シリア・大統領に物申す

 シリアのダマスカスで、帰りの飛行機のリコンファームしようとしたときから、 何か様子がおかしいことを感じ始めていた。アエロ航空のオフィスで言われたのが
『飛行機が飛ばないかもしれない』

 当時、会社に勤めていたのにも関わらず、いつものように強引に夏休みを16日間も取得してきていたので、 この言葉はかなり俺に衝撃を与えた。これ以上、休みを延ばしたら何を言われるかわかったものではない。 これをさかいに、ダマスカスとアレッポのオフィスに何回も足を運ぶことになる。

 最初の計画を大幅に変えざろうえなかった。アエロの担当者はいつ行っても答えが曖昧で、飛ぶか飛ばないか、 まったくはっきりしなかった。集中して観光できなかったのは言うまでもない。

 最初はラマダン(断食月)に入ったからだと思った。しかし、何かか違う。 どの観光地の入場料も無料だった。ユーフラテス川ぞいの街、デリゾールについたときは、 街ではなにやら行進したりしていた。いったい何なんだ? アラビア語がぜんぜん理解できない俺は、 ただ疑問に思うしかなかった。

 アレッポに着くと、状況はさらに盛り上がりを増していた。そして、行進している人の プラカードを見て、欠けていたジグソーパズルの一片がピッタリはまった感覚に陥った。 それには英語で「25周年記念」と書かれていた。町中に大統領の写真や口ひげをはやした謎の 男の写真などが貼られている。

 ラタキアで出会った人いわく、その謎の男は大統領の息子で、交通事故でもうこの世の人ではないと言っていた。 しかし、ものすごい人気だった。このイベントが大統領就任25周年記念であることは間違いない(確信はもてないが)。 そして、飛行機が飛び立つはずだった金曜日、夜の街に花火が打ち上げられた。 そう、結局飛行機は飛ばなかったのだ。

 大統領に物申す、と銘打ったものの、怒りのぶつけどころが間違っているかもしれない。 ただ単にアエロが飛行機を飛ばさなかったのかもしれない。ただ言えるのは、 この金曜日はいつものイスラムの休日とは異なり、ほとんどすべての人が仕事をしていなかったのは確かだ。

 飛行機は月曜に飛ぶことになった。それまでの期間を有効に使おうと観光に精を出したが、 今までとはうって変わって入場無料ではなかった。そう、いままではイベントのおかげですべて無料だったのだ。 じゃあ、得してたんじゃん、と思う方がいるかもしれない。 いや、会社などに電話するのに同額以上かかっている。どっちにしろ得することはなかったのだ。 むしろ、会社の人間から
「わざとだろ?」
って言われる始末。おいおい、本当に飛行機飛ばなかったんだって。 追い討ちをかけるように日本に帰国した翌日は勤労感謝の日。結局、20日間も会社を休むことになった俺は、 この会社の夏休み最長記録を樹立したと勝手に決めつけることで己を納得させるしかなかった。