アメリカ人弁護士の素顔

 アメリカのマイアミからグアテマラシティへ向かう飛行機で、隣の席になったアメリカ人弁護士の話をしよう。

 どちらから声をかけたのかは覚えていない。
 ただ、知的でソフトな語り口、聞けば弁護士という。
 英語が苦手でスペイン語のほうが得意だと言うととても珍しがっていたが、彼もスペイン語を話すことができたので会話にそんな問題はなかった。

 グアテマラでの滞在場所は決まっているのかと聞かれ、いいや、と答えると、これまた珍しがった。
 自分は今まで個人旅行で宿の予約などしたことがない。それが当たり前だと思っていた。

 すると、彼は『じゃあ自分が予約入れているホテルにきなよ、招待するよ』という。
 丁重に断ると、危険だからとか、お金のことは心配しなくていいから、とかいわれ、最後にはその誘いを受けることになってしまった。

 いざ、グアテマラに到着し、そのホテルまでやってきた。
 普通に高級ホテルだ。こういったところにほとんど泊まったことがない。
 チェックインを済ませた彼が戻ってきた。どうやら別の部屋は取れなかったらしい。
 けれど大丈夫、といって安心するような言葉をかけた。

 この時点でお得意の脳内警報が鳴り始めた。
 部屋に入ってすぐに俺は確認した。ベッドの数を。見ればセミダブルのベッドがひとつだけ。

 ごめんなさい、それは無理です。

 彼は問題ない、と必死に弁解しようとしていたが、俺は逃げるように部屋を出て、ホテルを飛び出した。
 高級ホテルにただで泊まれるなんて甘い考えを持った俺がアホだった。はなっから無理な話だったのだ。

 そして俺は安宿を探すべく、夜の街へと繰り出した。