アドニスたちの庭にて “暖色系の冬だから…
 
           *セナくんBD記念作品(DLF
 

 

 今年は猛暑を引きずってかなかなか秋めかないまま暖冬へと突入した観があり、12月も今日で半ばをすぎたというのに、まだコートが要らないくらいな気候なのは、何だかちょっと調子が狂う。
「そうは言っても、カレンダーは止まらないvv
 壁にかけられた白騎士学園発行の12枚綴りのカレンダー。季節折々の構内の風景を使った写真が掲げられた、なかなか趣きある逸品で、OBやご近所の関係各位などへ毎年配られる他に、秋の学園祭では広く一般の方々へも販売されている。十二月は寒色の宵の中に浮かび上がる、ライトアップされた聖堂の写真が使われており、写真の下に整然と居並ぶ ヘルベチカ・ミディアム・イタリックとかいう角ゴシック体の数字には、桜庭会長が毎日毎日その手づからチェックして来た“Xマーク”がずらずらと記されていて、
「明日からいよいよの試験休みだよ〜んvv
 つまりは今日までの1週間ほど、2学期最後の定期考査があったのだけれど、それも今日を最後に終しまいと相成り、
「まるまる1週間と1日か。」
「ウチは終業式が24日ですからね。」
 カレンダーの残りの日々を眺めつつ、蛭魔さんと高見さんが話していらっしゃるのへ、
「今年みたいな場合はサ、23日から休みってことにすりゃあいいのにね。」
 まるで小さい子が不平を鳴らすように、唇を尖らせもって言い足した会長へは、
「そうしたところで、ミサに出て来ねぇとって“しきたり”があんじゃんよ。」
 この顔触れの中では一番キリスト教に近そうな、金の髪に淡い色合いの瞳という日本人離れした御容姿をなさっておいでなのにも関わらず、
「俺んチは浄土真宗なんだがな。」
 なのに、去年のクリスマスのミサには出たぞと蛭魔さんが目許を眇めて見せた。各人の信教の自由は当然のことながら認められている学校ではあるのだけれど、それでも一応は“ミッションスクール”なので。カソリックの行事はきっちりと網羅されているし、平生点とでもいうのだろうか、学習への習熟度とは別枠、日頃の素行や何やに近い評価として、毎週の礼拝や定例のミサなどの行事に出席しているかどうかも計上されるため、形だけでも出なくてはならずで。特に、高等部主催のクリスマスのミサはどこやらの司祭様を招いての本格的なものになるため、たとえ土曜や日曜に重なろうとも、全校生徒が出席してなかなか荘厳な式典が催される運びとなる。
「勘弁してほしいよな。」
「まあま♪」
 当然のことながら職員さん方がしきって下さる行事なので、生徒会の皆様にそれへとまつわるお仕事はなし。手放しでいられるんですから助かるじゃないですかと、何だか妙な宥め方をする高見さんであり、

  「さて。生徒会のお仕事も、全てに方はついておりますし。」

 さすがは段取り上手な高見さんが采配しただけのことはあって、クリスマス・ミサの直前に催される“終業式”の手筈も…放送部や執行部の方々への設営班設置の指示から式次第への打ち合わせまで、準備は考査前にきっちりと整っていて。当日の早朝までは手をつけるものも一切なし。
「僕らもゆっくりと羽を伸ばせるということで。」
 一応の伝達事項の刷り合わせ…があるかもしれないからと、いつものように此処“緑陰館”に集まった彼らではあるが、実のところは何にも無し。そうであるということを確認し合って、では さてと。
「終業式の朝まで、しばしのお別れですね。」
「そういうこったな。」
「はぁ〜あ、やっとって感じだね。」
 秋の行事の中、一番に華やかで…その分、準備や裏方はそりゃあ大変な“白騎士祭”も無事にこなして、それからそれから。何だかあっと言う間だった秋も過ぎゆき、こうして冬の入り口、学期末へと辿り着いた面々であり、
「じゃあ、そういうことで解散といきますか。」
 誰からの異議も出なくて、おおと皆して立ち上がる。窓や準備室、屋根裏へのハシゴなどを見て回り、戸締まり確認をして。ちょっと羽織るものや、何となく置いていた私物などを長期休暇に入るからとバッグへと詰め、さぁさと表へ出れば、こんな明るいうちに此処に鍵して帰るのも久々のこと。
「何だか妙な気分だね。」
 クスクス笑った桜庭さんの傍らから…じゃあなと真っ先に踵を返して正門へと向かった金髪痩躯の君を、
「…あ、妖一っ。」
 こちらも慌てて“じゃあね”と皆に会釈し、追っかける会長さんなのも相変わらず。長いストライドですぐにも追いついて、傍らから“今日はウチへ寄ってってよ”なんて、これも相変わらずの甘えた声をかけている模様であり、
“…そういえば。”
 秋口、少しほど元気がなかった蛭魔さんだったのを思い出す。その後は盛り返して余りあるほどに闊達になってらして、
“桜庭さんが慰めてさしあげたのかなぁ。”
 だからと言って、自分がそうであるように…それが表にすぐ出るような、分かりやすい人ではないのだけれど、それでもね。制服の上へ羽織った合服用のトレンチ風コートのシャープなシルエットが着かず離れつしている様は、歩調を合わせて並んで歩いていればこそ。お顔だってちゃんと、傍らで少しほど肩を屈めてる桜庭さんの方を向けてる蛭魔さんだし、むしろ…以前のように乱暴にも突き放すような素振りはなさらなくなったかな…って。

  “やっぱり睦まじくなさってるところの方が見てても嬉しいしねvv

 お綺麗なお二人をお見送りしながら、そんな可愛らしい感慨に耽っていた小さなセナくん。こちらは…肩口にフードのついたやはり合服用の濃灰色のコートを羽織った小さな肩口に、ぽそんと大きな手が乗っかって、
「あ、はい。帰りましょうかvv
 にこりと肩越し、背の高いお兄様を見上げて笑いかけている。門のところまでの旧の並木を高見さんとご一緒し、今日は御用がありますからと、駅とは反対へ向かわれるのへ“さようなら”とご挨拶したところが、

  「…あ。」

 何かを思い出したかのような間合いにて。短い声を出しかかった高見さん。だが、皆まで言わぬうちから。
「…。」
 そんなささいな声へ、了解したと進さんが頷いたのが…何だか意外で。
「???」
 こんな言い方を弟くんがするというのは失礼かもしれないが、周囲へは気づかれないようにというちょっとした目配せや仄めかしへ、わざわざ わしわしと間近まで寄ってって“何だ?”と確認を取るような…いやいや、そもそも最初っから気がつかないような、そういう思惑はとんと届きにくい人なのにね。
“…それはちょっと言い過ぎですよう。”
 あらあら、そぉお?
(笑)
「?」
「あ、いえ。何でもないです。」
 どうした?という視線を向けられ、あわわと慌ててから…あらためて。
「帰りましょうねvv
 嬉しそうにお声をかけたセナくんだったりしたのでした。








            ◇



 終業式とクリスマスミサまでの1週間は、ついでに入試の準備なども消化するのか、大会が近い部活動以外の生徒の登校が“届け出制”になるほど、完全に休日態勢に入る白騎士学園の高等部であり、
“…剣道部も大会が近いんだったかな?”
 武道だからこんな時期に大会というのもあり得るのかな? でもでも確か、大きな全国大会は秋にあったよねぇと。それ以前に、進さんのご予定はご本人から前以て教えていただいてたのに。
「………。」
 ちょこっとお行儀は悪かったけれど、ベッドにうつ伏せになり、枕を抱え込みつつお顔の前に開いていた携帯電話を、小さな溜息とともにパタリと伏せるセナくんで。昨夜やり取りしたメールの中で、最後の方に“明日お逢い出来ませんか?”ってお聞きしたのにね。それへのお返事がないままで、それが何だかちょっぴり気になるの。進さんの方からのお誘いだって一杯あったし、セナくんの側からのこういうお願い、それは気を遣って必ず聞き拾ってくださるお兄様なのに。

  “どうしちゃったんだろ。”

 昨夜から。ご自分がメールを出されてから、携帯を見てはいない進さんなのかしら。そんなにもお忙しい進さんなのかしら。でもね、お家のお茶事のあれやこれやとか、大掃除のお手配だとかには、段取りに手慣れた たまきさんがいらっしゃるから関わりはないと仰有ってらしたし、
『あの子に任せたら、荒っぽいか はたまた馬鹿丁寧が過ぎて、却って手間が増えてしまうのよ。』
 困った子よねぇと、それは綺麗なお顔で苦笑してらしたお姉様を思い出す。
“やっぱり剣道の方の何か…なのかなぁ。”
 進さんが師範代として籍を置いてらっしゃる剣道の道場には、神様を祀っているくらいだから。年末とか年始とかには、お清めとかご祈祷とか、それなりの行事とかが一杯あるのかしら。だったら仕方がないかなぁと、はふうと小さく再びの溜息。
“ボクだけがあんまり遊びたい遊びたいって思うのは、不謹慎なのかもしれないしね。”
 お家の大掃除とかお手伝いすることはないのかと、そういえば訊かれたなと思い出す。進さんにしてみれば、力仕事の男手が要るのなら手伝うぞと、そんな意味合いから訊いて下さったのだろうけれど、世間の皆様もお忙しいらしき“師走の風景”などがテレビで取り沙汰されてるほどなんだしね。
「…よしっ。」
 ボクも何かお手伝いをと、ベッドからぴょいっと飛び上がると、階下へと降りて来かかったセナくんだったのだけれども。その手が窓辺の机の上へと置きかけた携帯電話が、置いてかないでと言いたげに、優しい輪舞曲
ロンドを奏で始めたのであった。





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 お電話を下さったのは高見さんで、今からお時間をいただけませんかというお誘い。待ち合わせたのは少し都心に近いQ街という繁華街で、
「…あ、こっちですよ、セナくん。」
 上品な茶系のカシミアらしきタートルネックのセーターに浅いグレーの大人っぽいコートを羽織った、それは背の高い、でもでも優しげなお顔の人が。改札口へと向かう大勢の人の波の中に揉まれてた、小さなセナくんをお見事に見つけてお声をかけて下さって。
「はやや…。」
 そのまま流されてってしまいそうになっていたセナくんだったのを、
「おらおらおらおら、邪魔な奴らは退かねぇかっ。」
 こんなに細身でいらっしゃるのに、どうやって? と不思議に思うほど。ただ立っていらっしゃるだけで人の流れを左右に分けてしまえる、急流の中の鋭い岩のような佇まいにて改札口正面に敢然と立ってらっしゃった過激な美人さんが、その懐ろへ ぽそんと受け止めて下さって。
「よお。」
「あやや…。///////
 すらりとこちらさんも背の高い先輩さんが、妖冶なまでに美麗なお顔で覗き込んで来て下さるのへ、ご挨拶も忘れて真っ赤になった小さなセナくんが見上げ返して。
「そんじゃ行くぞ。」
「は、はい。」
 そのままセナくんの小さな背中へと腕を回し、向かう先にて待ってらっしゃる高見さんの方へと向かわれる蛭魔さんだったのだけれども。
“…ふや。///////
 セナくんが真っ赤になったのは、お綺麗な先輩さんに抱っこ
ハグされちゃったこととそれからね。襟や前合わせのところにファーの縁取りがついた漆黒のブルゾンと、ビロウドみたいな感触のする、やっぱり真っ黒なセーターを着てらした蛭魔さんのその懐ろから、ほのかにだったけれど甘い香りもしたからで。
“…桜庭さんもいらしてるんだ。”
 ふわりと感じた匂いで分かってしまう辺りが、お付き合いの長さを物語っておりますが。
(苦笑) その桜庭さんから贈られたのだとまではセナくんも知らない、銀のリングが光ってる綺麗な手が、もしゃりとセナくんのふわふかな髪を撫でて下さり、
「こんな小っこいのに、もう16とはな。」
 くすすと笑った蛭魔さんの、この一言ということは………?





 淡いカーキ色のカシミアで、ポンチョのようにマントのように、すとんとしたシルエットのコートを入り口のところで預かっていただいて、こちらでございますと礼儀正しいギャルスソンスタイルのボーイさんに案内された、セナくんと先輩さんたち御一行。甘い香りと柔らかい談笑の声。茶器やカトラリーが当たる音がかすかに響く、そこは“アンダンテ”という名前のスィーツの専門店であり。辿り着いた奥まったお部屋のドアを優雅な身ごなしで“どうぞ”と開いて下さったボーイさんと、やはり“どうぞお先に”という笑顔になった高見さんらに押される格好で、セナくんが先陣となって踏み込んだそこは。
「…あ。」
 天井の高いお部屋に揃えられたるは、落ち着いた艶の出たチャコールの調度に純白のクロス。乾いた印象の白い漆喰の壁と、こんな繁華街なのに贅沢にも設けられた緑の中庭が望める、背丈の高い円頂の窓が幾つも居並ぶ半円の出窓スペースが何ともお洒落な、特別なお客様用の“テラスルーム”という貸し切りの個室であり。窓よりの中央へと据えられたテーブルには先客のお二人が待っていらして、

  「主賓のお出ましだね、こんにちはvv

 セナくんが着ても似合いそうな玉子色のモヘアのセーターが、結構かっちりとなさった体躯なのに不思議と似合っていらっしゃる、桜庭さんがそれはにこやかにご挨拶下さった横で、掛けてらした椅子から立ち上がり、目許を柔らかく和ませて下さった進さんで。………あれれ? でもだって。

  “…メールのお返事、下さらなかったのに?”

 こうやってお逢い出来たのだから、勿論のこと、不平を言い立てるつもりなんてないセナくんだったけれど。大雑把だの鈍感だのと周囲の如才がない方々から上げつらわれることも多い人にしては…セナへの気遣いに関してだけなら、セナ自身がびっくりするほど気を回して下さる方なのに。こっちの、皆さんとの集まりの方を優先して、セナの方を後回しになさったのかしら。そんなことへとこだわるなんて、弟としては抱えてはいけない我儘なのかしらと、ちょびっとだけ“ふやん…”としょげかかっちゃった小さなセナくんだったのだけれども。
「あ、えと。」
 すぐ傍らにまで来ていただいて、さあ お手をどうぞと大好きなお手々を向けられては。条件反射で“お手っ”とばかり
こらこら その上へと捧げていただく格好で、その小さなお手々をゆだねてしまったセナくんであり。そのままお部屋の奥へと進んだお兄様がセナを導いたのは、お行儀のお勉強で“一番の上座”と習った窓の前の席。
“え? え? え?”
 なんで?どうして? ここは桜庭さんのお席では? その桜庭さんからお椅子を引いていただいて、ますますと どぎまぎしている小さな愛らしいマスコットくんへ、
「すみませんね。今日の今日まで内緒にしていて。」
 円卓の向こう側、丁度お向かいに当たる席へと着かれた高見さんがそうと仰有り、
「満足の行くものになるまではって、ぎりぎりまで粘ってた進だったものだから。肝心なセナくんへのお知らせがこんなまで遅れてしまいました。」
 僕らにも困ったことでしたと、ちょっとだけ眉を下げて苦笑をなさるその後方。ボーイさんたちが一礼をしつつ入って来られて、席に着いた皆様へと、優雅でゴージャスなお茶の支度に取り掛かられる。テーブルウェアの貴婦人という異名さえ持つ“ミントン”の、白地にロイヤルブルーがそれは鮮やかな品格あふれる豪奢な茶器と、洗練されたフォルムが優美な、フランスはビュイフォルカのカトラリー。バカラのグラスが真っ白なクロスの上へ綺麗な光を乱反射させ、甘くて華やかな香りをはらんだポットと、愛らしいケーキやプディング、フルーツサンドといったスィーツの数々が銀のワゴンにて静かに運び込まれて。それからそれから、別のワゴンで最後に恭しくも登場したのが、

  《 Happy Birthday! To,Sena! 》

 キラキラした金字でメッセージの書かれた、アメ細工らしい透き通ったプレートが乗っかった。これもまた陶器の細工ものではないのかと思ってしまうほど、真っ白な上へ細い細い線で描いたつるバラや小さな赤い実などが愛らしくも散りばめられた、手の込んだ姿のバースデイケーキであったから。

  「あ…。」

 あのね、忘れてた訳じゃなかったの。ただ、自分なんかへのお祝いを、こうまで豪華な皆様がお顔を揃えて、それもこんな畏まったお店で祝って下さるなんて思ってもみなかったセナくんだったものだから。別の何か、今年一年、お疲れさまでしたとかいう会でもなさるのかなって思っていたの。だからだから、針金みたいな細長いロウソクを立てられたケーキを前にして、

  「セナくん、お誕生日おめでとうvv
  「今日から16歳ですね、これからも仲よくして下さいね。」
  「見えねぇんだけどもな、やっぱ。」

 にこにこと笑ってお祝いの言葉を下さる皆さんに、セナくん、しばし固まってしまっちゃったです。(あ、筆者の日本語まで固まっている。/笑)
「セナくん?」
「………あ、あ・えと。あのあの、ありがとうございますっ。」
 はっと我に返って、それからね。皆さんに促されてロウソクに灯されてた火を吹き消した。長いのが10であと6本。ピンクのと白いのとを吹き消すと、お店の方がそれは手際よく、ロウソクを外して下さったり、お茶の方を淹れて下さったりと手際よくお世話をして下さって。きめの細かい、ふわふわのスポンジが挟んでいたのは鮮やかな赤のイチゴ。銘々に切り分けられたお皿には、ブルーベリーやラズベリー、アイスクリームも添えられて、それは豪華なお茶会と相成り、
「本当にすみませんでしたね、びっくりさせてしまって。」
「ホントだったら、昨日までにちゃんと招待状を渡しての、ちゃんとしたご招待って形にする予定だったんだけれどね。」
 お口の中で綿雪みたいにふわぁ〜っと溶けてく、それはやさしい味わいのケーキを堪能し、自然と頬っぺがほころんでしまっているセナくんへ、高見さんと桜庭さんがこんなバタバタしたお招きになっちゃってごめんねと、あらためてのお詫びを告げてくださり、
「それというのも、こいつがあんまり不器用なもんだから。」
 桜庭さんがちろりと見やった先にいたのが、セナくんのお隣りにおいでの進さんで。
「セナくんのお誕生日なんだからって、一応は頑張ったの。そこは褒めてやってよね。」
 そんな風に…ちょびっとばかり からかうような言いようをなさるのへ、こちらも少しばかり鋭い眼差しにて睨み返したお兄様。とはいえ、当のセナくんが“きゅ〜ん”と小首を傾げて見やって来るのと視線がかち合うと、屈強精悍な剛の者が“うっ☆”と気勢を削がれたように怯んでしまわれるのが…傍から見ている分にはなかなか可笑しい応酬だったりして。
(笑) そんな進さんへ、
「ほら、まずは渡して渡して。」
 高見さんが促したのへ頷いて見せて、椅子の背に挟んでらした手提げ袋から取り出したのが、進さんの大きな手にすっぽりと収まる小さな小箱。ほのかなパールピンクの包装紙で包まれている上へ、水色のリボンが掛けられてあり、セナくんの小さな手では両手がかりになったけれど、それでも随分と軽い箱だったので。うっかりするとテーブルの上、ケーキの天辺に落としかねなかったほど。
「…開けてもいいですか?」
 進さんへと訊けば、こくこくと…心なしか赤くなって頷いて下さったので、お皿や茶器をちょっとだけ横へと寄せて、テーブルの上、小さな箱の愛らしい封印を少しずつ少しずつほどいてゆく。包装紙の中には蓋つきの真っ赤な小箱が包まれていて、それをそぉっと開けてみたらば。

  「…わぁっvv

 中に入っていたのはね、クッション用の白い綿花の中に埋まりかかってた綺麗な綾紐で虹色に編まれたミサンガ、プロミスリングが2本と、クリスタルの熊さんのマスコット。
「どうどう? それって進が編んだんだよ?」
 まるで自分の手柄みたいにネ、桜庭さんが言ったのへ、セナくん“えっ?”って思わず息を引いちゃった。だってこんな、とっても細かい色替えになってる柄なのに? 七色の矢柄のと、連続した菱形模様が細かく入っているのとで、セナくんも作り方までは知らないくらいで、そうそう簡単なものじゃないのでは? ついつい ちらりと視線を向けてしまった、テーブルの上に置かれた進さんの大きな手。こんなに細かいお仕事もなさるなんて凄い凄いと、どうかすると呆然としちゃってるセナくんへ、

  “…日頃からどこまで不器用な奴だって思われてるかだよな。”

 そんなことを思ったらしい蛭魔さんが遠からずな想いの高見さんと視線が合って、くすくすと苦笑
わらってしまい、
「来年はマフラーでも編ませようね。」
 桜庭さんがそんなご無体なことを言い出した、何とも暖かなお茶会でございました。





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 矢柄模様の方のを進さんご自身の手で結んでもらって、さて。蛭魔さんからは、シリンダーが回って撃鉄も起こせる精巧な銃の玩具がついたストラップ。高見さんからは、革や金具まで使ったかっちりとした装丁が豪奢な、日記にでも雑記帳にでも使えるホワイトブック。桜庭さんからは、金具が純銀というアームベルトとサスペンダーのセットを頂戴し。穏やかな談笑の中で美味しいお茶と贅を尽くしたケーキを味わってから、お昼下がりにお開きとなった。
「それにしても意外だったよねぇ。」
 頭やお顔から湯気が立ってるんじゃないかと思えるくらいに、それはほこほこ、温ったかそうに肩を並べて遠ざかる、進さんとセナくん、大小二つの背中を見送りながら、
「あんな細かい作業、絶対続かないか、もしくは間に合わないって思ったもの。」
 さすがは幼なじみで、容赦のないご意見を口にしたのが桜庭さんで、
「好きなウィンタースポーツはって訊かれて“寒稽古”なんて真顔で答えるような、無粋で武骨な奴だのにね。」
 ………本館のどっかで使ったぞ、その言い回し。(どのお話かまで判ったお人は、ウチとは結構長いお付き合いの方ですねvv
「そんなお人が、セナくんのためだったら、こんな細かいことも出来てしまうんですからね。」
 持ち回りの順番制にて進さんにお付き合いして、毎回最初から忘れてるような手のかかる人へ付きっきりになって頑張って教えた甲斐もあったということで、高見さんが心からの充実を込めての一言を仰有れば、
「うん。愛の力に不可能はないって奴なのかなぁ。」
 妙な言い回しで“うんうん”と感慨深げに頷く会長さんであり。
(う〜ん。) 申し分なく男らしいが、儚げな想い人への気遣いへは何とも覚束ないところの多かりしお友達のためにと、優しいお節介を焼いて結構楽しんでた皆様だったのだけれども。
「それよか、妖一く〜ん?」
「な、何だよ。」
「もしかして、それって、受験生に売れるんじゃなかろうかとか思ってない?」
「…さあな。」
 びしっと、蛭魔さんの着ているブルゾンの、背中に垂らされたフードポケットを指差す桜庭さんだったのは。そこにこっそりと入っていたのが…実は12月に入ってすぐ、つまりは期末考査寸前からのずっと“練習&仕上げ”に付き合わされて、とっくに手際を覚えてしまった他の3人がサンプルにと幾つも幾つも編み上げた、それはカラフルなまでの様々な色柄のプロミスリングの束だったからに他ならず、
「僕らのはともかく、秀才の高見くんのは御利益もあろうから売れるだろうしね。」
「何を言ってるんですよ。」
 大企業の御曹司がそんな細かい儲け話を真っ先に思いつく方が問題ではなかろうかと、何とも言えない苦笑を見せて高見さんが呆れれば、
「馬鹿だな、高見のは受験生にしか旨味はないが、お前が編んだのは需要の幅ももっと広いんだよ。」
 つんとお澄ましして…とんでもないことを言い出す悪魔さん。
「あ〜〜〜っ! やっぱり売る気だったんだっ!」
 ネットのボクのファンサイトに勝手にコーナー作ってたり、妙な通販のサイトとか開いてないでしょうね、父さんに知れたら大目玉食うのは僕なんだからね。そんなヘマはしねぇよ、心配すんな…と。何だか妙な問答を、こちらさんもやっぱり…ほこほこと暖かそうな雰囲気の中で繰り広げてくださる仲良しさんたちだったりするものだから。
“このまま放っぽっといて帰っても良いんですかね。”
 実は…このお店に別口のケーキを予約してあり、帰りに…家庭教師をしている幼なじみのお嬢さんのお家に寄ってこうと思ってる高見さん。賑やかに揉めておいでのきらびやかなお二人へ、やっぱり擽ったげに“困った人たちですよね”と小さく苦笑なさっていたのでした。





  〜Fine〜  04.12.12.〜12.13.


  *こんなコーナーわざわざ作る人って、
   時期が時期だから他には いないんじゃないのかなと思いつつ。
(笑)
   それでも…あなたがいたから萌えたお話、
   そんなセナくんのお祝いがしたくての開催でございます。
   あと何話か書けたら良いなと思ってますので、
   やる気だけは買って下さり、長い目で見守って下さると嬉しいです。


ご感想はこちらへvv***


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