「まあ、丸く収まったから結構じゃねぇか」

 ロゼから事の一部始終を聞かされたバイアードはそう言った。
 彼はロゼが最も難しい選択肢を選び、且つそれを成功させた事に感嘆する。

「口先だけじゃない、って訳だな。流石だぜ」
「大変でしたよ……」

 どさくさ紛れにスカートを覗かれたエティエルは、思い出し赤面しながら言った。
 あれ以来、わざとではなかったのだろうが、ジェイダが汚物に見えて仕方がない。

「まあ、お前等がいれば大丈夫だと思ってたけどな……」

 ジェイダに驚きすっ転び、ずっと気絶していたなどとは口にも出せないバイアードであった。




「なんかさー、あれだけの事しでかしといて、普通に残留って、どうよ?」

 アレクサンドラはフォルティアにそう尋ねた。

「ロゼ様が信じたなら、私も信じるわ」

 フォルティアの答えに、アレクサンドラは『やれやれ』といった風に肩をすくめる。

「これだから、困るわ、お子さまは……」
「でも、アレクサンドラもそう思って残留したんでしょ?」
「私は今回の件も含めて、色々と面白いものが見れると思ったから残ったわけ。そこら辺、一緒にしないでくれる?」
「フフ……、そういう事にしておくわ」

 フォルティアが悪戯っぽく笑う。
 アレクサンドラは『違うって言ってるでしょ!』と声を荒げてから、何を思ったのかゲラゲラと笑った。
 ひねくれ者の自分に対して。




 さて、当事者となったリュンベルクはというと、あの事件以来、ロゼの事が気になって夜も眠れない異常事態に陥っていた。

 ――ロゼ……

 彼女の事を想うと、柄にもなく溜息が漏れる。
 そんな恋人を、ジェイダは嫉妬混じりに眺める日々を送っていた。

 ――さては、好きな女が出来たなッ!!

 相手の名前さえ分かれば、藁人形がすぐに作れるのに、リュンベルクはそんな事は決して表に出さない質故に、苦悶する羽目になる。

 ――おのれぇ、何処のどいつだ!? こんなひねくれハムスターを虜にした悪い女は、何処のどいつだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!

 悪い女と決めつけている辺りに、ジェイダの嫉妬の激しさと狂いっぷりが如実に表われていた。

「おい、ジェイダ。何してる、出撃だぞ?」
「ん? ああ、悪い悪い……、ちょっと考え事してた……」

 表面上は取り繕いつつも、ジェイダはリュンベルクをポケットに詰め込んでそのまま連れ去りたい衝動に駆られていた。

 ――そうすれば、ずっとリュンベルクは俺のものぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!

 報われがたい想い故に、疎外され続け白眼に晒される想い故に、より強くジェイダは胸に刻み付けた。
 誰よりも純粋にリュンベルクを想っているのは、やはりジェイダなのである。
 方法や手段には、多分に間違いがあったとしても。
 二人は親友、そしてジェイダは常に一方通行でしかない想い。
 同性愛で相思相愛というのはまずないのだ、だから悲劇的になる。
 それでも、ジェイダは進むしかない。

「新生シンバ帝国は強敵だ。気を付けろよ、リュンベルク」
「ああ、負けはしないさ。でも、復讐の為でもない……」

 リュンベルクは堅い決意を示すかのように、剣を掲げる。
 そして勝利を祈った。

 ――俺を信じてくれた、あいつの為に……

 その時、リュンベルクの脳裏に浮かんだのはロゼの顔であった。
 それをジェイダは知る由もない……