キッチュピンクのチョコレートvv
        
〜白い帽子と 路地裏のマリア。続編 B
 



 暖冬のうちに年が明けて、新年と一緒にやって来たのがこれぞ冬らしい寒さ。それを合図にしたかのように、こちらも本格的なものとして大学や高校への受験シーズンに突入したものの、この春に二年に上がる身にはあんまりピンと来なくって。そりゃま去年は受験生だった訳ではあるが、田舎のガッコはどこも似たり寄ったりなせいでか競争率とやらもさして高くはなく。余程のこと投げないで、且つ贅沢な選り好みをしない限り、学区内のどこかへと潜り込めるから、そんなに“大変だった”という記憶もなくて。
『そりゃあ、カズは結構勉強出来るからよ。』
 ショーゾーみたいな“本の虫”でもないのに、放課後なんかは自分たちとゴロ巻いてるクチのくせに。ホントだったら も1つ上のランクのガッコにだって行けたもんを、面倒だから一番近所ので良いなんて、余裕の発言をして今の公立のガッコに進学したことは、ここいらじゃあ結構有名な話だそうで。

  “…田舎だもんな。”

 都会じゃあ 隣りの家の住人の顔も知らないなんて気味の悪いことが珍しかないそうだが、そんなこと此処いらじゃあ信じられねぇ。町内の人間は身内も同然という感覚からなのか、それとも娯楽が少ないからか、情報の伝播の早いこと早いこと。どこの悪たれが悪戯をして叱られてただの、どこそこのお姉ちゃんが誰それと良いムードで歩ってただの、あっと言う間に広まってしまうから始末に負えず、自分たちが喧嘩にばっか明け暮れてる悪ガキだってことも、しょうがない子たちだねぇというレベルにて結構知れ渡ってる。褒められたことは当然のことながら一度だってないけれど、遠巻きにされたり鼻つまみ者って扱いにもされてない。弱いもんには関心がない、とか、力仕事には出て来るとか、それなりの仁義は守っているからだろう。………まあ、どっちだって良いんだがな。

  “…?”

 明日からの三連休に、だけどさして予定も立たないまま。婆ちゃんに編んでもらったマフラーに顎先まで埋めて、鼻の頭も赤いまま、少しは陽が長くなった夕方の吹きっさらしを帰って来てみれば。机の上にちょこなんと乗っかってる包みがあって。郵パックの伝票が貼ってある、平たくて小さめの…覚えのないもの。懸賞マニアのショーゾーが、また俺ん名前も使って何かに応募しやがったのかなとか思いつつ、手にとってみて…ハッとする。見慣れた住所を綴る小さめな字がもっとちんまりと連なっており、

  “………嘘だろ?”

 そういやそうだ、そういう日だ。でもなんか、こんなのってサ、ドラマん中だけとまでは言わないけど、それでもやっぱり。俺にとっては別世界のことだったからサ。あ、いやいや、まだ判らない。包みを開けてみないと、中身は実はお進めの小説の文庫本でしたってオチだってあるかも知れなくて…って。“お菓子”だなんて内容物欄に書いとくなよな、あいつはよ。期待しちまうだろうがよ。/////// 宛て先シートの分厚さに少し手古摺りつつも、包みを開けば…淡い赤のつやつやした包装紙に包まれた箱と白い封筒。St.Valentine なんて金の箔押しをされたシールが短いリボンと一緒に貼ってあって、これってやっぱり…そうなんだろな。/////// あいつ、自分で買いに行ったのかな。都会じゃ男が買っても大丈夫なんだ。あ、いやいや。あいつみたいなちんまりしたなりじゃあ、目立たないってこともあんのかな。そんでも、勇気は要ったに違いないだろうにな。どっちを先にしようか。やっぱ封筒だろか、いやいや箱だろう。何でだか…重いもんでも持った後みたいに、少しばかり震えてる指先なのに気がついたのは、手間取りながら包装紙をほどいてからで。贈答用の高い石鹸でも入ってそうな、平たくてやたら綺麗な英語の何か文句が印刷された蓋を開ければ、1個1個色んな形をした小さなチョコレートが、色んな色の銀紙に包まれて、細かい仕切りのある箱ん中に整然と並んでる。3個かける…5だから15個も。参ったなぁ、俺、甘いものはあんま食わねぇのによ。///////
“…っと、そうだ。”
 にやけている場合じゃあない。封筒の方。椅子に腰掛けながら手にした封筒には、表にも裏にも何も書いてない。ペーパーナイフで封を開ければ、角の丸い、中折れの白いカードが入ってて、こっちも表紙には“St.Valentine”っていう印刷がある。開いてみると、

  《 男の子から貰うなんて変かな? たくさん貰う、その中に混ぜて下さい。》

 下の方にそんな1文。真ん中には、窓辺の机に置かれた…スィートピーとかいう小さな花の、緋色やピンクの花束のイラストが描いてあって。これって、あいつが自分で描いたんだろうか? 相変わらず器用な奴だよなって、やっぱり顔がにやけて来ちまう。都会に住んでる小さな幼なじみのセナ。背丈も手も肩も小さくて、でも眸はでっかくて そりゃあ綺麗で。傍へ寄ると甘い匂いがして、ふわふわの髪とふかふかの頬っぺしてて、口許も柔らかくて………、
“えっと。///////
 机の足元、足置きの段差へ片足を突っ張り、椅子の後ろへ重心を移して前脚を浮かした。少しばかり傾けるカッコになって、カードを眺める。展覧会で入選するほど絵が上手いセナ。もっと小さかった頃と面影があんまり変わらなくって。少ぉし怖がりだけど、随分と大人しいけれど。どうかすると俺よかよっぽど、度胸や勇気があって、自分に正直なセナ。あんまり可愛くて、どうかすると一目惚れしてた俺が、けどでも照れ隠しから、意地悪したり煮え切らなかったりしたのへ。きっと凄んごく傷つきもしたろうに、セナの側からも好きだってこと、堂々と示してくれた優しい奴で。
“こんなん買うのだって、思い切りが要ったろうによ。”
 ここいらは田舎なせいか、さっき言ったみたいに情報も早くて。人の目だって どこにも無さそうで どこにでも有る。しかも“あれあれ、○丁目の××さんチの みっちゃんじゃないの”なんて、大概のオバさんたちに名前から所番地まで知れ渡ってるからで。だから却って…デパートまでチョコなんか買いに行ったり校舎の陰なんぞで手渡しするなんてこと、度胸が要って出来やしなくて。よほど日頃から ぱきぱきした奴らででもないと、なかなか告るトコまでは行かないらしくって。それを思えば、これは物凄いこと。
“街に住んでる奴ってのは、皆このくらいは物怖じしないレベルのことなんかな。”
 それとも…この絵みたいにふんわかしてる、セナの優しい見かけに誤魔化されてる俺なのかもな。パステルカラーのイラストが、あいつ本人みたいに見えて。何度も何度も隅々まで眺めていた俺だったけれど、

  “…え?”

 やっと気づいたものがあり、反っ繰り返って座ってたもんだから、バランスを崩して…後ろざまに“がたんっ☆”と椅子ごと引っ繰り返っちまった。遠くから“何やってんの、カズキっ”て母ちゃんの声がしたけれど。顔からモロに、銀紙に包まれたチョコ粒の雨をバラバラッとかぶってしまったけれど。畳の上、ドタァッとコケたことからして気にならなかったのは…イラストの中、花の陰になってたカードに気がついたから。

  《 だ〜い好きだよvv

 なあ、これってサ。絵の演出だよな? 大好きな人への花束って設定の絵だから、それで。そんなメッセージを書いたカードも付けてなきゃって、そう思っただけだよな。色んなピンクに、紫や緋色。やわらかい色の中に埋まってたカードから目が離せなくって。顔の上へ乗っかったままになってたチョコを一つ手に取ると、歯の先で銀紙を剥いてぽいっと口へと放り込む。中に柔らかい別のチョコが入ってて、やっぱり甘ぁい味がしたけど。いつもだったら、うわって思うはずの甘さが…何でだか。久し振りに食べたからかな、美味しいなって思えた十文字くんであったそうな。













  heart_pi.gif おまけ heart_pi.gif


 3日とも寒波にくるまれたままだった連休明けの登校前。今日も寒いのかな?と 窓の外へと目をやりながら、机の上でカバンの中身を確かめていると、
“…あれ?”
 こんなに早くから、誰かからのメール。あやや、もしかして先輩さんじゃないかしら。ボクらだけになる春大会を心配して下さってか、新人の発掘にと駆け回ってるらしくって。連休中なんてそのまま入試当日だったからと、目ぼしい奴は居ないかって見に行くのへ付き合わされた。お気持ちは嬉しいんだけれども………ホントはね。連休を使って待ち合わせがしたかった人がいたんだのにな。そこまでを一気に思い出し、はふうと溜息をつきながら ぱかりと開いた携帯電話。メールが1通届いてて、

  ――― え?////////

 そっけない短い文章だったけど、あのね。何度も何度も、何度も読み返しちゃったのvv だってだって、十文字くんからのだったしね、これってあのその、今日だからっていうメールなんだろうし。あ〜あって思ってたのが、一遍でほわほわって温まってしまったのvv 凄い凄いって思っちゃったようvv …あ、は〜い、今 降りま〜す。天井が揺れるほど跳び撥ねてたって? ん〜ん、何でもないで〜すvv




  ――― 着信;from 十文字
         ホワイトデーとやらには覚悟しとけよ?




  〜Fine〜  05.2.13.


  *忘れてました、こっちの二人。
   微妙にパラレルな設定で、新加入の二人ではございますが、
   ラブラブさでは他の面々にも負けてないと思いますのでvv

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