魔導世紀1030年6月 ベクトリア
グラーツは一ヶ月間、まったく戦闘状態に陥らない状況に苛立ちを覚えていた。
だから軍事演習で汗を流しまくって、調子こいてベルヌーブに攻め込もうとし、サーシャに焼かれた挙句、縛られ外に吊された。
『明日の天気でも占って下さい』
最後にサーシャはそう言った。
つまり、雨期のこの時期、グラーツはてるてる坊主にされたのである。
その甲斐があったのかどうか、天候は見事に豪雨になった。
「しゃ、洒落にならんとねー!!」
スコールの中、グラーツは絶叫する。
何度も何度も叫び続ける。
身体はクラッカーかブランコのように激しく横揺れする。
そして、何度も何度も砦の壁に叩き付けられる。
このままでは“グラーツのタタキ・ペトゥン風味”になってしまう。
「死ぬ、しむぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!? ぶべぼっ、たーすけてくんろ〜!!」
顔面からサービス気味に出血し、いつも以上に多く回り、グラーツは死を覚悟する。
「うるさいですね」
そこへサーシャがやって来た。
降ろして貰えるかと思うと、彼女はグラーツ目掛けて氷塊を飛ばした。
「あべしッ!?」
「てるてる坊主が喋ったら駄目でしょう? 黙って吊されてなさい」
失神したグラーツを尻目に、サーシャは冷徹にそう言い捨てた。
まさに鬼畜外道の所業である。
グラーツが中途半端にタフな所為で、最近、よりバイオレンスになってきた。
「しかし、雨ですか。そろそろ、油断出来ない時期ですね……」
魂が抜けかけているグラーツを横目に、サーシャは思案する。
カエル共が攻めてくるのは、まず間違いなく雨期。
そして、十中八九、豪雨の日だ。
カエルとて晴天に攻めてくるほど、馬鹿愚かではない。
「その時は、貴方にも頑張って貰うとしましょう。ね、グラーツさん……」
白目剥いているグラーツから返事はなかった。
そんな彼をそのまま放置して、サーシャは政務へと戻った。