初めて訪れたペルーの旅行もいよいよ最終日。一番苦手な土産探しをリマ市内で行っていた。
とある土産物屋で自分用にと、結構値のはるものを購入した。
普段は人に大金を見せないが、ちょっとした油断でその土産物屋の主人に見られてしまった。
買い物も終わり、店を出ようとしたところで店の主人が言った。
『どこかで飯でも食わないか?ご馳走するよ』
うーん、怪しい。しかし、この後は荷造りをして空港に向かうだけだったので、ちょっとの間だけなら、ということで了承した。
連れて行かれた店は中華風のところで、アジア顔の女性が働いていた。
ビールが運ばれ乾杯した。その間も俺は警戒を緩めることなく、その土産物屋の主人と会話していた。
もっと飲めとじゃんじゃん勧めてくる。ほどほどに飲んだもんだから膀胱が膨れ上がり、トイレに立つことにした。
荷物を置くことなく、背中にしょって用を足した。トイレを出ようとドアを開けた瞬間。
『ズドン!』
とみぞおちに何かが食い込んだ。
見ると目の前にこの店の女性店員が立っており、俺の腹部にパンチを食らわせたのだ。
思わず日本語で『痛っ!』って叫んでしまったのはいうまでもない。
しかし、なんだか様子がおかしい。
腹部に入った手を私の手にすり寄せ、なにやら怪しげな物体を忍ばせた。
その間ほんの数秒。土産物屋の主人はチラッとこっちを見ただけだった。
席に戻り、気づかれないように渡されたものを見た。それはメモだった。しかもたどたどしい日本語で書かれたメモ。
『この人はドーロボです。注意ください。』
一気に目が覚めた。その後、薬物混入を警戒し、グラスに入ったビールには手をつけなかった。
すぐに席を立つとあれなので、平静を装いつつ、去り際を見計らった。
『そろそろ空港に行かないと。ありがとう』といって席を立った。
女性店員に礼を言いたかったが、後でいろいろ問題あると困るので感謝を込めた目配せだけした。
おそらくその女性は日系の人だったのだろう。ひたすら感謝。そのときのメモはいまも日記に挟まっている。