民家は、まだ寝静まって尋ねる人も見えない。
車道山側の擁壁に添った、幅数十センチのコンクリートの階段が目についた。高さ数メートルのその階段をあがって見ると、細道がその先へ続いていた。登山道かどうかわからないが、この道を行けるところまで辿ってみることにした。
少し歩くと今は放置された小さな畑が2〜3ある。道はやや傾斜を増して山の中へ入って行く。薮がかぶったりして手で払いのけながら進む。ハイカーの通うルートではなさそうだ。薄くなりながらも、細々とした踏み跡を拾いながら、じぐざぐに高度を上げ、雑木の薮を掻き分けると、ひょっこりと尾根に出た。尾根上には明瞭な登山道があった。道標はないが、地図と勘で右が蛾ケ岳への道と見当をつけた。
下山の目印を分岐の木の枝に結びつけてから、尾根道をゆるやかに進むと、桧植林の幼木帯となる。塩をまぶしたほどの雪が見えはじめ、やがて道はすっかり雪の下に隠れてしまった。

若木の林に変わるところで、注意すれば右折する道型があるのに、それを見落として直進してしまった。斜面をへつり気味の、道とも見えぬ微かな踏み跡を追い、桧の下をくぐる度に落ちて来る雪をかぶって真っ白になりながら「この道でいいのかなあ」と訝りながら進む。道は徐々に沢を目指して下降して行く。これは登山道とは違う。300メートルほどのへつりの後、間違えたことに気づいて引き返すと、右折して行く道型が読め、そこにはタヌキの足跡がついていた。この前、菰釣山でタヌキの足跡が登山道を教えくれたように、今回もタヌキに教えてもらうことにする。

桧林の中、だんだん傾斜はきつくなって行く。人間の足跡は全く見えない。この道は本当に蛾ケ岳へ行くのだろうか。
桧林を抜けるとミズナラなどの落葉高木帯となり、雪もかなり深くなって来た。登山道の道型が識別できるところもあるし、まったくわからないところもある。今歩いている地点がどこかよく分からないが、樹林を縫うようにしてタヌキの足跡を頼りに進んだ。
やがて登りが厳しくなってきた。樹間からこんもりとしたピークらしい様子がうかがえる。蛾ケ岳山頂が近いのかもしれない。新雪の下の凍結に足を滑べらせて何回も膝や手をつく。
急斜面では適度に締まった雪が、キックステップには最適な状態だった。軽く蹴り込むとスパっと靴先が雪を掴み、体重をかけても崩れない。気分のいいキックステップをしばらく楽しんだ。自由自在のコースどりを満喫しているうちに、稜線に飛び出した。稜線上には雪があるものの、明らかな登山道があり、すぐ先が小さなピークになっていた。しかしそのピークには蛾ケ岳を示すものは見当たらない。もう少し先まで足を延ばして様子を見てみることにした。新雪に足跡をつけながら、わずか下ってから登り返すと、そこが目的の蛾ケ岳の頂上だった。

山頂は寒かった。狭い山頂に真冬並の寒風が通り抜けている。粗末な山頂標柱、それにテーブルとベンチ、木の根元に石祠が一基半分雪に埋まっていた。西の方角が切り開かれて、四尾連湖が意外な近さに見える。大きめの池という感じだった。
天気がいいと眺望が素晴らしいというが、今日は遠望がきかずに、烟るような八ヶ岳の山影がのぞめるだけだった。
じっとしていると汗が寒気を誘いこみ、テルモスの紅茶で一服すると、足早に山頂を後にした。

下山は自分の足跡を追い、1時間足らずで今朝ほどの登山口へ降りた。
結局、今日歩いたコースには道標一つなく、簡単な山ではあるがルートファインデイングをしながらの登高は、それなりの満足感が残った。

(1994年3月記)


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