翌日。
 ジェイダは案の定、グロッキーになっていた。
 一方、タライを抱えて胃液まで吐いている彼の横では、無性に元気なバイアードが朝のダンベル体操をしていた。
 どういう分解酵素を持っているのか知りたいほど、バイアードは元気だった。

「おう、青白い顔がより青白くなってるぜ?」

 暢気にバイアードは言った。
 ジェイダはというと、昨日、予想した通りに中途半端に良い記憶力の所為で後悔の念に苛まれていた。

「(何が青春の炎だ!)」

 昨夜の自分の発言を思い出す度に、ジェイダは死にたくなった。

「(もっと繊細な問題だろうが!!)」

 リュンベルクには微かに、だが強く残留の意思がある。
 しかし、ひねくれ屋で乱雑な彼にそれを問い質せば、きっと彼は出奔してしまう。
 そういう性格なのだ。
 それでいて寂しがり屋でもあるから、始末が悪い。

「(やっぱり地道に説得するしかない、か……)」

 ジェイダがそう思った矢先に、事件は起こった。
 酒場に息を切らして飛び込んできた同僚が、ジェイダとバイアードの二人に急変を告げる。

「あ、いた! た、大変よジェイダ!!」

 入ってきたのは昨夜、やり玉にあげられたフォルティアだった。
 呼吸を乱し、眼を閉じて荒く息を吐き散らし、それでも彼女は必死で用件を伝えようとする。

「あ、バイアードさんも一緒……、と、とにかく大変なのよ!!」
「まあ、水でも飲んで落ち着け」

 バイアードは冷静に――というか、無頓着に――彼女に水を与えた。
 フォルティアはそれをクピッと一気飲みしてから、言う。

「あ、あ、リュンベルクがね……」

 ジェイダは挙がった親友の名前とフォルティアの顔色から、悪寒と目眩を感じてしまう。
 出来ればその次は言って欲しくなかったが、フォルティアははっきりと大声で言った。

「ロゼ様を人質を取って、政庁に立て籠もったの!!」

 ジェイダは眼をひんむいて、卒倒してしまった。