アドニスたちの庭にて お点前は いかが?
 



          



 茶事
さじというのは茶道の“お茶会”のことで。招いたご主人が立てるお抹茶を、床の間に風流な生け花や掛け軸を飾ったお茶室にて、作法に則り、静謐悠然、心静かに味わうもの…なのだが。正式なものともなれば“お薄”に“濃茶”にと、何度かお茶を立てる上、それとは別に“湯づけ”を食べたり“懐石”という食事をとったり…というのが連綿と続き、ほぼ一日仕事で催される会合なのだとか。そのため、お庭のお手入れに生けるお花や使う茶器の選定、生菓子やらお食事やらの手配や注文などなどと、様々に準備も必要で。広いお屋敷がそんな忙しさに微妙にざわついている。それへと招かれるような方々が通される、特別なお庭や離れやお茶室は、ご家族やお身内の居室のある棟からは離れているとはいえ、よほどに正式で厳粛な催しなのか、整然としたものに押さえられてはいるものの…お家の方々の立ち居働きの気配は、さわさわと木葉擦れの音のように秘やかなままにずっとずっと続いており、

  「…やれやれだね。」

 この暑いのに堅苦しいったらと、端正なお顔へ苦笑を浮かべた桜庭さん。そうと言いつつ…きちんと一番上までシャツのボタンを留めていらっしゃり、夏の薄物ながらきっちりと折り目の入った濃色のスラックスを合わせた、かっちりとしたいで立ちをなさっていらっしゃり。進さんのお部屋まで通されると、なんと…クロゼットから夏物のジャケットを借りてその上へ羽織る重装備ぶり。そうして夏向きの略礼装もどきに身を固めると、

  「じゃあ、行って来ます。」
  「おお、行って来い。」

 小さく頭を下げて優美な会釈を見せた春人さんへ、こちらもちょこっとふざけた口調にて、蛭魔さんが送り出しのお言葉を返して見せたから…、

  “………あ、そっか。”

 ここでやっと。どうしてこの日に“どこかへ出掛けたい”と言い出した桜庭さんなのか、それからそれから、どうして蛭魔さんが“進さんのお家に行ってみたい”だなんて、もっと唐突なことを言い出したのか。それらの裏書きが見通せたセナくんだったりする。

  “今日のって、桜庭さんのお家の茶事なんだ。”

 四季折々の何かしらの節目の他に、親しき間柄であることやお身内同士の連帯の絆の確認だとか、はたまた外国からいらした大切なお客様へのおもてなしに…などなどと、高名著名な方々から望まれての茶事が催される、進さんのお家。流派の宗家であるということから、普通のお茶事ではない“格式”が求められてという場合が殆どだそうだが、それとは別に…人脈も多く、お顔が広いというところから、政治的な和解だとか契約の成立を祝ってなんていう会合・逢瀬の“仲立ち役”を求められて…の、表向きの“お茶事”を持つケースも少なくはないのだとか。これは芸能関係のお家には珍しくない運びでもあり、そしてそして。まだ高校生で、ただでさえ堅苦しいことがお嫌いな桜庭さんだから。そこから辿れば…そんなような集まりで、しかも強制的に出なくちゃいけないお立ち場なんだろな、それで すっぽかすために“どこかへお出掛けしちゃおう”なんて言い出したんだなというのが見えてもくる。こっそりと“ふ〜ん”なんて納得しているセナくんをよそに、

  「…すまなかったな、妙な運びにして。」

 蛭魔さんが、こちらは冷たいお茶をグラスに満たして運んで来た進さんへと苦笑を向けた。私室だからと とうに脚は崩していた彼であり、ツツジだろうか濃い緑の茂みや青々とした木立ちが望める大きめの円窓の縁に腰掛けるという、いつも通りの気ままなお行儀でありながらも、そんな風に神妙な物言いをするものだから、

  「いや…。」

 気を回すなと、それこそ宥めるような声音で清十郎さんが会釈を返した。
“そっか。進さんも蛭魔さんも、ご存知だったから。”
 あと高見さんも。そういう日だと知っていたから、あの時、逃げ出そうとでも言うのかと桜庭さんへ向けて苦笑をなさり、しかもしかも、この蛭魔さんが…こんな運びになるようにと、わざわざ進さんの自宅まで“遊びに行くぞ”なんて唐突で強引なことを言い出された、と。

  “うわぁあぁ〜〜〜。”

 あんなまでの“言葉少な”な会話だけで、こういう風に持ってっちゃえるだなんてね。それはそれは奥の深い方々揃いだって、ちゃんと判ってた筈なのに。前以て思っていたよりも奥が深い間柄にあるお兄様たちなんだなぁって、セナくん、すっかりと感心してしまっている。大きな瞳をワクワクと輝かせて、うっとりぽわんと見つめていたりしたものだから、

  「チ〜ビ。」

 苦笑した蛭魔さんから、お鼻の先っちょを指先で“つんつん”ってつつかれてしまったほどで。我に返って“あやあや…”と、まるで仔猫が力ない抵抗をするみたいに“いやいや”と緩くかぶりを振ってセナくんが逃れようとするのを見て。いつもであればちょこっと大仰に制止する進さんも、今日ばかりは…蛭魔さんの心遣いに一目置いてのことなのでしょうか、セナくんへの“じゃれかかり”へもあんまり過敏にならないらしく。困ったような苦笑混じりとはいえ、楽しそうに“くつくつ”と笑って眺めているだけだったりなさってて。とはいえ、

  「良い機会だから、後で二人にも茶を立ててやろうな。」

 進さんがそんな風に仰有ったのへは、
「う〜、俺はパスな。」
 打って変わって何だか異様に嫌がる蛭魔さんだったものだから。あらら、これって? 意外な弱点? お抹茶がお嫌いでしたっけ? 良いように弄られてた間中は“ふにふに”と困っていたセナくんだのに、それってお困りじゃないですかと案じるような気持ちを含んだお顔をしたのが これまたあっさり通じたらしく。
「桜庭から聞いたことがあるんだよ。こいつの立てる茶はな、武道の修行よろしく、いちいち“背条を伸ばせ”の“声が小さい”だのと、指導がびしばし入るから、ちっとも落ち着けないんだと。」

  “あやや、それって…。”

 何に対してでも真っ直ぐ真っ直ぐ。質実剛健、清廉潔白。いかにも進さんらしいことですよねと、

  「………。///////
  「おいおい。」

 またまたぽわんと頬が赤くなったセナくんへ、今度は蛭魔さんまでが“しょうがないなぁ”と苦笑をなさったみたいでございますvv





            ◇



 定例の事ゆえ事情も通じて…ということか、それともあまりの酷暑が響いてか。本当に形だけの略式なお点前となったらしくって。思っていたよりも早い時間に、セナくんたちが待っていた進さんのお部屋まで、さあ終わった、もう自由だと言いたげなお顔になって、意気揚々と戻って来られた桜庭さん。

  『まるで開放区でリードをやっと外してもらった
   行儀知らずのゴールデン・レトリバーみたいだな。』

 そんな風にぴったりの言いようをなさった蛭魔さんへと、ねえねえとお声の方はにゃんこみたいに甘えたそれになって、しきりとじゃれつく桜庭さんであり。
「だ〜〜〜っ、暑いって。」
「じゃあサじゃあサ、今すぐにでも涼しいトコへ行こうよぉ♪」
 蛭魔さんの薄い肩口へ“ごろごろ♪”と擦り寄ってた会長さんが、そんな一言を口にした途端に、

  「…っ。///////

 あれあれぇ? これはまたまた不思議な反応。なんで蛭魔さん、真っ赤になったんだろ。きょとんと小首を傾げたまんま、進さんの方をちらと見たセナくんだったのだけれども。今度は進さんもまた、どこか怪訝そうな眼差しをしてらしたから…意味は通じていらっしゃらないご様子であり、これはこちらのお二人にだけ通じる言い回しだったのかしら?

  「じゃっ、そういうことだからvv

 元気百倍。お茶事の席でとは別人のよう…と、たまきさんが呆れたくらいの生き生きしたお顔になって。半ば急かすように長身痩躯の恋人さんと連れ立って、さっさとお暇
いとましてしまった桜庭さん。

  「「…???」」

 いやはや。恋する若さには様々に、謎やら不可解がついて回るものならしいです。(うふふのふvv)そんなこんなの甘い嵐が眼前をぴゅぴゅうと通り過ぎて、さて。気がつけば、こちらも思わぬ“二人きり”になっていたお兄様と弟くん。麻のカバーが肌に涼しいお座布団に ちょこりと座っていたセナくんは、向かい合う格好にて二人きりになっていた進さんへ、あやや… /////// と仄かに頬を染めて見せたものの、

  「…ほら。」

 立ち上がりながら、すいと進さんが手を伸ばして下さって。それに掴まって立ち上がり、そのままエスコートされるよに、幅の短い縁側でお庭履きに履き替えて。梢の先をくすぐって吹き渡る緑の風も頬に涼しい、盛緑滴る中庭へ揃って降り立った二人であり。

  「わあ…vv

 足元の芝草の健やかさのクッションも心地よく、眼前に広がるお庭の、また麗しいこと。様々な木々や茂みの緑が絶妙な格好で重なり合っていて、まるで名高い庭園公苑を思わせるほどに、奥行きの深さを見事に演出してもいる。少し奥向きに入れば、夏のお花が咲き揃っている一角もあって。ムクゲに笹ユリ、タチアオイ、紫苑にツユクサ、鷺草と。可憐なものから華美なものまで、色彩も艶やかに咲き合わせているのがそれは見事。殊に…セナにとっては、どのお花も天然自然に咲いているところを見るのは初めてなものばかり。切り花になってからしか見る機会がなかったピンクの百合や緋色の鷺草に、思わずお口がほころんでいて。そしてそんな愛らしいお顔が、いかにも嬉しそうに見上げてくれるその度に、

  「………。」

 仏頂面の多い進さんの頬を、わずかばかりだが緩ませている。そんな珍しいことを周囲から揶揄されるのさえ、胸に暖かで嬉しいくすぐったさだと、そんな風に思えるようになれた。以前からも決して狭量にも棘々しかった訳ではないけれど、自分に持ち合わておらず、それがために理解出来ない“感情”というものが随分とあったと自分でも思う進であり。それが…この愛らしい小さな弟くんが、すぐ傍らに居てくれるようになってからは。繊細だったり遠回しだったりするような“機微”というものや、ささやかなもの小さきものの可憐さへの愛しさが、しみじみと判るようになって来て。どんと大きく構えて受けて立たねばならないような、強靭屈強さが必要な厳しさや試練とは大きく次元や世界の違うそれらのものたちの。それなりにいかに大切かを、あらためて…理屈ではなく実感として教えてくれる弟くんには、その度ごとについつい眸を細めての、彼なりの笑みを向けてしまう朴念仁さんであったのだが。

  「進さんも、ホントはとっても繊細な方だったんですね。」

 はい? その弟くんからの唐突な言われように、物静かなお兄様が、物静かなままに…ちょこっと眸を見張ってしまう。飲み込み切れなかった語彙。進さんも、繊細な方? そんな方程式は成り立たない。いくら…言語がフレキシブルな感情描写の記号であって、時には“情緒”という、割り切れないものに酔いしれて把握内容が大きく揺れるものでもあるとはいえ、(進さん、解析が堅いぞ…。/笑)それとそれとは繋がらない要素同士だろうと、他でもないご本人が眸を白黒させているところへ、

  「皆さんのツーカーって良いなぁって思いました。」

 相手のことをよくよく知っているから…というだけでなく、相手のことを思いやっての“言わず語らず”を自然にこなせる深い理解を持ち合っている、とっても温かい間柄。そんなであるという前提の下、事情は判ってるからと甘やかすばかりではなく、鬱陶しがられても良いから“そんなことではいけないぞ”とお説教だってしちゃうほどの遠慮のない関係が、いつだって羨ましいのだけれど。

  “ボクは…ただでさえ年下だし。”

 それへ加えて、間近で一緒に過ごした歳月の足りなさもあって。皆さんへの考慮を捧げる自分の翼はまだまだ全然小さくて。こうまで行き届いた皆さんとの、そんなまで細かくて対等な思い合いだなんて、到底出来そうにないなぁって思い知らされてしまったの。そうして、
「…。」
 そういえば。桜庭さんのお家の茶事があったこと、結局セナには前以て言っておかなかったなと思い出し。何に感心したセナなのかへ辿り着けたそのまま、静かなお顔で見つめ返して下さった進さんは、

  「だが。」

 かすかに顎を引き、淡い紫の花の穂たちが風に揺れている、ラベンダーの茂みを見下ろすと、

  「そんなずぼらを、本当はしてはいけないのだ。」

 よく通るお声でそんな風に仰有って。
「判り合っている者同士でだけで通じ合っている様は、どんなに微笑ましかろうと閉鎖的だからな。」

  ――― おや?

「特に俺は、連中から随分と甘やかされているから。他に理解者は要らないと構えて、横着にも傲慢でいた部分が多々あったと思う。」
「…え?」
 何だか…そうとは見えない毅然としたお顔ながら、これでも、恐縮し反省なさってらっしゃるお兄様であるらしく。

  「また…お前に疎外感を拾わせてしまったからな。」
  「あ…。」

 先の…今日のこの訪問のお話がまとまったあの日もそう。桜庭さんのお家へ生徒会のいつもの顔触れで集まったにもかかわらず、セナくんへだけはお誘いの言葉をかけなかったお兄様であり。あの時は…炎天下で力仕事をさせられるような集まりだったから、そんな義務も義理もないのに、暑さに負けて倒れかねないような無理をさせるのはあんまり可哀想だと思ってのことだったのだが。そういう裏書きさえ説明せぬまま、つまりは何も言いおいていないという事実へ、よく気のつく桜庭から早速のように叱咤されて。
『それってサ。後から判ったら、セナくん“仲間外れにされちゃった”って落ち込むかもしれないよ?』
 そんな風に言った会長様ご本人もまた、セナくんへのお電話では少々言葉が足りない言いようをしてしまい、結果として蛭魔さんや高見さんから叱られていたのだが。
(笑) それにしたって…言葉が足りないにも程があると、何も言わないことの功罪というもの、しみじみと味わったばかりだったのにと。ただでさえ神経の細やかな、よく気のつくセナを相手に、愚行ばかりを性懲りもなく繰り返した自分であったこと。それがご本人としても情けないと感じてしまったお兄様であるらしい。

  「………えと。」

 何とも情けないことと、自分の不甲斐なさに大きな拳をぎゅうと握りしめてらした進さんへ、セナくん、きゅんと切なくなった。この人は、怖いものなど持たなかった人なのに。清廉潔白、真面目で真摯で正直で、曲がったことが大嫌いな、真っ直ぐ正しい人なのに。間違いなく正しいことと選んだあれこれが、正しくはあっても微妙に大人げないと知らされて、何とも歯痒い想いばかりなさってる。それもこれも、セナくんのことを思ってのことであり、

  「あの…。///////

 ねえ、これって十分に心優しい人だってことでしょう? それだけで、もうもうお顔が真っ赤になるほど嬉しいの。それにね、進さんは雄々しくて頼もしくて行動力があって。自信にあふれて毅然としてらっしゃるところが、その鋭くて冴えのある強さこそが、進さんらしさであって。だから、ね?

  「ボクが一番大好きなのは、
   卒がなくてスマートな桜庭さんでもなければ、
   何でも鋭く見通せる蛭魔さんでもなくて、
   誰でも手際よくあやしてしまえる高見さんでもありません。」

 色々と不慣れで、それがために確かに不器用でおいでかもしれないけれど。でもね、お体の強壮さだけでなく、気概まで強くていらっしゃる。その強さの中には、時に…心ない人から“薄情だ”とか“気が利かない”と言われてしまうような、誤解という形の思わぬ非さえ集めても、言い訳せずにいられるような。そんな抱擁力まで備えていらっしゃる、進さんの頼もしい懐ろの深さを、本当の“優しさ”を、セナはちゃんと知っているから。

  「進さんはとっても強くて優しい方です。だから、ボクは…あの…。///////

 えとえとと、言い淀んだその途端にお顔がますます真っ赤になったけれど。ここは“えいっ”と頑張って。

  「進さんのこと、大好きになったのだから。///////

 言っちゃってから“かぁ〜〜〜っ ///////”と。熟れたように真っ赤になったセナくんであり。あやや、告白になっちゃったと。えとえとと居たたまれなくなってしまって、くるりと背中向けた弟くんへ。

  「…っ。」

 素早く…その薄い肩をくるみ込むように、腕を回して掴まえて、広い懐ろへと掻い込んでしまった進さんで。

  “あやや。///////

 夏のお呼ばれだったから、セナくんもさほどに重ね着してはいない。木綿の半袖の涼しげなデザインシャツしか上には羽織っていなくって。その背中が、進さんの懐ろ、胸元へぎゅうってくっついており。両の腕ごと巻き込むように、胸元ぐるりと回された頼もしい腕に、搦め捕られて…抱き締められてて。

  “はやや…。///////

 あのね。最初はドキドキが止まらなかったんだけれども。首の上、肩のところへ進さんの頬が当たってて。それが…何だか。ぎゅっと抱っこされてるっていうよりも、どこにも行かないでって引き留められてるみたいな気がしたセナくんで。

  「進、さん?」

 声をかけると、イヤイヤってするみたいに、小さく小さく首を揺すった進さんだったからね。何だか………あのその、可愛いなって思ってしまったの。/////// 言葉が足りないことを反省してた進さんだから。感極まったこんな時、一体何て言えばいいんだか、判らなくなったのかも知れなくて。

  “えと…。///////

 胸の前を交差しても随分と余って。肩の付け根のところまで届いている、進さんの大きな手を見下ろして。こんなにも大きくて頼もしい人なのにね。懐ろへ捕まえて、そぉっと封じ込めたセナくんに、無意識にでも甘えてくれているのが。恥ずかしかったけれど、何だか………嬉しくて。


  「「……………。///////」」


 さわさわと、時折思い出したように吹き抜けてゆく緑のそよ風の中にて。まるでそのまま一つになってしまいそうなほどに、お互いの呼吸に鼓動にうっとりと息をひそめて。大きなお兄様と小さな弟くんは、いつまでも佇んでいたのでございましたvv



  でもでも、いい加減にお部屋に戻らないと。
  お着替えを済ませた たまきさんがセナくんを奪取するための強襲にって、
  不意を突いて訪れるかもだぞ?
(笑)













  clov.gif おまけ clov.gif



  「今日はありがとね。」
  「んん?」

 何のことだ?と。枕に伏せていた白いお顔を、間近で傾けて見せた綺麗な恋人さんへ。その柔らかく寝ている金の髪を指にからめるようにして梳きながら、
「だって何かさ。妖一の大切な時間、使わせちゃって。」
 お家のためには大切な行事だというのに、いつもの我儘を発動しようとする桜庭くんだったものだから。大事なことをスルーさせないためにと、らしくもなく進の家へ関心を持ったような言いようをわざわざして見せた。春人さんが逃げ出さないようにと、だったら自分が行くと言い出せば良いのではないかと、そうと思った妖一さんだというのは明白で。本当だったなら、

  『そんな馬鹿馬鹿しい段取りに、
   何でわざわざこの俺が参加しなくちゃなんねぇんだよ』

 なんて。真っ先にヘソを曲げそうな人なのにね。後で叱られたりして困るのは桜庭くんであって、自分には関係ないって、きちんと割り切ってた人なのに。まだ事情には通じていない可愛らしい下級生も同席していたから、その場で詳細を説明することで先輩としての面子を傷つけないようにと。サボんなと直接的に叱らずに…遠回しな表現と今日の行動とで上手に運んでくれた人。誰のためでもない、桜庭くんのことを考えてくれたからこその仕儀ではなかろうか。
「ば〜か。」
 そんなじゃないと。同じ先輩として一緒くたに馬鹿にされんじゃ沽券にかかわるからだ、なんて、何だか今更なことをごちゃごちゃと言い出す彼だったけれど。
“それこそ見え見えな誤魔化しじゃないよねvv
 いつだって つれなくて冷たくて。毅然としていてカッコいいけど、それってちょっと寂しくもあった振る舞いが当然だった人なのにね。いつの間にやら、こんな気配りをしてくれるようになった。嬉しいなとしみじみ感じ入り、
「ね、ね。今日は泊まってこうよ。」
 ………甘え倒すのへは加減しないのね。
「う〜〜〜ん。」
 どうしたもんかと唸り出した妖一さんの、賢そうなおでこへ唇を寄せて、
「明日も明後日も。試合も練習もないの、知ってるもんねvv
 おおう、なんて周到なこと。チッと小さく舌打ちし、そういうことへは手回しのいい奴だよな、と。呆れたような声を出す愛しい人の、綺麗で白い肢体をぎゅうっと抱き締めて。シティホテルと呼ぶには随分と豪奢な室内の間接照明を、枕元での操作で淡いものへと ふわりと落として………。



   ………さぁさ、いい子はもう寝た寝たvv
(笑)





   〜Fine〜  04.7.31.〜8.7.


   *後編をサボって、ちょこっと寄り道をしておりましたです。(あははのはvv
    そちらのUPはまた後日ということでvv

   *もたもたしてる間にインターハイも始まってしまいましたな。(苦笑)
    今年は中国地方だそうで、島根や広島などで開催中です。
    この暑いさなかにスポーツの大会に臨むんですから、
    今時の子は どのこのと言われていつつも、頑張りますよねぇvv
    根性のない筆者がそういうお子たちを描写するのは、
    さすがに難しいです、はい。(ふみみ…。)

ご感想は こちらへvv**


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