ちょっと大人の、ブラウン・シュガー

         〜白い帽子と 路地裏のマリア。続編 G
                *十文字くんBD記念作品)

 


 あっと言う間の夏休みが終わって、またまたガッコが始まって。
『何でまた まだ暑いのに、シャクシ定規にも“九月ンなったから休み終わり”って運ぶかね。』
 東南アジアだったか中近東だったかじゃあ、気温が30度越したら会社もガッコも休みんなる国があるって聞いたことあんぞなんて。コージがうんざり顔になって忌々しげに言ってたけど、そんなことを言う割に、きっちりガッコに出て来る律義さが、どんなに突っ張った言いようをしてみても、隠し切れない“人のよさ”の現れかと。早いもんで高校生としての3年間もあと半年ちょっと。振り返れば…特に部活に明け暮れた訳でもなく、体育祭や文化祭、修学旅行での思い出とやらも、さしてパッとした初体験があったって訳じゃあなし。中学の3年間と、いやいや、その前からのずっとずっとと変わりなく。ガキん頃からのツレと一緒に、何か面白いことはないかっていうのを口癖に、そのくせ、何かに熱中するでなく。どっか たりたりして過ごした3年間だったよなと、

  「な〜んて罰当たりなことを思ってんなら、余さずセナに言い付けっからな。」
  「な…っ!////////

 なんでそこでセナが出て来…いや、それよりもっ! てめ、なんでセナに告げ口って順番にしやがんだよっ、大体あいつは関係なかろうが…っ、じゃなくって。どうして此処にあいつが絡んで来るんだって、えとうと・あのその…と。
“真っ赤っかになって言われてもな〜vv”
“説得力なさすぎ〜vv”
 あんだけご執心で、長い休みにゃ必ずわざわざ逢っててよ。何にもなかったなんて白々しいこと言われてもなぁ。まあ、それもしょうがねって。硬派に見せかけて、実はバリッバリの不器用者だかんなこいつ。そうそう、恐持てで通して、女が寄って来るのが鬱陶しいって顔してたのだって、実は扱いが判らねぇのが おっかなかったからだぜ。おう、それは俺も気づいてた。フツーに、俺らと同じ口利きしてりゃあいいのによ。要領が悪いというか、今時ありえねぇほど純情というか。

  「お前ら〜〜〜〜っっっ!!」

 こそこそと内緒話をしておりますと。そんな態度をこれみよがしにとられての、言いたい放題をされて大人しく黙っているような、若しくは聞き流していられるような“大人”じゃあなかったことへの、これこそその証し。口許引きつらせ、目元を吊り上げ、殴ってやるっと掴み掛かれば、
「おおっとぉ。」
「逃げるぞ、ショーゾー。」
 相手だってそのあたりは心得ており、素早く身を躱してのお見事な撤退。そのまま廊下をばたばたと、鬼ごっこまがいの駆けっこで駆け抜ければ、
「またお前らか、静かにしないかっ!」
 実は授業中だった教室から教師が顔を出し、その声に3人揃って外へと飛び出す。やっぱり相も変わらぬ人たちではあるらしいですvv





            ◇



 何だか ご紹介が中途半端になっちゃいましたね。モノローグで始めたはずの、主人公くんは、もうお判りですねの十文字一輝くんといい、都心からは ちょっとばかり離れた、お花畑やきれいな空気、風光明媚な景色が“売り”で、観光客がよく訪れるところに住まう、高校三年の青少年。これが都心で繁華街周縁だったならさして珍しかない、むしろ角刈りに近い短髪なのが清潔感があって好印象かも知れないほど…だが、この辺りでは重々目立っているのが。ブリーチで脱色したのか、金髪と呼んだっていいくらいに染めちゃってる頭だし。わざとに目付きを歪ませて、視線が合ったら“何見てやがる”とがなり、視線を逸らしてみせれば“人をどういう見方しやがる”と噛み付く、どこに出しても まあその呼び方で通るだろう、立派な不良だったりし。喧嘩で鍛えた体格や風貌は、いかにも雄々しく荒っぽく。ここいらじゃあ ちっとは名の知れた悪
(ワル)だけど、気性までは腐っちゃあいない。それが証拠に、腕力体力も標準よりはあることから、たまにあちこちの運動部から大会への助っ人として頼られてるしね。それ以外は、先にもちらっと触れたそのまま、な〜んか面白いことはねぇかなとボヤキながら過ごした、さしたるトピックスもないままの十代がそろそろ終わろうかとしてるみたいだねぇなんて。白々しいことを並べかけてた彼だけれど。

  『あの、あのね? 十文字くん、R大に進学するってホント?』

 高校へと上がって最初の夏休み。そりゃあ懐かしい幼なじみからの連絡が入ってからは、思い出なんて何にもなかっただなんて罰当たりな言い方をしたらば、セナが泣いてしまうぞよと。ツレの二人から体よくからかわれたほど判りやすくも、時折 心ここにあらずとばかりの腑抜けになってた彼でもあって。小さな小さな幼なじみは、小早川瀬那という同い年の男の子。いかにも都会の子ですという小綺麗で垢抜けた格好をし、可憐で無邪気で、ちょっぴり及び腰だった彼は、なのに…芯のしっかりした気丈な子でもあって。繊細なところをついつい、囃し立ててからかった。もしかしたら泣かしてしまったかも。いじめっ子だと思われていよう、彼を傷つけたといつまでも気にしていた一輝くん。そんな彼の前へ“また逢いたかったの”と、天使みたいに救いの言葉と共に再び現れてくれてからというもの。硬派ぶってたメッキも易々と剥がれての、骨抜き・蕩けっぷりは…それこそ不器用な彼だから隠しようがなく。都心近くと片田舎、結構距離のあった遠距離恋愛が続いた2年とちょっとだったが、何と大学への進路は…示し合わせてもないのに同じところを目指しているようだと判明したので。
「でもよ、カズキなら特にガリ勉しねぇでも余裕なんじゃね?」
「だよな。R大っつったら体育会系の大学なのによ。」
 もともと成績は悪い方じゃない。就職じゃあなく大学進学を選択…という進路自体は、工場を経営している父親からの肝入りもあって、前々から決まってたコースには違いなく。子供の頃は何も誰をも疑いもせず、フツーのいい子でいた彼だったのだけれども。さしたる大物でもないくせして、時たま人を見下げるところのある薄っぺらな傲慢さを覗かせる父上への反発心がムクムクしだしたのが、高校へと上がってから。他人の指図で縛られるなんて真っ平だったそのついで、親の意向なんていっそ蹴ってやろっかなんて思ってたのにね。
「R大どころか、H政とかK応とかだって狙えそうなのによ。」
「そうそう、実は“カゲ勉”してんじゃねぇかって、一時 噂にもなったろに。」
「まさか俺らにレベル合わせてくれたとか?」
「友達想いだねぇ、泣かせるねぇ。」
 くっと拳で鼻の先を擦って見せつつの、白々しい泣き真似まで出たお友達からの言われようへ、
「………お前ら。」
 実は全部へ気がついてるくせに、わざとらしい遠回しな物言いをしてんじゃねぇよとばかり。鋭角的なお顔をますます尖らせ、唸り声のような低い声を上げかけている十文字くんだったりし。中学へ上がると同時に真っ先に背丈が伸びてのそのまま、屈強で男臭い、三人の中では一番精悍な風貌となったもんだから。それへと合わせて大人ぶってるその実、中身は一番不器用でオクテだった十文字くんの、とある夏からの変わりようくらい、それこそ長い付き合いだもの、気がつかない彼らじゃあなくって、あのね? 彼らにはとっくにバレてたってことへ本人の側が気がついたのは、結構最近の話なんだけれど。そのくらいにそりゃあ可愛らしい初恋だったから。これをクリア出来たなら、長期休暇だけなんて寂しい逢瀬しか出来ない間柄じゃあなくなると、それで受験勉強にも身が入った、現金な彼だってことくらい、彼らにはそりゃあもうもう判りやすかったらしくって。
「まあまあ怒んなって。」
「そうそう。付き合いがいいのは俺らの方からも、なんだからよ。」
 調子のいいお言いようをし、バシバシと肩をどやされながら、彼らが出て来た此処は、日曜だってのに大学受験生たちがぞろぞろと吐き出されてくる、某大学のキャンパス、カッコ、ただし本日は某大手受験研究所主催の模擬試験が行われた東東京会場、カッコ閉じる、だったりし、
「こんなもん、受けなくても余裕だろうにな。」
「いきなり“石橋叩いて”派になっちゃってよvv」
 好きなあの子のためならばで、ここまで出来るなんて。そうそう、お前実は赤○花道か? なんて、放っておいたらどこまで言われることなやら。周囲の見知らぬ同輩たちにも、筒抜けだからかクスクスと笑ってる奴も出始めており、
「いい加減にせんと、殴るぞお前ら。」
 何でこんな遠くまで来て、要らない恥をかかんといかん。そうかいそうかいと聞き流せない、図星へ焦りまくってる自分の方は棚に上げ、むっかり来ているお顔を上げたその時だ。

  「十文字くん。」

 進行方向からの声が。駆け寄ってくる気配が届いて。そんなに大きな存在感でもなかったのに、特別な…そう、大切な人の気配だったから。もしかしたらこの人だったらいいのになとか、この人にまずは逢いたいしとか、常から思っているせいで、五感の引き出しの一番手前にいつもあったからなのか。自分でも驚くくらいの反射で…声の主を、気配の主を、ぴったりと想起出来てた、やっぱり現金な十文字くんの前へ、まばらになりかけてた人の流れを、逆行して近づいて来たその人こそは。

  「…セナ?」

 え?え? なんで? だってもうとっくに夏休みは終わってんし、九月の連休も先々週に終わった。今週末には最後の三連休が来
っけどよ、今日はやっぱり平日と変わんねぇ、遠出には向かないただの日曜だってのに。そういう日には到底逢える筈のない相手だから…そして、それが切ないこの2年だったからこそ。嬉しい筈だがあり得ないという不条理さに混乱しちゃってる十文字だったりし、
“………でも。”
 幻や人違いにしては。この姿の実感と酷似はどうだろか。潤みが強くて女の子みたいに大きめの、でも張りのある目線をした、黒々とした大きな双眸といい。まだまだ骨張らず、するんとなめらかな輪郭で描かれた、小鼻や頬や、小さな耳に顎といい。
「十文字くん?」
 こっちの反応へあれれぇと、キョトンとしたまま小首を傾げる仕草まで、ご本人と瓜二つで。
「…ホンットにセナか?」
「他の誰だっていうの。」
 変なこと言うんだと、くすすと笑った笑顔はやはり、間違いなく本人だったものだから。
「せ…っ!」
 感極まって声が大きくなりかかったのを、
「ああ、はいはい。感動の再会になった訳ね。」
「でも、ここじゃあ人の目もあるこったから、ちょぉっとどっかへハケようね?」
 割って入ってナイスタイミングで遮って下さったお友達二人へは、

  「あやや…。////////
  「う…。///////

 外見も可愛らしい側のセナのみならず、がっつり屈強なお兄さんの側までが、言葉に詰まって真っ赤になったそうですが。いやはや、持つべきものは機転の利くお友達ですよねぇ♪





 大学入試を想定した模擬テスト。それを受けるため、わざわざ少し都心のQ街まで、悪友と連れ立ってやって来ていた十文字へと、駅へ向かってた人込みの中、狙い定めたみたいに声をかけて来たセナであり。
「お前も受けたんだ、さっきの模試。」
「うんvv」
 ウチのガッコでは指定試験だったしね。あ・そか、道理でその制服を着ている奴が多かった訳だ。日曜だとはいえそれでも今日から、グリーンのブレザータイプのに代わったばかりの、ネクタイつきのシュッとした制服。JRの特急でやって来た自分らと違い、快速でのすぐご近所の彼らだったなら、逆に私服では来ないものであるらしく、
「…そんな制服だったんだな。」
「あ・えと、うん。////////
 写メでは何度か送ってもらってたけどな、直で見るのは初めてだ。そだったね。////// 間違いなく眺められてる照れからか、ついつい真っ赤になったセナなのへ、こっちもやっと落ち着いて。運ばれて来たコーヒーに口をつけている此処は、スタンド式全盛の今時は減りつつある、ボックス席へ陶器のカップでコーヒーを出して下さる喫茶店の一角で。
『じゃあ、積もる話もあろうから。』
『ああ、俺らへの伝言があるなら、そいつに言っといて。』
 気を回したならそれはそれで、やっぱり何かしら含まれてたものへ憤懣を募らせてた十文字が何をか喚き出す前に。そりゃあてきぱき、二人だけをモールの入り口に居残らせ、じゃあなと手を振って駅へ向かってったコージくんとショーゾーくんを、声もないままに見送って、さて。ここはボクの方が慣れてるからと、大通りから1本だけ、路地へ入ったところにあった、隠れ家みたいな喫茶店。店内はほどよく静かで、今はインストゥールメンタルが流れてる。コーヒーの香りと、ランチかモーニングでピラフかスパゲティでも出たものか、炒めもの油の香りも少し。
『コーヒーの美味しいお店で、でもボクはココアしか頼んだことはないんだけれど。』
 高校に上がってすぐ、部の先輩さんに連れて来て貰ったの。備品のお買い物の途中で、疲れたみたいなの心配されちゃって。えへへぇと小さく笑った含羞みのお顔がまた可愛くて。夏休み以来だから1カ月振りのご対面。その事実だけで、舞い上がるか蕩けるかしかねないほど、惚けかけてた十文字だったが、
“誰だよ、その先輩って。”
 見かけによらず、結構 体力あるセナなのに。田舎の炎天下で連れ回してもけろっとしていた彼が疲れただと? 引っ張り回して何する気だった? ついついムクムク、善からぬ考えが頭の片隅、沸き上がりもしたけれど。えへへぇなんて笑い方させるなんて、一体何があったんだよって、問いただしたくもなったけれど。
「十文字くん?」
 小首を傾げて話しかけてくるのは いつもの癖で。黒々とした大きな眸で見つめられたその途端、ああ、もうどうだっていいや、そんな見ず知らずの奴のことなんて、なんて。結構 筋を通したがりで、強くもないのにガンをくれた初対面の相手へ、
『お前の頭から出た考えじゃあなかろう、誰の差し金だ』
 どうしても聞きただすぞと構えたくせに、うっかり殴って気絶させたことがある彼へ、ほんの一瞬でそんな風に思わせてしまうとは。連れの二人が此処に居たらば、これは凄まじい威力だと思うに違いなく。
「あ、いやそのなんだ。こんなとこで偶然逢えるなんて凄げぇ奇遇だなっとだな。」
 それを思ってのつい、感慨深くなってただけだと、そんな言い方をしたところが。お昼を回るとちょっぴり駆け足になった秋の陽が、格子窓から斜めに差し込むその傍らで、小さな幼なじみが、もう一度 クススvvと、それは楽しげに笑って見せて。
「…何だよ。」
 含むものありありな笑い方。気になるじゃんかと目線で促せば、

  「模試の会場から帰るルートって決まってるでしょ?」

   ――― え?

 えっとぉ? 一瞬、思考が止まった十文字へ、小さな幼なじみくん、やっぱり含羞みながら言葉を続ける。
「今日の模試は結構参加者が多くて、会場も広かったけど。駅へのルートは大通りを通るしかないし。此処の近所の生徒だったら、そういう規定があるからって大概は制服で来てるから。」
 それで、会場から出てくるのを待って、じっと通りを見てた。あの場所、駅前のロータリーへ入る交差点を、通る人をじっと見てて探してたと、そうと言いたいセナらしかったが。
「…俺ら、ちゃっちゃとは出て来なかったぜ?」
 馬鹿話しながら、だらりだらりと。そりゃあチンタラしてたのに。だから、ずっと長いことの待ちぼうけになってしまった筈で。

  ――― 知ってたってことは、コージあたりが知らせたんだろ?
       あ、えっと…うん。///////
       だったら…。

 だったら。そのまま待ち合わせもしちゃえば良かったのに。もしかして見つけられなかったかもしれない、そんな曖昧な方法で待ってなくたって良かったのにって。不審そうに訊いたらば、
「え、でも…十文字くんは試験受けに来たんだのに。」
 だからね、あのね?

  「そんな話になってたら、きっと…ボクが迷子になってないかって。
   待ち合わせの場所、判るんだろかなんて、きっと心配して。
   それで気が散っちゃったかもしれないでしょ?」

 コージくんが言ってたよ? 二学期始まってから、授業も真剣に受けてて物凄く頑張って勉強してるんだぜって。なのに、その成果が判る模試でちゃんと実力出せないのって、何か ヤだろなって思って………なんて言い出すところが、
「………。」
 十文字には ちと歯痒い。確かに…夏前まではあんまり熱心じゃなかったの、急に張り切り始めたサ。補習もサボらず受けてるし、問題集も買い込んだ。本当は模試なんて意味ねぇじゃんなんて思ってて、受ける気なんてさらさらなかったのに。合格率の参考になるんならって、自分から申し込み書を取り寄せたくらい。何ならハードル上げるかねなんて、進路指導のセンセがお気楽に言い出して、それは困ると…そんな評価が親へは届かぬように、柄にない苦労もしたのは、
“お前ありきで始めたことだってのによ。”
 ええそうですとも、物凄く不純ですともさ。ココアの上に浮かんでた生クリーム、スプーンにすくって先に舐めて。甘〜いvvとお口がほころんでるの、口開いて見とれちゃうほど終わってますって。だから、今日は会えるぞ嬉しいな、ああでも迷子になってないかななんて、心配するのもきっとの絶対。味気無い試験にただ立ち向かってるより何倍も、精神生活の糧、ビタミン代わりになってくれただろうにね。でもそれって、やっぱり、そんな順番何だってことって、やっぱり不純なことだから。素直に凄いねぇって感心してくれてるセナには到底、言えることじゃあなかったりして。

  「〜〜〜〜〜。」
  「? 十文字くん?」

 言っちゃあいけない、自業自得な憤懣を、どうしたもんかと転がしている胸の裡
うち。やっぱり馬鹿正直なもんだから、お顔に滲み出ていたらしく。

  ――― 怒ったの?
      いんや別に。

 今のやり取り、何へどう怒れっての。だって、ボクらだけで示し合わせてて、十文字くんへは黙ってたし…。あっ、あのあの、でもね、あのね、えとあのね? 相変わらずに時たまお顔を覗かせる及び腰な口調になって。

  「あのねあのね? 今日は特に、サプライズにしたかったの?」
  「………今日は?」

 訊き返しながら、それと同時に“ああ…”と。本人だってのに今頃になって思い当たっているあたり。味気無い試験でさえ、心弾ませるイベントと化してたからかもで。セナと同じ大学への進学ってことが前提になってるあらゆるものが、愛しかった証拠かも。

  “…やっぱ。立派に終わってるって、俺。”

 もう少ししたら金色も濃くなって、もっと秋めくだろう陽光を浴びて。シックなお店の窓辺のお席。やっぱりそれが癖だからか、ひょこりと小首を傾げたままで。恥ずかしそうに微笑ってる、小さな、でも大好きなお友達。愛らしいその姿にあらためて見惚れつつ、結果としてはいいお誕生日になったことを、ほこほこと喜んでる。単純…もとえ、ピュアな彼へ、どうか幸あれvv



   
HAPPY BIRTHDAY!  KAZUKI JYUUMONJIvv







  clov.gif おまけ clov.gif


 小1時間ほどもあれこれとお喋りし、Q街のモールを、ウィンドウ・ショッピングをしつつ ぐるりと歩いて。名残り惜しいと言い出せば、どこまで一緒にいたってキリがないから。モールの窓から夕陽が見えたの、一応のキリにして。駅の改札へと向かいながら、たまたま人通りのなかった階段の踊り場に差しかかったんで。小さな肩へと手を置いて、え?と見上げて来た隙をつき。お顔を近づければ、
“…ちゃんと眸ぇつむるのな。”
 あっ・て、一瞬まばたきしてから、サァッて耳から真っ赤になって。でも、さすがにわたつかないで、自然にまぶたを降ろすのが。ああ、信頼されてんだって、言わずとも示されてるみたいで。たったそれだけのことが、こっちをきゅんと暖めてくれて。やわらかい唇に触れたなら、きっと凄げぇ可愛い顔なんだろに。一番間近だからこそ眺められないのが残念なような。
“困ったような顔してたよな。”
 どうしてもお顔がほころびまくってしまうのを、はっと我に返っては咬み潰し。傍から見てると不気味だったかものお兄さん。ああそうだと思い出したのが、ホントに別れ際、セナが手渡してくれた、お誕生日の贈り物。何か物凄く小さくて。使い捨てライターみたいな何か。その場で包みをほどいたら、PCにそのまま差して使える、シンプルなタイプのUSBフラッシュメモリだった。
『あのね? 中にね? メッセージとかが入ってる。』
 コージくんがアドバイスしてくれて。そうと付け足されたのが、またまたチラッてムッとしたけど。………………………ちょっと待て。

  “こういうのにって、何を入れる?”

 携帯やデジカメで録画したメッセージ? そうだよ、今時のは動画だって結構入る。やべ、どんなのが良いってアドバイスしたんだ、コージの野郎。

  “まさかまさか、妙な色気とか出せって吹き込んでなかろうなっ。////////

 そんな嬉しいこと…いやいや、そうじゃあなく。どんな奴だと誤解されたやらじゃねぇかよと。やっぱり、腑抜けになりかかり、いやいやそれでは けしからんと真顔になりの繰り返し。お陰様で残りの旅がひどく短かったそのまんま、自宅へ着くなり、ご飯だと母に言われたのも うっちゃって、自分の部屋へ駆け込んで。PCを立ち上げて…幾刻か。




  【 えっと、今から肉ジャガを作ります。】

 お母さんのか、胸当てつきのエプロン姿で。シャツの袖を腕まくりしたセナが、カメラの隣りに料理の本を置いているのだろう、ずっとずっと目線はこちら。覚束無い手でお料理をする動画が、延々と入っており。
【十文字くんチでは糸コンニャク入れますか? ウチは入れなくて、その代わり、キヌサヤが仕上げに入ります。】
 ニンジンの皮剥きとか、キヌサヤをサッと茹でるなんてな、余裕の出る作業では、お喋りも挟まっての奮闘ぶりが、いやもう、何とも可愛らしくて。

  “…チクショウめ。”

 とんでもないホラ話でも吹き込んでやがったら、コージの野郎、きっと絶対タダじゃあおかんと構えていたのにね。まあまあ、可愛い若奥さんっぷりが存分に発揮されてて、垂涎の逸品じゃあないですかと。そりゃあ大人しくなって、この後も何度も繰り返し、肉ジャガとそれからオムライスの作り方、夜中まで観続けた純情青年だったそうでございます。




  〜Fine〜  06.9.27.〜06.10.01.


  *ノジギク国体、にぎにぎしく開幕しましたねvv(おいおい)
   もしかして、これの直前の十セナ話、背景が真っ白けではありませなんだか?
   今確認したらば、壁紙が二重になっておりまして。
   どひゃ〜〜〜ッと大騒ぎしながら修正させていただきました。

  *それにつけても、肝心なデートそのものが描けませんでしたね。
(苦笑)
   ちなみに、プレゼント
(?) のヒントは、某任○堂DSの料理ソフトですvv
   あれのガイドの声とか、好きなキャラ編ってのが出たら嬉しいなと思いまして。
   桜庭くんならともかく、蛭魔さんだったりした日にゃあ、
   台所が爆発しかねませんが。
(おいおい)

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