白い帽子の その後のお話

         〜白い帽子と 路地裏のマリア。続編
                   *十文字くんBD記念作品
 


今年もそりゃあ暑い夏で。
体力には自信のあった俺でもうんざりしたほど暑くって。
大雨がふりまくってた梅雨が長引いてたから、
もしかしたらば冷夏かも知れねぇと。
そんな期待を抱いての ちこっと感謝しかかったのも束の間、
結局は、記録的な猛暑になっちまったから皮肉なもんで。

 「………。」

もう十月に入った今になってのやっと、
朝晩が涼しくなって助かったぜと、
それでも大欠伸をしつつキッチンへ向かえば、

 「あ、おはよう、十文字くん。」

迎えてくれるのは可愛らしい笑顔。
これで俺と同い年だなんて信じ難い童顔の、
潤みの強い大きな瞳を瞬かせた瀬那が、
コルツのヘルメットがプリントされたエプロン姿で、
カウンターの向こうから真っ先に声をかけて来てくれて。

 「コーヒー、飲むでしょ? えと、ミルクをひとたらし…だったよね?」

こんな苦いの、平気なんだ。
十文字くんて大人なんだねvv
明るい窓を背景に負って、カップを差し出しつつ、
朝一番の陽光に縁取られた無邪気な笑顔がくすすvvと弾ける。
カウンターに頬杖ついて、
まだちょっと寝起きの不機嫌さから口数の少ない俺へと、
屈託のない笑みを向けてくれるのが、
毎朝のことだってのに今日も格別に嬉しかったりする。
ああ、俺ってもう終わってんのな。
だってよ、もうお互いに大学生だってのに、
こんなまで愛らしいままでいるよな奴なんだぜ?
琥珀の瞳や柔らかそうな口許は表情豊かで、
頬骨がちっとも浮き上がってないままな頬は するんと柔くて。
ちっとも脂ぎってない小鼻とかおでことか、
さらさらのふかふかなまんまで、そこいらの女子に見習わせたいくらい。

 「…な〜に?」

あんまりまじまじ眺めてたからか、
ひょこっと小首を傾げてしまうところがまた、
作為のない自然な“???”がありあり伝わっての、
胸がこう、ぎゅうぅって絞られちまって。
下手なグラビアアイドルが
束んなってかかっても敵わねぇくらいだったりするから。
参るよな、実際。

 「…あ、そだそだ。」

何か思い出したのか、胸元にポンと小さい両手を合わせて見せ、
向かい合ってた小柄な身が、ひょこりと傾いて。
自然木の一枚板だとかいうご大層なカウンターの下、
腕を伸ばしてのごそごそと、何やら探っていたものが、

 「…っvv」

首尾よく捜し物へと当たったらしい。
そりゃあ嬉しそうに笑ってから、

 「はいっvv」

どうぞと両手がかりで差し出されたのは、
いやに平たくて、でも結構な広さのある包み。
俺にか? 目顔で訊けば、こくこくと何度も頷くセナだから、
つるつるの包装紙を、それなり丁寧に剥がせば、
出て来たのは…紺地に白や白地に紺というランダムなパッチワーク調の生地の、

 「…シャツ、いや、パジャマか?」
 「うんっ♪」

正確なサイズが今イチ判らなくって。
ほら、十文字くんて、この半年でめきめき筋肉増えたでしょ?
それだけじゃあない、細く締まったトコもあったりで。
それに制服じゃなくなったから、どのくらいっていう目安がつけらんなくて。

 「後で黒木くんに、
  練習着とかでこっそり調べりゃよかったのに、
  なんて言われちゃったけどもね。」

てへへと微笑った顔がまた、可愛いのなんのって。
でも…なんでそうも、黒木にも懐いてるかな、お前はよ。

 「…ちょっと待て。これってまさか、手縫いか?」
 「ぴんぽ〜ん♪」

当たり〜っと、嬉しそうに人差し指立てた左手の、
何とか隠してた親指がそういえば。
絆創膏まるけでいかにも曲がりにくそうになっており、
うわ〜、もしかしてお前がその手で縫ったのか?
それでなくとも絵筆握る大事な手だろに、
それでなくとも日々の練習で突き指まるけになってる手だろに、
こんなことでまで傷つけててどうするよ。

 「だって、今日って十文字くんの誕生日だし。」
 「え………?」

チョット マッテクダサイ。
おや? あれ? えと?


  ……………………………あ。


そっかぁ、そうだったな。うっかり忘れてた。
ああそうだったなという顔をした途端、
向かい合うお顔がにこやかにほころんだのとは全く逆の不快な声がし、

 「そうかいそうかい、お誕生日かい。」

ほほぉと意味深に語尾を伸ばした、妙に不吉な存在のご登場。

 「あ、蛭魔さん。おはようございます。」

コーヒー飲みますよね? 何にも入れないんでしたっけ。
おうよ。それと、あんま熱くすんじゃねぇぞ。
は〜いvvっと。
今朝の朝食当番のセナが、
カウンターの向こう、キッチンスペースへと向かって行って、

 「そーかー。お誕生日だってんなら、
  今日のトレーニングは負荷を増やして差し上げねぇとな。」
 「それってどういうハピバスデイだ、こら。」

ツンツンに尖らせた金髪に、
きししと笑えば、鋭い歯がびっしり並んだ歯並びが覗く口元。
このクラブハウスの主だという、1年先輩のこの男こそ、
高校時代の瀬那を
アメフトなんてな危ないスポーツに引っ張り込んでた悪魔のような男であり。

 『えとあの、実はね?』

絵画の方も続けつつ、でもあのねと、
入学式が終わって早々、
練習があるからと掻っ攫われたの追っかけってった先のグラウンドで、
それは馴染んだユニフォーム姿のセナとのご対面をさせられて。

 『足が速いの見込まれて、
  助っ人で出させてもらった試合が凄っごく面白くって。』

それからのずっと、
素性を隠しての正選手として出まくった試合の全てで大活躍をし、
気がつけば…東京都のMVPを取ったほどの大選手にまで成長しており。

 “そいで。恩ある先輩の待つR大学へ進学しました、か。”

しかもしかも、そんな危ねぇこと やらせられっかと喧嘩を売った十文字までもが、
気がつきゃ一緒に春の大会に出の、夏の合宿に参加しの。
今は今で、秋の公式戦の真っ只中。
光栄なことには…全くの初心者にもかかわらず、
レギュラーとして、ラインの一角を任されており、
小さな弾丸、アイシールド21との異名を恣にしていたセナの、
行く手を切り開く“リードブロッカー”としても活躍中。

 “な〜んかこう。釈然としないままなんだがな。”

アメフト部専用だという立派なクラブハウスに、
この夏からの数カ月のずっと、寝起きしているそのついで、
同じく合宿参加のセナと、ひとつ屋根の下で暮らせているのが、
まま、これ以上はない幸せなことかなと。

 「はい。十文字くんのオムライス、焼けました。」

先輩さんのコーヒーと一緒に運ばれて来た、
ボールとよく似た朝食の乗っかったトレイを頂戴しつつ、
急転直下の大学生生活に、
笑っていいやら怒った方がいいのやら。
それさえ判らなくなっている十文字一輝くんではあるものの、

 「美味しい? この形にまとまったの、これが初めてなんだよ?」

うふふvvと屈託なく笑う、大切で大好きな天使がいるのだから、


 “………ま・いっか。”


地元じゃ暴れ者のやんちゃで通っていたものが、
齢19にして悟りを開けるよになった。
そんな一輝くん、お誕生日おめでとうvv





  〜Fine〜  07.10.01.


  *久しぶりにも限度があります。
   前の話はちょうど一年前の、やはりBDものでして。
   でもねぇ。
   書かなかったのには何とはなくの理由もあったんですよ、お客さん。
   だって、絶対に…
   高校時代のずっとアメフトやってたセナくんだったってことが露見するだろし。
   あわよくばと、彼まで引き込む某先輩だってことも見え見えだし。
(笑)

   『セナはな、高校時代、そりゃあ沢山の求愛者にまとわりつかれていてな。』
   『…っ!』
   『特に、高校最強と謳われた凄まじくガタイのいいのに執念深く想われててな。』
   『〜〜〜っ。』
   『何たってああいう奴だ。判んだろ? 試合したもんは必ず魅入られる。』
   『〜〜〜〜〜っ。』

   そんな適当な言いようで煽られての、気がつきゃ入部してたりで。

   「糞チビの武器か? そりゃお前、天然なトコだろが。」
   「そんなぁ〜〜〜。」

   さんざん嫌がっといて、
   天然ってなんですか?って訊くようなセナくんなので。
   十文字くんも大変です、はい。

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