ね? 〜 十文字くんBD記念 (DLF)
 


衣替えはしたんだけれど、まだまだ暑いから。
ブレザーは椅子の背に引っかけて、
お互いに白いシャツのまま向かい合ってる。
前の席に座って後ろ向いて、
同じプリントを覗き込み合う。
視線を落としたままな時、少しだけシャツが浮いて鎖骨とか見えて。
やっぱり鍛え方が違うのかな、
何で同い年なのにこんなに差があるんだろって。
男らしくて逞しい、十文字くんのこと、羨ましくなる。


「だから。ここは“そういうもんだ”って納得しちまえ。」
「う〜〜〜。」
「丸暗記した方が早いんだって。
 ほら、分数の割り算なんかがそうだろよ。」
「分数の割り算?」
「割る方の分数を逆さにして掛けんだろが。」
「…そうだっけ?」
「お前な。」


ちょこっと呆れたように眉を寄せると、
男臭くて精悍なお顔に尚の凄みが加わるが、
不思議とね、昔みたいに“怖い”って思わなくなった。
それを持ち出すと、
だから遠慮なく凄んでんだよと、ぶっきらぼうに言い返されたっけ。


『お前、俺が同じアメフト部員になってからも、
 結構長いこと、ビクビクし続けてやがったろうが。』
『…そうだっけ?』


ああ、あの時も“そうだっけ?”って言ったらムッとして、
十文字くん、怖い顔になったんだっけ。
でもね、あやや…って肩を窄
(すぼ)めかけたら、
大きな手で くしゃって前髪に触ってくれて、
ちょっと乱暴だったけど、よしよしって撫でてくれた。


「…ったく。」


ほら、今みたいにvv


「ともかく。これは丸暗記だ、いいな?」
「は〜い。」


数式のパターンをまんま覚えろと言われて、
例題の脇に“暗記”と書きかけて。
シャープペンシルの芯をかちかちと押し出す。
無人の教室はとても静か。
時々、心地いい風が入っては、
すすけたカーテンが風を受けて、窓辺で ひらりはらりとひるがえる。
まだまだ明るいけれど、
どこか遠くから、エールの声とかピアノの音とか聞こえて来るけど。
此処は三年生の部屋だから、皆はさっさと帰った後で。
なのに、苦手な数学、毎日のように見てくれてる十文字くん。


『出来ない奴がいると、俺があの野郎にどやされんだよ。』


蛭魔さんから、そういう役どころらしいと感づかれたその日から、
自分の分のノルマを果たしていても、
他に落ちこぼれかけている者がいると、
コーチが不甲斐ないからだなんていう
お叱りが来るようになってしまったのだそうで。
何もセナが一番落ちこぼれているという訳ではないながら、
同じクラスで、自分の担当の数学に 殊の外 弱くて、
それからそれから…えっとえっと。
………なんでだったっけ?
(おいおい)
そんなこんなで“見てやるから”って、
自分から言い出してくれたんだよねvv


「次のは…出来てるみたいだな。」
「うん。これは先々週のプリントの問題の数値違いだったから。」


最近はネ、随分と応用もこなせるようになって来た。
こないだの模試なんか、数学では初めてっていう最高得点を取れたもんねvv
じゃあ次だと、設問を進んで、
新しいプリントをバインダーから外してたその拍子に。


「…あーーーっ。」
「な、何だなんだ。」


いきなり思い出したことがあって。
ついつい大きな声を出したら、十文字くんがびっくりしたけれど。


「今日ってサ、十文字くん、お誕生日じゃなかったっけ?」
「なんだよ、唐突な奴だな。」
「だって、去年も確か衣替えの日に、
 皆でファミレスに行って“おめでとう”ってしたよ?」


まもりお姉ちゃんが皆のプロフィール表を作ってくれててね。
それで、秋季大会の真っ只中ではあったけれど、
順調に勝ち進めてたノリも手伝って、
皆でおめでとうって、乾杯してご飯食べたの思い出した。


「………だから、どうしたよ」
「だから、お祝いしようよ。」
「……………。」


ワクワクってして見やったのに、
十文字くん、何か怖い顔になってる。


「…予定とかあるの?」
「ねぇよ。」
「じゃあサ。」
「二人でか?」


え?
………あ、そか。


「黒木くんとか雷門くんとか呼ぶ?」


蛭魔さんとか栗田さんも呼ぼっか?
そう訊いたら、慌てて首を横に振って、


「ば…っ! そうじゃなくてっっ!///////


何でだか、真っ赤になって慌ててしまい、


「サボろうったって そうは行かねぇって言ってんだよ。」
「え〜〜〜、そんなじゃないもん。」


心外なことを言われて、
ついつい“ぷく〜っ”と頬を膨らませてしまった。
そんなボクの方を見て、


「〜〜〜〜〜〜。///////


あ〜とか う〜とか、困ったみたいな声出して。
ボクなんかとお祝いってそんなに嫌なのかなって萎
(しお)れかけたらね、
違う違うってまた慌ててかぶりを振って。



「………その、俺がおごるから、よ。
Q街まで出ねぇか?」
「え?」



パフェが物凄く美味しい喫茶店があるんだって。
あ、勿論、甘いのが苦手な十文字くんの好みっていうんじゃなくて、
女子がしょっちゅう名前出してたお店で、
でもちょっと高いから、そうそういつもは行けないねって言ってたって。
“アンダンテ”っていうらしいって聞いて、


「あ、知ってる。でも…。」


そこってホントに、美味しいのに比例して物凄く高いんだよね。
まもりお姉ちゃんのお誕生日のケーキを
雷門くんと二人で予約したことがあったんだけど、
一番小さいので五千円とかして“ウワッ”って思ったもん。


「ダメだよ、十文字くんのお誕生日なのに。」


それより、じゃあサ、


「Q街に行くんなら“エルザ”っていうステーキハウスに行こうよ。」


美味しいし、デザートもあるし。
あそこだったらボクでも何とかおごってあげれるしvv


「ダメだ。」
「なんでだよー。」
「なんででもだ。」




◇◇◇◇◇



ステーキとなったら、お前、俺より沢山は食えないだろうが。
でもでも、ケーキのお店じゃあ、十文字くん食べるものないじゃないの。
どっちがおごるかで なかなかお店が決まらない。
ねえねえ、そうしようよ。
ダメったらダメだ。
机に広げられたプリントなんて、もはや忘却の彼方な様子で、
仲がいいからこその喧嘩を続けている、
可愛らしい彼らでございましたとサvv





  〜Fine〜  04.10.01.


   *お祝いのつもりで書いたんですが…う〜ん。
   セナくん、相変わらずの大ボケでございます。
   こんなで宜しかったなら、DLFといたしますので、お持ちくださいませvv

ご感想はこちらへvv**

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