新涼白露
 

 

 少しだけ開けておいた窓。そよぎ込む風があるのか、
カーテンの裾が軽やかな動きでゆらゆらと踊っている。
それが畳の上を擦って立てる微かな音に、ふっと。
静かな眠りから呼び起こされた。
台風も多かったが、それにつけてもとにかく暑かった夏であり、
体力自慢な自分でさえ、気がつけば深い吐息をしばしばついていたと、
人から言われて それほどバテたとはと気がついた…という順番だったのは、
何とも彼らしいことではあったけれど。

“……………。”

 ただひたすら、自身を鍛え上げることのみが日課であり。
定習を微塵も乱さぬまま厳守することで無我ににじり寄る、
それはまるで禅宗の僧侶みたいだと姉から揶揄されたほどに、
毎日毎日飽きもせず鍛練ばかりを繰り返し、
ただただ自分とだけ向かい合い、
時の流れや周囲の人々の動向、
季節の変化にさえ目を向けぬままにいたつもりだったのに。

“肩が………。”

 このままでは冷やしてしまうなと、
上背のある足先が出るのも構わず羽毛の夏掛けを引き上げてその襟元を直しながら、
自分の懐ろを顎を引いて見下ろした。
柔らかな頬をうにうにと擦り寄せて来た仕草に、
ついつい手が止まったものの、起こした訳ではなそうだ。
剥き出しの薄い肩はカーテン越しの淡い黎明に満ちた中に白く浮かんで
…いかにも寒そうに見えて。
何か羽織るのは暑いからと、
いつものように構うのを嫌がったままに眠ってしまった
可愛らしい人のささやかな我儘を。
こればかりは聞いてやるべきではなかったかもと、
今頃になって苦笑混じりに反省する。

“………。”

 夏の合宿も終え、九月に入るとすぐにも…新学期よりも早く始まるのが
関東・関西の両大学リーグであり。そこへと突入してしまうと、
これまでのようにそうそう時間を作ってまでは逢うことも適
かなわなくなるのかもと。
何となく思って何となく訪ねた自分を、そのまま受け入れてくれた優しい子。


  『ボクも逢いたいなって、あのあの思ってました。////////』


 ともすれば情緒的なもので、
問わず語らずの内に意を組み合うよなことなのだろうに。
ただでさえ内気な彼が、恥ずかしいだろうに、
それでも懸命に…真っ赤になってちゃんと言葉にして伝えてくれる。
どうにも気の利かない朴念仁な自分へ、
出来る限りの優しさと包容力とで向かい合ってくれる愛しい人。
小さな手の細い指先でこちらの頬を撫でてくれ、
勇気を振り絞ってだろうに、えいっと口づけてくれた可憐さに、
ついつい歯止めが利かなかった自身を更に反省し、

「…ふに。」

 かくりと、小さなお顔を傾けたままにて寝相が落ち着き、
再び静かな寝息を刻み始める可愛い人に、
進は思わずのこと かすかにかすかに微笑んで。
薄く開いた緋色の口許へ、そぉっと骨太な指先を添わせると、
そのまま…起こさぬようにと注意を払いつつ。
唯一無二の至福ごと、広い懐ろの中へ余さず取り込んで、
抱き締め直した彼である。





   〜Fine〜  04.9.04.


  *突貫です、すいません。
   相変わらずに、ほわほわした人たちですが、
   ご心配なく、やるこたやってるみたいです。(こらこら)

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