キミと 真っ赤な観覧車。
A
        〜白い帽子と 路地裏のマリア。続編 A
             *セナくんBD記念作品(DLF
 

 

 
          




 昼下がりという時間帯で、喫茶店にでも寄ろうかと思ったものの、どこも列が出来ているほどに混んでおり。通りに面したクレープの店で、クリスマス限定とかいう“ももいちごとチョコミックス”という甘そうなのをセナへ、自分はツナとマヨネーズとアルファルファのさっぱりしたのを買い、おやつ代わりにぱくついて。それからそれから、雑貨店を覗いたりゲームセンターで簡単なゲームに挑戦してみたりと、街歩きを堪能する。他愛のない玩具の仕掛けに弾けるように笑ってみたり、ゲームについてけなくて鈍
トロいなとからかわれて膨れたりするセナのお向かいで、こっちこそはしゃいでいる自分に気がつく十文字であり、
“…男なんだけどもな。”
 判っているのに、でもだけど。小さなセナが、頼りない幼なじみが、何ともかんとも気になってしようがなくて。そんな自分へ…実を言うと、少しばかり“どうしたもんか”と胸の裡
うちにて転がしていた憂慮がなくもなくって。
『…え? あのセナと、わざわざ逢うの?』
 休みに入ってすぐは親掛かりのバイトがあるらしく、その後にやっと暇になるからと“どっかに繰り出さねぇか”と誘いの声をかけて来たコージに、予定があるからと馬鹿正直に言ってしまい。まさかデートか? 何だなんだ一人だけ抜け駆けかよと詰め寄られ。渋々ながら、セナと待ち合わせてるんだと白状したらば…ちょこっと引いたような態度を取られた。
『何だよ。』
『いや…。』
 せっかくの休みなのに、わざわざ遠い同士で待ち合わせてまでってほどの用向きがあるのか? そうと訊かれて、やっぱ…奇妙なことなんかなって、ちょっとばかし引っ掛かっちまった。カノジョとならともかく、同じ“男”の幼なじみと、わざわざ待ち合わせるほどの用向きがあるのって、やっぱ変なのかな。

  “けどなぁ…。”

 ちらりとその横顔を覗き見たセナは…やっぱり可愛い。ちまっと小さくて、可憐っていうのかな。それに時々何かと覚束ないところが、保護欲というのだろうか、俺が付いてないとななんて思わせて擽ったいし。同い年とは思えない繊細そうな雰囲気に触れると、気持ちが和んでうっとりする。
“選りにも選って、一緒にいたいからって誘った俺の方が、そんなもん気にしてどうする、だよな。”
 それは重々分かってるんだが…けどなあ。
“………。”
 街の人込みは自分たちと同じように早めの休みを楽しんでる高校生くらいの若い連中であふれてる。見渡す限りのそのほとんど…すれ違うのも道端に立ち止まって人波を眺めているのにも、男女の二人連れが多いのはクリスマスが近いからかな、やっぱ。せっかくセナと逢ってる最中だってのに、コージが見せた反応を思い出したり、周囲をついつい気にしたり。日頃だったら気にかけないよなことだのにと思えば、何とも“らしくない”自分だが、
“…またかよ。”
 何でだか視線を感じるから、それに煽られているのだ、実はと言うと。男同士じゃあ変かよ、放っとけよと。妙にジロジロ見られてんのに気がついて、何でだかついついイラッとする。平生に浴びてそのまま喧嘩に発展する威嚇的な視線じゃあない。だから、慣れがないから余計に落ち着けない。けど…、
“………?”
 そんなカレ氏の態度に気づいた連れの女が、やっぱりこっちを見つつ怒ったみたいにツンとするのが、なんか…変。そんなされて慌てて自分のカノジョを追っかける、そんな野郎が何人か。あ、あいつもそうだ。………あれれ? これってこれって、もしかして?
「あ、ほら、十文字くん。」
 セナがこっちを見ながら指差したショーウィンドウの向こう。あれって十文字くんに似合いそうだよね、なんて、小さな手でざっくりと編まれたセーターを示して見せたセナをこそ、視線と共に注意を奪われるほどになってまでして、連れてるカノジョを忘れてまで、見ていた連中らしいと分かって、それで…やっとのことで“ああ成程”と合点がいった。結構背丈はある方で、しかも喧嘩で鍛えられた肩幅や胸幅がある自分と並んでいると、小柄なセナはより小さく見える。たかたかと歩くのに合わせてふわふわと躍る柔らかそうな髪は、染めてない自毛なのに優しく甘い色合いで。黒みが滲み出して来そうなほど潤んで愛らしい目許に、やさしい線で縁取られた小鼻と頬。小さな顎の上には、ふわりとほころんだ何かの花びらみたいにしっとり可憐な唇が据わっていて。はっきり言って…そこらを“ぎゃははvv”と笑いながら群れをなして歩ってる女の子たちに、全く引けを取らないほどに愛らしく。しかもしかも、浅い青のスタジャンの、開けっ放しの前合わせから覗くは、アイボリーのモヘアのセーターと玉子色のボタンダウンのシャツ。細身のGパンの、さして丸くはないのだろう尻まで覆うほど丈の長いジャンパー…のせいで、
“………そっか。女の子に見えてんだ。”
 男同士だということへ奇異の目で見られているのではなく、純粋に“かわいいカノジョ”を連れているように映ってるということで。
“だったらラッキー、かな?”
 気を回して損したなと口許がほころびかかったものの、
“…でも、それって。”
 喜んでも良いことなんかな。だってこいつは、やっぱり男なんだしサ。それに、俺だって“女の代わり”なんて思っちゃいない。大切にしたいダチなんだのに、女に見られてることへ“やりィvv”なんて思っちゃいけないんじゃねぇのかな。
“………。”
 そんな風にグルグルと、余計なこと頭ん中で転がしていたらば。不意に、
「…?」
 セナがきゅうとこちらの手を掴んで来た。階移動しようと乗り込んだエレベーターの中。結構な人数が載っているから、降ろした手元なんか見る奴はいないだろって安心してかな。それとも人込みに酔って気分が悪くなったかなと、どした?と顔を覗き込めば、
“…え?”
 唇を必死に噛み締めて、今にも泣き出しそうな顔してる。どうしたんだろうか、よそ見しての考えごとなんかしてたって気づかれた? そうと思った次の瞬間。

  ――― あ。

 ピンと理解してすぐさま。腕を背中に回してやり、セナを引き寄せるようにして…一方の手を真っ直ぐ、背中から真下へと撫で降ろし。そこにあった異物をぐっと掴みあげて持ち上げる。
「俺の連れへ何してやがるかな、兄ちゃんよ。」
「…あっ。」
 大学生くらいのパッとしない野郎で。体は横を向いていたが、その手がしっかりとセナの着ていたスタジャンの裾の中に入っており、
「な、何のことだよっ。」
 白々しくも開き直ろうとしかかったものの、

  「良い度胸してんじゃんか。ああん?」

 低い声をかけてやりつつ、少ぉし凄みを利かせて睨みつけると、ひくりと震えて肩をすぼめたから。どうやらそんなにも度胸はない手合いであるらしい。そんなやり取りに周囲も気づいたか、視線が集まって来て…そして、

    「あっ。あいつ知ってる。」
    「なになに?」
    「いつもこの辺り徘徊してるデジカメ男だよ。」
    「ほら、先輩なんかスカート覗かれそーになったって。」
    「テレビでも特集してたじゃん。ここのプラザだったもん、あれ。」
    「あ、そうだそうだ。見たよ、あたしも。」
    「放課後とか休みの日とか、エスカレーター何度も往復してんだってよ、あいつ。」
    「サイっテー。」
    「あんな奴は“写メール無差別転送の刑”だわっ。」
    「そうよね、テレビ局とかに送っちゃえっ。」

 女子高生たちらしき女の子たちが交わす、ちょいと物騒なひそひそ話が聞こえるに至って。

  「そこのお客様。すいませんが、事務所まで来ていただけますか?」

 エレベーターガールが事務所へ連絡したのだろう。到着した階にて、ガードマンらしい大柄な男性二人がご丁寧にもお出迎え。常習犯なのなら、叩けば余罪もたっぷり出るのだろうなと、知らん顔して連行されるのを見送った。
“あの子らもついてったみたいだしな。”
 通報したエレベーターガールさんの後から、頼まれてもないのにゾロゾロついてく彼女らに、真っ青な顔して何度も視線を向けてたし。ありゃあ、さして手も掛けられぬうちに自分から白状するに違いない。だったら自分たちまで何かと聞かれることもなかろうと、他人の振りして…それよりも。
「…大丈夫か?」
 気持ち悪い思いをさせられて可哀想にと、ゲージの外の待ち合いになっているホールの窓際。丁度空いていたベンチまで導いてセナを座らせた。今にも泣き出しそうな顔になっていたが、
「ボクらは行かなくても良いのかな。」
 彼の方からそんなことを言い出すもんだから。
「いいんだよ。呼ばれはしなかったんだし、それに。警察沙汰には しないのかもしれない。」
 それはなかろうと思いつつ、でも、もしかしたらば…警察には通報しないが、以降このモールには来ないでくれと一筆書かせるだけで済ますということだって有り得る。客商売なだけに、妙な逆恨みをされても困りますもんね。それはそれとして、そこでちょっと言葉を区切った十文字は、
「こういうのってサ、無神経なお巡りが“何をされたのか、一から話せ”なんて言いやがるらしい。」
 これはホント。どんなケースであれ、殴られたとか刺されたとか、引ったくりにあったとかいうのと同じという感覚にての“基本的な事情聴取”なんだろうけれどもサ。大人しいからこそと狙われたような純な女の子が、そんなの初対面の他人にぺらぺらと逐一話せますか? こういうのを“セカンドレイプ”と言って、裁判なんかでも法廷で赤裸々に語らねばならないことを恥じて、それで訴訟に持ってけないって例がこれまで本当に多かったそうです。これだから男が作る法律や形式はっ。性に関する法規や何や、男だけで決めてどうするって思いませんか? ………ついつい筆者が出しゃばってしまいましたが、同じ男の人たちだって冤罪なんかで迷惑している痴漢行為。犯罪なんですからね? 判ってますか?(と、女性しか来ないサイトで言ってもねぇ。う〜ん。)
「他にも心当たりがあるよな後ろ暗い奴らしいし、ま、俺らが証言しなくとも大丈夫だろうサ。」
 ポンポンと薄い背中を軽く叩いてやって、うつむいた小さなお友達を励ますが、
「………。」
 男の子であっても気分の良いことではなかろうから、さすがに堪えたのか。ふわふわな髪が乗っかった小さな頭は俯いたままだ。細い肩も頼りなく落ちており、せっかく陽だまりに咲いてたお花が、冷たい風に遭って揉みくちゃにされ、力なく萎
しおれてしまったようにも見えて、
“あんの痴漢野郎がよっ。”
 せっかくのデートを台なしにしてくれよってからに。ほんのついさっきまで、あんなにも楽しそうにしていたセナだったのに。それをこうまで落ち込ませやがって、ますますもって許せんと、今からでも怒鳴り込みに行ってやろうかと思ったほどだ。とはいえ、
“………そうじゃなくって。”
 あんな下衆のことにいつまでも思考を奪われてること自体が馬鹿馬鹿しいと、何とか頑張って気持ちを切り替える。自分に降りかかったものならともかく、セナが気に病んでるこの状況が問題なのであり、
“え〜っと…。”
 壁代わりのような大きな窓。そちらを向いてはいるが外へと視線を向けるでないセナの、華奢な肢体に暖かな陽光が降りそそぎ、何とも可憐で愛らしく。それがしょんぼりと俯いている様子は、さっきまで以上に人目を集めかねなくて。
“………しょうがないか。”
 んんっと咳払いを一つして、さてさて。
「なあ。」
 こそりと、耳元で掛けた声。なぁに?と少しばかり小首を傾げて見上げて来たセナへ、
「あ…えと。///////
 こらこらこら、こんな段階で腰砕けになっててどうするか。
(笑)
「あのな、今からあれに乗らないか?」
「え?」
 いくら稚い見かけだとはいえ、こんな子供だましなことで、気が晴れるものだろうかと。それこそ正直言って自信はなかった十文字であったのだけれど。ポカンとしてから、指さした先をゆっくりと見やったセナが、
「………あ。」
 小さなお口を丸ぁるく開けて。それから、
「…いいの? ////////
 堪え切れなくて、つい。そんな勢いを押し殺すのに困っているかのような、嬉しそうなお顔になった彼に、やっとのことで十文字の側もホッとする。都心にしては空気の澄んだ冬空に、妙に孤高にあっけらかんとした存在感にて。プラザビルの真横でその骨格がくっきりとあらわになってる、随分と大きな観覧車の赤い鉄骨の輪が、その窓からはよく見えていた。






            ◇



 デパートの屋上にも昔はあったというけれど。こんな都心の繁華街になんて違和感満開だろう、子供連れより大きなお兄さんお姉さんが中心な街で、一体誰が乗るんだよと思ったものだが、これが案外と…カップルに受けているらしく。
「あのねあのね、実は一回乗ってみたかったんだ。」
 でも、デートで来たカップルじゃないと何か恥ずかしいんじゃないかって思ってた。それで、ガッコの友達と来てもこれには乗れないままだったのと、こそこそ囁いてた順番待ちの列の中でも、男同士で並んでるような奴らはいなくって。なのに、浮いてなかった彼らだったから大したもの。カップルたちは他には注意がいってないのだろうし、気が散ってるような輩には、町中でと同じ反応が見られるばかりで…機嫌よく笑ってはしゃいでるセナの愛らしさが、むしろ羨望の眼差しを十文字の上へと集めているほど。周囲に並んでいるビル群に見劣りしないようにということか、直径も結構あって、1周するのに15分ほどかかるらしく。シートは幅が狭いので、がっつりした体躯のカレ氏とだと向かい合ってでしか座れない二人乗り。祭日同然という人出だったその上に、天気もいいし人気のスポットだしということで、30分ほど並んで待たされたものの、そんな時間さえ…ウキウキと機嫌を盛り返したらしきセナの様子を眺めているだけで、あっと言う間に過ぎ去ったし。ゆっくりゆっくりと動いているケージ。前に乗ってた二人が素早く降りたそこへ“どうぞ”と促され、先に乗ったセナを怖がらせないよう、揺らさないようにそっと乗り込んだ後へかちゃりと鍵を降ろされて。さあ、二人っきりで空へと向かう短い旅路。アクリルの窓から降りそそぐ陽光のおかげで、中は十分に暖かく、
「わあっvv
 幾つかが寄り添うように集まっている、プラザビルやファッションモールが、どんどん眼下になってゆくのが楽しくてしようがないと。周囲を見回してセナがはしゃぐ。
「あ、凄い。」
 都心ならではで平らに均された街の上、野原のようなそこをゆったりと流れる雲の陰が望めて正に絶景。そんな平地を囲む衝立みたいになった丘陵や山の稜線も、随分と遠くに見えており、
「あれってもしかして、十文字くんのトコの○○山かなぁ?」
「いくらなんでも こっからは見えないってよ。」
 無邪気なご意見へ くすすと笑いながら応じてやって、それから。あ・そうだと、これは今思いついたこと。ブルゾンのポケットに手を突っ込むと、そこに入れっ放しになってた包みを…迷うように撫でてから“えいっ”と思い切って掴み出す。

  「…おい。」

 ああ、今くらいは“セナ”って呼びゃあ良かったのかな。でももう遅い。ほんの至近だったから、すぐさま“なぁに?”と、屈託のないお顔がこちらを向いた。満遍なく陽を浴びた柔らかそうな髪が暖められて、さっきよりもずっと甘い色になっている。琥珀色の瞳も、底が透けて見えそうなくらいに透明になってて、お人形さんみたいに愛らしい。またまた見とれかけたのを、何とか頑張って持ち直し。もうちょっとでぶつかりそうになって付き合わさってる膝の上、ほれ とも、ん とも言わないまま、細長い包みを差し出せば、
「???」
 小首を傾げたその目顔が“貰っても良いの?”と訊いている。うんと頷いたのへやっと伸ばされた小さい手に、赤い包みが良く映えて。店の人はクリスマスプレゼントだと思ったらしく。水玉模様っぽく並んでいる白い点は、良く良く見ると…星と鐘のランダムな続き模様だったりするのだけれど。そんな細かいところには言及しないまま、
「開けても良い?」
 甘い声が小さく訊いた。喉の奥に引っ掛かったような声で“ああ”と応じる。ああ、いかんいかん。なんでそんな、ぶっきらぼうで乱暴なんだ、俺。さっきのヤなこと、慰めるってつもりとは別口のことなら尚更に、ちゃんとこれを選んだ気持ちのまんまな態度取らなきゃダメじゃんか。凄く恥ずかしかったけど、包んでもらってる間なんて逃げ出したくなったほどだったけど、今日の待ち合わせを待つ間は、何かのお守りみたいにこれを見るたびワクワクしたんだ。そんな気持ちまで、自分で玉なしにしちまうのかよ…とは思ったものの、

  “わ〜〜〜。///////

 なんでこんなにドキドキするんだよ。ああ、そんな丁寧に剥がさなくて良いのにな。ガサッて引き破けばすぐだろうによ。セロハンテープまで1つ1つ剥がさなくても…あ、箱が出た。///////
「あっ。」
 極小携帯くらいの薄幅の、細長い箱。包装紙を丁寧に畳んでから、さてと。まるでこっちを焦らすよう、時間を掛けてそこまで解いた小さな手が、いよいよ箱の蓋へとかかった。小さい割にしっかりした作りだった小箱の中には、

  「うわ〜〜〜vv

 薄いビロード敷きの上、燻した金物独特のくすんだ黒をしたアンティーク調のペンダントが、無言のままに横たわっている。細い鎖は長いめで、その先に下がっていたのは大きめの鍵だ。持ち手の部分がトランプのクローバーのような形になってて、細かい透かし彫りの装飾がほどこされている。そこから伸びる細い軸棒には途中に輪環が嵌まっているような二段の出っ張りがあり、先の鍵の部分にも…微妙な長四角の平たいところへ細かい模様が刻まれてあり、随分と凝った細工が何とも意味深で美しい。
「これってどこかのホントの鍵かなぁ?」
 安物の鋳物だと、合わせ部分にあたる脇のひとつなぎに、継ぎ目の線が無様にも入ってたりして。それで“何だ、ただのおもちゃか”って判るんだけれど。これにはそういうところはなかったもんだから、ホントに使われてた鍵に見えなくもない。
「重みもあるし、頑丈だし。何か、宝箱とかの鍵だったのかもだね?」
 それは楽しそうに笑ったセナだったから、こんなものつまらないって顔をされたらと案じてた杞憂も一気に吹き飛ばされて、
「そうだな。それかどっかのお城の鍵かもな。」
 同じノリで言ったら、そっちの方が凄いね、そうだったら良いねと、ますます笑ってくれた。ああ、そうだ。プレゼントですねと言われて、包装されてるのをじっと待ってた。恥ずかし紛れに怒って見せて“そのままでいい”なんて言わないで。恥ずかしくても頑張って我慢出来たのは、他でもない、この顔が見たかったからだ。
「ありがとうね? ////////
 ちょっぴり頬を赤くして、口許には楽しくって隠し切れない笑みが浮かんでて。こんな顔を見たくなるのって、やっぱただの友達じゃないよな。こんなにも胸の奥が切なくなって、それが無性に嬉しくて。今こんな気持ちになったぞってこと、相手へ伝えたいんだけど、馬鹿だから上手く置き換えられるような言葉が見つからなくて。もどかしくて焦れったくて。ジリジリしながら、ペンダントの鎖を自分の首へとかけてるセナを見ていたら、
「あのね…。」
 少ぉし俯いて、自分の膝あたりをみやったままな彼だから。こっちの様子には気づいてないらしいのだけれど。少しほど声の調子を落としたセナへ、十文字がぎくりと肩を跳ね上がらせる。な、何か ヤバかったのかな? やっぱ、女の子扱いみたいなのはイヤなのかな? ここまでは何とか付き合ってノッててくれたけど、もうこんなことに付き合わせないでって言われちまうかな? 喧嘩相手には強腰な男が、今日は何とも気の弱いことばかりを思ってばかりいて。
「あのね、ごめんね。」
 ああ、やっぱり〜〜〜とドッキリしたのを追うように、
「ボク、もしかしたらなんて期待してた。」
 これって狡いよね、ごめんなさいと。そんな言い回しが続いたもんだから、これは…意外で。
「何言ってんだ、今日はお前の誕生日だろうがよ。」
「うん。だから、あのね、期待しちゃってたんだけど。」
 そういうのってやっぱり狡い。そんな下心があったから、あんなヤな目に遭ったのかもって、そんな風にまで思ったのに。
「今、何か凄いホッとしたの。」
 そろそろ斜めに落ちかけているのか、弱い金色の陽射しの中でニコッと笑った稚いお顔が、天使みたいに見えたりしたから、ああもう…。
「〜〜〜〜〜。////////
 何かもう。なんで、こいつ、こんな可愛いんだろうか。弱々しいのに、何にか1つだけ、芯が通ってて。そんなこと黙ってりゃ良いのに、こんな俺へでも嘘はつきたくないなんて思ってくれたのかな。それとも、そうまで何もかも晒け出してくれたいのかな。そぉっと手を伸ばすと、小鳥みたいに小首を傾げた彼だったのだけれど。そうなんだ、逃げたり避けたりしないんだ。あんなヤな目に遭った後なのに。それどころか、そぉって睫毛を伏せたりするんだ。ダメだって、そんなことしたら。俺、バカだから我慢出来ないぞ? 良いのか? なあ……………。///////




  ――― 脆いくらいにやわらかくて甘い。
       そんなキスをドキドキと堪能しつつ、
       “このまま観覧車が止まれば良いのに”って。
       そんな物騒なことまで思ってしまった十文字くんだったそうである。










            




 さて。良い子たちにはお待ち兼ねのクリスマスも、いよいよ明日に迫って来て。こんな田舎町の小さな駄菓子屋にも、一丁前にツリーがディスプレイされている。そのすぐ横に、お正月用のおもち、承りますなんてマジックで書いた紙が無造作に貼られているところが、らしいっちゃらしいんだけど。
“クリスマス、か。”
 例年だってあんまり興味はないんだが、今年は別な意味で尚更の“おまけ”扱いになっている十文字であり、
「………お前、◎◎高の奴から呼び出し受けてんの忘れたんか?」
「あ〜? そうだったっけ?」
 にまにまと笑って答える相手に、大丈夫かなと渋面を作るコージの隣りの席で、こういう状態の方がこいつ手加減が微妙になるから強ぇえんだってと、まんがを読みつつ…恐ろしいことを言うショーゾーだったりするのだが。行きつけの喫茶店にて、その喧嘩の“待ち合わせ”の時間までを何となく潰していた3人だったのだが、

  【今年は…ダークホースで、なかなか面白い対戦になりそう…。】

 夕方6時の全国のニュースが、カウンター奥のテレビで放映されてる。晩にはカラオケスナックへと変わるお店なのだが、飲食店が少ない土地柄から、喫茶店メニューもそのまま出すアバウトさなもんだから、夕食にと来るタクシーの運転手さんなどからのリクエストで、食堂のようにテレビまで置かれている雑食さ。そんな画面へ映し出されたのが、どこやらの競技場。随分と大きなスタジアムらしき場所が映って、
【関東勢に初出場チームが登場するのは、何年振りのことでしょうか。東京の雄・王城高校、そして神奈川の名門・神龍寺を撃破した波に乗っての…。】
 どうやら高校生の選手権大会の話であるらしく、
「ラグビーか?」
「あれは関西の花園じゃなかったか?」
「サッカーは国立だしな。」
 第一、そっちはまだ早いだろうと、小首を傾げながら言ったコージの声が、ふっと遠くなったのは。画面に映ってた練習風景の中、スポーツバッグから取りこぼしたらしき、鎖のついた何かを慌てて拾った少年がいたからで。
「………っ。」
 今のって…そういや以前にもこういうのあったよな。思いがけないスポーツ選手に、あいつが重なったってこと。あん時も確か、アメフトじゃなかったか?


  【高校生日本一を決める、クリスマスボウル。
   今年は丁度クリスマスに、
   此処、東京スタジアムでのキックオフとなります。】


 にこやかに笑ったアナクンサー嬢に罪はなかったが、カウンターに飛びついたまんま、のしかかるようにしてテレビに釘付けになってしまった十文字の頭からは、◎◎高のスキンヘッドの番長さんからの呼び出しも吹っ飛んでおり。

  “………行ってみっか、東京。”

 おおっと。それは“セナ誕”とは関係のない企画になるのでしょうか? はっきり言って。
(こらこら)




  〜 収拾が着かないままに Fine 〜  04.12.12.〜12.16.


  *あはは…vv もしかして続くんでしょうかこのお話。(笑)
   気の迷いということで、黒木くんが何とか宥めてくれるかも?
   こんな妙なお話を、セナ誕に入れても良かったんでしょうかしら。
   ビクビクしつつのアップでございますです。

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