暁のアグアス・カリエンテス

 ペルーといえばマチュピチュ遺跡。そのベースとなるのがアグアス・カリエンテスだ。
 ド直訳すれば『熱い水』、つまり温泉のある町。

 この小さな町に滞在して3日目。通常、長く滞在する場所ではないが、マチュピチュは自分にとってNO.1遺跡なので、そのそばに少しでも長くいたかった。

 晩飯はいつも『Chez Maggy(チェスマギィ)』というところで食べていた。
 正直、ここの料理は余りおいしくないのだが、ここは前回のペルー旅行でいろいろ思い出があったので利用していた。

 毎晩訪れていたので従業員とも仲良くなり、今夜11時に仕事が終わるからその後飲みに行こうということになった。
 いったん宿に帰り、約束の時間に店に行くと、まだお客が残っているのでしばらく待たされたが、数杯ドリンクをご馳走になった。

 2、3人と飲みに行くんだろうなぁ、と思っていたのだが、集まってみれば『チェスマギィ』の店員数名、その他女の子数名が集まった。
 お互いの将来の目標、異性のこと、フジモリのこと、その他諸々多くのことを話した。
 奢れば奢り返され、何とも打ち解けた感じになり、ふと時間を確認すれば4時を回っていた。

 充分満喫したのでそろそろ宿に戻ろうかなぁと思ったが、きっかけがつかめない。
 そうこうしているうちに、みんなで『チェスマギィ』の店に侵入。おいおい、大丈夫なのか?
 明かりはつけずに、蝋燭だけ灯したテーブルにつく。サングリアをみんなで回し飲み。

 さらに一人づつ面白い話をしていくという、なんだかよくわからない大会が始まる。
 自分も何か日本の面白話について話せといわれたが、改めていわれてもすぐに思いつかないし、もし浮かんでもスペイン語で表現する自信がなかったので勘弁してもらった。
 これでお開きかなぁと思ったのもつかの間。店を出て今度は『baños(温泉)』へ。マジでか?

 一緒に飲みにいった女の子の一人に温泉のチケット係がいた。そのコネを利用してみんなでタダ風呂。
 実は自分が外人であることがバレたのだが、みんなが説得してくれて自分もタダになった。

 それにしてもこんな朝っぱらから開いていたなんて。いわゆる朝風呂って奴だ。もちろん観光客などいない。
 地元の人しかいなかった。ちなみに地元料金があることもこのとき知った。

 ここにくることを想定していなかったので海パンを持参してなかった。
 ある青年が貸してあげるといったが、人のはどうにも着用する気になれなかった。
 トランクスをはいていたのでこれでもいいかなと聞いたら、問題ないだろということでそれで入浴した。

 それにしても酔っ払いながら背泳ぎしてみる暁の空。何ともいえなかった。
 『泳ぐのは禁止だよ』とチケット係の女の子に怒られた。彼女は笑いながら禁止と書かれた看板を指差した。
 本当だ、気がつかなかった。といいつつ、あまりに気持ちよかったので仰向けに浮かぶことだけはやめなかった。

 なんにしても気持ちのよい若者たちだった。しかし、彼らはこの小さな町から抜け出したがっていた。
 この町を出るために地道に貯金している者、将来弁護士になることを夢見ている者。
 一時期だけここに訪れている自分、長きにわたりここで生活している人たち。
 マチュピチュに対する『温度差』を感じるひと時でもあった。