鳥籠の少年 〜なんちゃってファンタジー

   〜その後の彼らは…?
 

 

          



 頭上には天高く澄み切った青い青い空がどこまでも広がり、その視線を正面へと降ろせば、収穫の済んだ畑たちやら、少しばかり枯れ色に染まっている牧草地やらが広がる、いかにも長閑で簡素な風景。思わず深呼吸したくなるような、素朴ながらもその分たっぷり無垢な空気が満ちた、何とも清らかな土地である。秋らしい透明感ある陽光に繊細な色合いにて照らし出されている、そんな牧歌的な風景を背景に、

  「………。」

 がっつがっつと、まるで動力のついた機械仕掛けででもあるかのように休みなく。大地に向かって力強く、鍬
くわを振るっている偉丈夫がいる。乾いて白っぽい土地の多い中、彼が手をかけている部分だけは水気を含んで黒っぽく色づき、これから何かが育つ苗床には相応しい、温かな生命感があふれても見える。それにつけても…なかなか雄々しい青年で、動きやすいようにだろう、薄手のシャツにゆとりのある作業着ズボンという簡素な服装に包まれた肢体の、何と躍動的に働くことよ。強靭そうな腕で鍬を土へと振り下ろすごと、頼もしい肩、広い背中が力強いうねりを見せる。強かに締まった足腰もいかにも頑丈そうで、それにそれに、何と言っても素晴らしいのがその男映え。双眸の鋭さや寡黙なままに閉ざされた口許など、決して表情豊かで人懐っこそうな風情ではまるでなく、むしろ融通の利かなさそうな、どこか堅苦しそうな青年ではあるけれど。武芸者ならではの古風なまでに頑迷そうなところが誠実そうだし、横顔の線は意外なくらいに繊細に整い、少しばかり長めの前髪のかかる額やこめかみ辺りに浮いた汗の粒さえも、精悍屈強な男臭さを引き立てるためのアクセントのよう。一心不乱にお仕事に精を出し続ける青年の、その動きをやっと止めさせたのは、

  「進さ〜ん。」

 小さな家々の集まった方向から乾いた畦道をたかたかと駆けて来た少年の放った、よく通るなめらかな呼び声だ。両腕で重たそうに提げて来たバスケットと共に、青年の視野に収まったその小さな姿に、
「………。」
 じりとも動かなかった男の堅い表情がほのかな柔らかみを帯び、わずかながらも春の陽光を受けたようになる。そんな彼の立つ耕地の縁まで辿り着いた少年は、
「お疲れさまです。どうかお昼にして下さいな。」
 にこりと笑い、提げて来たバスケットを"はいvv"と差し出して見せたのだった。




 この二人が知り合ったのはほんの一カ月ほど前のこと。此処よりももっと北にあった小さな村の外れの辺り、近隣の住人を急に寄せつけなくなった魔力を帯びた森に立ち向かったこの青年。実は農民ではなく、剣を振るって勇ましい"渡り剣士"さんであり、もっと北の王国"王城キングダム"に仕えていた元近衛隊長さんで、名前を進清十郎という。武者修行の旅の途中にあった彼だったが、何の心得もない者がうっかり迷い込んだらそのまま出て来られなくなるという亜空間。そんな魔空へ取り込まれていたこの少年からの救援の声を聞きつけて、これはと関心を向けたがために、救出することが出来た…というのが、前話の"コトの始まり"であり。同行していた魔導師さんという協力者もあっての大殺陣回りの末に、何とか封印を解いたその後で。遠く離れたこの故郷までの旅の空、せっかく助け出されたのに何かしらの間違いがあっては可哀想だと、護衛を兼ねて送って来た彼だったのだが。少年の住んでいた村は大陸の南の方に位置する小さな寒村で、若者のほとんどが都会へと出て行ったがため、年寄りばかりの過疎の村でもあって。別れ際に魔導師さんたちから頂いた大枚にて、村ではなかなか手に入らない沢山のお買い物を持ち帰った少年のお土産の中、一番重宝がられ、ありがたがられたのが…他ならぬこの青年だったのだった。
「…どうもすみません。」
 小麦が詰まっていたらしき、大きな麻の袋をシート代わりに地面へと敷いて。少年が作ったという、彩りも可愛らしいサンドイッチやマフィンや蒸し鷄を、それは美味しそうに食べてくれる剣士さん。突然謝られて、
「?」
 小首を傾げて見せる彼へ、陶器の壷からカップへとお茶を汲み、
「進さんは修行の旅の途中なのでしょう? なのに、もう何日も此処にお引き留めしてしまっていて。」
 そぉっと差し出す少年の小さな手が、秋の陽を浴びて白く浮かんで見える。手入れの良い、育ちのいい者の手のようにも見えなくないが、良く良く見れば細かい傷が沢山あって。それはそれは働き者の手をしている彼は、その名をセナという、気立ての優しく、可愛らしい少年で。ご厚意から自分をこの村まで送って来て下さっただけなのに、まずは少年が居なかった間に荒れに荒れてしまっていた、彼の家の地所である小さな畑の土を、秋蒔き小麦のためにと掘り返して下さり。そのあまりにも頼もしく手際の良い仕事ぶりに驚嘆した村の人々が、申し訳無いことですがと、自分たちの耕地も耕してはもらえませんかとお願いに来てしまった。なにぶん年寄りばかりの村のこと、家の周りの小さな畑だけにしか手が行き届かずで、その限られた土地ばかりをいじっているがため、滋養も痩せて、収穫も落ちる一方。それなので、この頼もしい若者についつい頼ってしまった村人の気持ちも分からないではないのだが、
「進さんは剣士様。鍬など振るっていい人ではありませんのに。」
 崇高にして誇り高き人であろうに、しかもしかも、自分にとっては命の恩人でもある人なのに。こんな土臭い、しかも重労働を押しつけてしまい、本当に心苦しくて仕方がないセナであるらしい。この村まで送りがてらの旅の途中に聞くともなく聞いたお話では、彼は早くに親を亡くし、それからは村の大人の皆様に少しずつの手を掛けてもらって、それは素直に健やかに育ててもらったという生い立ちをしていて。それで、村の人々へもあまり強いことを言えない立場であるらしく、そんな想いと進への謝意と、二つの気持ちの板挟みにあっているセナへ、

  「………。」

 口の重たい剣士様。ほのかに甘いお茶を飲み干すと、その手をカップから離し、少年の少ぉしうつむいたお顔の小さな顎へとすべり込ませて ひょいと持ち上げる。
「…あやや。////////
 俯いてちゃいけないよと。それと、自分は気にしてはいないからと、そうと思っている進さんだと分かる。この力持ちさんにはきっと力加減が難しかろうやさしい所作を、それだけの心遣いを込めてそそがれているのだと、ちゃんと感じ取れる少年だから。たちまちにしてその頬が、ぱぁっと朱を散らして赤くなり、

  「あ、あの…。//////

 黒耀石のような瞳に真っ直ぐ見つめられ、ますます赤みが増してゆく。

  "えと、どうしよう。//////"

 男の子なのに変な子だなって思われないかな。だって、凄くドキドキするの。優しい進さんはあまり口数が多くはないけれど、何も言わなくても…深色の眸が柔らかくほころんだり、かすかに瞬いたりするのを読み取るだけで、微笑っていたり何かを気遣ってくれてたりするってちゃんと分かるセナだし。そしてそして、そんな微妙で特別なことが通じ合えるのが、どうしてかな、体中がぽかぽかしてくるほど嬉しいの。////////

  「???」

 どうかしたのか? そうと問いかける眼差しへ、

  「あの、あのえっと。
   ひ、蛭魔さんや桜庭さんたちは、今頃どうしているんでしょうね?」

 苦し紛れに思い出したのは、とっても綺麗だった二人の若い導師様のこと。彼らの名前を口にしたセナへ、だが、
「…。」
 何に気づいてか、進さんはクスクスと、彼には珍しくも…判りやすく笑い出したものだから。
「え? え?え?//////
 どうしてかなと、真っ赤になったままでキョトンとするセナだったが、

  「その話なら今朝もしたぞ?」

 ちなみに、昨夜の寝しなにも。進さんはそれらを覚えていて、セナの可愛らしい誤魔化し方へとついつい愉快になったらしい。
「あやや。///////
 そ、そうでしたっけと ますます真っ赤になったセナくんだったが、
"…何でだろ。"
 誤魔化し損ねて困っている筈なのにね。進さんの笑顔に、どうしてだか…嬉しいって感じのする"困ったなぁ/////"なのが自分でも不思議で。そして、

  "ボクも…随分な嘘つきだしな。"

 この旅の剣士様を引き留めていることへ、申し訳ありませんと恐縮しつつも…実は実は。出来ることならもっともっと、ずっとずっと。このまま一緒にいて下されば良いのになと、心の奥底、そんな我儘なお願いをこっそりと暖めている。村の人たちのせいにして、実は一番の嘘つきは自分だと、ちょっぴり甘酸い罪悪感に小さなお胸を つきんと傷めてる、セナくんであったりするのである。

  「?」

  「あ、あ、えと。ななな、なんでもありませんっ。//////////


   ――― ばれるのは時間の問題だと思う人、手を挙げて。
(笑)

















           





 さて。せっかくセナくんが案じていらしたので、此処はもう一方の登場人物さんたちの方の"その後"も覗いてみましょうか。確か、東の泥門シティへ戻るとか言ってらしたんですが。


 ぎしっと。古びた家具の軋みの音が低くかすかに響いて止まり。それから、きぃきぃ、細い針の先にて空気を引っ掻くような音が、徐々に速まる律動に乗って部屋の床へとばらまかれてゆき、

  「………あっ、…ん、んう…っ。」

 切なげな息遣いの合間に、悪夢に魘
うなされてでもいるかのような、意味をなさない…どこか淫らなトーンな声が混じる始めて。
「あ…あう…ん…、んく…。や…やめ………あ、ああっ。」
 誰かに助けを求めているのか、悲鳴にも似た細い声が、律動のリズムと呼吸を合わせて切れ切れに聞こえる。窓にはカーテンが引かれた薄暗い部屋だ。息遣いの音は二人分であり、片やの声ばかりが徐々に高まると…それはやがて蕩けるような喘ぎに滲んでゆき、急くような呼吸に刻まれながら淫らによじれて。そしてそして、

  「…あっ、ああっ!」

 高みを目指して、か細く撥ねたのを最後に。安物の寝台の上、反り返っていた細い背を とさりと落とし、薄い肩を苦しげに上下させて息を整える白い顔こそ誰あろう…。

  「………っ☆」
  「痛っ!」

 おおう。覗き見への制裁かと思ったら、乗っかっていた人へのお見事な膝蹴りが"どかぁっ!"とばかり、思い切り決まったところでございました。
「いい加減にしろよなっ、ったくよ。」
「何だよ、蹴ることないだろ?」
 見事にみぞおちへ決まった一蹴りがさすがに効いたか、やっとのことで怯んで身を離した…というか、寝台の下へ蹴落とされた相手へ、ぎりぎりと目尻を吊り上げて、

  「昨夜から何遍やったと思っとるっ! もう朝だぞ、朝っ!」

 きゃ〜〜vv 蛭魔さんたら、そんなはっきりと言わんでも…vv ////////(悦vv

  "うぉいっ!"

 げほごほ…いやはや、はしゃいだりして失礼いたしました。こちらさんはまだ旅の途中であるらしき、黒魔導師の蛭魔妖一さんと、そのお連れさんの桜庭春人くん。属性職こそ"黒魔導師"とはいえ、金髪に色白という華やかな外見をしていらっしゃるこの蛭魔さん、間近に寄って詳細を眺めても、それはそれは艶やかな容貌をしてらして。切れ長な目許は、されどその鋭さの中に印象的な淡いグレーの瞳を浮かべて、静にして端麗。繊細な細い線にて描かれた鼻梁に、骨張らずすんなりと弓形
ゆみなりの頬。淡い緋色の肉薄な口唇は表情豊かで、時には妖冶でもあり、だが、意志を浮かべてきりりと結ばれると、凄艶にして苛烈な、強かな華やかさを帯びもして。背条のピンと張った痩躯に漲みなぎる底無しの馬力といい、さっきの雄叫びといい、玲瓏な美しさをたたえているにも関わらず、結構乱暴なところもお持ちの、なかなか一筋縄では行かないクチの麗人である。そんな妖一さんが、自分を庇うのに身を呈してくれた相棒である桜庭くんを助け出すべく、彼を呑み込んだ魔空間を捜し続けて。1年もの長きをたった一人で過ごしたその苦労がやっと叶って、先日とうとう とある戦いの末に幸せな再会を果たせた訳なのですが………。どうやら ただ今は…旅の途中の宿の一室、安っぽい寝台の洗いざらしの敷布の上にて、互いへの愛と熱情を確かめ合っていらした御様子で。だというのに、どかっと容赦なく膝蹴りされた片やの二枚目さんであり、
「酷いよなぁ。すぐに蹴ったり叩いたり。」
 気が短いところは全然変わってないんだからと。その、どこか爽やかでさえある、青年らしき彫の深い、健やかな顔容
かんばせへ やわらかな苦笑を浮かべた桜庭くん。寄れば噛みつくぞと言わんばかりの険しい顔になって"う"〜〜〜〜っ"と唸りながらこちらを睨み据えている、それは綺麗な恋人さんへと向かって、

  「だって1年分なんだもん。何遍だって足りるもんじゃない。」

 しれっと とんだことを言い返すようなお方だったりするから。………爽やかな王子様タイプの桜庭くんファンの方々には、いつもながら申し訳ございませんです。
う〜ん、う〜ん 当然のことだよと言わんばかりな このお言いようへ、当然のことながら、
「冗談じゃねぇっ!」
 馬鹿なことを言ってんじゃねぇっと、悪鬼の如く 尖った表情になる蛭魔であり、
「大体、お前、その1年の間、意識なかったんだろうがよ。それなのに、何が"1年分"だっ!」
 理屈に合わないことを胸張って言うんじゃないと叱咤すれば、
「あ、言っとくけど、物凄く後ろ髪引かれてのことだったんだからね。」
 こちらさんだって負けてはいない。それまでは余裕の穏やかさをたたえていたお顔に、ほのかに憂いの陰を載せ、
「妖一の身代わりにあの亜空に呑まれるってのは本望だったけど。一人にしたら心配な人だからなぁって、どれだけ案じたことか。」
「…何だよ、それ。」
 心当たりがない言われように、むむうと唇をひん曲げた妖一さんへ、
「だってさ、妖一ってば、恐持てのする身勝手な奴って風に見せかけといて、実は物凄いお人よしだしさ。」
「う…。」
「現に、あんな可愛い子を助けることだったからって頑張ったんでしょう? もうもう、僕がいない間、誰ぞにあっさりたぶらかされてやしないかって、それを思ったら気が気じゃなかったんだからね。」
 今度はどこかお説教めいた言いようをする桜庭へ、くぅおぉ〜〜〜っと、奥歯を噛みしめ、その白い拳を胸元にぎゅうと握りしめてた妖一さん。

  「…言いたいことはそれだけか。」

 低められたそのお声、陰に籠もって物凄く。
「こんの口の減らん奴がっ!」
 バガッとそこいらにあった花瓶や額縁なんぞを、手当たり次第という勢いにて続けざまに投げつけたから、
「ああっ、ひっど〜〜いっ!」
 そんな仕打ちに、上がるは非難の声ばかりなれど。
「お前なんか師匠に言って封印し直してもらうからなっ!」
 相当頭に来てしまったか、妖一さんたら聞く耳持たずで。

  「知ってんだからな。
   お前、その昔、どこぞの大きな国の王妃をたぶらかして国を傾けた
   伝説の"絶倫大魔神"だって言うじゃないかっ。」

 あはは…vv それは凄〜ぉい。
(笑)

  "………そのネーミングは ちょっといや。"

 その騒動の終焉の頃に、高名なる導師様が"人のタメにはならない魔神であるから"と封じた身だったそうなのを、妖一さんが師事していた師匠がうっかり封印を解いてしまったのだそうで。

  "ウチの師匠って奴ァ、
   もしかせんでも とんでもない大ボケ野郎なんじゃねぇのか?"

 迷いの森の"魔空"への対処といい、ホント、そういう人なのかも知れませんね。誰という設定は考えていませんけれど。
(苦笑) そんな魔神さんを人の器に定着させて、桁の外れた悪さは出来ないようにという対処を施したのも、そのお師匠さんなんですけれどもね。そこまで腐されては、こちらもこちらで黙っていられないのか、

  「言っとくけどね。
   誰でも良いからって当たるを幸いに片っ端から餌食にするよな、
   そこいらの安物の魔物と一緒にしないでもらいたいね。」

 こうなっては致し方ないとでも思ったか、とうとう桜庭くんの側でも開き直ってしまったらしくて。自分が魔神だったって事を認めてしまったその上で、どこか厳
おごそかな態度を持って来て、何だか尊大に胸を張って見せたりして。
「元は仙人郷にいた身なんだ。この人は世界に名を馳せそうだとか、歴史に名を残しそうだってほどの器を感じられた相手にしか、お近づきになりたいってまでの関心は持てないんだよね。」
 だから、妖一にも関心があるんだよと、そう持って行きたかったらしいのであるが、

  「で。お前がたぶらかすことで悪名が残るのかよ。」
  「…またそんなひどいこと言う。」

 せっかくの威厳もころりと剥がれてしまい、酷いようと あっさり泣き声になってたりして。
(笑) 本当に容赦斟酌のない恋人さんであることよ。ベッドの上にて…シーツを巻きつけただけという格好のまま。依然として怖いお顔のままに薄い肩をむんと張り、毅然とした佇まいにてこちらを見下ろしてくる妖一さんの様子に、こちらは踝くるぶしまではある下履きだけの半裸という格好にて…取りつく島がないと肩を落とした桜庭くん、

  「妖一はボクが嫌いなの?」

 とうとうどこか悄然とした様子になって、そんなことを言い出すものだから、

  "…うっ。"

 これには…さしもの妖一様も、ぐっと言葉に詰まった模様。自分でも気づいていなかったか…いやいや、そうではなくってですね。

  "…嫌いな奴になんか触らせるかよ。"

 そもそもこうまで苛烈な…見栄だとか虚勢だとかをかなぐり捨てた、どうかすると子供の喧嘩みたいな丁々発止な言葉の応酬、プライド高く孤高の人がそうそう繰り広げるものではない筈で。ましてや…関心もなく歯牙にもかけないような相手であるならば、余裕で全く取り合わず、鼻先で笑って終しまいだろうに。何を言っても堪
こたえない。どんな罵詈雑言も本心から言ってるんじゃないって判ってくれてる。そんな信頼感があったればこそ、遠慮斟酌のない喧嘩が出来る。それだけ心許した相手だと、そんな安心の下にいた自分。でもね…相手はどうだろうか。ねえ、そんな臆病そうなお顔をしないでよと、項垂れた相手への愛しさが切なく滲み出して来て、

  「…俺は。」

 ふいと視線を逸らした美人さん。膝立ちになっていたところを、ぽそんと寝台の上へと座り直して、

  「どうでもいい奴を当てもなく捜し回るほど、俺は…酔狂でも暇人でもねぇんだよ。」
  「………あ。」

 そっぽを向いたままな横顔が、まだ早い時間の黎明の中に白く浮かんで、まるで冷たい塑像のようだが。…気のせいだろうか、少しだけ。頬がほんのり赤くなったような。
「妖一…。」
 ベッドの傍ら、円座に編まれたラグの上へと転がり落ちてたそのままに、下から見上げていた桜庭くん。ゆっくり立ち上がって傍らへと身を寄せつつ、寝台の縁へと腰を掛けても…今度は突っぱねる気配もない。剥き出しのままな細い肩を、長い腕にてそっと抱き寄せ、
「…ごめんね。好きだよ。」
 耳元にて真摯に謝れば、
「ん…。」
 こくりと頷いた愛しい人が、やっと素直にこちらへ凭れてくれる。………にぎやかな痴話喧嘩があったもんであることよ。
(笑) かっかとしていた間はともかく、晩秋の早朝、肌寒い空気がひたひたと迫ってくるのに気がついて。足元へと蹴り飛ばしていた毛布を手繰り寄せると…抱き寄せた人と一緒くたになって その中へとくるまる、それは甘き至福よvv 微妙に違う温度同士の、肌と肌とが触れ合っての 少ぉしくすぐったい感触に、くすくすと笑っては、間近になった頬や額をこつんと寄せ合う。ホントはね、少しだけ寂しかったのと言いたげに、つんとした鼻先を相手の胸元へこしこしと擦りつければ。ごめんねごめんね、独りにしたね、もうこんなことはしないからねと、優しい腕が細い背中を抱いてくれて。


    「魔空の中では確かに意識はなかったんだけれどもね、
     何だか妙な感じがしたのはずっと届いてたんだよね。」
    「妙な感じ?」
    「うん。何かに脅えてるっていうのか、渇
    かつえてるっていうのかな。
     あの空間には、意志みたいな核みたいなものがあってサ、
     足りないところを何かで補いたかったから、生き物を取り込みたかったらしいよ?」
    「足りないものとやらが、この世界に飛び出したのかも知れんということか。」


 それも、この絶倫大魔神…もとえ、魔導師さんだけでは足りなくて、あの少年までもをくわえ込んでいたほどに?

  "そんな大物がそこから外へと抜け出している?"

 感慨深げに眉を顰めて、まだ何か後腐れが出てきそうだってことかなと案じていた、聡明で綺麗な魔導師さんのその痩躯を、宝物のように そぉっと抱えていた手が…再びごそごそと擽るように動き出したものだから。


    「…っ、だから、もう良いだろうが。」
    「やだっ。1年分なんだからね。あんなもんじゃ全然足りてないvv
    「やめろって…こ、こら、どこ舐め…。/////// やめろ〜〜〜っ!」





   ――― お後がよろしいようで。
(笑)




  〜Fine〜  04.1.28.


  *ちょこっと重いお話を書いてしまいましたので、
   気分直しに、こんなのはいかが?と、
   何だかご好評を博しました"ファンタジー"の、
   ちょこっとだけ"続き"を書いてみました。
   このままお話が続けられそうな伏線をついつい引いておりますが、
   予定は未定ですので悪しからず。
おいおい

  *それにしても、
   どうしてウチの妖一さんは圧しに弱い人なんでしょうか。
(笑)
   同じ受けキャラでも、こう…抱かせてやってんだからなっていう感じの、
   強気なままの妖一様に憧れます。
   …ウチの彼には向いてないみたいですが。
とほほん

ご感想は こちらへvv**


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