冬の入り口は オレンジ色 
〜白い帽子と 路地裏のマリア。続編 E

               *セナくんBD記念作品 (DLFですvv)
 



 雨が降るごと、寒さも少しずつ増してはいたけど、秋とは名ばかりって感じの10月11月が、様々な行事を乗っけてパタパタとゆきすぎて。今年はまたもや暖冬か、なんて言われていたもんが、ところがところが、12月に入るといきなり加速がついたみたいに寒くなった。名前だけ置いてた部活からは、秋季大会が無念のうちに終わった時にとっくに引退していたし、期末考査が始まったこともあって、ずっと明るいうちに帰れてたんで、すぐにはそれと気がつかなかったけど。5時を回ると、何かにササッて取り込まれるみたいな勢いで外が暗くなっていて。そか、そんな時期なんだなって今頃実感しちまった。これからはどんどんと、冬めいて来るばかりなんだろうな。…え? 不良気取りでいる割に、早くに家へ帰ってたんだなってか? しょうがねぇだろよ、此処いらじゃあ陽が落ちるとロクな溜まり場もねぇんだからよ。米屋の前でしゃがんでダベってる訳にも行くめ? ああ? 何かに取り込まれるみたいな…だなんて、そんな詩的な表現、どこで覚えて来たかって? んだよ、別に…どこでだって良いだろーがよ。///////
(←あっ)

  「うううっ、さぶ〜〜〜っ!」

 今朝はまた、晴れてはいたが、そのまま雪でも降り始めるんじゃないかってほど、かき氷を掻っ込んだ時みたいに頭痛がしそうなほど、きんきんに冷たい空気が張り詰めてた朝だったから。首元にぐるんぐるんに巻いたマフラーに、顎先から鼻まで埋まらしてガッコへ行った。自分のように髪を極力短くしてると、耳の先っぽどころじゃない、頭自体も冷えるんだけど、コウジが“貸してやろっか?”と差し出して来たニット帽は謹んでご遠慮させていただいた。つか、
「お前、自分がかぶる訳でもねぇのに、何で持ち歩いてんだ、それ。」
「あ? もっと寒くなったらかぶるサ。」
 たださぁ、カズってばいっつも寒そーにしてんじゃんか。だから、困ってないかな〜って思っての心遣いじゃんかよ〜、だと。調子の良いこと言ってやがるが、知ってんだぞ? 実はそれ、お前のお婆ちゃんが持たせたんだってこと。去年の2月頃だったか、凄んげぇ重い風邪ひいたんで、それを心配されてのこと。別にお婆ちゃんが嫌いな訳じゃあないコージらしんだけど、
「色が渋いのは良いとして、さすがに…頭のてっぺんにポンポンがついてるのは勘弁してほしいってか?」
 うんうんと。ショーゾーが頷きながらぽそりと言ったのへ、コージも“きしし…”と笑って見せる。
「実はそう。」
 でもサ、カズには案外と似合うかも。よさんか、お前とはキャラが違げぇんだよ。なに気取っちゃってるかなぁ、柄にねぇ可愛いストラップ提げてる奴がよ。全然動じずからかうだけからかって、先に行くぞとダッシュをかける。ちっ、あのヤロ、脚だけは ちこっと速いからな。いつの間にやら…恐らくはじゃれ合いが始まった辺りに、とっとと足を速めてやがったらしいショーゾーの姿もなくて。こんな下んねぇことでごちゃごちゃしつつ始まるのが、いつもの朝には違いなく。ただまあ、


  『そこだけが恥ずかしいのなら、
   きっと毛糸で後から縫い付けてあるだけなんだろから、
   そこを切り取れば良いのにね。
   それが出来ないなんて、相変わらず、コージくんて優しいんだ。』


 あいつが言ってたその通りなんだろなと思えば、どいつもこいつも可愛い奴だねという苦笑が洩れるばかりであって。少しばかり大きめの白い吐息をつきながら、肩をすくめてガッコへと向かう。そういや、もうすぐだったよな。自分からは絶対に言い出さねぇだろうから。野暮でもこっちから強引に話題として持ち出さねぇとな。ここいらよりはずっと東京都心に近い街に住む、12月生まれの小さな瀬那。冬に生まれたから、あいつあんな辛抱強い奴なんかなぁ?






            ◇



 結局、惚気るだけで終わって自己紹介をしないまま、筆者へバトンを渡して下さった十文字一輝くんでしたが。
「ば…っ!///////
 だってホントのことじゃんか。久し振りに覗きに来た、唐突なあたしが悪いとは言わせんぞ。この季節なんだから、予想していてしかるべき段取りでしょうが、まったくもう。
「〜〜〜〜〜。」
 図体ばっかで、実は実は、立派な純情青年の、十文字一輝くん、17歳。そういや…なんてな、うっかり忘れていたような言い方をしとりましたが、そんなそんなとんでもない。実は彼ったら、机の上へ置いてる、信用金庫の小さめのカレンダーに、ちゃ〜んと丸印をつ…〜〜〜っ! もがむがっ!! 判ったから離しなさいってばっ。話が一向に進まんから、これ以上の脱線はよすってばっ。………えっと。何の話をしてたんだっけ? あ、そうそう。


 幼なじみの小さなセナくん。少しばかり遠い町に住む、愛らしくって優しい、ちょっぴり内気で大人しい、けどでも芯の通ったとこもある、大切な大切なお友達。初めて出逢った真夏の空の下、結構 仲良く遊んでいたのに、ついつい苛めてそれっきり。さよならも言い合わぬままに別れてしまって。間違いなく傷つけちゃったこと、柄になくも気にかけ続けてた。そんな一輝くんへと、自分の側から“お久し振りです覚えていますか?”と、お電話くれた優しい子。天使みたいに可愛くて、臆病なとこは相変わらずだったけど、思いやりのある、自分なんかよりもずっと大人になってた幼なじみに、気がつけばどんどんと惹かれていった十文字であり、自分でも“硬派が聞いて呆れる”と、苦笑が絶えない今日この頃。そして、そうして………。


 ホントはちょっとズルをして、クリスマスに逢えねぇかって聞き方をした。誕生日なんて覚えてないって振りをかましてサ。でも、部活の関係で、クリスマスやその直前の連休は、ずっと空いてないんだそうで。試験休みに入っているから、お互い自由が利く身だろうって思っていたから、
『12月まで部活があんのか?』
 文化系ってそんな結束が堅いもんかなとか、年明けすぐにも締め切りがある展覧会とかあるのかなとか、一応はセナの周辺ってのを想像してみたらば、
『いやあの…美術部の方じゃなくってね。』
 それを慌てて止めさせるような勢いにて、実は掛け持ちをしている、もう1つの方の部活が冬に大会があって…と、言い出して。冬と言えば、サッカーかラグビーか、陸上部のマラソンてトコか? 何かのマネージャーとかやってんのか? 訊くと“そんなトコvv”って笑いつつも…何だか言葉を濁してたんだけど。そんな事情の関係で、誕生日当日より 2日ほど早めの月曜に、R街のショッピングモールで逢うこととなった。通勤時間から少しズレてたせいだろか、電車はさほど混んでもなくて。そんなせいだろか、暖房の熱気が妙に匂って堪
こたえ、到着したホームの吹きっさらしがありがたいって思ったほど。そこから2階分の階段を降りて、中央出口の改札へと向かえば。
“…ああ、俺ってホントに正直者だよな。”
 なぁんて、痛いほど実感した十文字くんだったのは。結構な広さのある改札前のコンコース。壁と見まごう大きな柱に凭れつつ、大きな瞳を目一杯瞬かせ、人の流れをじっと集中して見やってる。そんな小さな人影を、あっと言う間に、視野の中に捕らえてしまえた自分だったからだった。ああ、相変わらずにちんまくて可愛いな。去年のとコートが違うけど、東京の洒落者は当たり前に何枚も持ってるもんなのかな? 勿論、去年のグレーのも、今年のチェックのダッフルも、どっちも凄げぇ似合ってて可愛いけれど。腕に巻いてんのはイアーマフとかいう耳当てかな? 寒かろうに何で付けねぇんだよって、後で十文字くんが訊いたらば。ぶっきらぼうな一輝くんは、セナの名前をそりゃあ短く呼ぶ人だから。それを聞き逃さないように、だってさvv
「…あ。こんにちは、十文字くん。////////
 今回は双方とも、ほぼ同時に相手に気がつけて。それでの目線での会釈の後、本人たちが近づき合うのが妙に妙に焦れったく。気の短い十文字なぞは、肩が触れた知らない相手を突き飛ばさんって勢いになりかけたほど。無論のこと、そんな無法な“人身事故”を起こしては、セナがたいそう悲しむだろうから。相手がそのままコケなかったか、チラッとながら確認はしたが。
「よお。」
 こっちの挨拶は相変わらずの短めで。ああ、これじゃあいけないんだって、何度反省すりゃあ学習すんだ。俺の馬鹿馬鹿、大馬鹿野郎…って、内心でひとまず、今日最初の自分へビンタ気分を味わってしまった十文字だったのだけれど。そんなところへ……………あんな?

  ――― くすすvv………って。

 俺ってほら、自分でも自覚があるほどの大雑把だから。けどでも、妙になけなしのプライドがあるってのか。これも分析されりゃあ“負け犬根性”の現れなのかも知れないが、笑われたらカチンって来る、そういう感度だけは妙に鋭かったりもするんだけれど。相手の無様さを笑うっていうんじゃなくて、幸せがあふれ出して止まんないってのかな? こっちまで暖かくなる笑い方、そんなのを、しかも大好きな奴から向けられてみ? 正直、もうもうどうなっても良いって気分になんぞ? 寒かったのも、人目があんのも吹っ飛んで、自分へと“嬉しい”って笑ってくれたセナのこと、ぎゅううって力任せに抱きしめたくなったほど。冗談抜きにそうしかかった十文字だったのだけれども、
「ねえねえ、そこの君ら?」
 見ず知らずの厚化粧のネエちゃんが、バインダー片手に近寄って来かかったんで、面倒だからと振り切りついで、有無をも言わさずセナの小さな手を取って、ぐいって、モールがある方へと引っ張った。乱暴だったかなって、途中で心配になったけど。案外と足の速いセナ、こっちに全然遅れを取らずでくっついて来れてて、
「危なかったね〜。」
 アンケートですって言っといて、最後にはよく判んない映画の会員券とか買わされちゃうんだって。ボクだけだったら断れなかったかも知んないって。物凄い冒険をしちゃったみたいな、ワクワクしてるよな笑い方してて。ああもうっ、こいつってば何て魔法使いなんだろな。詰まんねぇ目に遭っちまったって思わせないんだもの。そりゃまあ、俺としては、こいつと一緒なら…どんなことが起きようと、ヒーロー気取りなことだって、幾らでも出来そうな気分でもあったのだけれども。階段を幾つか上り下りし、地下街を通り抜けてモールエリアへと駆け込んで。今日はまだ陣幕が薄いらしい…それでも結構な数の人の流れへと紛れ込み、やっとのこと、歩調を緩めて顔を見合わせる。そんなにも大層なことじゃあなかった筈だのにね。何だかドラマの主人公みたいで。それが可笑くて、ついつい吹き出しちゃった、お二人だったそうですよ?






            ◇



 とりあえず。買い物だの映画だのって目的があった訳ではなかったものの、モールのあちこち、クリスマスバザールなんてなセールのディスプレイを観て回り。吹き抜けになってた広場では、正に“見上げるほどもの”大きめのツリーが昼間っから電飾を瞬かせてたの、こっそりと…手をつなぎ合って、並んで眺めてみたりもし。大人向けの趣味と玩具の雑貨店では、模型の帆船や線路のジオラマ、凄いねぇ、あんな細かいトコまで作るんだねぇって感嘆の声を上げ、仔犬が一杯いたペットショップでは、わあわあとちょこっと興奮気味の歓声をこっそりと上げつつ、ゲージの前から動かなくなってしまうセナの…何かに心奪われてる愛らしさの方を、飽かず眺めてしまってた十文字くんだったりしてと。なかなか板についてるおデートを、二人揃ってほのぼのと堪能していたりして。随分と歩いてから、カフェスタンドじゃあない、ボックス席のある喫茶店へと落ち着いて。コーヒーとココアをオーダーして、さて。

  「………えっと、だな。」

 コートの中から現れた、お行儀のよさそうな…ネルのシャツにVネックのセーターを着た細っこい肢体が、何とも可愛いもんだから、一瞬惚けかかったりもしたけれど。忘れてなんかいませんでした。これこそが今日のメインイベント。買いに出た時もなかなかに勇気が要ったけど、ああ、やっぱ、渡す時の方が何倍もドキドキする。ウェイトレスが二人分の飲み物を置いてってからって、十分間合いを見たはずなのにな。まだちょっと落ち着かなかったけれど、え〜いっと意を決し、テーブルの上へと小箱を出した。
「まだ早いが、誕生日、だから、サ。」
 誰の? なんて無粋は言わないその代わり。サァッて、ふかふかの頬を真っ赤にしたセナが、ココアのカップから指を離し、そぉっと小箱へ手を伸ばして見せるのへ。早く手に取ってくんないかなと、こっちこそドキドキに加速がかかる。ダサいって落胆されないかな、実はもう持ってるとか? いや、それは少しほど見越してたんだけど。幾つあっても困らないかと思ってサ。

  「………あ。//////////

 やっぱり、そりゃあそりゃあ丁寧に、セロテープまでもが贈り物だと言わんばかりの慎重さで包装紙を剥がしたセナは、箱の蓋を開けて…小さなお口を小さめの真ん丸に開けてしまう。あああ、どっちなんだろ。やっぱ趣味悪いって思われたかな?
「これ…。」
「先に訊いた方が良かったかな?」
 せめて色とか型の好みくらいは。都会の奴らは携帯で全部のことを足らしてるそうで。引っ切りなしにメールを見てるからそのついで、時間も液晶で確かめてるから、腕時計なんて嵌めてさえいないって聞いてたけどサ。女の子相手じゃないんだから、指輪ってのもおかしいかな。けどでも、きれいな手や腕、してるんだよな。ちょっと前に流行ったミサンガとか、今なら色んな啓発キャンペーンのメッセージの刻まれたバンドとか、そういうのをつけてる奴らもいるくらいだから、かえって邪魔かも知んないかも? いろいろ考えちまったけれど、夏休みが明けたばっかの通学路。馴染みの商店街の時計屋で、誇らしげに飾られてたこれに、何でだか妙に惹き寄せられてて。そんなにごつい作りじゃない。アンティークにも見えそうな、アナログタイプの、秒針用の小さい文字盤までついてるデザインの腕時計。ずっとどこかで控えめに隠れていたのだろうに、こんな田舎の時計屋でやっとのことで陽の目を見ることが出来ましたという感じで引っ張り出されて。此処でならまあいっかって、一体誰の目を恐れているやら、及び腰な誰かさんの可憐さをついつい思い出してた十文字だったから。それでと…バイトを頑張った。放課後と週末だけの酒屋の荷下ろしと配達と。新しくバイクでも買うのか、来年は普通免許も取れるもんな、さては教習所代か?なんて、訳知り顔にて言われたのを曖昧にいなしつつ。部活にはおざなり、大会前にだけ顔を出す程度って付き合いに留めて。それでの3ヶ月かけてためた“虎の子”で、売られませんようにって祈ってたそのままずっとずっとそこに居続けててくれたその時計、やっと手に入れられたのが先週のこと。手に入れるまではセナの側のこと、考えるの忘れてたけど。もしかして邪魔っ気かもと、買ってから気がついたのは相変わらず。ちょっぴり困ってるよな、そんな顔になりそうなの、何とか隠して見守ってたら。ただただ驚いてたのが…じわぁ〜って。間違いなく“嬉しい”って形の笑顔になってくれたから、やっとのことでホッと息がつけた十文字くんだったらしいです。

  「…凄っごい。これって、よそゆきの時計だよね?」
  「よそゆき?」
  「うん。お呼ばれでコンサートに行く時とか、
   改まったところに行くって時に、身につける高級な時計。」

 ああ、そうか。こいつの従姉妹の姉崎は、お母さんを手伝ってピアノやエレクトーン教室の先生もやってる。その発表会とかへ、たびたび出掛ける機会があるんだ。あと、結構大きな展覧会にも縁がある、天才少年画伯でもあるのだし。
「別に、そんな改まったときにって思わんでも。」
 安もんなんだから却って恥かくぞなんて、心にもない言い方をしたらば、ううんってぶんぶんってかぶりを振って見せ、けれど、

  「でも…あのね? ガッコとかにもしてっても良ぃい?」

 失くさないようにするから、ね? もう“やった”もんなのにな。何で俺にそれを訊きくかなと、苦笑をしつつ。ああ良いさと頷けば、わあって笑顔がますます弾け、

  「ありがとうっ。大事にするね?///////////

 うああぁぁああっっっ! やっぱりそう来たかっ! なんて甘い笑顔だろうか。………あ、しまった。携帯で撮っときゃ良かったのによ。待ち受け…には(コージが時々フェイントで覗きやがるから)出来ねぇけど、それでも手元でいつでも見られたのによ。今更ながらに“逃がした魚は大きい”と、ちょっぴり悔しがってたところへと、
「あのね? ボクからもあげたいものがあるの。」
「あ?」
 ちょっと待て。俺の誕生日は、
「あ、ううん。そうじゃなくって。」
 忘れた訳でも勘違いした訳でもないよ? 十月一日、ちゃんと覚えてるもの。慌ててそんな風に言ってから、
「ちょっと早いけどクリスマスのプレゼントに。」
 そうと言って、隣りの席へと置いてたコートをごそごそまさぐり、どんな内ポケットがついてたやらという、結構な大きさの紙袋を取り出して見せる。さして大きくも重くもない、店の名前もロゴも入ってない紙袋。口のところの端っこに、小さなリボンが蝶々になって留まってる。そんな口を封していたテープを剥がすと、
「お?」
 入っていたのはふかふかした毛糸もの。カーキ系ってのかな、深緑っていう落ち着いた色合いの、大きなナベつかみみたいなミトンの手ぶくろと、それから…ニット帽。どっちも太い目の糸でざっくり編まれてて、ミトンの甲のところと帽子の半球になってるところに、縄目模様ってのかな、そういうのも入ってて。これってそうそう簡単には作れねぇんじゃねぇのか? だってよ、これ…。

  「もしかして、お前が編んだのか?」
  「あ、判っちゃった?////////

 中学校の家庭科で、ゴム編みのマフラー作って以来だったから、あのね? 調子よく続けられるようになるまでが、ちょこっと大変だったけど。太い目の毛糸でかかったから、ややこしいとこも少なくて済んだし。真っ赤になってそんな説明をする、小さなセナ。
「あのね、ホントは何にしよっかって凄い迷ってたんだ。」
 十文字くんって、聞いても“そんなの何でもいい”ってすぐに言うでしょ? ほら、お誕生日のときだって。
「そうだっけ、かな?」
 ………そいや そうだったかも。ちなみに、今年の俺の誕生日、セナはトルコ石がついてる携帯用のストラップをプレゼントしてくれた。渋いくすんだ銀の提げ鎖ので、なかなかカッコいいし、相変わらずセンスが良いんだなって感心しちまったんだっけ。………って、

  “………あっ。”

 今やっと判った。なんでセナが、コージのこと“相変わらず”なんて言ったのか。あいつが帽子を差し出す話を電話で持ち出した時に“相変わらず優しいんだ”って、確かに言ってたセナだったけど、小学校時代のあいつって、そんな、印象に残るほども殊更に優しかったとは思えなくて。だから、なんでそんな風に言うのかなって引っ掛かってたんだ。…うっせぇなっ。/////// べ、別にっ、妬いてなんざ、いねぇってばよっ!///////

  “そっか〜、あのヤロ、勝手にセナと連絡取ってやがったな?”

 セナの側から電話をしたとは思いにくいから、ウチの方へと来てた時、こっそりセナの携帯の番号、聞き出しといてたコージに違いなく。寒くなると頭が辛そうなんて話になって。そいで、これを編んでくれたってか。
「十文字くん?」
「あ? あ、ああ、いや。」
「…気に入らなかった? そんなのかぶるの、カッコ悪いかな。」
 もっと編み目がきれいなの、どこででも売ってるしね。小さなお顔が力なく項垂れるのへ、いかにも屈強なお兄さんが、わたたっと焦ったのは言うまでもなく。
「ち、違うってっ!」
 ガバッとそのまま、その場でかぶって見せた一輝であり、

  「あ…。」

 凄げぇ………。むちゃくちゃ温ったけぇ〜。それに、あれれ? 何かいい匂いもするぞ。あ、そか。こういうのは手の中へ握り込んで編むんだから、もしかしてこれって………。
「…え?」
「あ、悪りぃ。」
 すまんすまんとひょいと謝りながら、けどでも手は引っ込めず。やっぱり手ぶくろは脱いでたセナの小さな手を取り、その指や手の匂いをくんくんって嗅いで見せたら…打って変わって犬みたいだと小さく笑い出した彼だったりし。

  ――― なぁに?
       うん。この帽子からいい匂いがしたから。
       それって?
       セナの匂いなんかなって思って。

 あ…っ、と。またぞろ真っ赤になった小さな恋人。なあなあ、もう“そう”だよな、これ。お互いが大好きで、だから…あのその、こここ、恋人って思ってもいんだよな? まだちょっと、口に出してまでは訊けなかったけれど。恥ずかしそうに、でも嬉しそうに。蕩けそうに笑ってくれたからホッとした、恐持てな見栄えの割にやっぱり純情な、そんな十文字くんだったみたいです。お店の格子窓の外には、鉢植えのポインセチアと並んだ小振りのクリスマスツリー。電飾の豆電球が暖かな黄色を点滅させてる。一足早いお誕生日と、それから二足早いクリスマスと。誰にも内緒で祝ってしまった、そんな可愛らしい二人のこと、ボクらも内緒にしといてあげるねと、ウィンクしてるみたいだったそうですよ?


  ――― ついでに、クリスマス当日の、
       誰かさんの活躍も隠し通すつもり…なのかな?
(苦笑)





  〜Fine〜  05.12.06.〜12.07.


  *早いにもほどがあるぞの開催ですが、
   ウチの“セナ誕”はこれにて開幕でございますvv
   今年一杯の、少しずつ、頑張りますので、どかよろしくvv

  *ところで、原作の舞台は一応“2005年”になっているのだそうで。
   クリスマスボウルは正にクリスマス当日なのだとか。
   誰が勝っても誰が負けても、
   この大会自体にかかわった人全部へ、感慨深い日になりそうですね。
(苦笑)

ご感想はこちらへvv**

戻る