ゲイ天国!? イースター島

 イースター島といえば、やっぱりモアイだが、この島にはもうひとつの側面がある。 ゲイだ。ここであえて申し上げたいのだが、差別的にこの文章を書いているのではなく、 むしろ彼らの人の良さを紹介するものである。実際、ゲイの人で悪い人間に出くわしたことがない。

 この島のある宿に1週間以上、お世話になった。そこの主人、マルティン夫妻の結婚43周年記念の パーティーが夜に催された。知り合った日本人も含め、ワイワイと楽しんでいた。 宴が終息に向かったころ、俺はすっかりいい気分になりながら夜空を見上げ、 南十字星を探していた。なかなか見つからないので、そばにいたこの宿の使用人ルイスに たどたどしいスペイン語でそのありかを聞いた。

 彼は俺の言ったことを理解できなかったのかもしれない。質問するごとにまったく違う話になり、 そのたびに南十字星の話に戻さなければならなかった。俺があまりにも星にこだわるので、 「ちょっと出かけよう」とルイスは俺を外に誘い出した。暗がりの中、海の音だけ聞こえる。 草むらに腰をおろし、降ってくるような満天の星空を眺めていた。なぜかルイスは俺にぴったり寄り添うように 座っている。

 この時点で俺の警戒心がピクピクと反応し始めていた。そしてルイスがそのさらに奥にある 暗がりにほんのり浮かぶ小屋を指差し、
「あそこに行こう」
と言った。俺の注意警報が頭にガンガン鳴り響く。今度は俺が話をそらす番だった。 しかし、彼はあきらめない。
「この島の秘密を教えてあげよう」
と俺の好奇心を揺さぶる攻撃を仕掛けてきた。この島の住人しか知らない秘密があると 何かの本で読んだことがあったので、心が揺れ動く。しかし、怪しい。あの小屋でなにかが起こるかもしれない。

 俺はきっぱりと断り、「宿に戻るよ」と言った。一瞬、彼は悲しそうに微笑んだ。そしてこう付け加えた。
「このことは主人に内緒にしてほしい」
どうしてかなと思ったが、約束は守ることにした。

 それ以降は何事もなかったかのように過ぎていった。ある日、雨の中、外で子犬が 訴えかけるように鳴いていたので、俺は一晩、その子犬とともにすごした。翌朝、 ルイスにそのことを話したら、どうやらマルティンが外に追い出したらしい。 ルイスはやさしく子犬にミルクをあげていた。

 出会ったのはルイスだけではない。とあるレストラン&バーでは面白いゲイのお兄さんがいた。 音楽に合わせて、踊る、歌う、腰を振る、そしてまた踊る。女口調なので言葉も理解しやすい。 しかも、この高くて味もイマイチな島のレストランにあってここだけは値段に見合うおいしい料理を 提供してくれた。彼は言う。
「この島にはゲイは多いわよ」
さらにうれしそうな顔で
「この島だけじゃない、世界中にいるでしょ?」
確かにそうだ。そしてこの店がこの島で一番だということも確かなことだった。

 島に多いというのは実感できなかったが、この島に訪れる人もゲイが多いようだ。 マルティンの話によると、とある日、窓から部屋をのぞいたら、フランス人男性二人が ひとつの小さなベッドに寄り添うように寝ていたらしい。俺はそういった世界は よくわからないし、恋愛対象が女性なのでけっして男性を受け入れることはないが、 こういった人たちを安易に否定することはできない。彼らは大真面目なのだ。

 なんだかモアイのイメージから離れてしまうようなことを書いてしまったが、 こういったことを含めて、この島はとても魅力的だ。つけ加えると、この島はリゾート地でもある。 新婚旅行に訪れた日本人も多いと聞く。実際、あるカップルに出会った。 基本的にタヒチがメインのようではあるが、ハワイ→タヒチ→イースター島という リゾート地めぐりも安く(本人たちの基準)組めるらしい。

 とにかく、天の川が判別できないほどの満天の星空、青い空と蒼い海、そしてモアイたち。 物価は高いけど、心に安らぎを求めたとき、訪れるのもまた一案である。