アドニスたちの庭にて “台風一過のお庭にて…”
 



 この夏はとにかく暑くて暑くて、昨年の冷夏を昨年のことのようには思い出せないほどだった。それに加えて、台風もたくさん暴れ込んで来てくれて、見方によっては“パッショネス”な夏だったかな…と、

  “確か、桜庭さんが仰有ってらしたんだっけ。”

 物は言いようというか、さすがは芸能活動もなさっている華やかな気性・気質や、人々の上に立つ人物としてのカリスマ性が、そんな小じゃれた言葉を選ばせるのか…ってのはちょっと意味合いが違うぞ、瀬那くんよ。
(笑)
「♪♪♪〜♪」
 緑滴る放課後の校庭を鼻歌混じりに、ふかふかな黒い髪揺らしながら てことこと進む、開襟シャツ姿の小さな小さな一年生。インターハイとか行事も沢山あって、色々と忙しかったり楽しかったり、ちょっぴり緊張したりもした、それはそれは中身の濃かった 高等部での初めての夏休みを、記録的酷暑の中に くぐり抜け終えて。依然として陽射しの強い残暑の中で二学期が始まってから、気がつけばもう1カ月は経っており。緑の多い校庭へと降りそそぐ陽光にも、いつの間にか…どこか透き通った、いかにも秋の気配を感じさせる金色が混ざり始めていたりする。
“十月に入ったらすぐにも体育祭なんだものな。”
 生徒手帳の予定を書き込むページ。見開きで1カ月分の、今日はもう最後の日なんだと、さっき職員室前の黒板に書かれてあった連絡事項を書き写していて気がついて。早い早いと感慨深げなセナくんだったりする。勿論、ただぼんやりして過ごしてた彼ではなく。放課後のほぼ毎日をお手伝いしている生徒会の首脳部のお兄様方も、それはお忙しい秋をさっそくにも迎えていらっしゃるので…自然とセナくんまでもが連動的に忙しい。何しろ二学期は行事が多い。過ごしやすい気候だから、体を動かすにも物を集中して考えるにも打ってつけで、行楽の企画や各種運動競技の催しも、文化系統の展示や演劇・楽曲の発表の場も数多く設けられ。この白騎士学園高等部でも、体育祭や文化祭、ボランティア活動や定例交流試合といった各部の独立した活動等々と、それはにぎやかで忙しい秋を駆け足で過ごすこととなる。

  “…今も。”

 まずは最初に、いよいよあと数日後に迫った体育祭を控えて、様々な方面への最終確認に余念がなくていらっしゃり。それから…次にやって来る大きなイベント、文化祭への総合的な準備や細々とした手配へのフォローも、設定から直接の采配へと段階が移りつつあるので。皆様 それぞれのお仕事に、殺人的とも言えるほどのペースで追いまくられていらっしゃり。チェックすべきものや各方面へ出すべき指示、把握しておかねばならない事柄の数々。どれを取っても責任の重い、只事ではない量と質だというのに。どのお兄様方も、小気味のいい緊張感を保ったままに、軽快なフットワークと絶妙な機転にて着実にクリアなさってゆかれる その手腕の素晴らしさよ。きっと睡眠時間や何やも切り詰めてらっしゃることだろに、見目麗しい方々ぞろいな その容色やら余裕の態度やらに少しも遜色の出ないところが、

  “………考えようによっては、人間離れした恐ろしい人たちなのかも。”

 こらこら、セナくんたら。
(苦笑) いくら超人達人揃いの方々だとて、こうも激務が続いてはお疲れでいらっしゃるに違いないからと。皆様の周りでお手伝いにパタパタしているセナくん、いつも少しほど早く“緑陰館”へやって来ては、できるだけ快適に過ごしていただけるようにと、お部屋の空気を入れ替えたり、お茶の下準備を整えておいたり。せめてのフォローをと、こちらもてきぱきとよく動く、健気で“働き者さん”なマスコットくんだったりするのである。
「…っと。」
 校舎やグラウンドなどという新しめの施設から少ぉし離れたところ。温室や野外音楽堂、運動部の旧い部室長屋などが点在する奥まった辺りへ入りかかる取っ掛かり。背の高いポプラの樹を傍らに添わせて、2階建ての洋館っぽい小さな校舎があって。元は美術か音楽の、教授室を兼ねた実習室だったらしいのが。今では生徒会の首脳部の方々が集う執務室、その名を“緑陰館”という…のだけれど。
「あやや。これはまた…。」
 建物の古さにあわせてという訳でもなかろうが、掠れかかった遊歩道を辿って到着した緑陰館の。シックな扉へと続く短いアプローチや小さなポーチ、短い階段、その周辺の見渡す限りに、木の葉がたくさん散っている。ポプラにせよ他の樹木にせよ、色づいて散るにはまだまだ早い時期。恐らくは、
“そか、昨夜は台風が通過した直後だったから。”
 今日は朝からすっきりと晴れ渡っていいお天気だけれども、実を言えば…昨日一昨日は、今年7つ目だったか8つ目だったかの台風が日本列島を一気に縦断してくれた二日間であり。幸いにして関東地方はさほど荒れはしなかったけれど、九州や四国、紀伊や東海では随分な被害も出ているとか。それに伴う突風に掻き回された梢から、まだまだ元気な緑の葉っぱまでもが引き剥がされたのだろうと思われて。古く振り落とされて茶色になったものと混ざって、それがばらばらと緑陰館のエントランス部分へばら蒔かれ、景気よく取っ散らかっている。
「うっと…。」
 このまんまでは何だかみっともないような。そうと感じた辺りが、セナくんたら すっかり働き者のお嫁様vv
おいおい お兄様からお預かりしていた鍵で扉を開いて、一旦中へと入ってから、しばらくして出て来たその手には、土間やお庭用のホウキが握られていて。よしっと小さなお手々を“ぐう”に握ってから、速やかにさかさかと、葉っぱを掃き集め始めるお仕事に着手する。
“ポプラだけじゃないんだ。”
 他所で落ちてたものが吹き飛ばされてやって来たらしき、すっかり枯れて濡れていたものまでもが入り混じり、ホウキの先へとくっついて手古摺らせてくれるったら。時々“えいえいっ”と濡れ落葉を振り飛ばしつつも、さかさか落ち葉を一か所へと集めてゆく手際のよさ。階段やポーチはひょひょいっと軽快に登っていってから、ステップを踏むみたいにリズミカルに、掃いては一段掃いては一段と降りて来て。いつの間にか鼻歌の続き、最近のお気に入りな曲が自然とあふれ出て来ており。足取りや手の捌きも、それに合わせてのステップをいつの間にか踏んでいたりする。ちゃっちゃ、さかさか、ちゃっちゃっちゃvv と、ホウキを軽やかに降り続け、コンクリのアプローチ脇、一つ処に掃き集めて、

  “よっし、フィニッシュvv

 ちゃちゃ〜ん♪とばかり、ホウキを止めてお顔を上げたその向こうに…まさか誰かが立っていようとは思わなかった瞬間って。………経験ないですか? 皆様。
(あうあう ///////)

  「………え?」

 ホウキの先を見下ろしてたところから ひょいっと真っ直ぐな位置へ上げた視線は、まずは相手の胸元に止まって。自分と同じ純白の開襟シャツの胸元が、降り落ちる陽光を受け、その清潔な白さが弾けているのが見えて。いくらセナくんが小柄だとはいえ、真っ直ぐ見やってお顔が視野に入らないとは相当に背の高い人だということ。肩幅や胸板が随分と頼もしい 大きな人だな、そうと思いつつ、自然な連動、お顔をも少し上げたセナくん。ハッとすると、

  「あ、や…。////////

 かぁーーーっと頬が赤くなる。漆黒の前髪の下、深色の眸を据えた鋭角的なその目許を、今は優しく和ませて。セナの一番に大好きなお兄様、進清十郎さんがアプローチの先、舗道側のところに立っていらしたもんだから。

  「あ、ああ、あのあのっ。////////

 誰も見てないと。誰もいないからと、お調子に乗ってダンスを踊るみたいに落葉かきをしていたのにね。同級生のお友達ならまだしも、選りにも選ってお兄様に見られていたとは。
“は、恥ずかしいよう…。////////
 何やってんだかと、ノリノリだったところを笑われちゃうようと、勢いドキドキして来ちゃったセナくん、
「あの…いつからそこに?」
 来ていらしたんでしょうか? もしかして…最後の“フィーニッシュvv”だけなら、まだ何とか言い訳も立つ…かなぁ?と。往生際の悪いこと、探るように聞いたところが。学校指定のスポーツバッグ、掛けてはいない方の肩の側をお向きになって、この掠れかかった舗道の始まり、一番端の校舎から出て来た辺りから見えていたという仕草をなさり、
「ホウキを持って出て来たところだったかな。」
「あやや。///////
 それって“全部”じゃないですか。誤魔化しようがないようと、耳まで真っ赤になったセナの、小さな手に しっかと握られたホウキを、

  「………。」

 進もまた、静かに見下ろした。この小さな弟くんが、このところ一番乗りでこの緑陰館に来ていることには気づいてた。窓を開けたりテーブルを拭いたり、お茶の支度をしたり。昨日の仕事がどこまで進んでいたか、段取りを考えてPCやプリンターの準備をしたり、インクやPPC用紙の補充をしたり。何にも言わない内から、何にも言わないまま。それはてきぱきとフォローをこなしている“働き者さん”な様子には、自分を初めとする他の面々にも気づかれており、

  『一通りの区切りがついたら、
   セナくんを囲んでスィーツパーティーでもやんなきゃねvv
  『そうですねvv
   Q街の“アンダンテ”のテラスホールを借り切りますか。』

 会長さんが執行部長さんと こそこそ画策していたりするほど。そんな一途な愛らしい子が、今日は何とお掃除にまで手を伸ばしている。足元を見下ろす伏し目がちの優しいお顔になって、落ち葉を集め始めた様子が何とも楽しげだったから。途中から興に乗ったか、リズミカルな足取りで短い階
(きざはし) トントンと上ったり、踊っているような所作でホウキをさかさか振っている様子が何とも愛らしかったものだから。ゆっくりとした歩調で近づきながらも、
「見とれてしまってな。つい、声を掛けそびれた。」
「はやや。///////
 見かけは堅物だが実は優しいお兄様だから。意地悪にも辱
はずかしめようとして からかってなぞいらっしゃらないと、ちゃんと判ってはいるけど、でもね。お調子に乗ってた自分が、何とも恥ずかしくて仕方がないセナくんで。そこまで判っていらっしゃるのかどうなのだか、

  「………。」

 ふと。甘やかに目許を細めて、大きなその手を伸ばして来られて。ホウキの柄を両手で握ってたセナくんが、
「?」
 キョトンとしているそのお顔の上。陽射しを受けてふかふかに暖められた髪に触れ、くっついてた小さな木の葉をそぉっと取り除いて下さった。

  「あ、ありがとうございます。///////

 目顔での会釈を下さって、そのまま優しく見つめて下さるお兄様。ねえ、気づいていらっしゃいますか? その温みと匂いと気配と。こうまで肌に間近に感じると、総身が蕩(とろ)けてしまいそうになる。頼もしくて凛々しくて、それはそれは大好きで愛しいお兄様。ご存知な上でなさっているなら、なんて意地悪なお兄様なんだろうかと、もじもじしながら紅葉のように真っ赤になってる弟くんであり、


  「………いつまでお見合いなさってる おつもりなんでしょうか。」
  「こんな場合は割って入ってやった方がいいんじゃねぇのか?」
  「え〜〜〜? それって野暮だってばvv
  「…お前、もしかして楽しんでんだろ。」
  「ぴんぽ〜んvv


 今日の場合はちょこっと離れた茂みの陰から
(笑)、理解ある周囲の皆様方にも温かく見守られている、それは可愛らしいお二人さん。熱々だった真夏の次には、ホットな秋が訪れているようで。はてさて、これからどんな進展が見られるものやら。


  「進展…。」
  「するんでしょうか。」
  「ってか。まだ先があるって知ってるのかな、あの二人vv
  「にまにま笑いつつ言ってんじゃねぇよ。」
  「そうですよ。
   何か企んだりしても彼らには僕らがついてますからね、会長。」
  「…判ってるって。僕だって我身が可愛いで〜す。」



 良いから今日のところは終わっとけ。
(苦笑)


  〜Fine〜  04.10.1.


  *何かここんとこ、進さんとあんまり逢ってないかなと思いまして。
   泥門サイドの話とか別CPとかに突っ走ってましたからね。
(苦笑)
   本誌の方ではまたまた新しいキャラが登場なさったそうで。
   コミクス組はとりあえず、
   四日に出る新刊が楽しみというところでしょうかvv
   進さんの“富士樹海”での修行編だそうで…。
   連載中に聞いたところによると、途轍もない筋トレに続いて、
   相変わらず人間離れが続いていたそうですが…ドキドキ。
(笑)

ご感想はこちらへvv**

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