木枯らし、吹いたら (DLFです、お持ち下さいvv)
 

 
 最近、夕焼けがそれは綺麗になりましたよねと。少しばかり舌っ足らずな甘い声で彼が言う。街路樹のイチョウが黄色く染まり始めた今日この頃は、殊更急に寒気が増して。赤みがかった金色の、黄昏の空気の中。つるんと冷たい大気に冷やされてか、やわらかな頬や耳の先を緋色に染めながら、
「空の色の、茜色から藍色までのグラデーションがそれは綺麗で。」
 それから、そんな夕焼けを背景にした位置にある木が、梢の先の細かいところまでそれはくっきりとした影絵みたいになっていて。秋だけ何でなんでしょね?と。こちらを見上げながら“ね?”と小首を傾げる稚
いとけない仕草が、何とも言えず愛らしくって。見惚れてしまって、ついつい曖昧な相槌しか打てなくて。最近と言われてみれば…陽が落ちるのが早くなったので、昼休みをフィールドトレーニングに当てるようになり、放課後は屋内での筋トレに当てる時間が増えたかなと、そんな形での変化にしか気がつかなかったのだけれど。それをそうと言うと、
「あ、そうそう。そうなんですよね。」
 小さな手をパチンと胸の前で合わせて見せて。ウチは照明の施設がないもんだから、ボールが見えなくなったら着替えながらの部室でのミーティングになりますと言って、にこにこと笑い、
「そうなんですよ、あっと言う間に暗くなって。」
 荘厳さに圧倒されて、それから…理由
わけもなく切なくなってしまう、それは綺麗な秋の夕焼け。でも最後まで見ていると、辺りはそそくさと闇色に没してしまうから。ああ、早く帰らなくっちゃって追い立てられるような気分になってしまう。どうかすると夕焼けの途中から思い切らなきゃ、家へ着いた時にはもう真っ暗だって日もあって。
「もう高校生なんだから、今は平気ですけれど。」
 小さい頃は明るいうちに帰れないと、何だか怖くて心細かったですと。今でも“小さい”彼が笑う。ほっこりと暖かい笑顔に、やはりついつい見とれてしまい、

  「あ、ほら。」

 西の方を指差した小さな手が、沈みゆく金色の夕陽と、茜紅の空を背景にした鉄橋や茅の茂みの影絵の、ディティールの鮮明なところを見てほしがっているのだと、ちゃんと分かっているのだけれど。彼が感動してその気持ちを共有したがっている、縁取りも鋭角的にして繊細に、それは綺麗に切り取られた影絵のような景色よりも。寒気の垂れ込めた空中へとさらされた、気のせいだろうか動きの硬い、小さな手の方がどうしても気になったから。

  「…あ。」

 並んで腰を下ろしていた土手の上。濃緑の制服の肩から背から、冷えかかっていた小さなお隣りさんを、仔犬のようにまるごと抱えて懐ろの深みへ取り込んで。
「あの…。///////
 冷たさや夕陽の照り返しのせいでなく、なのに ますます真っ赤になった頬を間近に見下ろし。西への落陽を指差していた小さな手よりも、ずっとずっと大きくて頼もしい手が。お膝の上へ横抱きにした、愛しい人の冷えきった頬をそぉっとそぉっと包み込む。


  ――― 冷たいな。
       そ、そうですか? ///////
       ああ。耳も、髪まで冷えているぞ。
       ………進さんの手は温かいですね。
       温かい思いをしているからな。


 え? と。キョトンとした小さなセナくんへ、どこもここも冷え切っていると言いながら、そんなセナくんと触れているだけであっさり温かい思いが出来ることは、口下手だからと敢えて語らずにいる狡い人。恋は人を様々に、進化させもするようです。


  ――― …綺麗ですね、夕焼け。
       そうだな。
       あのあの、最後まで見てきますか?
       ああ。…暗くなっても大丈夫だぞ?
       はい?
       送って行くからな。
       はい…。///////


 さっきまでちょっとだけ寒かったのにね。今はホコホコ、暑いくらいだようと。大好きな進さんの匂いにくるまれて、真っ赤になった頬に睫毛が触れるほどまでも、嬉しそうに眸を細め、こちらさんも夕焼けが二の次になってしまったセナくんでしたvv どうもお御馳走様ですvv






            ◇



 寒い寒いと思ったら、とっくにこの秋最初の“凩”は吹いてたんだってね。挨拶代わりのお天気話にそんなことを持ち出しながら、大柄な青年が肩をすぼめて上がって来た格好がいかにも寒そうだったので、
「コーヒー。」
 バックスキンのブルゾンを脱いで、慣れた様子でハンガーに掛けている広い背中へ、ぶっきらぼうな一言を投げてやる。その一言の意味するところが、淹れて来てやるから待ってろ…ではないことは百も承知のアイドルさんが、
「はいはい♪」
 いいお返事の語尾も軽快にてきぱきと。リビングから出て行きかけた…ものが、大きなビーズクッションの傍らで ふと立ち止まり。
「?」
 どした?と。気配を感じてだろう、ノートPCを乗っけてあったローテーブルを、引き寄せかけてた綺麗な白い手を止めて。自然な反応、こちらを見上げて来た美人さんのすぐ脇へ。すとんと片膝を折って、上背のある身を小さく沈めると、

  …っ!!

 白いお顔の真ん中…の少し下。無防備な口許へ、ふわりと接触vv 触れたかどうかも分からないくらいに素早いタッチは、
「…っ。こんのっ!!」
 不意打ちに驚いて見開かれた淡灰色の眸が眇められ、すかさず放たれるのだろう何らかの反撃から身を躱すため、名残り惜しいがあっと言う間に引きはがされて。
「詰まんねぇことにばっか、素早くなってんじゃねぇっ!」
「あはは、ごめんってvv
 楽しげに微笑いながら口先だけの謝意を紡ぎつつ、キッチンへと消えてく亜麻色の髪を乗っけた頭へ目がけ。アメフトボールの形をしたクッションが、綺麗なスパイラルの乗ってすっ飛んでったのでございました。


 逢えば“まずは”の悶着めいたごちゃごちゃを交わしてからでないと、それなりのムードや空気にしっくり収まらないらしき、相変わらずにややこしいお二人さん。片やは、マスコミへの露出も多く、最近頓
とみに精悍にもなって来たそのお顔を迂闊にさらしては外を歩けないほどという、人気絶頂のアイドルタレントさんであり。もう片やは…世間的には無名に近い素人さんだが、こちらさんもまた、玲瓏にして繊細華麗。それはお綺麗な容姿をした、嫋やかなタイプの美青年で。
“性格は苛烈で尖んがってるけどね。”
 あははvv またそんな、聞かれたら怒られそうな言いようをする。
(笑) まま確かに、黙っていれば…それは麗しき“深窓の文学青年”で通りそうな容姿風貌をなさっているのに。鋭い犬歯を剥き出して笑いながら、鋼の塊・機関銃を小脇に抱え、逆らう奴は蜂の巣だとばかり、至って攻撃的で挑発的な、無茶苦茶なお人として局地的にそれはそれは有名な人物だから。双方を知っていればいるほどに、何でまたこの人たちが?と接点を見いだせない取り合わせ。それでも…寄り添い合っていたいと互いに望んでのことなんだから。恋ってホント、不思議です、はい。(苦笑)
「熱いから気をつけてね。」
 今日も今日とて、来たばっかりのお客様が淹れたコーヒーの、熱さと香りで ほうと空気が暖まり。小さなローテーブルの角を挟んでのお隣り同士、他愛ないことを語らい合う夕べを楽しむこととする彼らであって。
「あ〜、やっと手が温ったまって来た。」
 その長身に見合うだけ、かっちりと大人びた手をしている桜庭であり、柔和な表情を浮かべたお顔の両頬を、自分で暖めるみたいにその手で包み込んで見せた。外が冷えていたがため、剥き出しになっていた頬や耳も結構冷たかったらしくって。それを暖めようとしての仕草らしかったのだけれど。
「? お前の手って、温かい方だろが?」
 怪訝そうな顔になり、近い側の手を強引に掴んだ蛭魔に、逆らいもせず左手をゆだねてやり、
「そっかな。」
 気がつかなかったなと小首を傾げた桜庭が、
「妖一はいつも冷たいもんね。」
 他意はなく言ったのだろうけれど。
「…ほほぉ、そうかいそうかい。」
 何だか人間性のことを言われたような気がしたのだろう。しかも、心当たりも自覚も重々あるクールなお人。それにしては…率直にムカッと来たのがらしくない。だもんだから、口調のトゲに気づきもしないで、
「だってほら。」
 掴まれた手でこちらからもきゅっと、相手の手を握り返した、桜庭くんで。
「指先とか、部屋の中でもあんまり温かくはならないだろう?」
 もしかして血圧が低いとか…と訊きかけて、それはないなと自分で納得。感情の導火線へと火がつきやすい、至って過激な性格のお人だから。アンニュイにも“朝はなかなかエンジンがかからないのよ”なんて言ってる図がどうしても思い浮かばない。中途半端な言いようへ、
「悪かったな。」
 腐されたとでも思ったか、振り払うみたいに素っ気なく、相手の手を突き放した金髪の悪魔さんだったが、

  「………あ。」

 その手を引き取りがてらに…遅ればせながら気がついたことがあって。声まで出すつもりはなかったものの、んん?とお顔をこちらへ向けて来た妖一さんだったことから…黙ってもいられず。少しばかり遠慮がちに、アイドルさんが口を開いた。
「あのさ…。僕の手が温かいって、何ですっぱり言い切れたの?」
「??? だから………。…っ☆」
 だからの後へ、何かしら。続けかけた美人さんが、
「………。///////
 とがった耳の先を真っ赤にしたのへ、

  “あ〜あ、何を思い出したのやらvv

 だってサ、顔が指すからかそれとも…照れ臭いからか。外では手をつなぐどころか間近にいてくれないことさえあるよな妖一さんで。だから、手が触れるというと、こんな風にお部屋にいる時ばかり。その上で、手というものを特に意識する時って言えば…やっぱりサ。///////

  「そこっ、何か妙なもん想像してねぇかっ!///////
  「こらこら。モニターの前の皆さんに偉そうにしないの。」


 はてさて。一体、どんな時の“桜庭くんの手”を思って“温かいのに”なんて言っちゃった妖一さんだったのでしょうか?




  〜Fine〜  04.11.21.


  *77,777hit記念に何か書こうと思っているうち、
   どんどんと日は過ぎて、
   もたもたしている間にも 80,000hitを越えておりました。
   相変わらずトロ臭い奴です、すいません。
   こんな妙な人たちのお話を、まだまだ書き続けてくことと思います。
   宜しかったら、今後もお付き合いくださいませね?

ご感想はこちらへvv**


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