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東北百名山 会津駒ケ岳(2132m)
登頂年月日 
1996.09.15
天候 小雨→晴 妻・長男の嫁 マイカー 駒ケ岳一等三角点
中門岳三等三角点
桧枝岐村登山口(6.05)−−−休憩2回計15分−−−水場(7.40)−−−休憩2回−−−駒の小屋(9.10-9.25)−−−駒ケ岳(9.40)−−−中門岳(10.20-10.35)−−−中門の池−−−駒の小屋(11.35-12.00)−−−水場(12.55-13.05)−−−滝沢登山口(14.05)

中門の池
会津駒へ最初に登ったのは8年前の7月初旬、稜線は残雪に覆われているときだった。

今回は妻、長男、そして長男の嫁H子の4人。ただし長男は伊南川での渓流釣りが目的で、山へ登るのは3人。
西那須野、塩原、会津西街道、舘岩町と夜の闇を順調に走って、登山口のある桧枝岐村へは6時前の到着だった。渓流釣りの長男に滝沢登山口まで送ってもらう。

霧雨が舞っている。朝霧は好天の兆しと思いたいが、どんよりと湿った空気の肌触りは、少々悲観的な気分にならざるを得ない。下山時刻を午後1〜2時の約束にして長男と別れ、われわれ3人は駒ヶ岳へ向けて出発。
林道から登山道取りつきの階段は、がっしりしたものに作り変えられていた。前回単独のときは、登山競争でもしているかのように、半ば駈けるようにして登っていった。山頂を踏むことだけが目標であり、それがガンとの戦いであり、ガンに克つことだと言い聞かせて、がむしゃらに歩いたものだった。

霧雨はなかなか止んでくれない。ときどき薄日がこぼれたりするが、梢からの滴か、あるいは雨なのか、着衣を濡らす。暑いのを我慢して雨具をまとう。登山経験のほとんどないH子だが、何とか頂上まで連れて行ってやりたいと思う。
雨滴の落ちる道を、H子に合わせてゆっくりと登って行く。それでも他の登山者とほぼ同じくらいのペースだ。妻とH子は足より口のほうがよく動く。「山に来たら山と語り合う気持ちで歩くのがいいよ。花や小鳥や樹木なんかが、一生懸命われわれに語りかけているのだから。そうすれば足元の小さな花だって見落とすことはないし、山から帰っても印象がいつまでも残るから」そんなお説教をしながら40分ほど歩いたところで休憩にした。

次は水場まで登って休憩の予定だったが、くたびれた様子にその手前で再び休憩にした。暑いより濡れた方がましと、雨具を脱いでTシャツ1枚になっ た。
2回目の休憩から5分も歩かないうちに第一ポイントの水場に到着。コー スタイムより少し遅い程度で、この分なら予定の時刻、午後2時には下山できそうだ。
水場を過ぎたころから登山道はぬかってきた。二人ともズボンの裾を泥で汚すが、私の足元はきれいなものだ。歩き方がちがうようだ。

今日の登山は山頂までの標高差が約1000メートルというところ。私の足なら2時間が目処だが、倍の4時間を見ておくのが無難だ。樹林はブナ林からコメツガに変わった。いくらか明るさを増して、ときどき陽がこぼれてくる。水場から50分ほど歩いて休憩にする。

ダケカンバが見えるようになり、高度を上げて来たのがわかる。上空はさらに明るさを増して青空も少しだけ見えてきた。
コメツガの背丈が低くなって、たおやかな山並みが見え隠れしてきた。 「ほら、駒ヶ岳だよ。もうすぐだ」と声をかけたが、それほど近くには見えないらしい。

半分泥に埋もれかけた木道を拾っていくうちに、しっかりとした木道に変わって来た。一部霧をまとっていた駒ヶ岳は、次第に全身をはっきりと見せるようになったきた。中門岳への穏やかな山稜が印象的だ。
駒ヶ岳を正面に見る小湿原で、景色を眺めながら休憩にする。イワイチョウは黄葉し、イワ ショウブの穂花が風にそよいでいる。

森林限界を超えて駒ノ小屋へ向かう。木道沿いをチングルマの穂が埋めつくしている。
駒ノ池は登山者で賑やかだ。駒ヶ岳山頂へ足を運ぶ登山者の姿が点々とつづいている。ひと休みしてから山頂へ向かった。
標高2000メートルの草原は、すでに狐色の秋色に染まりはじめ、秋本番を迎えようとしていた。「H子さんはこの1年で日本百名山を3つ登ったことになるね。木曽駒、鳥海、この会津駒ヶ岳。すごいね」およそ登山とは無関係の20数年を過ごして来たH子には、これは劇的な出来事かもしれない。

最後の急な木段を登り切ると、『会津駒ヶ岳』の立派な標柱の立っ山頂に着いた。山頂は樹林に囲まれていて展望はない。
二人はここで引き返し、私だけ中門岳を往復するつもりでいたが、まだ余力があるというので一緒に行ってみることにする。実はこの山の魅力は、ここから中門岳にかけての稜線にある。本当に美味しいところを食べ残してレストランを後にするようなことをさせたら可哀想だ。
大きな起伏もなく、木道を伝っての雲上散歩。池塘が点在し、広闊な眺めが展開する。チングルマやミヤマキンポウゲの花もたくさん見られる。池塘は空の色を吸いこんで、草原に青い鏡をはめ込んだように光っている。別の池塘は黄葉したイワイチョウの群落に取り 巻かれ、すっかり秋の気配を濃くしている。  天候回復の兆しを喜び、花に見とれながら雲上散歩を楽しんでいる間に中門の池に着いた。そこから一投足、木道の途絶える中門岳の山頂まで足を伸ばして休憩にした。
思いもかけず、結局3人とも中門岳まで歩くことができた。正面に見えるのは大戸沢岳、その向こう藍色に連なるのは帝釈山塊だろうか。

帰りは駒ヶ岳の山頂は巻道でパスし、駒ノ小屋へ戻ると、あたりは登山者で溢れかえっていた。時刻も予定どおりの11時半。食事休憩を30分ほどとってから、滝沢登山口へと下った。

(1996年9月記)


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