ちょこっと浮気?(笑)
 


 毎週欠かさずみているドラマがあって、原作は少年誌に掲載されてるファンタジー系の漫画。魔術系の不可思議な力を巡る、ミステリアスなアクションもので、軍隊なんていうちょいと怖い権力組織とかも出て来て、それが専横跋扈してたりもするものだから、たとえ正義や正道とかであっても侭ならない場合もあって。しかも、そこんところを悪用する奴が現れたりする…なんていう、嫌な"現実"もリアルに描かれてて。そんな設定の中で、禁忌に立ち塞がられながらも悲劇にぶつかりながらも、目指す神秘と謎に立ち向かい、前向きに頑張る主人公の成長を描いてるお話で。今回は、そんな彼を陰ながら支えてくれてた理解者の一人が、真相に向けて深入りしたがため、敵組織の人間に返り討ちに遭って暗殺されてしまうというくだりのお話の回で。原作はあいにくと読んでないし、微妙に…今んトコのボクにオファーが来るのとは畑の違うジャンルのドラマだから、話の展開とか先のことはよく知らないんだけれど。この人がどこか途中のお話半ばで死んでしまうことだけは聞いてたからサ。話の途中から"あ、もしかして"って予感はあって。

  "う〜〜〜〜。"

 ぬかったなぁ。この回だけは、家で独りで観たかった。だってサ、ボクって意外と涙もろいから。この人、結構好きだったしな。飄々としてて三枚目ぽくて。でも、実は切れ者で察しが良くて、謀略の気配にも敏感で。その上、人の気持ちを洞察するのが上手な、思いやりのある人でもあって。あんな良い奥さんをもらえたのが道理なくらいに、敏腕なだけじゃない、懐ろのとっても深い人でさ。なのになのに、こんな残酷な…無念のうちに独りぼっちで殺されちゃうだなんて、口惜しさも加わるから絶対泣いちゃうようって、困りながらもお話からは眸が離せなくって。ああう、エンディングまで特別仕様になっていて。悲劇と哀悼をぐいぐいって引っ張ってくれてサ。

  ――― あ………やっぱりだ。

 やっぱり涙が出て来ちゃったよう。もうもう、また笑われちゃうじゃないか。人間が出来とらんだとか、役者のくせに こんな子供向けのフィクションで、易々と泣くほど感動させられてどうすんだとか。ここぞとばかり、勝ち誇ったように突っ込まれるに違いない。相変わらず容赦ないんだからな、妖一ってばサ。

  "えっとー。"

 とりあえず"ティッシュは何処だっけ"と。懐ろに大切な温もりを抱えたままで、ビーズクッションのソファーから少しだけ身を起こしかけた桜庭くんの、胸元前にと回していたその手の甲へ、何かが………ぽつりと降って来て。

  「……………あ。」
  「え? …あれ?」

 本人も気づいてなかったらしい。丁度頭の上からの声にハッとして、それから。咄嗟に、赤くなった線の細い鼻先とか口許とかを片方の手のひらの中に覆うようにして、どうしようかと迷ったらしいのも一瞬のこと。見下ろした懐ろの中で、つんつんの金髪頭がくるりと"回れ右"をし、

  「〜〜〜〜〜っ。」

 今まで凭れていた懐ろへと目がけて、そのまま真っ直ぐ…ぱふんと頬を埋めた妖一さんであり。
「あの…。」
「うっさいっ。」
 何も言わせまいという勢いで、先んじての声がしたけれど。ちょっぴり掠れた声には、間違いなく涙がからんでたよ? 妖一が泣いたとこなんて、ボク、これまでに一度しか見たことがないのにね。それにしたって気配だけでサ。涙そのものは見たことない。…え? ああ、×××の時のは別物だって。あれも"感極まっての涙"には違いないけど、哀しくてこぼす涙じゃないもの。
(こらこら、何の話を…。)日頃から そりゃあ冷静な妖一が泣いちゃったんだからサ、やっぱ、凄く絶妙な構成だったんだよ、このドラマ。視野の中、カーディガンの襟の上に綺麗なラインをさらして露になってるうなじと、そこから連なる細い肩とを そぉっと撫でてあげると、小さなくぐもったような声がして。

  「…笑うなよな。////////

 あは、首条が真っ赤になってる。あ、耳も赤いよ? きっと顔も真っ赤なんだろね。

  「笑わないよう。」

 だってボクも泣いたんだしィって言ったらサ、

  「そうだぞ。お前がいるから…つい油断しちまったんだ。」

 おやや。そんなこと言うかね。ボクのせいだって? まあ良いけどサ。傍らのソラマメの形をしたローテーブルの下、棚に突っ込んであったボックスティッシュを見つけたんで、ガスガスと何組か引っこ抜くと、まずは懐ろに顔を伏せてる人へと差し出した。頬に触れたので気がついて、でも、グリグリってこっちのトレーナーで拭ってから顔を上げた意地っ張り。

  「独りでとか、他の奴と観てたんなら泣かねぇよ。」
  「??? どういうことサ、それ。」

 いやに絡むねと、こっちも目尻を拭いながら鼻声で訊き返したら、

  「だから…。」

 言い淀んでから………え?

  「だから…。//////////

 何なになに? なんで此処で尚のこと真っ赤になる? 朱に染まった切れ長の目許を何度も瞬かせるその度に、長い睫毛に拭い損ねた涙の粒が残ってたのが細かく揺れて…なんか綺麗だなぁvv

   ………じゃなくって。

 も一度、ぱふんと。こっちの懐ろへ顔を伏せた、金髪色白の威張りんぼさんは。二の腕や胸元へ白い手でしがみついて来て、

  「だから、気を張らないで良いから、つい…。」

 あ。そうか、そういうことか。だから"ボクがいたから"なんだね。//////// あやや、なんかこっちまで顔とか暑くなって来ちゃった。でもでも、そういう睦言ぽいのはサ、もっと可愛らしく、甘えた言い方してほしいな。でも、それだと妖一らしくないか。


   ――― ま・いっかvv


 あんなにジンと来て、とっても哀しかったのにね。今は何だか、胸がほこほこってしてる。窮屈そうな恰好でしがみついたまま、でも離れるつもりは当分ないらしい、ほっそりとした懐ろ猫さんの背中をそぉっと撫でてあげながら、思わぬ至福を堪能することとなった桜庭くんであったとさ♪



  〜Fine〜  04.3.27.


  *すいません。
   今日放映された『鋼の錬金術師』にて、
   ヒューズ中佐が暗殺されてしまいましてね。
   冒頭でさらりと触れたように、先に知ってしまってたことではありましたが、
   こんなに早くとは思わなくって。
   娘さんが お父さんを埋めさせないでと泣きじゃくるシーンも、
   ロイさんが 雨が降って来たななんて呟くシーンも耐えられたのにね。
   エドくんがヒューズさんの幻を見たところで…逝ってしまいました。
   涙もろいです、年寄りだから。
   ウチのセナくんだったら、
   もうもうボロボロに泣いてしまってることと思われます。
   ああう、もう観るの止めちゃおうかしら…。

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