アドニスたちの庭にて
    “パジャマ・ジャマジャマ♪”
 



  「えと、こ・小早川瀬那です。
   只今、お時間は午後の8時になろうかというところ。
   今夜は皆さんとご一緒に、桜庭さんのお宅の離れにお邪魔しております。//////

 カラオケ用だろうか、ワイヤレスマイクを片手に何とかご挨拶をしたものの、

  「セナくん、堅いなぁ〜。」

 ぱふんと。木綿のパジャマに包まれた細っこい両肩を綺麗な手で掴まえて、瀬那の背中へと背後からじゃれつくのは桜庭さん。
「え?え? そですか?」
「もっと新人レポーターらしく、可愛く弾けなきゃvv
 このこのォ、日頃の天然の可愛らしさはどうした、と。柔らかい頬へそちらもすべすべな頬をくっつけて来て、グリグリと甘えかかられてしまい、
「あやや…。///////
 耳元へと当たるやわらかい亜麻色の髪が擽ったい。振り払う訳にもいかず、セナくん、どうしたもんかと困っていると。
「こらこら、無理強いするんじゃない。」
「そうですよ? ほら、進も怖い顔して睨んでますし。」
「……………。」
 ト書きがないと存在感出すのが難しい偉丈夫さんも、こちらへ向けて"むう"とかすかにその切れ上がった目許を眇めており、三人がかりで非難されては堪らないと思ったか、
「分ぁかったって。」
 せっかく抱き心地が気持ちよかったのにという未練ありありなまま、渋々のように…きゅうと懐ろへ抱きかかえていたセナくんを解放する桜庭さんで。

  「あ、突然ここをお読みの"お客様"には こんばんわvv
   いつもの緑陰館を離れて、
   今夜はボクんチで"パジャマ・パーティー"やってます。」

 愛想のいい人です、はい。
(笑) 桜庭くんの言いようへ、
「…そんな可愛いもんなのか、これ?」
 怪訝そうに細い眉を顰め、口許をひん曲げたのは、大窓近くの小さめのラブソファーを一人で占領し、行儀悪くも横座りしていた蛭魔さんであり、
「確かに、お泊まりのお呼ばれですし、お風呂頂きましたからパジャマも着てますが、そういう呼び方の代物というのは僕らみたいな男がやるもんじゃないような…。」
 段差になったところへゆったりしたソファーがはめ込まれているという、何ともゴージャスな作り付けのインテリア。そのふかふかなソファーに腰掛けている高見さんも…蛭魔さんからのご指摘には困ったようなお顔になった。そだね、普通は十代の女の子たちが"きゃぴきゃぴvv"とはしゃぎつつ、お喋りしながら夜明かしする集まりのことを言うんだよねぇ。
(苦笑) そこへ、

  「夏休みに催されるインターハイへの
   応援部隊組織化に関する詳細を検討すると聞いて来たのだが。」

 おお、進さんが喋った。
(笑) 凛然と引き締まった体と気鋭とを包むのは、いかにもトレーニング用という感じのグレーのスウェット姿であり、
"てっきり和風の寝間着だと思ったんだがな。"
 浴衣みたいな、若しくは甚平か作務服風の夜着かと、蛭魔のみならずセナもそうと思っていた彼
の人は、自分の傍らへと目線で弟くんを手招きする。されるままに広い広いフローリングのお部屋を移動して、ぽそんとふかふかのクッションへ…正座なんてしなくていいからと先に言われていたがため、あらためて"三角座り"したセナくんも、
「そですよね。」
 進さんが言い立てたお題目へ頷いてからひょこりと小首を傾げて見せる。

  "だとして。
   蛭魔さんはともかく、何でボクまで呼ばれたのかが、
   ちょっと判らないんですが…。/////"

 生徒会には関係のない部外者なのにねと。それもあっての"小首をひょこり"なセナくんであり、ちなみに…彼のパジャマは水色のギンガムチェックの可愛らしい長袖ブラウスタイプ。これまた母上が"先々で大きくなるだろうから"と見越したのか、袖丈もズボンの裾もかなり長くて折り返されており、そこがまた愛らしい。
「時間が掛かりそうなのと、皆のスケジュールがなかなか合わないので、細かいところの刷り合わせを泊まりがけで決めようってことになったのでは?」
 こちらも、パジャマというよりトレーナータイプのスウェットの上下という格好になった高見さんが、銀縁メガネの縁をちょいと持ち上げつつ そうと告げれば、
「運動部の出場候補状況の情報なら、しっかりまとめてあるぜ。」
 こちらさんは濃紺のゆったりしたTシャツに、やはりスウェットのボトムという…日頃は妖麗さが売りの彼には違和感一杯なざっかけない格好の蛭魔さんが、にんまりと笑って見せる。彼だけは まだお風呂を頂いてはいないせいか、そのトレードマークの金色の髪もツンツンと尖らせたまんであり。とはいえ…濃色一色の服装になると、お顔はもとより、おとがいから鎖骨まで連なる首元や、袖から覗く手首やしなやかな手そのもの、裸足の足へと連なる足首といった箇所の、肌の白さがより一層に抜きん出ること、この上もなく。見様によっては…どこぞかの高貴な御仁が変装を兼ねて庶民へ身をやつしているかのよう。
おいおい そういった佇まいのお話はともかく、さすがは"諜報員様"で手早いお仕事ぶりというところか。
「わあ、お早いですね。まだ期末テスト前なのに。」
 セナが無邪気に感心したほど。だって蛭魔さんは、執行部の人でもなければ、どこの部活動にも所属参加してはいないから。そんな細かいところの事情、むしろ分かりにくい筈なのにね。そうと思ってのセナの"わあ"へ、
「野球部は甲子園への予選も早々に負けたし、あと、インタハイに出ない部は夏の合宿に出掛けちまうからな。それへの手配や下準備にって、学校へ届け出書類を申請してたりするんで判るんだよ。」
 学校側への色々な申請や何やには、管理部学生課へのメールで申し込みが出来るので、そこを覗くという高度な手も使っているらしい蛭魔さんであるらしく、彼なりの察しで掴んだ情報だと自信ありげににんまりする。一方で、
「応援部隊へ参加してくれそうな文化部の顔触れへの打診も大方済んでますよ。ブラスバンド部に軽音楽部。あと、有志も募る予定ですし。言って下さればすぐにもお渡し出来ましたのに。」
 高見さんもそんな風に付け足したが、
「別にいいじゃない、そんなお堅いお題目にこだわらなくたって。まだ日はあるんだし、逆に言やぁ、今 予定立ててもこれからくるくると変わるぞ。」
 シルクだろうつるつるした素材の濃青のパジャマという格好が、これまた妙にお似合いなお坊っちゃま。よ〜く冷やしたアッサムティーのスリムなグラスを片手に、くすくすと口許をほころばせておいでのお顔は、いかにも御機嫌なご様子であり、

  「…さては、ただ単に騒ぎたかっただけか? お前。」

 蛭魔さんが呆れたように目許を眇める。生徒会の用事は建前で、ただこの顔触れで集まってみたかったということかと問われて、
「だってさ。今までだってこういう集まりはあったけど、いつもいつも妖一だけは何だかんだ言って来てくれなかったじゃないか。」
 負けじと…こちらはお口を尖らせて言い返す。
「言っとくが中等部のには顔出せねぇぞ。俺、他のガッコだったし。」
「じゃなくてっ! 普通にお泊りって誘っても、あーだこーだ言って来てくれなかったじゃないか。」
「当たり前だ。俺は急がしいんだかんな。」
 ぷいとそっぽを向いて、その通った細いお鼻をそびやかす妖一さんだが、それって…アメフトの練習とか練習とか練習のせいなんでしょ?
(笑)

  「はやや…。じゃあ、皆さんが揃ったの、初めてなんですか?」

 意外な事実に、自分だけが新参だと思ってたセナが眸を丸くし、高見さんがくすすと微笑って頷いた。
「ええ。これまでは"集まる"って言っても僕と進とがお邪魔するだけ。今回は、セナくんと僕が参加するなら行くと、やっと蛭魔くんが来てくれることへ了解してくれたんですよね。」
 照れからか、それとも…いくら馴染んでもこの一線だけは譲れないものがあるとばかりの意地っ張り屋さんなのか。相変わらずややこしいお付き合いをしているお二人であるらしく、
「まあな。単独で泊まると何されるか判ったもんじゃねぇしよ。」
「そんな言い方って、ひっど〜いっ!」
「こ、こらっ! どさくさに紛れて抱きつくなっ!」
 何だかんだ言って、根本的なところでは仲の良い方々だが、

  「………えと。」

 そこへと、
「じゃあ進さんは無条件でいつもいつもご招待されてたんですか?」
 恐る恐るのように訊いていたセナであり。

  「え? あ、うん。随分と小さい頃から泊りっこはしょっちゅうだった…ってっ☆
   痛ったいよぉ、妖一。なんで いきなり つねんのさ。」

 唐突に耳朶を爪の先にてつねり上げられ、ぴいぴい泣き声を上げる亜麻色の髪のお兄さんへ、
「この、鈍感野郎が。気ィついてねぇのかよ。」
 小声ながらもドスの利いた言いようで、蛭魔が間近からぼそりと囁けば、
「判っててのことなら僕だってちょっと看過できませんが。」
 高見さんまでもが、やはり小声で窘めのお言葉。そこでやっと、どういう流れだったのかにハッとした桜庭さん。もしかしなくとも…進さんが桜庭さんチにお泊りするのが当然だったという間柄へちょこっと妬いちゃったセナくんだと気がついて、

  「……………あ・う〜っと、ごめんごめん。」

 しまったしまったと謝ったものの、こうなると誰への何への"ごめん"だか判りにくくて。セナくんはともかく、

  「???」

 当事者のもう一人、進さんがとことん鈍いのは…しようがないのかな?
(苦笑) 何だか話が見えないぞと怪訝そうに…セナくんの方へと視線を向けたのは、彼には通じているのかなと思った進さんなのだろうが、岡焼きしかかった本人に訊くことほど、気の利かないことはない。
「ま、まあまあ。応援団の結成構想は僕ら3人でまとめときますから、進はセナくんと二人でお庭に出て涼んでいらっしゃい。」
 場を収めさせるならこの人、高見さんがにこにこと笑いかけ、
「そうだね、セナくんは初めてだもんね。今だと紫蘭が満開だし、まだ薔薇も咲いてる筈だよ。」
 桜庭くんまでもが焦ったように笑いつつ、お勧めするものだから、
「…そうか。」
 綺麗なお花にはセナくんもさぞや感嘆のお声を出して喜ぶことだろうと、そこへはあっさり理解が及んだらしい…現金なお兄様。
「………。」
「あ、はいっvv
 出てみようかという目顔でのお誘いに、素直に"にこりんvv"と応じた弟くん。夜陰と呼ぶにはまだ薄明るい庭先へと直に出られるテラスから、庭ばき用のつっかけ下駄をカラコロと鳴らしつつ出てった二人を,飛びっきりの笑顔で見送って………。

  「はあぁ〜〜〜〜っ。」×2

 深々と溜息をついた方々が約2名、一気にソファーへと崩れ落ちる。
「これが弾みになって、じゃあ今度は進の家へってお呼ばれに運びやすくもなることでしょうね。」
「だね〜。進って、ホンット、気が利かないからさ。大人しいセナくんの側からは絶対に言い出さないっての、判ってないに決まってるもんね。」
 お互いをねぎらうような口調になった高見さんと桜庭さんたちへ、
「なんだ。お前ら、そんな企みがあって、こんな不自然な会合開いたのかよ。」
 唯一…というのか、進さんやセナくん同様、事情を聞かされてはいなかったらしき金髪痩躯の君が、芝居がかってた段取りに やっと気づいたらしく。呆れ半分な声を首謀者二人へと掛けてやる。
「まあ…そうですかね。」
 ちょっぴり照れ臭そうな苦笑を聡明そうな頬に滲ませて、妙な作為を認めた高見さんと違い、
「不自然ってのは何だよう。」
 頑張ったのにそんな言われようはないと、お顔をがばりと持ち上げ、判りやすく頬を膨らませて見せる桜庭くんだったが、そこはさすがに蛭魔さんの側でも容赦がない。
「不自然だ。まあ、お前が我儘を発動させたっていう"力技"な段取りは、いかにも有り得て上手かったがな。」
 きっぱりと断じた、相変わらずつれない恋人さんであり、

  「ほんっとに妖一って、憎まれ口の天才だよね。」
  「悪かったな。気に入らないなら振っても良いぜ?」

 にやにやと笑いつつ、斜
はすに構えてちろんと見やる、切れ長なものを更に細められたその眼差しの、据え方・眺め方がまた艶っぽい。余裕で見せた艶姿だったものが、

  「う〜〜〜、そこも好き〜〜〜っvv
  「だ〜〜〜、やめんか〜っ!」

 あっと言う間に…ふさふさの毛並みをしたでっかいゴールデンレトリバーに掴み掛かられ、フローリングの上へ力任せに押し倒されて。キィっと怒りつつも押し返そうと抵抗するご主人様だったが、恋の情熱には底知れないパワーが潜んででもいるのだろうか。これがなかなか意のままにならず。片や、本気での抵抗をすれば…実のところ、桜庭くんより大きな人でも蹴り飛ばせる蛭魔くんだというのを、高見さんも重々知っているものだから。

  「お邪魔みたいですから、僕はもう帰りましょうか?」
  「こらこらこらっ、最初の約束と違うぞっ! 助けんかっ、高見っ!」

 お後がよろしいようで………♪



  〜Fine〜  04.7.4.


  *これもやっぱり"しゃれ劇場"ネタでした。
   長くなったので普通のSSへ流用です。
   進さんのお家へお呼ばれVer.も考えております。
   そちらはまた後ほどにねvv

ご感想は こちらへvv**


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