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東北百名山 南八甲田・櫛ケ峰(1517m)
登頂年月日 2000/07/31 天候 快晴 同行者 単独 マイカー利用
猿倉温泉(4.30)−−−矢櫃萢(5.25)−−−乗鞍岳分岐(6.40)−−−櫛ケ峰(7.40-50)−−−駒ヶ峰分岐(8.40)−−−乗鞍岳分岐(9.10)−−−矢櫃萢(9.50)−−−猿倉温泉===下北半島釜臥山へ

黄瀬湿原と櫛ケ峰・・・北八甲田より

八甲田にくらべてここは何と静かだうろ。すばらしい山歩きが待っていた。
今日は櫛ケ峰登頂後、下北半島薬研温泉まで行く予定にしている。 暗いうちにテントを畳み、酸ケ湯野営湯から登山口の猿倉温泉へ移動。
櫛ケ峰日帰りは、行程も長くハードとなるために、妻を残して単独行とした。

猿倉温泉敷地の奥に登山口があった。ここは春から初夏にかけての山スキー基地として名が知れている。
歩き始めてすぐ、猿倉岳への道を右に見送って、ちょろちょろと水の流れる沢状の道を行く。ほとんど勾配を感じさせないような緩い道がどこまでも続いている。苔むした石垣の跡が見えるし、登山道にしては道幅も広い。雑木や草がはびこってはいるが、どう見てもただの登山道ではない。下調べも不充分のまま出かけてきたが、これは旧陸軍が軍用道路として拓いた車道だったことを後で知った。この道は一 度も使用されないままに放置されてしまったらしい。
直登すればわけない登りを、勾配をゆるめて等高線に沿うように造ら れた道だから、楽ではあるが距離は滅法長くなってしまう。加えてぬかるみが多くて閉口する。少しでも早く下山したいので勢い足は速まる。1時間近く歩いたところで、左手に湿原の広がりが見える。標識はないが矢櫃萢である。その先の沢にかかるコンクリート橋は、真ん中から二つに折れたまま放置されているが、無用の橋はもう改修されることもないだろう。

相変わらずゆっくりとした勾配を、ひたすら足を運んで行くと、冷たい湧き水に出合う。体の芯まで涼気を呼ぶような冷たい水だった。さらに5分余でちょっと開けた平地が現われ、「湿原に入らないように」という注意看板の余白に、手書きで「乗鞍岳へはこの沢沿いを行く」と書いてある。  
乗鞍岳への沢コースを左に見送り、櫛ケ峰へはさらに緩い勾配の道が延びている。いったいどこまでつづくのかと思うような長い道である。意外に時間が稼げない。「9時半には下山出来るかも知れない」と妻に言ってきたのは、どうやら無理になってきた。場合によっては途中で引き返さなくてはなるまい。
乗鞍岳への分岐を過ぎると、コースは急に荒れ気味となってきた。道に張り出す潅木の茂みや笹のはびこりもかなり気になる。足元のぬかるみも相変わらずで、いちいち気にして避けてはいられない。草木の露で衣服はびしょ濡れ、ズボンの膝から下は泥だらけになっていた。 あまり快適な道にすると、入山者が増えて貴重な湿原など、自然が荒廃するのを避けるために、わざと荒れるにまかせるとう手段を講じているとも聞いた。

櫛ケ峰山頂、背後は北八甲田
ようやく潅木のトンネルのような不快な道を過ぎると、再び平坦な広い道に戻った。
潅木の頭越しになだらかな山容の櫛ケ峰が見えてきた。それにしてもまだ遥か彼方である。あそこまで行ったら、下山がとんで もなく遅くなってしまいそうだ。行こうか、戻ろうか。何が何で も登らなくてはならない山ではない。自問自答しながらも前へ進んで行 く。
駒ケ峰分岐地点で立ち止る。駒ケ峰に登って帰ることにしてもいい。し ばらく考えたが、やはり櫛ケ峰へもう少し進んでみることにした。
どっしりと、そしておおらかに構えた櫛ケ峰は、歩いても歩いてもなかなか近づいて来ない。 黄瀬沼の標識も横目で通り過ぎると、広大な湿原が目の前に開けてきた。黄瀬萢湿原である。櫛ケ峰に向けて木道が敷設されている。昨日の北八甲田では、既に花期を過ぎてしまった花々が、ここではまだふんだんに咲いている。とりわけ木道の周囲は、キンコウカが黄色一色に絨毯のように咲き競っていた。
長い木道が終ると、ようやく櫛ケ峰の山麓と言う感じになった。ここまでくれば、もう山頂を踏まないわけにはいかない。その先いくつか沢を渉る。矮樹のアオモリトドマツ帯の道を、正面の櫛ケ峰を左から巻くような感じで山項へと向かう。 トドマツの樹林を抜けると、視界が開けて花で覆われた草原に変わった。山頂まで視界を遮るものは何一つない。斜面を埋めた白のコバイケイソウ、黄色のミヤミキンポウゲが、色のハーモニー を歌い上げているかのようだった。
お花畑の中、丸太でしつらえられた階段となる。最後に壊れた階段を 足を広げて登り終ると、あとは山頂へと緩やかな道が導びいてくれた。
山頂までは所要3時10分を要した。しかし頑張った甲斐があった。
ニ等三角点の山頂からの展望は素晴ら しいの一語、北東北の名峰岩木山や岩手山、北八甲田の山々、遠く八幡平。十和田湖は朝霧の底に沈んでいたものの、眼下には黄瀬萢の湿原が広がり、思いもかけないすばらしい展望にいっとき酔いしれた。

黄瀬沼
時間を気にして、山頂こ長くは留まれなかった。 帰路、黄瀬泡入口の沼越しに、もう一度櫛ケ峰の山容に別れを告げ、猿倉温泉目がけて足まかせに飛ばした。
今日の登山は、現在の私の体力としてはエンジン全開で飛ばした内容で、普通に歩けば倍近い時間を要するのではないかと思う。
高岳などの北八甲田へは再度登りたい欲望は湧かないが、櫛ケ峰へは機会があったらもう一度訪れたいとの思いが強い。それだけ魅力に溢れた山ということだろうか。
いやになるほど人の多かった昨日の北八甲田に比し、この南八甲田は下山時に4人に出会っただけだった。
櫛ケ峰から下山し、念願の猿倉温泉で汗を流す。白濁色の温泉は、いかにも体に効きそうな気がする。湯上がりのビールが体の隅々にしみとおるようだ。
ねぶたの青森市から浅虫温泉を通過し、下北半島薬研温泉へ向かった。

(2000年7月記)


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