タクシードライバーの休日

 深夜のカイロ国際空港。客の争奪戦。
 そんな喧騒をすったもんだで突破し、タクシーでカイロ市内へ。
 チケット売りのおっちゃんを見つけ、2:30分発アレキサンドリア行きの列車に乗り込んだ。

 最後尾の車両に乗り込んだが、乗客は皆ならず者風で怖い感じがしたし、 荷台に横になって寝てる人がいるというなんとも不思議な光景も目にした。
 後ろのドアは存在してなく、恐怖を感じた。
 ただ、空に広がるオリオン座と、心地よい風が気持ちを落ち着かせていた。

 やがて列車は走り出し、冷たい風が吹き込み始めた。
 寒さを感じつつ、荷物を抱えながら浅い眠りに落ちた。

 寒さで目が覚めては、浅い眠りに落ち、それを繰り返すうち、空が明るくなってきた。
 どこかの駅について、そばにいた男が『着いたぞ』という合図をした。
 どう見ても終着駅には見えなかったが、信じて降りてみることにした。

 駅の外に出てみると、すべてがアラビック。当然といえば当然だ。
 本当にここはアレキサンドリアなのか?そんな不安がよぎる。
 英語が見当たらないし、地図を見ても自分の居場所がまったくわからない。
 人に尋ねてようやく現状を理解した。
 やはり先走って降りてしまったようだ。
 けれど目的の駅まではそう遠くないようで、そこまでタクシーで行った。

 観光の基点、マスル駅に到着し、計画を練った。
 とりあえずポンペイの柱を見るためにタクシーを使おうという結論に至った。
 そこで声をかけたタクシーの運転手がこの日のポイントだった。

 この運ちゃん、この日は休日のようだった。
 ポンペイの柱、カイトベイ、カタコムベ(地下式墳墓)などで半日でいくらだ?と聞いてみた。
 すると運ちゃんは『金は要らない。休日だし、君とは友達だから。もしどうしてもというなら君が提示してくれ』と言う。
 そんなこと言われても俺にはわからなかったので、とりあえずこの件は保留にした。

 それぞれ約束どおりの場所まで案内してくれたのはいいのだが、 次第にこの運ちゃんのペースにはめられている自分がいた。
 途中、お茶を飲んだり、昼飯を食べたりして、午前中でカイロに戻るつもりがなんだか引きずり回される格好になった。

 モンタザ宮殿や、地中海を眺めたりした。服のまま泳ぐのはイスラム圏らしい感じがした。
 すっかり長居してしまったので、いい加減カイロに戻らねば、ということでバスでカイロに戻ることにした。
 すると運ちゃんは何気なく金を要求した。

 俺が変な顔をすると『いや、これは仕事じゃないよ。タダ、タダ!』という感じでごまかした。
 少しお金をあげようかと思ったが、彼の好意を確かめるべく、あげるのをやめた。
 いよいよバスに乗り込もうかというときに彼は俺を引きとめた。

 『少しでもいいからお金をくれないか?』

 やっぱりこれか・・・。
 運ちゃんは『普通1時間で20エジプトポンド、5時間一緒にいたから・・・』と計算をし始めた。
 俺は失望し、『わかった、わかった』といいながら、100エジプトポンドをくれてやった(細かいのがなかった)。
 すると運ちゃんは嬉しそうな顔をして、『手紙をくれ、今度来るときは俺に連絡しろ、絶対だぞ』といって別れた。

 連絡先を教えてもらっていたが、俺は当然連絡する気はなかった。
 結局この国の人は親切を金に換えていくんだなぁと思った。
 というより、『友達』とか『お金は要らない』とかはじめから言わなきゃいいのに、と思う。
 俺もせこいけどね・・・。