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東北百名山 丁 岳=ひのとだけ(1146m)
登頂年月日 1996/08/12 天候 晴 同行者 単独 マイカー利用
大平野営(7.00)===登山口(7.20)−−−丁岳(8.55-.9.00)−−−登山口(9.55)−−−大平野営場(10.10)

丁岳一等三角点と背後は鳥海山

東北地方渓流釣りの息子たちと合流、大平キャンプ場に泊ったおりに登頂した。

特異の形をした丁岳は、キャンプ場から手に取るように眺められる。 昨日も鳥海山登山の帰り道、笹子峠付近から見た姿も、すぐに丁岳 とわかるほどその形は目立つものだった。

丁川沿いの林道を2〜3キロも行けば、そこが登山口というのに、その登山口をうっかり見落として、どんどん奥へ進んでしまった。自動車をUター ンさせて戻ると、丁岳登山口の標識をすぐに見つけることができた。自動車が数台駐車できるスペースがある。
自動車から一歩外に出たとたん、アブが群がってくる。またたくまに自動車の回りはアブの大群に取り囲まれてしまった。
アブに追われるようにして登山道へ入った。林道から少し下り、丁川にかかる橋を渡る。イワナが釣れそうなきれいな渓流だ。
橋を渡るとすぐに急登がはじまった。最初のうちは小さな起伏があったが、その後はどこまでも一本調子のきつい登りがつづいている。マイペースでどんどん高度を稼いでゆく。ブナの原生林がいかにも豊かな山を感じさせる。目を洗われるようなこうした雰囲気は、半面今にも熊が出てきそうな不気味さも持っている。どこかに熊の爪痕でもないかとブナの幹に目をやりながら歩いたが、それは見つからなかった。

こんなアプローチの不便な山へ登る人も少ないだろうと思われるのに、登山道の状態は良い。道標こそないが、迷ったりするおそれはまったくない。
尾根は痩せて、両側は谷に深く切れ込んでいるが、広葉樹林の森はその険しさを、穏やかなものに変えている。注意して鳥海山と思われる方向を見ると、樹林の透き間からときどき残雪まだらなその山影を見ることができるが、コースは概ね樹林に遮られて展望には恵まれない。

“もうそろそろ水場に到着するころだが”と思ってから、その水場まで長かった。どうも頭の中のコース予想とはだいぶ違う。
連続した急登がいったん緩んで、岩の露出した断崖の上に出ると涼しい風が吹いて来た。岩を越えたところが水場だった。水場とはいえ、澱んだ水はそのままではとても飲めるような代物ではない。
水場から山頂まではたいしたことはないと思っていたが、高度計を見るとまだ400メートル以上ある。ふに落ちない感じだったが、再び水場からはじまった急登に汗を流して登って行った。
勾配はさらにきつくなり、足場もやや悪くなって来た。 一歩一歩路み締める急登に体力を消耗する。妻たちには『ほんのちょいちょいのコースだよ』と言って一緒に登るのを勧めたが、連れてこないでよかった。鳥海山登山の翌日では、途中でばてたにちがいない。
息抜きになる展望も、目を楽しませる高山植物もなく、足元を見ながらただひたすら登るだけの山では、妻たちにとってあまり楽しい登山にはならないだろう。

思いのほか時間がかかって、ようやくピークが近づいたのを気配で感じたとき、頭上から人の話声が聞こえて来た。笹を分けて登りついた山頂に3人の男女がいた。
一等三角点からの期待の展望だったが、潅木が目隠しとなって期待が外れた。鳥海山は7合目から上をのぞかせていたが、山頂は雲に隠れて、優雅な全容を目にできず、大いにがっかりさせられた。東側が少し開けて展望があり、山並みが連なっていたが、 どこの山かわからなかった。(後で調べてみると、どうやら神室山方面だと推測された)

入れ違いに下山して行った3人の後を、追うようにして山頂をあとに した。
頂上から少し下ったところで、脇道に入ってみると、山頂では見ることのできなかった、鳥海山の全容を展望するこができた。独立峰さながらに、悠然と孤峰を誇っている。まさに東北の名山というにふさわしい威厳であった。

同じ道を足に任せてどんどん飛ばす。膝への負担が大きいので、筋力のない人がこんな下り方をしたら、たちまち膝を痛めてしまうだろう。 先行の3人もびっくりするほど足早だったが、それも追い抜いて、55分で登山口まで下ったしまった。

登山口に標識が1本あるだけで、途中には道標ひとつない。いかにも東北らしい地味な山だった。寂しいほどに静かな山だった。

(1996年8月記)


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