ゴワイトロース ムラサキ・カエル族陣地


陣幕の中で、エジムは腕を組んで戦術を練った。
脳味噌の中身がクリーム状のカエルでも、憎悪があれば頭がフル回転する。


「腫瘍(マダラ)共は、逆落としにてこちらを攻める気だゲゴ」
「フン、高台に陣取れば勝てるとでも思ったか、馬鹿めがッ!」


エジムは装飾の付いた、煌びやかな指揮棒にて地図を叩く。


「麓の要所を奪取し、奴等を孤立させるジム! そして、持久戦に持ち込む、連中に散々日光浴させて、干涸らびさせるジム!!」


カエルとは思えない、理にかなった作戦をエジムは叫んだ。
この知能が外敵にも生かせれば、カエルの世界征服もあながち絵物語ではなくなるのだが。


「我等は水がなければ戦えないジム! それを、わざわざ高台というだけで水気のない場所に陣地を置くとは、所詮はマダラ、ジムね!!」


エジムは開戦の前から、勝ち誇っていた。






同時刻 ムラサキ・マダラ・カエル族陣地


同じように、ゲインガも両腕を組んで悩んでいた。


「逆落としで攻めるには、短期決戦に持ち込む必要があるンガ」


水の供給が滞るのはある程度、予測の範囲内。
それでも、これからは雨期、よっぽどの空梅雨にならなければ、戦闘続行が可能ではないかと、ゲインガは打算を抱いた。
勿論、理想は短期決戦に持ち込み、相手を一気に殲滅するのがベストである。
その為にはマダラもない半端物共を、何とか挑発して会戦に持ち込む必要がある。
そうすれば、高所の利があるマダラ・カエル族は、まず負けない。


「奴等とて、持久戦に持ち込もうとする筈ンガ。ならば、動かなければならない理由を作れば良いンガ……」


ゲインガは待つ。
イボ・カエル族に送り込んだ密偵を。
イボ・カエル族がもしもマダラ族と手を組んでくれるとしたら、この戦は勝ったも同然だ。
彼等とは同じイボ友達だし、王位を認めるといえば、短気なシノシスは乗るに違いない。


「ククク、圧倒的ンガ、我が軍は……」


独裁者スマイルを浮かべながら、ゲインガは一人悦に入った。






ゴワイトロース オヤマの隠居先


オヤマは第一次ネバーランド大戦を戦い抜いたという、ある意味“フロッグ・オブ・フロッグズ”で、ゴワイトロースではブロマイドが馬鹿売れする程のカリスマである。
そんな彼も、晩年、王位に飽きて隠居。
王位を退く際、彼は熱唱した。


『かえーれるんだ〜これでただのカエルにぃ〜かえれるんだ、これで〜かえーれるんだ〜あぁぁぁぁぁぁ〜ライラライライアイアラライライアライアライアライアライライアライライアライララ〜!!』


アリスの“チャンピオン”の替え歌だとは誰にも分かって貰えず、寂しく後継に無責任にもスナッチを指名して(多分、その場の思いつき)、彼は勇退した。
今では昔馴染みのタパーシと密着しながら、釣りをして気長に暮らすただのカエルである。
そんな彼の下を尋ねる影が二つ。


「オヤマ殿ぉ、御助力願いたい!!」
聞き覚えが微かにある声。
光陰矢のごとしと、そこには逞しくなったかつてのオタマジャクシがいた。
しかし、オヤマにはあまりの変わりように誰かはさっぱりだった。


「いや〜、だーれですかぁ?」
「スナッチであります! こちらは、下僕のエセトノであります!!」
「おお、おお、スーナッチ君ですかぁ。これまた、ビーッグになぁ〜りましたねぇ」


間延びした口調で、ほのぼのとオヤマは言った。
そのオヤマにスナッチが近付く。


「是非とも御助力を! 今や、祖国の危機であります!!」
「それまた、たーいへんですねぇ〜。どーしましたぁ〜?」
「人間共が攻めてきて、国民の半数が死亡! 今やゴワイトロースは陥落の危機であります!!」


ネコ族が王の帰還の為に言った嘘と偶然にもまったく同じ嘘を、スナッチは吐いた。
彼としては何が何でも、オヤマに御出陣願いたかった。
何せ、カエルの中では最も顔が利く。


「そ、それは、たーいへんですねぇ!!」
「すぐ出発の支度を!!」
「い、いや、しーかし、おーういは君に譲ったですよ〜」
「オヤマ殿だけなのです、今の危機を救えるのわ!!」


『貴方だけ』が、詐欺師が呟く最も重要なキーワードである。
この言葉の魔力は、普段、必要とされていなかった人間の劣等感や孤独感を打ち、優越感を鼓舞するので、悪徳商法は如何にしてこの言葉の魔力を引き出せるかにかかっている。
実に多岐に渡って有用な言葉なのだ。
現に、オヤマは重い腰を上げた。


「し〜かた、あーりませんねぇ〜」


ここに全ての役者は揃った。
ムラサキ族、マダラ族、そしてオヤマを盟主とするビッキ族の三つ巴の戦いの幕が、切って落とされとしていた。