メキシコ・花売りの女の子

 2ヶ月滞在したグアテマラを離れ、陸路メキシコに入国した。各地を旅し、メキシコシティまでやってきた。 そこから北はグワナファトしか訪れていない。機会があったら是非旅してみたいものだ。 あくまでも今回のメキシコの旅は「マヤ遺跡」が目的で、しかもこれから中米を抜け、 南米を目指すのが主目的だったのでそれ以上、北上できなかった。

 ということで、戻るようにユカタン半島に向かった。ウシュマルやチェチェンイツァーの基点、 メリダを目指したが、徐々に暑さが増していく。そんな土地のひとつがベラクルスだった。

 ベラクルスに到着するなり、強烈な暑さを感じる。即座にビールが飲みたくなった。 ちっとも温度が下がらない夜の街に繰り出し、オープンカフェ風の店に入る。というより、 屋外なので入るとは言わないか。海外ではこういった感じの店が多いので、とてもいい。 ビールも水の如く、胃に流し込まれていく。雰囲気がいいと暑さと絡まって美味さが倍増する。

 そんなとき、ひとりの花売りがやってきた。高校生ぐらいの女の子であろう、各店に出された テーブルを渡り歩き、花を売っていた。
「花を買ってもあげる相手がいないんだよね」
そう言うと、定番ともいえる答えが返ってきた。
「じゃあ、私に買ってちょうだい」

 俺はキザな男ではないので買うことはなかった。その娘はしばらくそこにいたが、いつしか去っていった。 この店で働いていた東洋人風の店員さんとしばしおしゃべり。おじさんだったが、なかなか面白い人だった。

 3杯目を飲み終え、つまみにマリスコス(海鮮料理)でも食べたいなぁ、なんて思っていた頃、 先ほどの花売りの女の子がやってきた。さっきは花を持っていたが、今回は手ぶらだ。
「隣に座っていい?」

 断る理由が見つからなかったので、自由にさせた。結構長々と話をしたように思う。 ありきたりなことから、俺の好きなラテンの音楽のことまで。ディスコテカにもよく行くと言ったら、
「私いいとこ知ってるから連れてってあげる」

 「まだ時間的に早いんじゃない?」
確かに今日は土曜日だったが、盛り上がっているような時間ではなかったので、そう答えた。 にも関わらず、半ば強引に連れ出されてしまった。何なんだ、この子は?

 案の定、案内されたディスコテカはまだ閑散としていた。ちょっと踊ってみたが、やっぱり気分が盛り上がらない。
「やっぱまだ早いね」

「regalo(プレゼント)」
と言ってキスをしてきた。あっけにとられているのもつかの間、
「仕事に戻らなくちゃ」
彼女はそう言って去っていった。名も知らぬ17歳の女の子だった。何が目的だったんだろう?

 俺はその後もカマロン(エビ)のマリスコスを食べたり、違うバルでビールを飲んだりした。 そこではゲイのオヤジに捕まり、何とか逃げ切った。俺の恋愛対象は女性だけだぁ~。

 この夜はビールをたらふく飲んだ。数えたら10本空けていた。この街がそうさせたのだ。 いろんな意味で熱い街だ。観光するような街ではないかもしれないが、 雰囲気がとてもいいところなので、1日だけでも滞在してみる価値はあると思う。