ユーフラテスの支流にて

 シリアのデリゾールというところにやってきた。地図もなければ情報もない。
 知っていることといえばユーフラテスの支流とデリゾール大橋。
 世界史で見慣れた『ユーフラテス』という言葉はそれだけでロマンを掻き立てるし、 ここにきたのもただそれだけの理由からだった。

 宿を決め、早速散歩。川面にきらめく日暮れの太陽。やっぱいいなぁ。
 そんな雰囲気の中、『ミステル(Mr.)!』との呼び声。アラブ人の『r』は必ず『ル』だ。 まぁ日本人の『r』と『l』の混同よりははるかにましだと思われるが。
 それはさておき、この呼びかけは『どうだ?茶でも飲まないか?』の誘いだ。 イスラム圏なら結構あるパターンで、特に地方でこういったもてなしは多い。

 俺はその誘いを受け、チャイをご馳走になった。
 こういったところで飲む紅茶は本当にうまい。
 公園の修復作業にあったっている作業員たちだったが、焚き火を囲み、チャイを飲みながら語りあう。

 名前は?国籍は?どこから来てどこへ行くのか?そういったよくある質問に答えながら、川面に映える夕陽を見つめてなんともいえない雰囲気を味わう。
 時々作業員が水鳥を見つけ、鉄砲を取り出し、おもむろに撃つ。 はじめから命中させる気がなかったのか、外してもとても楽しそうだった。

 それにしてもこの時間の流れはいったいなんだろう?間違いなく日本では味わえない類の時間の流れだ。
 時間よ、止まれ! そういった至福の時間を感じられるだけでも幸せだ。