いつの間にやら城を取り囲んだイボカエル共を見下ろしながら、窮地のスナッチは食後のデザートその2の銀ハエのプティングを平らげた。


「で? どうすべきだと思う?」


とりあえずスナッチは、役に立ちそうもない部下一号ピヨコックと、二号ゲトゥに尋ねる。


「降伏すべきだゲロ。ラヴ&ピースだゲロ」
「わ、若、降伏はなりませぬ。ビッキ族の誇り、地にまみれさせては……、ところで、儂はもう晩飯を食べましたっけ」


ゲトゥは短絡的に降伏を勧めたが、歳の相応にボケ丸出しのピヨコックがそれを頑なに拒否する。


「若、どうか出陣の命令を! ところで、ムニエル……は?」
「いや、でも……、どう見ても勝ち目がないだろ、これは……」


スナッチは珍しく冷静に、そう感じた。
全カエル族中、最も好戦的なイボカエル族相手では、英雄の血を引くビッキ族といえども分が悪い。


「し、しかし、降伏しては若の権威が……、あの、だから晩飯食べましたっけ?」


スナッチはピヨコックのボケは完全にシカトした。

 
「言うな、じい。それくらい、俺とて分かっている……、だが、どうしようもない時もある」
「そうだゲコ。潔く白旗挙げるだゲコ」
「なりませぬ!!」


ピヨコックはボケながらも食い下がる。
議論が停滞する中、突如、ゲトゥが、


「ゲコ、殿。一応ですが、妙案があるんだゲコ」


苦悶の表情を浮かべたスナッチとピヨコックの合間に、割ってはいる。
彼はパイプをふかしてから『ムフー』と嘆息を漏らし、言う。


「御馳走を振る舞って懐柔するゲコ。イボカエル族は料理が下手だから、きっと食い付くと思うゲコ」


それは意地汚いカエルの本質を突いた、実に見事な妙案だった。
スナッチも思わずうなる。


「おお、ゲトゥ! 実にグッドアイデア!! 見直したぞ!!」
「ていうか、もっと早く言え。もう、連中が城に攻め込んできてますぞ!!」
「……マジで?」


スナッチは更にアマガエルみたいに真っ青になる。


「さ、作戦を急げゲトゥ!!」


そう言いつつ、スナッチは風呂敷を担いで夜逃げの支度にかかった。
ゲトゥはそれを横目にしつつも、とりあえず、


「わ、分かったゲコ!!」


と、敢えて焦った素振りを見せながら、調理に取り掛かった。






イボカエル族は勝利を確信していた。
ゴワイトロースのカエル共は戦いもせずに、早々と降伏していく。
シノシスはほくそ笑んだ。


「圧倒的ではないか、我が軍は!」
「父上、ここの占領は終了したゲー」
「カエル言葉は止めろ!!」
「しゅ、終了したであります」
「ウム!!」


満足げにシノシスは頷いた。


「このまま一気に玉座へ向かう!! スナッチのチンカスの、真っ青になった顔が浮かぶぜ、ゴルァ!!」
「イェッサー! 全軍前進ッ!!」


イーボの指示で、統制のとれたイボカエル達は動く。
彼等は一直線に王座を目指した。
ところが、途中で進軍速度が鈍る。


「何事だ、ゴルァ!?」


突如、進軍を停止した軍勢に戸惑いながら、シノシスはいつものように怒声と恐怖で軍を動かそうとした。
しかし、止まった行軍は岩の如く、微動だにしない。


「何だと!?」


シノシスは慌てて前線へと躍り出た。
そして、愕然とした。
そこには酒池肉林にはまり、ハングリー精神を失ったイボカエル族の戦士達がいた。


「何だこれは!!??」
「8番テーブル、イナゴ焼きそば!!」


ウエイトレスとして駆け回っているのは、所謂、チンカス君主のスナッチと老いぼれピヨコックのビッキコンビ。
そして、パイプをくわえたゲトゥが軽快に料理を仕上げていく。


「な、な、何をしてる!! 戦え、戦えってんだよ!!」
「ケロォー、何か面倒臭くなったケロ」
「そうだゲコ」
「クーデターより、旨い食い物だケロ」
「ていうか、戦いなんてかったるいゲコ」


完全に脱力した兵隊達は、怒鳴り散らすシノシスをシカトして、美食に耽っていた。
シノシスの声は最早、彼等には届かない。
カエルは食事を始めると、頭の中身が豆腐になる。


「テ、テメェ等……!」
「父上、不味いゲー!? 衛兵が集まって来たゲー!!」
「カエル言葉は止めろ!!」


シノシスは苛立ちから、再びイーボを鉄拳制裁した。


「チィッ、役に立たねぇなぁ、オイ!!」
「ゲーコゲコゲコ、シノシス君。戦には頭も必要なのだよ」


スナッチが勝ち誇った顔で言う。
第1次ネバーランド大戦で顎で使っていたカエルに言われて、シノシスは赤みかかった顔を更に紅潮させる。


「クソッ、覚えてやがれッ!!」


結局、シノシスには今はなき尻尾を巻いて逃げる他なかった。
スナッチは勝ちどきをあげる。


「ゲロゲロゲロゲロゲロ〜」


第1ラウンドはスナッチ側の勝利で終わった。
満腹になったイボカエル族の兵士達も、何をしようと思っていたのかを忘れて、皆、帰宅の途に着いた。
カエル族は得てしてこういう気質の持ち主なので、危機的状況も緊張感も長続きしないのであった。