ホントのところ  〜25th down へのオマージュ おいおい
 

  テレビが小型だからだろう。轟音や罵声、爆発音というような、少々大きい物音は本体に籠もって響いて、何だか独特の雰囲気。臨場感を要求するには ちょいと不十分な環境だが、そこまでこだわってはいない観衆なので、特に問題はない。数年前にヒットしたアクションもの。主演俳優は今や圧しも押されぬ若手アクションスターとなっているが、そんな彼の出世作で、一匹狼の元特殊部隊工作員が悪の組織と孤立無援の戦いを繰り広げる一大活劇巨編。もう何度かテレビでも放送されているのだが、今回はまたまた彼らのお友達が主演の声をアフレコしたのだとかで、
『仕事の幅が広がったなんて言われてるけど、ジャンル増えるのも善し悪しだよな』
と、ご本人は少々面倒がっていたようだったが、それはさておき。
「………あ。」
 画面に映し出されたのは、場末の街の舗装された道路の真ん中に立ち塞がる主人公。彼のパワーあふれる襲撃に、ようやく恐ろしい相手だと気づいた雑魚がオートバイに乗って逃げようとするシーンで。どうやって追いつき追い抜いたのか、オートバイに先回りしての仁王立ち。搭乗者へラリアットを決めて吹っ飛ばし、無人になったバイクは数メートルほど突っ走って大破炎上。彼らの背景を明々と焦がす紅蓮の炎を吹き上げる…のだが。

   「………。」

 何だかちょっと。思い出すものがあって。

   「………。」

 こそって見上げた斜め上。お隣りで同じ画面を眺めてた進さんは、けれどその表情を動かさない。でもでも、この人はいつだって無口で、表情だってそうそう変えない人で。そういうところ、落ち着いてて頼もしいのは良いのだけれど…。

   「………。」

 ぽそって。お隣りから肩口…の下、二の腕の途中へともたれ込んで。もうちょっと近づいてから、キリッてしててカッコいいお顔を見上げたら………。

   「…。」

 ちょっとだけ。唇の端が笑ってる。やっぱり思い出したんだな、進さんも。そうと思うとますます、胸の奥から温かいワクワクが込み上げてくるセナだった。



           ◇


 先日は宿題がらみでビデオを観せてもらいにお伺いした進清十郎さんのお家。今日は早くも二度目のお呼ばれをしている小早川瀬那くんである。なんでも、前回の主題であったビデオの感想を桜庭春人くんに訊かれた進が、
『小早川が泣いた』
などという、端的すぎて慣れのない人にはよく分からないコメトを短く述べたところ、
『…ふ〜ん。』
 さすがは慣れのある桜庭くん。この短い一言で、

  ・進は一人でではなくあの愛らしい恋人くんと観たらしい。
  ・しかも観ている間にセナが涙ぐんだらしく、
  ・そうか、俺の声の演技も満更ではない…じゃなくって
(笑)

『そか。セナくん、もうお前んチに上がったのかvv』

 そりゃあ良かった、一体いつになることやらって思ってたんだ。お母さんやお姉さんには紹介したのか? セナくんは女性受けは良いだろうから好かれただろうなと、そりゃあもう…何でそうなるのか進本人にはよく分からなかったらしいが、我がことのように喜んでくれて。
『じゃあ、今度はこれを観な。』
と、新しいのをまた貸してくれた。セナくんがまた泣き出すような…お前がおろおろするようなタイプの話ではないと、そこまでお見通しな桜庭くんは、
『こう寒くなっちゃあ、外でばっか会うのも可哀想だろうが。』
 お前はここ一番以外は不器用だからな、こういうの観てれば殆ど黙ったままでもたっぷりと間が保
つよ…と、そこまで考えてくれる、良いお友達であったりした。




『何だったら今度はお前の方から"遊びに行っても良いか"って聞いたらどうだ?』
 こうも付け足してくれた桜庭だったが、そこまでは…いきなり口が滑らかになるもんじゃあなくて言い出せず、それでまたまた進の自室にての映画観賞会と相成った訳だが、
「進さん。」
「んん?」
 お行儀は悪いがそのままの姿勢で。背もたれ代わりのベッドと進さんの二の腕へ凭れたまんまで訊いてみる。

   「あの時、僕のこと、どうして分かったんですか?」

 訊いた話の舞台は…半年以上も前に溯る。セナにとっては初めての公式の大会、春の関東大会にて。素顔を隠した"アイシールド21"として一回戦の終了間際に投入されて、11人抜きのランを決めた事で勝ち進んだ二回戦の相手は、何と…この進が所属する、優勝候補筆頭の王城ホワイトナイツだった。何度も何度もトライした突破は、だが、どうしても果たされず。さすがはラインバッカーでありながら高校最速、リターンでランを決めまくる容赦ない攻勢に翻弄されたが、最後の最後にぎりぎり一矢報いることが出来、新しい季節への波乱の予感を匂わせる好試合の幕は閉じたのだが。
 それから数日経って、王城が三回戦を辛勝したとの記事を見た。そういえば桜庭が肋骨骨折という負傷を負っていたことを思い出し、ままそれでもあれほどの強豪なんだから負けはしないさと、常勝していて当たり前、だって王者なんだものと、まだ漠然とそんな風に思っていた。そんな矢先に。

   『アイシールド21か?』

 泥門高校近くの川べりの土手。いつものランニングコースであり、格安の品揃えで時々お世話になっているスポーツ店がそこにあるというので、主将の指示を受け、装備の買い物にと、雷門と二人して出掛けたその日。フードをかぶった本格的なランニングをこなしていた進とすれ違ったセナである。
"思い切り無心になって、学校からもお家からもあんな遠いところまで走って来てた人だもんな。"
 自分を高めることへは苦しいとか辛いとか感じたことはないという、徹底した向上心と、鋼鉄のような頑強さと、逞しくも野太い"剛"の精神力の持ち主で。そんな彼が一心不乱に駆けていた筈が、試合中は顔を隠していたセナを瞬視であっさりと見抜いてしまったのだ。………でもね。そうと訊かれて"…はい"と正直に答えてたセナくんもセナくんだと思ったが。
(笑)
「………。」
 テレビの画面では主人公と首領との最後の戦いが始まろうとしていて、進はそれへと集中しているかにも見えた。すっきりと引き締まったおとがいや顎の線。冬場だというのに浅黒く灼けた、鞣
なめした革みたいな肌が何とも男らしくって。鋭角的で彫りの深い、大人びた顔立ちによく映えている。真っ直ぐ前を向いた視線はさっきから動かない。けれど、

   「…判らんでどうする。」

 響きの良いお声で、何とも短い、素っ気ないお答えが返って来て。
「シャツには"主務"って書いてましたよ?」
 進に限った話ではないけれど、顔は知らなかったくせに。何でそうと判断されたのか、今頃になって気になった。それで言いつのると、
「そんなもの、何とでも書いてあるシャツが一杯あるだろうが。」
 いや、あれはファッションで着ていた訳では。/////
(笑)
「試合から日も経ってたのに…それでも判るもんなんですか?」
 重ねて聞いても、
「…何となくだ。」
 曖昧なことしか言ってくれない進だったから。う〜ん、と。そういうもんかなぁと。小さなセナくんは…お行儀悪くも進さんに凭れたまんまにて、ひょこりと小首を傾げてしまったが。その途端、
「…あ。」
 不自然な体勢だったせいか、座っていた座布団がずりっとすべって、横手へ倒れ込みかかる。そんな彼を、
「…っ。」
 あっさりと。両脇に手を差し込んで引っこ抜くように抱え上げ、そのまま…ぽそんと着地させたのが、
「あ、あのっ………。/////
 さっきまでとは反対側の二の腕が、内側からの背もたれになった"座椅子"の上。つまりは…自分の膝、正確には腿の上へと少年の座席を定め直した進である。この悪戯者めが、甘えるように自分から凭れて来たほどなんだから、ならばいっそ、このくらい平気だろうということだろうか。でもでも実は…こうまでされるのはまだ慣れのないこと、
「うう"…。/////
 いつもいつも落ち着いてて、進さんたら余裕あって狡いよなと。ドキドキしながら頬を真っ赤に熟れさせたセナだったが。そのすぐ傍ら、肩がくっついてた広い深い胸板に耳をくっつけたなら、そうでもないよと分かった筈なんだけれども…ねVvv



            ◇



 映画も観終わり、その頃にはセナも観念したのか…それでも胸元にべったりくっつくまでには甘えかからず、ちょこんとお膝の上の猫になっていたのが、
「重たいでしょう?」
 足がしびれちゃいますよなんて言い訳しながら、こそこそと降りて、巻き戻されたテープをデッキから出しにと立ち上がってしまった。こちらだって実は心中穏やかとまでは言い切れなかったものの、温みが去ったのはやっぱり少々惜しかったのか。立ち上がれば数歩もない先、テレビ前へと離れて座り直した小さな彼へと声をかける。

   「お前は…。」
   「はい?」
   「何とも思わなかったのか?」

 映画の後半のクライマックス分、おおよそ30分も間が空いたほど前に訊いた会話の続き。今頃になってそんなことを訊くとは…さてはまた、ちゃんと映画を観てなかった進さんなのだろうか。
(笑) それはさておき。
「えと…。」
 あまり何かを…人の気持ちなんていう相手の持ち物を探るようなこと、聞かない人だったのに。物凄く勇気や決意を総動員して訊いてくれるようになったなと、それがこっちにも物凄く嬉しくて。…で、
「………。」
 焦らすつもりはなかったのだけれど。どう言ったものか、言葉が咄嗟には出て来なくて。それでついつい黙ったままで"くすん"って笑ったら、
「…。」
 むうって睨まれた。ありゃ、怒らせたかな? だって、いつもみたいに"えとえっと…"なんて言葉を探すのさえ要らないことだったんだもの。

   「思わない筈、ないじゃないですか。」

 試合の中であんなに直接ぶつかったのに、それでも何だか遠いトコに煌めいてる星みたいな人だった。新聞に"辛勝"なんて記事が出てたのへも、調子崩すことだってあるさ、くらいにしか思ってなかった遠い存在。高校最速、最強のラインバック。とってもとっても凄い人。だっていうのに…とんでもない偶然から、アイシールドなしの素顔で鉢合わせたのへドキドキして。でも"ああ、こっちの顔は知らないんだった"って、ホッとしようとしかかってたら、きっちり言い当てられちゃったあの再会。今さっき直接訊いたみたいに"なんで判ったんだろう"って思ったのはずっと後で、その時は…どうしてだろう、何だか怖かった。その時まで"王者"王城って意識がやっぱり抜けなくて、身分違い・立場違いって気がしてたんだろうなと思う。同じ高校生には思えなくて、世界の違う人だって感触が抜けてなかったのかも。恐ろしいのではなくて、畏れ多いっていう種類の、緊張しちゃう怖さ。

   『決勝で待つ』

 オートバイの炎上で思い出した"引ったくり騒動"の後、万全の態勢で向かって来いって言われた時も、対等だって言ってもらえたみたいで…なのに、かっこいいよなぁって、まだどこかで"憧れ"を引き摺ってた。

   ………でもね。

 あの、賊学の主将が進さんをこき下ろしたのへはムッとした。お前なんかに進さんを嘲笑う資格なんかないって、お腹の底から思った。遠い人だけど決して傲慢じゃない。努力を惜しまず、どんな相手だって嘲
あざけることなく、真摯に真っ向から対する誠実な人。試合では何度も何度も進路に立ち塞がられて、凄腕やスピードだけじゃなく、絶対に突破を許さないっていう信念の強さでもって容赦なく潰されちゃったけれど。そのどれも、見下しとか片手間とか、そんな不遜さは欠片もない堂々とした態度で身構えてくれた人。だからこそ、揺るぎない存在としての最強のラインバッカーは進さんだって、あらためて心からそう思ったもの。………でもでもね?

   「凄い人だなって思いました。」

 こういう言い方をすると、

   「………。」

 進さんはいつもそっと視線を逸らすんだ。だからね、ぱたぱたって。今だったら…またまたお行儀が悪いけれど、畳の上を大急ぎで這ってって、
「凄いラインバッカーさんだって意味ですよ。」
 投げ出された脚の上、手をついて乗り上がって、出来るだけ傍らに寄って言い直す。

   「優しい人だなとか、頼もしい人だなとか、
    それでそれであのあの…大好きだなって思うようになったのは、
    その後から生まれたり感じたりしたことですもん。」

 にここって笑うと、進さんは やっとほっこり笑い返してくれて。大きな手でぽんぽんて髪を撫でてくれるから。こっちも何だか"きゅう〜ん"って嬉しくなるんだvv アメフト以外では、人とのお付き合いってところでは何だか不器用な人。こんなに温かいのに、こんなにやさしいのに、無口で表情が硬いから、ついつい誤解されてる人。機械みたいに見えるほど、弱音も吐かず凛と厳しい。でもね、ホントは…ちょっと朴訥で、ボクなんかの言うことにいちいち耳を傾けてくれる、気を遣ってくれる、懐ろの深い人。

   "勿体ないよな、こんなに素敵なのに。"

 ………でもね、そのまま誤解されててほしいかも。そしたら、進さん、ずっとボクだけのものだもん。この頃、そんな風に思うボクは、もしかすると………悪い子なのかなぁ。





   aniaqua.gif おまけ aniaqua.gif

    「でも。決勝で待ってるって言ったのに、
     割とすぐに学校まで来てくれましたよね。」
    「いや、あれは…。」

 あれはあくまでも"好敵手"として認めたぞという宣言だってのに。セナくん、やっぱりちょっと悪い子です。(笑)



   〜Fine〜   03.1.28.〜1.29.


   *例の原作様にキャーッと色めき立ってしまい、
    勢いで書いてしまった第2弾です。
    本誌で展開された"進セナ"仕様のエピソードに、
    なんと4年振りにジャンプ買ってしまいましたがな。
(笑)
    ………で、ウチの捏造話との齟齬が出来たので、
    其処もちょちょいと修正したかったんですが。
    まま、あれはあれということで。
(笑)
    だって、これから彼らの時間は流れゆくんですものねぇ。
    (く、苦しいかも?/笑)
    こんなで宜しければ、
    進セナ祭り協賛作品ということで、お持ち帰り下さいませです。


back.gif