青年アリババ

 引き続き、出会ったエジプト人について書こうと思う。

 前編で触れているように、早朝5時ごろにルクソールに着いた。
 ヘトヘトだったので深く考えもせず、適当に宿を決めた。結果的にこの宿で正解だった。

 そこで重点的に俺の世話をしてくれたのがアリババという青年だった。
 彼とはいろんな話をした。自分がこれまでに抱いていたエジプト人に対する憤りを彼にぶつけ、彼はそれを受け止めてくれた。

 その親切を金に換える性質について、彼は悪びれた様子で私の意見を真摯に受け止め、 ムスリム(イスラム教)の性質に理解を求めた上で、今後は気をつけていかなければならないと言ってくれた。

 アリババはもともと思慮深く、賢い青年だったのだと思う。
 以前のアリババが観光客に対してどのように振舞ってきたのかは知らない。
 ただ、その意見が功を奏したのかどうかはわからないが、私に対しては、 必要以上のマージンや対価を求めることはなく、むしろ、そんな主従関係より、 友人でありたいという気持ちが感じ取れ、素直に好感を持った。

 とはいえ、彼が紹介してくれた連中は相変わらずバクシーシを求めてきたが、彼は必ず『そんなのは払う必要ないから』と常に言い続けた。
 この他にも、本来有料であるレンタルチャリンコを無料にしてくれたり、手作りの料理を振舞ってくれたり、 値引き交渉してくれたり、いろんな手続きを代行してくれたりした。

 ちょっとしたマージンを受け取っているとは思うが、それはささやかなものだったと想像する。
 このような人間がエジプトの観光地にも多くいるといいのに、と率直に思う。
 しかし、残念ながら子供の頃から観光客におねだりする教育を施されてしまっているのでなかなか難しいだろう。

 あれから自分は年をとった。アリババくん、あなたはお変わりありませんか?